異世界のカフェ「グランデ」をお手伝い(1品目・ツナとトマトの和風パスタ)
アイルコットンって場所に飛ばされた俺は、そこでミラ家のマアニャとミイニャっていう美少女双子姉妹の召使いになり、地獄でない日常の日々をスタートさせていた。
午前中はミラ家にて、つんつんマアニャの召使い。
そして午後はミイニャが経営しているカフェ「グランデ」を手伝うことになり、今日はその2日目だ。
カフェのカウンター内に入り、エプロンをしてミイニャに指導を開始する。
「よし、ではいいか。ミイニャのこの注文されない、してもぼったくる気しかないメニュー3種は今をもって廃止する」
「そ、そ、そんな……せめて真っ黒握りこぶしだけでも残してください」
赤みがかった茶髪のウエーブショートの女の子は俺に懇願する。
ちなみに【真っ黒握りこぶし】以外のメニューはと言うと、【限界への真っ赤な試練】と【顔色真っ青、不細工にしわを寄せるんだ】だぜ。メニューだけ読んだのではどんなのが出てくるか想像すら難しい。昨日まではこの3種のメニューしかなく、裏メニューとしてただのお水があり、そのお水に俺の知る通貨単位で10000円も付けていた。
ミイニャは家系限界突破にて、うんのよさが飛びぬけて高いらしく、お水だけでこのお店を経営してきたんだ。ミイニャの可愛さがあってこそお客が来るんだろうけど……それでも凄すぎるけどな……
すまない、このお店ユーモアたっぷりなんだ。
「残してどうするんだ? まさか作ろうとすれば出来るのか? えっと真っ黒握り拳は黒ハンバーグだったか?」
「いえ、あまりの大きさに焼けませんが……」
だったら、大きさを小さくするとかさ、考え方次第でいろいろできるだろうに。
「このやりとりが出来なくなるのは惜しいです」
「惜しくない……」
「でしたらその3種を裏メニューに。真っ黒握りこぶしは注文されたら生焼けですが焼いてみますから」
そんなの食わしたら腹壊すわ。
なんとか、なんとかお願いします! そんな眼でミイニャは俺をじっと見ている。
はあ~、まあここはミイニャのお店だしな……
「わかったよ。じゃあ裏メニューに残すとしよう。メインのメニューなんだが、軽食を出そうと思う。サンドイッチとかホットドックとかパスタでも」
「パスタ……ってなんですか?」
ミイニャは小顔の眉間にしわを寄せる。
「パスタだよ。スパゲティ……スパゲティはパスタの一種だけど」
「スパ・ゲティ?」
「えっ、知らないのか? このアイルコットン、パスタがないの? このくらいの細い麺を見たことないか?」
「いえ、私は見たことも食べたこともありません」
「……嘘だろ! パスタ上手いぞ。カフェに行ったら俺は必ずと言っていいほど注文する」
「美味しいなら作ってみてください。味を見て、メニューにするか私が決めます」
水だけで経営していたくせに、よくもそんな偉そうなことが言えるな。
「ニンニクはわかるか?」
「ええ。匂うけど、体にいいものですよね」
「鷹の爪は?」
「鷹の爪……あんなの料理に入れてどうするんです? もしかして私のぼったメニューに対抗を!」
「違う! 唐辛子だよ。本物の鷹の爪を入れるか……」
「辛いのですか。わかります」
当たり前だと思う俺の常識はこの世界では通じないことがあるから困ったものだぜ。
ミイニャと一緒に何件かお店を回り、パスタの麺を手に入れ、ついでにトマトなどの野菜類とキノコ類、にんにくとオリーブオイルなどを調達。
ちなみにパスタの麺だが、乾麺という形で普通に売られていたぜ。
お店にお客さんが来たら困るだろと言ったのだが、どうせ来ませんからとの返答がありミイニャもどこか嬉しそうにお供についてきた。
グランデに戻り、俺は早速調理に取り掛かる。メニューにするかしないかよりも、単純に俺が食したかったのだ。
パスタを熱湯でゆでている間に、フライパンにオリーブオイルを細かく切ったにんにくと鷹の爪を入れて、ニンニクがキツネ色になったらキノコ類とツナを入れほんの少しゆで汁を入れぶつ切りにしたトマトを投入……
パスタの硬さをチェックし、少し硬いくらいで火を止め、フライパン内へ。
具材とよく絡め、塩、コショウ、お醤油を少し入れて味を調えたら完成だ。
「いい匂いです……」
店内には何とも香ばしい匂いが広がっている。
「飲み物はアイスティがいいですね」
「おうよ」
俺は二皿にパスタを盛り付けし、アイスティを用意したミイニャが座るカウンター席にお出しする。
「トマトとツナの和風パスタだ……メニューにするのはペペロンチーノみたいなのだが、とりあえず俺が食べたいパスタを作ってみた。味見してくれ」
お客さんが来ないので、俺もカウンター内を出てミイニャの隣席で食べることにした。
「では、いただいてみます」
パスタをフォークに巻き、食べ方は合ってるかみたいな視線を受けたので、俺は強く頷く。
パクリ!
「……美味しい……すごく美味しいです」
「だろ。パスタは俺の大好物だからな」
「優斗君、お料理が上手ですね」
俺もパスタを食べ始める。
「いや、2年の地獄期間も炊事洗濯、お料理は全部やっていたからな。あのお姉さんにパスタは食べさせてあげてないけどな」
手に入れようにも俺が居た場所には商店はなかったし……
「文句なしにメニューに採用します」
「そう来なくては……店の外におすすめメニューとかも出して宣伝しないとな。リニューアルということで呼び込みも。この店、営業時間は?」
「五時までです」
「はやっ!」
「いえ、そんなに私の集中力は持ちません。混みごみするのも嫌いです」
相変わらずに商売向きじゃないお言葉だねえ。
お読みいただきありがとうございました。
本作は「異世界には外れスキル【すれ違い】とおまけスキル【両利き】を覚醒させて~」の番外編的なもので、本編で書けなかったカフェ『グランデ』の日常話です。気に入っていただけたら、本編の方もお読みいただければ嬉しいです。