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宇宙艦隊所属パイロットの奥様は魔女  作者: ディープタイピング
第13章 第二子誕生と魔女変革編
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#98 魔女の配達員

マデリーンさんの以前の仕事は、郵便屋だ。


一応、王都に店を構える一般向けの郵便屋だったのだが、料金の高さと魔女が営む店ということもあって、一般人の利用はほとんどなく、コンラッド伯爵の仕事を請け負う伯爵お抱えの配達員というのが実態だった。


今も廃業したわけではないが、アイリーン妊娠後に伯爵から仕事の依頼はないため、事実上の廃業状態だ。今や宇宙からもたらされた技術が幅を効かせている時代。地球(アース)401の運送業者も何社か進出しており、ドローンを使った配達も行われ、魔女以上の速さで配達してくれる仕組みがすでに導入されている。


だが手紙はともかく、小包みの場合はやや事情が変わる。機械が運び、無人の機械にサインを渡すことに抵抗を覚える人が多く、わざわざ追加料金を払って人による配達を依頼する人が多いのが現状。かくいう私もその1人だ。


そんなわけで、サインのいらない手紙や封筒はドローンが、サインを要求される大きめの荷物は人が運ぶというのが、この星の運送業者における標準となりつつある。だが、この王都の運送事情にはさらに別の要素が加わった。


ある日、いつものようにネットでワインを注文した時のこと。輸送オプションで「人配達」のチェックを入れようとすると、もう一つチェックが増えてることに気づいた。


そこには、新たに「魔女配達」というチェックが増えていた。


なんだ、いつのまにこんなチェックが増えたんだ?注釈を読むと、どうやら魔女が運んでくれるオプションとのこと。


重さ制限があり、2キログラムまでとされている。やはりこれは、ホウキに乗った魔女が運んでくれるサービスと見て間違いなさそうだ。


オプション料金は人配達の2倍で、ただし場合によっては通常の人配達となる場合があるという注意書きがある。とはいえ、王国での魔女担当貴族でもある私は、このオプションを試してみることにした。


ワインを注文した翌日、荷物追跡ではそろそろ配達される頃だ。マデリーンさんもこのサービスに興味津々なようで、私と共に配達されるのを待っていた。


上空に、ホウキに乗った魔女が現れた。我が家の門の前に降りてくる。私とマデリーンさんは門の前に行く。


降りてきたのはちょっと小柄の魔女さん。ホウキにまたがってはいるが、服装は緑と灰色の、通常の配達員と同じ制服を着ている。


「ええと、ダニエルさんのお宅ですよね。お届けものです。」


私は注文したワインが1本入った箱を受け取る。サインをしていると、マデリーンさんがその魔女さんに質問した。


「へぇ、魔女の配達員なんて珍しいわね。」

「はい、最近ここ王都で魔女の登録制度が始まったんですけど、一等魔女のところに配達員の募集が送られていてですね。それで私、ちょうどいい仕事だなあと思って連絡して、採用してもらったんです。」


この魔女さんの話が本当だとすると、魔女登録で個人情報が漏れてるってことじゃないか?大丈夫か?この制度。


「まさかあんた、宇宙港の集配所から運んできてるの?」

「いえ、自動運転トラックがこの近くの公園に来るんです。そこから荷物を一つづつ受け取って、こうやって運んでるんですよ。」

「そうなんだ…そりゃそうよね。今はトラックなんてものがあるのよね…」


マデリーンさんが配達をしている頃には、そんな便利なものはなかった。帝都まで運べと言われれば、帝都まで飛んで行くしかない。


「この辺りはあなた1人なの?」

「いえ、私の他にもう3人います。王都は全部で10人ほどですが、宇宙港の街は需要があるため、20人ほどいますね。」


話を聞くと、やはり地球(アース)401や地球(アース)001など、外の出身者の需要が多いらしい。魔女に会いたいがためにわざわざ魔女便を選んでいる人が多いようで、サービス開始以来、多忙なようだ。


「でも、魔女労働は1日最大8時間で、4時間おきに休憩と決められてるんですよ。だから、運べる量が限られてるんです。」

「ええっ!?今そんな決まりがあるの!?私が郵便屋やってた頃は、朝早くから夜遅くまで運んでたこともあったのよ…うーん…」


それどころか、戦場の只中に行かされたこともあるマデリーンさん。今思えば、無茶な仕事をしていたものだ。もっとも、そのおかげでマデリーンさんの名は広まったのだが。


「あのぉ、もしかして、魔女の方なんですか?」

「そうよ、私はマデリーン。こう見えても、かつては戦場に書状を送ってたこともあるのよ。」

「ええっ!?ま、マデリーン様といえば、王国一有名な一等魔女じゃないですか!し、知らなかった…」


そこに、ロサさんが出てきた。


「あれ?マデリーン、門の前で何やってるの?」

「ああ、ロサ。今ね、魔女の配達員と話しててね…」

「ええっ!?ろ、ロサ様もいるんですか!?コスプレの魔女ロサ様と言えば、あちらの街ではすごい人気ですよ!なんなのですか、このお屋敷は!?」


魔女が魔女の登場に驚くというハプニングとは珍しいが、確かにマデリーンさんもロサさんも、魔女登録制度が始まる前から活躍する魔女。いつのまにか、ロサさんも有名人になっていた。


私のサインだけでなく、マデリーンさんとロサさんのサインまでもらって、その魔女さんは帰っていった。なかなか面白い展開になったから、次もこのサービスを使ってみようと思う。


「ええっ!?ロサのところには来てたの?配達員の募集が。」

「ええ、登録が終わった直後に来てたわよ。私はやる気ないから、そのままゴミ箱に捨てちゃったけどね。」

「なんで私だけ来てないのよ!なんだか気分悪いわね…」


いや、マデリーンさんの方がむしろ正常だ。明らかに魔女登録のデータベースから、個人情報が漏れているんじゃないか?


その後、アリアンナさんやサリアンナさんなど、他の一等魔女にも同様の募集用紙が送られていることが分かった。


さらに、他の業種の募集用紙も送られていることが判明。ピザ等の食品デリバリー、イベント要員、結婚式場の天使役や一日彼女というのもあるらしい。


ちなみに一等魔女と二等魔女でも違う。クレアさんら二等魔女には、ウェイトレスのような接客業や、荷物の積み下ろし作業というものが多い。


よく見ると、アイリスさんの会社の求人も含まれている。この応募の実態を把握するため、アイリスさんに電話してみた。


「ああ、魔女の求人ですよね。あれは王都の役場に行ってお金を払うと、名簿をくれるんですよ。一等魔女、二等魔女といった種別、それに登録番号が書かれてますね。」

「えっ!?住所や名前はないの?じゃあ、どうやって資料を送付するの?」

「それは役場にお願いするんです。登録番号を指定して送りたい資料を渡しておくと、役場の認定を受けた業者がそれを配達してくれるんですよ。」


アイリスさんの話によれば、求人を出す企業には番号と一等魔女か二等魔女かの情報しか行かないらしい。役場直轄の業者がその魔女のお宅に求人資料を送るという仕組みのようだ。


このサービスは魔女の生活支援の一環で行われているため、求人以外の送付物は受け付けていない。これ以外にも、役場には魔女向け職業斡旋所もあるそうだ。


よくできた仕組みのようだが、その役場直轄の業者というのが引っかかる。完全な独占業者じゃないか。大丈夫なのか?その業者。


「でもアイリス、なんで私のとこにはその求人資料は来ないのよ?」

「そりゃあ、登録番号1番がマデリーン様と皆が知ってるからですよ。王国最強魔女に求人広告を送る度胸のある会社なんて、あるわけないですからね。」

「えーっ!私も求人資料欲しい!なんだか私だけのけものみたいじゃないのよ!」

「いいですよ、うちのを送りますよ。なんなら資料無しに面接でもOKですよ。もちろんうちの会社は、即採用ですけどね。」

「…あんたのところだけはいらないわ。」


そういえば、魔女登録制度が始まってから魔女が飛んでいるのをちらほら見かけるようになった。仕事に就く魔女が増えているようだ。


それと同時に、王都のあちこちに変なポールが見られるようになった。


高さは50メートルほど、先端が赤く塗られただけのポール。アンテナでも避雷針でもない、不思議なポールだ。


だが、このポールのことをマデリーンさんは知っていた。


「ああ、あれは魔女が飛んでいい高さを表すポールなんだって。」

「そうなの?でもいったいどこでそんな話を聞いたの?」

「魔女登録した時にそういう説明を受けたわよ。あれを目安に飛んでくださいって。」


調べてみると、これは「魔女ポール」と呼ばれてるそうで、船や航空機とのニアミスが懸念される宇宙港に近い街にのみ建てられているものだそうだ。


魔女の職業斡旋を進めると、当然魔女の飛行が増加すると考えられる。そこで、トラブル回避のため考えられたものらしい。


魔女登録制度により、急速に魔女向けの仕事や仕組みが整備されつつある。これらが魔女の保護につながるのだろうか?そう思う私の上を、今日も魔女たちはせっせと飛び回っている。

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