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我は馬である。
それも名馬の中の名馬。
足は最速、加えて魔法まで巧みに使いこなす知性溢れる雄馬である。
......いや、今ではもう、『であった』が正しいか。
我は確かに名馬であった。
まさに文武両道を体現するかの如き牡馬であった。
そうであった。
そうであったのだ、が......
...どうしてこうなったのか。
視線を下ろせば目に映るのはぷにぷにとした白い手。
蹄のついた凛々しい前足ではなく、我が主人と同じように指の5本ついた手である。
我がその指を動かそうとすればその意思に従って──なんともまぁ、不思議な感覚ではあるが──視界に映るその指はなめらかに動く。
...我はどうやら主人と同じ、人間。
それもその雌に生まれ変わったようであった。
......本当に、どうしてこうなったのか。
生まれ直して3年経った今もなお残る疑問である。