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宇宙艦隊所属パイロットの奥様は魔女  作者: ディープタイピング
第13章 第二子誕生と魔女変革編
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#92 嫡男ユリエル誕生と失意の達人

ここ数ヶ月は、平穏な日が続いている。


パトロールに出ても敵艦や海賊にも出くわさず、訓練も滞りなく成果を上げつつあり、どこかの星も恫喝に及ぶことは、あれ以来ない。


家庭においても、アイリーンはすくすくと成長し、カロンさんもギルバートさんと上手くやってるようだ。エマニエルさんが、ギルバートさんにやきもちを焼くほどだ。


レアさんも夫婦仲は良いようで、ついに第一子を妊娠されたようだ。だが、二等魔女というのは一等魔女と違って、妊娠しても魔力が使える人もいるらしく、レアさんもそのタイプだ。


だが、さすがに妊娠中に魔女ショーへ出すのは控えようということになり、レアさんは今、うちの仕事も少なめにして、自宅で過ごすことが多い。


ところでこの冬、アイリーンは2歳になった。


「パパ、ヘンタイヤロウ」


誕生日の朝に、アイリーンから出た最初の言葉だ。誰だ、こんな言葉を教えたのは?


「誰から教えてもらったのかな?その言葉。」

「アリアンナ。」


…やはりな。アリアンナさん、先日珍しくうちに来ていたが、大事な娘にそんな言葉を吹き込みやがっていたのか。


今年は寒さも緩く、大雪の日も少なかった。春になり、雪花もいつも通り咲き乱れ、王都の街は真っ白な花で覆われた。


その雪花が散り、暖かさが増した頃。


我が家に、第2子が誕生した。予定通り、男の子だ。


「…ほら、ちゃんと嫡男を、産んだわよ…」


2人目以降のお産は早いというが、産婦人科に着いてものの1時間ほどで生まれてきた。しかし、妊婦にとって大変なことには変わりない。お疲れ様、マデリーンさん。


体重は2900グラムほど。少し小ぶりなうちの長男は「ユリエル」と名付けられた。


「おーおー!可愛い顔しとるの!この子は絶対、凛々しい子になるぞ!」


と横で喜んでいるのは、わざわざヴェスミア王国から駆けつけてきたエグバード伯爵。その横にはマデリーンさんの兄のマンセルさんと、妹のセシリアさんもいる。


「王都って、こんなに進んでるんですね!私、王都には初めて来ましたが、驚きです。」


セシリアさんは周りが気になるらしい。王都といっても、ここは宇宙港の街の中。車が走り、街灯が当たり前のように存在し、美味しい食べ物が当たり前にように食べられる。ヴェスミア王国にも宇宙港があるが、規模が小さいせいか、ショッピングモールのような大型店がないらしい。王都がうらやましくなるのはわかる。ですがセシリアさん、今日だけはうちの子供を見てやってください。


それにしても、エグバード伯爵は大喜びだ。別に初孫というわけでもなし、自身の跡取りというわけでもないが、孫ができたということで喜んでいる。純粋に子供が大好きなようだ。


で、それから1ヶ月ほど経った今。


私は、ユリエルを抱えてショッピングモールの吹き抜けにいる。横には、アイリーンも一緒だ。


「…戦場を駆け巡り、魔王を倒して、人々に平和をもたらす王国最強の魔女であり勇者、マデリーンよ!」


魔女ショーの吹き抜けでこう叫んで飛んでいるのは、ご存知王国最強魔女のマデリーンさんだ。どうやらよっぽどこの魔女ショーに出たかったらしく、ユリエルが生まれるや否や、すぐにショーにデビューしてきた。


マデリーンさんが着ている衣装は、普段着の上から黒のマントに黒にとんがり帽子。これは、私がこの星に来たときに最初に見たマデリーンさんの姿そのものの格好、マデリーンさんの元々の職業である速達郵便屋の仕事着だ。


マデリーンさんは地球(アース)401だけでなく、地球(アース)001の人に有名だ。この王国最強の魔女登場に、会場は大盛り上がり。みんなスマホを向けてパシャパシャと撮影している。


それにしてもマデリーンさん、以前はどちらかというと人前に出るのを控えていた気がするのだが、どういう心情の変化があったのか?今は積極的に参加している。


その様子を、私は息子ユリエルと、アイリーンと共に会場の端の方で見ていた。


まだ首の座らないユリエルは、私に抱えられて周りを見ている。だが、眠くて仕方がないようで、大あくびをしてる。


アイリーンは空に浮かぶママの様子をポカンとした顔で見ている。魔女ショーはこれまで何度も見ているアイリーンだが、自分の母親が飛んでいるところは見るのは今日が初めて、ましてや観客がこれだけ盛り上がっていることに違和感を感じているのだろう。


「相変わらず、盛り上がってますねぇ。」


突然、モイラ中尉が現れた。何しに来たのか。


「…随分と暇そうじゃないか。そういえばモイラ中尉、ここでの任務は順調なのか?」

「やだなあ、至って順調ですよ。ここに来てからというもの、もう5組のカップルを成立させましたから。あ、ちょうど今も1組手がけてるんですよ。」


いや、それは任務じゃないだろう。本来の任務がどうかと聞いているのだが。


「…任務が順調だということは分かったが、そろそろ帰ることを考えたほうがいいんじゃないのか?」

「あれえ?男爵様は、私が邪魔なんですか?」

「いや、そうじゃない。ワーナー中尉が不憫だとは思わないのかと言ってるだけだ。」

「ああ…いいですよ、その件は。実はですね、もう別れたんですよ、ワーナーとは。」


…今なにか凄いことをさらっと言わなかったか?今の話、本当か、それは。


「あ、タツジンだ。」

「アイリーンちゃん、相変わらず元気ねえ。でも私の名前は、モ・イ・ラ!分かった?」

「うん、でもパパは、ヘ・ン・タ・イなんだよ。」


まるで会話になっていない上に、あらぬ誤解を招く表現をする娘アイリーン。モイラ中尉が苦笑いしている。


「…で、モイラ中尉。本当なのか、ワーナーと別れたというのは。」

「ここにくる直前の話です。2人で大げんかして、ワーナーのやつ、私にもう帰って来るな!って言ったから、そのまま家を飛び出したんですよ。しばらく軍の宿舎にお世話になったんですが、ちょうどこの重力子エンジンの技術習得の派遣団の募集があったので、参加したんですよ。」

「…なるほど、やはり変だと思った。あれから一度もワーナー中尉は現れないし、モイラ中尉も一度も地球(アース)401に帰る気配がないし。」

「ワーナーは、私がここに来ていることを知らないですからね。でも、知ってたところで来るわけないですけどね~。」


なんとなく強がって見せているのがよく分かる。でも多分、まだ吹っ切れてはいないのだろうな。私にはそう感じられる。


「そういうわけで私、ここに住民権を移そうと思ってるんですよ。」

「はあ?ここに住むつもりなのか?」

「別にいいじゃないですか。男爵様だって暮らしてるんでしょ?」

「まあ、それはそうだが…」


ユリエルはすっかり眠っている。魔女ショーは終わり、観客達は引き上げ始めていた。辺りはずいぶんと静かになっていた。


「ちょっと!さっきからモイラと何をしゃべってるのよ!」


マデリーンさんが吹き抜けを降りてくる。その姿を、モイラ中尉は持っていたスマホで撮影していた。


「いやあ、さすがは王国最強の魔女様!凛々しいお姿ですねぇ!」

「何言ってんのよ、これただの仕事着よ?」

「いえいえ、マデリーン様が着ればなんでも似合いますよ。もう最強!では、私はこれで…」


調子のいいことを言って、モイラ中尉は帰っていった。


「…なんなのよ、モイラのやつ。全く。」


何やら不機嫌なマデリーンさん。もしかしてマデリーンさんは、私とモイラ中尉が話してるのを見て嫉妬してたのか?


「あんたさ、モイラと何しゃべってたのよ!」

「いや、たいした話じゃないよ。いつまでここにいるのかって聞いたんだよ。」

「へえ、で、いつ帰るのよ。」

「それが、まだわかんないみたいでさ。」


まさか永住するつもりでいるだなんて、私からはとてもいえない。しかしモイラ中尉、本気だろうか?


技術武官なら、この星にとってはウェルカムな人材だ。その気になれば永住権の申請はすぐに認められるだろう。でも、なぜかそれじゃいけない気がする。本当にそれでいいのか?モイラ中尉。


もやもやした思いを抱えたまま、自宅に帰る。ユリエルは腕の中ですっかり寝入っている。まだこの世に降りてきて1か月しか経っていないこの子は、人の出会いや別れなどという概念はまだなさそうだ。私のこの思いなど、知る由もなさそうだ。


そんなユリエルだが、アイリーンにはみられなかった特徴がある。それは、明らかに好奇心が強いということだ。


赤ん坊のころのアイリーンにも、もちろん好奇心はあった。だが、ユリエルは見るからにそれが強い。


軍服を着てユリエルをだっこしようものなら、胸につけた勲章を片っ端から取ろうとする。ネクタイなどつけていれば引っ張るし、とにかく目についたものは全て手に取ろうとする。


柔らかい乳児用のおもちゃを与えたら、いつまでも握って離さない。同じ頃のアイリーンはどちらかというと手に握ったものはすぐに放り投げていたが、ユリエルは気に入っていつまでもジーっと見ている。こんな乳児の頃でも、これほど性格に差が出るとは思わなかった。面白いものだ。


男の子はこういうものかと思いきや、例えばミリアさんの長男のダリアちゃんはそうではなかったらしい。ユリエル特有の性格のようだ。


私の両親にメールでそのことを送ったが、両親によれば、私の小さい頃も同じように好奇心が旺盛だったらしい。つまり、私に似たようだ。


まさか将来、私のようになるのだろうか。自分でいうのもなんだか、私はそれほど積極的な人間ではないし、周りの状況に流されるがまま生きているだけだ。そんな大人に、ユリエルはなってしまうのだろうか?


…などと考えてしまったが、自分自身の理想を子供に押し付けるなど親のエゴだろう。その点では、マデリーンさんのアイリーンへの期待も同様だ。


アイリーンにしても、ユリエルにしても、自分らしくのびのびと生きていって欲しい。親が願うのは、その程度にとどめるのがよいのだろう。


さて、ある種のびのびと生きている大人が、また魔女ショーにやってきた。モイラ中尉だ。


だがモイラ中尉、心ここにあらずといった表情でショーを見ている。マデリーンさんの様子もぼーっと見ているようで、なんだかいつものモイラ中尉らしくない。


先週、私があんなことを聞いたものだから、もしかしたら気にしているのだろうか?彼女は特に何も言わないけれど、他に思い当たるものはない。


今日は大雨だ。ショッピングモールの中でも天井をたたきつける雨音がザーッと室内まで響く。この荒れた天気が、ますますモイラ中尉を滅入らせているようだ。


ショーが終わって、魔女たちは吹き抜けの下に集まってくる。外の天気にかかわらず、マデリーンさんは上機嫌だ。


「はぁ~、やっぱり王国最強の魔女がいると盛り上がるわねぇ~!」

「いやあ、さすがはマデリーン様!飛ぶ姿も凛々しくて、頼もしい限りですねぇ!」


マデリーンさんを調子よく持ち上げているのは、あの一等魔女の双子の姉のキャロルさん。キャロルさんは、どうやらマデリーンさんにあこがれているようだ。


ところで、同じ双子でも妹のキャロリンさんは、ロサさんにあこがれているようだ。双子でも、魔女のタイプに関しては好みが分かれているのが面白い。ちなみに母親のキャロラインさんは、どちらのタイプの魔女も好みらしい。さすがは双子の母。


さて、そんな魔女たちの盛り上がりとは裏腹に、すっかり魂が抜けたようなモイラ中尉。以前はこのショッピングモールでストーカーのようにカップルを追いかけていたモイラ中尉。だが、今はその頃の面影はなし。これは重症だ。


さて、魔女たちと共にいつものようにフードコートでショーの打ち上げをするため移動しようとしたとき、我々の近くに一人の人物が現れた。


その人物は、全身びしょぬれで、まるでゾンビのように歩いてくる。私と魔女たちは思わず警戒する。


そのゾンビはだんたんとこっちに近づいてくる。よく見ると軍服を着ているその人物は、モイラ中尉の前で止まった。


「やあ、久しぶりだね、モイラ。」


帽子を取り、話しかけるこの人物は、よく見るとワーナー中尉だった。

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