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短めです


子供部屋に飛び込んだ我は早速本棚から1冊絵本を取り出した。

母上がよく読んでくれていた絵本だ。

最近はあまりに我が絵本に興味を示さないがために読んでくれなくなったが、それでも内容はきちんと覚えている。


文字を覚えるには文字とそれに対応する言葉の音から確認していかなくてはならないから、我が話を覚えていて、話が文字で書いてあるこれは文字の勉強に打ってつけだろう。


表紙を見る。


そこには絵とともに題名と思われる文字がデカデカと書かれていた。


題名は...確か、ももたろう だとかだったはずだ。

確かに表紙には文字と思われるものが横に5つ並んでいるし、合っているだろう。


左側の2つが同じ形をしているから、左から右に読む物だと考えると...ふむ、これが『も』か。

傘みたいな形をしているのだな。


道具箱からクレヨンとスケッチブックを出してきてそれに書いてみる。


よし、書けた。


少し歪んでしまったそれの隣に再び何個か書き直せばそれなりに綺麗な形で書けた。


もうこれで『も』は完全に習得したと言ってもいいのではないか?



「あっ!いた、まーちゃん。...絵本とクレヨンなんか持って何してるの?」


「──む?あぁ、姉上か。文字の練習をしているのであるぞ」


「口調」


「...文字の練習をしているの」


「文字?」


「うん。今は『も』を覚えたところだよ」



確かこの国にはカタカナ ひらがな 漢字 と三種の文字があったはずだ。

この『も』は形の感じからして多分ひらがな。

ひらがなには50音だとか言って50の文字があったはずであるから全てを覚えるにはまだまだ遠い。


前世の我も、文字に関しては自分の名前くらいしか覚えていなかったから、経験がない分、言語を習得した時よりも大変になるかもしれないな。

だがそれでも我はやらなければならない。

無為に過ごした数日間の遅れを取り戻さなければならないのだ。

怠けることは許されないのである。



「絵本を使って勉強してるの?」


「うん。文字と音を確認しなくちゃいけないから...。

あ、そうだ。お姉ちゃん、この絵本、読んでくれないかな?」



己の記憶を探って進めていくよりも姉上にその場で読んでもらった方が確実だろう。



「え、あ、よ、読むの?私が?」


「うん」


「......え、えっとね...」


「ん?どうかしたの?」



突然姉上が視線を泳がせて言い淀む。



「...そ、そのね.........あ、そうだ!まーちゃん、文字の練習ならあっちに50音表があったと思うからそっちでやろうよ。絵本は、あ、明日...いや、明後日くらいに読んであげるから」


「...50音表?そんなものがあったの?」


「う、うん。あるよ。取ってくるからちょっと待っててね」



姉上はそういうと再び子供部屋から出ていった。


...何やらいつもと様子が違ったが、なんだったのだろうか?

体調でも悪いのであろうか?


...風邪をひいているようには見えなかったがなぁ。


ひとまず、帰ってきたら体温でも測ってみるか。




「まーちゃん、持ってきたよ」



そう言って姉上が差し出したのは絵本と同じくらいの大きさに折りたたまれた紙と、それと同じくらいの大きさの冊子、鉛筆2本に消しゴム1個だった。



「ありがとう、あね...お姉ちゃん」



途中でどうにか口調を直してそう言った我に、姉上は満足そうに頷く。


そしてそれから手に持つ荷物を部屋の真ん中に置いてある背の低い机に置くと、こちらに向き直って、



「文字の勉強をするって言ったらお母さんが色々用意してくれたんだ」



と言って笑った。



...ふむ、どうやら様子は元に戻っているようであるな。


だが、まぁ、しかし、姉上が心配をかけないために無理をしている可能性もある訳で。


特に最近の我は落ち込んでいたから心配をかけないようにと思っているのかもしれぬし。


...とりあえず、熱は測ってみるとするか。



姉上に歩いて近寄り額に掌を当ててみる。



「にゃ!?な、何。どうしたの、まーちゃん」


「──ん?...あぁ、熱を測ろうと思って」



何か言ってからの方が良かっただろうか。

まぁ、過ぎてしまった事だし、次から気をつけるとしよう。



姉上の額に当てている手と逆の掌を自分の額に当てて体温を比較する。



「...んんー。熱はない、かな...?」


「熱?なんで?」


「なんか、お姉ちゃんの様子がおかしかったから、体調でも悪いのかなぁって思って」



我がそう言うと姉上はハッとした顔をして、即座にブンブンと首を横に振った。



「い、いや、そんなんじゃないよ!体調なんて全然悪くないから。気にしないで!」


「...本当に?」



必死な様子が逆に怪しく感じてしまう。



「本当に!ほら、勉強しようよ。文字の勉強したいんでしょ?」


「...むぅ。...まぁ、いいか。分かった勉強しよう」



姉上は明らかに何か隠しているが、まぁ、熱はなかったのだしいいことにしよう。



「じゃあ、ほら座って座って」


「うん。じゃあ お姉ちゃん、教えて?」


「い、いいよ。え、えっとね、確か、この列が あいうえお で ......」




そうして我の文字勉強は始まったのだった。








………。



……………。



…………………。



………………………。








そして、本日の成果。


ひらがなの『あ』の段『か』の段、そして『さ』の段の『さ、し、す』を覚えた。


計13文字。



………。



そこ、少ないとか言わない!



こ、これには訳があってだな。


何故か姉上がやたら休憩を提案したり、いつもより早く昼寝を勧めてきたりしたのだ。


つまり、勉強する時間自体が少なかったのである。




姉上によると「頭を使ったら休まないと」なのだそうだが、そこまでする必要があったのだろうか...?



おかげで夜は、なかなか寝付けなかったぞ。



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