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霊素の扱いって、ちょっと難しくない?

 素材収集の帰り道、私は前を歩くカレルとユリナの姿を、黙って見つめていた。


 あの二人の関係、ちょっと気になるんだよね。なんだか、ただのパーティーメンバーには見えないよ。恋人……、なのかな?


 楽しそうにカレルに笑いかけるユリナの横顔を見ていると、ちょっぴり胸がチクチクする。


「こう見ていると、お似合いだよねぇ……。ちょっと、うらやましいな」


「ん? 何か言ったか、レンカ」


 私のつぶやきが聞こえたのか、カレルが振り返った。


「あ、いや、なんでもないよ」


 カレルは不思議そうに首をかしげたが、すぐに「そうか」と口にして、再び前方に視線を戻した。


 危ない危ない、聞かれていなくてよかったー。


 今まで製造一直線、パーティーを組んで狩りに出る機会なんてほとんどなかった。製造だってほぼ独学で、一人で没頭っていうのが通常だったから、出会いなんてなかったんだよね。せっかくのVRなんだし、ゲーム内で恋人の一人でも、作ればよかったかなぁ。


 危険な時にさっと助けに来てくれる、カレルみたいな素敵な男の子が、現れればいいんだけれど。……白馬の王子様に恋焦がれるって、なんだか私らしくはないかな? ふふ、少女趣味はないはずなんだけれどね。


 まぁ、カレルをロックオンなんてしたら、さすがにユリナに悪い。私は自重できる女ですよ。それに、カレルもユリナが気になっているっぽく見えるから、そもそもの話、端から勝負になりそうもない。


「あー、潤いが欲しい」


 私は両手を後頭部で組み、ちらりと上空に目を遣った。


 すでに陽は暮れている。木々の間からは、キラキラと瞬く星の海が見える。時折聞こえるホーホーという猛禽類の鳴き声が、森の夜なんだと実感させた。


 視線を少し横にやれば、白く光り輝く鳩の姿が視界に入る。カレルの使い魔で、ルゥだったかな。光の精霊術が施され、周辺は昼間のように明るく照らし出されていた。


「レンカ、どうしたの?」


 今度はユリナに、私のつぶやきが聞こえたようだ。呆け気味に歩く私が気になったのか、カレルの傍を離れて傍にやってきた。


 私は苦笑を浮かべ、両手を振りながら、「なんでもないよー」と返した。


「ねぇ、ユリナ。ユリナとカレルって、もしかしていい関係?」


 私は直球で聞いてみた。と同時に、胸に何やら、小さな棘が突き刺さる感覚……。私はあえて、無視を決め込む。


「え? え? ち、違うよ……。ちょっと仲のいいパーティーメンバーってだけ。恋人とかそんなんじゃない。第一、私なんかじゃカレルにふさわしくないし」


 ユリナはみるみる顔を紅潮させて、慌てて否定する。手をパタパタと振って必死に頭を振る姿は、同性の私から見てもなんだかかわいらしいぞ、くそぅ。


 何というか、身長の低さも相まって、庇護欲を誘う感じ? どちらかといえば長身の部類に入る私には、真似をしたくてもできないな。


「そう? はたから見ていると、結構お似合いに見えるけれど。昨日も今日も、二人で行動しているし」


 ユリナ本人は否定しても、私にはとても釣り合いの取れたカップルに見える。高戦闘力で、お互いがお互いを補えるスキル構成だし、同年代で、しかも二人とも容姿がとても良い。悔しいかな、私の入り込む余地なんてないよねぇ。はぁ……。


「それは、ゲイルもミリアもリアルが忙しくて、ここ数日ログインできなかったからで……」


 ゲイルとミリア――確かカレルたちの固定パーティーの、残りのメンバーの名前だ。ということは、カレルとユリナが二人でいるのは、本当にただの偶然だったんだ。じゃあやっぱり、恋人という訳じゃないのかな。


 少しほっとした。……って、あれ? なんで、ほっとするんだ? どうしたんだろう、私。もしかして、真面目にカレルに惹かれ始めてる?


 ダメダメ、泥棒猫はダメだよ、レンカ! いくらユリナが否定していると言っても、あれはどう見ても両想い、下手に手を出せば大やけど確実な案件じゃないか!


 私は邪念を振り払おうと、ぶんぶんと大きく頭を振った。今は製造に集中しなくちゃだめだ。




 ☆ ★ ☆ ★ ☆




「これで、一通りそろったかな?」


 工房の机の上に置かれた素材を、私は一つ一つ確認する。


 手持ちの製造用素材リストと照合しながら、抜けがないか、数は足りているかをきちんと確かめておかないとね。製造工程に入ってから、あれがない、これがないって始まっちゃったら、制作に集中できないもん。そんな事態に陥るような奴は、まだまだ二流だね。間違いない。


 カレルとユリナの助言のおかげで、いくつかの素材はワンランク上のものが用意できたし、想定よりも高品質の武器が作れそう。私はなんだかワクワクしてきた。ついつい、鼻息も荒くなるってものだよ。


「えっと、カレルのロッドから先に制作に入るけど、いいかな?」


 ロッドは攻撃力を求めていないので、新しい制作工程を試しながら作業するのに向いていると、私は判断した。刃の切れ味などに気を取られず、素材鋼へ霊素を注入する作業に集中できそうだし。


 慣れない作業をするときは、あちこち注意が分散しないように、なるべく工程をシンプルにするのが、成功のコツだと思う。


「ああ、よろしく頼むよ」


 カレルはうなずき、制作のサンプルとして、今使っているロッドを私に差し出した。私は受け取ると、さっそく工房裏の作業場へと移動した。


「じゃあ、とりあえず試作をしてみるので、二人とも何か気づいた点があったら指摘をよろしくー」


 カレルとユリナは首肯し、私の手元に視線を向けた。


「さぁてっと、始めますかね」


 私は袖をまくり、気合を入れる。


「とりあえず、私が今考えている霊素注入タイミングは二パターンあって、一つは素材鋼の鍛接、鍛錬の時。もう一つは、形成段階かな」


 鍛接、鍛錬段階だと、別種の素材鋼を接合し鍛える瞬間なんかは、まさしく霊素を注ぐのにいいタイミングだと思う。異なる金属がくっつくと同時に、一緒に霊素も貼り付けるってイメージかな。


 形成段階だと、素材鋼から作り上げた金属を叩いて、実際に武器の形に形成する瞬間。ここであらかじめ熱した金属に霊素を纏わせて、そこをハンマーで叩くことで、金属に霊素をなじませようかと考えている。


 私はカレルとユリナに自分の考えを伝えた。二人もどうやら納得してくれたようで、私は作業に入った。


 トンテンカンッ トンテンカンッ


 素材鋼の鍛接作業に入り、作業場には私のハンマーの音が鳴り響く。振り下ろすハンマーを通じて、少しずつ霊素を注ぎ込んだ。


 カレルと相談のうえ、ロッドに纏わせる属性は光に決めた。うまく完成すれば、手に持って霊素を注入することで、自動回復機能を発揮できるマジックウェポンになるはず。


 ただ、私は精霊使いじゃないから、正直、霊素の扱いはまだまだ苦手なんだよね。霊素の注入作業も、ごく簡単なマジックアイテムを発動させるときに、少しだけやったことがあるって程度だし。今後、精霊武具の作成に進むなら、霊素の扱いも慣らしていかないとだめかもしれない。


 トンテンカンッ カンッ カンッ ボキンッ……


「あっ……」


 目の前には、鍛接に失敗し真っ二つに折れた素材鋼の、哀れな姿があった。


 くっそー、折れちゃったよ。失敗だ。


「ごめん、失敗した。たぶん今の手ごたえだと、霊素注入をしていなければ、鍛接自体は成功してた感じなんだけれど。カレルたちからは、霊素の注入のタイミングや量はどう見えた? 適切だったと思う?」


 私なりに最適と思われる形で、霊素を注いだつもりだ。なので、私自身にはすぐにどうにかできる改善策が思い浮かばない。まずは外部の意見を聞かなくちゃね。


「うーん、そうだなー。オレから見てもタイミングは問題ないように見えた。ただ、注入の量がちょっと……。ユリナはどう見る?」


 カレルは横目でちらりとユリナに視線を配った。


「私もカレルと同じ。タイミングはいいと思う。やっぱり、量が問題じゃないかと思うよ。あー、量自体っていうよりも、注いでいる霊素の量が不安定な点が、気になったって感じかな」


 私はまったく気付いていなかった。どうやら注いでいた霊素の量に、大きなばらつきが出ており、そのせいで失敗したのではないかとの二人の見解だった。


「ハンマーを振り下ろすタイミングで、霊素を放出しているよな? 見ている限り、振り下ろすごとの注入霊素の量がバラバラなんだ。それで、素材鋼が霊素を受け止め切れていないって印象だな」


 となると、結構深刻な問題かもしれない。結局のところ、私自身の霊素の扱い方が未熟なせいで、一定量の霊素放出ができていない。これを改善するのは、一朝一夕ではいかない気がする。


「あー、まいったなぁ。じゃあ今の私には手に負えないかもしれない。不本意だけれど……」


 私は正直に吐露した。高価なレア素材を使っているので、成功の望みが薄い状態で、無駄打ちをするわけにもいかないし。


「そうだよなー。精霊使いでもなくちゃ、霊素の一定量放出なんて芸当、練習しているわけないよな」


「どうするカレル? 今回はあきらめる?」


 腕を組んで考え込むカレルの顔を、ユリナは覗き込んだ。


 しばし流れる沈黙。カレルは押し黙って、あれこれと考えを巡らせているようだった。


 あーあ、せっかく新しい道筋ができたと思ったのに。なんでこうなるかなぁ。


 私はがっくりとうなだれた――。

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