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遅くなりました...。本当にすみません。
さて、我とアルダス様の出会いについて語ろうか。
皆々よく気になっているであろうしな!
...ぬ?そんな事ない?
いやいや、それこそ そんな事ないであろう?
自分の胸に手を当ててよく考えてみるのだ。
ほら、気になって気になって仕方がないではないか。
そうであろう?そうでないと困る。我は語りたいのだ!
...ごほんっ。軌道修正。
失礼。少しばかり取り乱した。
まぁ、我は誰が何と言おうと語るだけであるしな。
我が語りたいから語る、それで良いではないか。
此処では我がルールなのであるぞ!
ハッ、横暴?
何とでも言うが良いわ!
まったくもって痛くも痒くもない。
んん?自己中心的?ハッ、聞こえんな。
貴様等そんな陳腐な事しか言えぬのか?
ハハッ、そんな事では決して我に...は......?
………。
……………。
…………………。
......ごほんっ。軌道修正。
失礼。少々取り乱してしまった。
あれは決して我の本心ではないであるからな?
ほら、口調まで乱れてしまっているし。
きっとあの瞬間だけ魔王か何かが我に乗り移ったのである。
………。
...さて、では仕切り直して、我とアルダス様の出会いについて語ろうではないか。
あぁ、誰かが変な茶々を入れた所為でまだ本題には一切入れていないのに冒頭だけでこんなに時間を食ってしまった。
本来こんな冒頭この一言だけで終わるものであるのに。
全く、困ったものであるな。
...............我は悪くないのである!
とにもかくにも本題に入るであるぞ。
異論は認めぬ。
__初めてこの現世で覚醒した時、我はかなり混乱した。
だって、仕方がないであろう?
視界はやけにぼんやりとしているし、体は全く我の意思通りに動かぬし、かといって思考しようとすれば霧がかかったようで儘ならぬ。
周りから聞こえる声は人間の声に似ている癖に記憶していたどの言語とも違うし、やけに眠いわ、やけに暖かいわ。
これで混乱しない方がおかしいのだ。
それに我には天寿を全うして死に逝った時の記憶がしっかりと残っていたのである。
いや、まぁ “ そういう感覚だった ” というだけであったから実はまだ生きていて、死に際に少しだけ覚醒した、という可能性もなくはなかった。その時点では。
だが我がその可能性に思い至ったのはそれから5日程経った後のことである。
絶対違う。
死に際を5日間も彷徨うとかどんな奇跡だ。
というかそれまでの間、普通に己の体は本能のまま食事やら何やらしていたのである。混乱する思考を置いてけぼりにして。
そこまですればいくらぼやけた思考と視界であろうとも、己が馬でなくなっていることくらい分かる。
5日間、睡魔に負けるまでの短い時間の中、ぼやけた思考で必死に考えて出した仮説は一瞬で否定された。
この時点でも我はまだかなり混乱していたのである。でないとそんな状況でこんな仮説が出るわけがない。
そうしてしばらくの間、我はただただ混乱して過ごしていたのだが、数ヶ月もすればそれも終わった。
別に己の状況が理解できた訳ではない。
我は思考を放棄する事にしたのだ。
戦場において混乱というものは簡単に命取りになり得る。
考えて混乱してしまうくらいならば、思考を放棄して主人の指示や己の本能に従順でいた方がいい。
かつて優秀な軍馬であった我は、その経験のもと全ての物事をありのままに、柔軟に、受け止める事にしたのである。
いや、まぁ、確かにここは戦場ではないし、戦場であったとしたら数ヶ月が経っている時点で終わりでもあるのだけれど。
だが、我はこれを英断であったと思っている。
でなければ視界がはっきりとし、それなりの思考も出来るようになってからは更に混乱の極みに陥っていたであろうからな。下手をすれば今になっても混乱するばかりで言語すら覚えられていなかった可能性もある。
アルダス様に出会ったのはその決断からしばらく経った後のことだ。
詳しく言えば我があと1ヶ月程で1歳の誕生日を迎える頃。
視界が良くなり始め、それなりの思考も出来るようになり始めた頃である。
その頃我は、良くなり始めた視界で、ここがどうやら我の暮らしていた場所とは全く違うようである事、我が何故か人間の赤子になっているらしい事を、とりあえず理解していた。
正直意味が分からぬ事に変わりはなかったのであるが、その時はすでに思考を放棄していたからな。土壺にはまる事なく呑み込むことが出来たのである。
だがまだここがどういう場所かよく分かっていなかったのも事実でな。
安全性はどれ程ある場所なのか、何が危険で何が安全なのか、そういう重要な所がまったくもって未知であったのだ。
故に我は、さしあたり信頼の置けそうであった母上の後を付いて回っていたのである。ようやく動き回れるようになった体を駆使してな。
そして出会ったのだ。アルダス様に。
いつものように家事を終え、大人用ソファーで人心地ついた母上が、ついてきた我をソファーの上に抱き上げ “ てれび ” の “ ろくが ” を再生したそこで。
その時のことは実によく覚えている。
数多の奇怪な生物をその剣にて軽々と切り倒していくその姿。
難しいはずの詠唱魔法を次々に打ち出していくその姿。
そして己に走った衝撃、衝動。
まさか今世に到ってまであの感覚に襲われるとは思わなかった。
もしなったとしても、もっと後の事であると思っていた。
すぐさまその下に駆け寄りたくて、
戦場を駆けるその人の力になりたくて。
どうしようもないその感情。
言葉にするには難しいそれを、あえて端的に、誰にでも分かりやすく表現するとするならば、
“ このお方を我が背に乗せたい。”
前世、多くの軍馬が経験していた感情であった。
__と、まぁ、アルダス様との出会いはこんな所であるな。
アルダス様のこと以外に過半が使われているのは気にしてはいけない。
気にしない約束なのである。
………。
...さて、では後日談と洒落込もうではないか。
あの後 我は、必死でこの地の言語を習得した。
その時まだ名前すら分かっていなかったアルダス様の事を知りたいという思い一心でな。
それはもう必死であったぞ。
“ あにめ ” を見終わった後にはすぐに寝倒れてしまうほどであった。
もっとも、母上はただ寝ているだけだと思っていたようであるが。
それまでのただただ母上の後を追い、毎日決まった時間に寝ていた健康的な生活から一変、
アルダス様の言葉を一字一句聴き漏らさぬように聞いた後は倒れるように寝、そのあと起きたとしても母上たちの会話を聞いてまた倒れるように寝るという1日のほとんどを寝て過ごす大変不健康な生活になってしまった。
まぁ、もちろん腹は空くのできちんと食事はとっていたが。
そんな並々ならぬ努力の結果、我はわずか2週間ほどで簡単な意思疎通が取れるようになったのである。
凄いであろう?
これも、馬時代の経験があってこそである。
言語の学び方のコツを知らなければもっと時間がかかったであろうからな。
その結果分かったのはどうやらアルダス様は “ あにめ ” という、伝承のような物の登場人物であり、現代には存在しないという悲しい物であったが...。
ま、まぁ、それでアルダス様の言葉が分かるようになったのだからいいのである。
母上や父上、姉上とも話せるようになったであるからな。
それに、ここがそれほど危険な場所でないことも分かった。
これはかなり重要であるぞ。
これによって我は常に周囲を警戒する日々から解放されたのだ。
それでどれだけ我の心労が減った事か...。
それもこれも全てアルダス様のお陰である。
やはりアルダス様は素晴らしいな!
次は、もう少し早くあげます。
せめて1ヶ月中には...あげ、たいなぁ......。