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宇宙艦隊所属パイロットの奥様は魔女  作者: ディープタイピング
第13章 第二子誕生と魔女変革編
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#87 王都魔女会イベント

さて、困ったことになった。


きっかけは、超巨大戦艦「ゴンドワナ」でのあのクレアさんの活躍騒動だ。


あの騒ぎがきっかけで、戦艦ゴンドワナから王都にやってくる観光客が急増した。お目当は「魔女」である。


ところが、いくら王都と言えども魔女がそれほどいるわけではない。いたとしても、その正体を隠して暮らしている人々がほとんど。ゆえに、王都に来たところで魔女に会えることはまずない。


これが王都を訪れる地球(アース)001の観光客にとっては不満だったらしく、なぜか地球(アース)401の運営する王都宇宙港にその不満の声が届く。


そんなことを言われても仕方がないのだが、これを受けて王都宇宙港の事務所から私宛てに打診があった。


一言でいえば、戦艦ゴンドワナの観光客向けに魔女をかき集めて欲しい、というものだ。


この話には2つの不満がある。魔女は見世物じゃないということ、そして、なぜこういう話は私宛てにくるのかということ。


マデリーンさんのおかげで、魔女が絡む相談は私にすればいいと思われてるようだ。だが、私はこの星の防衛艦隊の一介の艦長。王国貴族の末席。こういう相談を受ける窓口ではないのだが。


しかし、王都魔女会の会長であるマデリーンさんに相談すると、意外に乗り気だ。


「…あの、マデリーンさん?いいんですか、魔女が見世物のように扱われるのは。」

「何言ってんの、またとない機会よ。魔女の凄さを見せつけられるなんて素晴らしいわ。ああ、私も飛べたら…」


魔女会の頂点に立つマデリーンさんは現在、妊娠中のため魔力が使えない。だから代わりに他の魔女に協力を要請する。


で、このとばっちりを受けたのは「副会長」のロサさんだ。


「ええっ!?いつのまに私が副会長ってことになってるのよ!」

「いいじゃないの、こういう観客向けのショーとか得意でしょ!?魔女は集めてあげるから、なんか適当に考えてよ。」


突然、会長職を丸投げされたロサさん。これじゃあまりにも可哀想なので、私も協力することにした。


魔女と言えば、あのブラック企業だ。魔女の社員を7人抱えているあの会社に協力を要請するため、アイリスさんに相談してみる。


「はい!ぜひやらせてください!協力しますよ!」


妙に乗り気だ。どうやら、地球(アース)001相手に商売をするつもりだったようで、これを会社売り込みの絶好のチャンスと捉えたようだ。


会場は、いつものショッピングモールが提供してくれることになった。王都宇宙港に近い上に、広い会場スペースを持っている。ショッピングモールとしても、観光客による集客につながるため大歓迎だという。ここは以前ロサさんが魔法少女ショーをやっていたから、この手の企画を手がけた実績もある。


マデリーンさんが魔女会に呼びかけて、盛り上げてくれる人を募集する。これに呼応したのは、ミリアさん、ロージィさん、エリザさん、そしてパナラットさん。


我が家にいるクレアさんとレアさん、それにあのブラック企業に勤める魔女の内、王都にいる6人を合わせると、総勢13人の魔女が集まった。


だが、ローテーションを考慮すると、やはりもう少し魔女が欲しいところ。そこで私は、王都に魔女募集をかけることにした。


マデリーンさんがホウキにまたがる姿を載せたポスターを作って、王都のあちこちに張り出す。


『集え、誇り高き王都の魔女達よ!』


およそ見世物のための募集とは思えないポスターだ。いいのか、誇り高き魔女がほいほいとショーに出ても。


ポスターには、私の屋敷に来るよう書かれていた。魔女にとっては敷居の高い貴族居住区にあるこの屋敷に、果たしてたどり着く魔女がいるのだろうか?


ところが予想に反して、なんと5人の魔女が現れた。


最初に現れたのは、アリサさんという二等魔女。


「あ、あの!ポスター見て来ました!ほ、本当に誇り高い魔女になれるんでしょうか!?」


平民出身のこの魔女さん、妙にやる気満々だ。マデリーンさんは応える。


「そうよ、なにせ相手はこの宇宙最強の民族。その最強民族に我々王都の魔女の力を見せつけるの。どう?すごいでしょ!」


物は言いようだな。確かに地球(アース)001はこの宇宙最強の星。その星の人々に魔女の実力を見せつけるというのは、間違いではない。


「で、でも私、コップ1つ持ち上げるのがやっとの魔女なんです…こんな魔力で、役に立ちますかね?」

「じゃあ、ちょっとやって見せてよ。」

「は、はい…じゃあ、あの台の上にあるカップを持ち上げます。」


アリサさんはそう言うと、手をカップにかざす。


私はてっきり、普通の二等魔女のようにカップに触れて浮かせるものだと思っていた。が、アリサさんはちょうどベルクソーラさんのように、離れた場所からカップを浮かせている。


ただ、我々が驚いたのはその距離だ。アリサさんがいるのはリビング。対象のカップは、そこから7、8メートルは離れたキッチン台の上にある。


それがふわふわと浮いている。これを見たマデリーンさん、もう興奮状態だ。


「あんた、すごいじゃないの!なんでこんなに遠くまで魔力を飛ばせるのよ!?」

「えーっ…二等魔女ってこういうものじゃないんですか?」


アリサさん、実は他の魔女のことをよく知らないらしい。二等魔女とは、こういうものだと思っていたようだ。


続いて現れたのは、なんと騎士の娘。カリーナさんという一等魔女だが、現れた時は上半身に鎧をまとい、腰には剣をつけていた。まるでイレーネさんに出会った時のような姿だ。


「我が名はカリーナ!魔女の誇りをかけた戦いがあると聞いて参上した!」

「よろしい!ではあなたには、宇宙最強の民族にその腕前を披露して欲しいわ!やれる?」


「なんなりとお申し付けください。王国最強の魔女、マデリーン様のためなら、我が命に代えても!」


また面倒な魔女がきた。一等魔女としてはごく普通だが、剣の腕はかなりのものだ。ヴァリアーノさんほどではないが、イレーネさんレベルはあるんじゃなかろうか?


続いて、いきなり3人の魔女がやってきた。


まずはキャロル、キャロリンの2人。年齢は18歳の双子だ。


双子の魔女というのは初めてだ。しかも2人とも一等魔女。能力的には普通の一等魔女ながら、瓜二つの2人が並んで飛ぶ姿はなかなか見ものだ。


が、驚くのはまだ早い。


3人目はなんとその双子のお母さんだ。名はキャロラインさん。歳は37歳という。さすがお母さんというだけあって、双子によく似ている。


「娘がマデリーン様の張り紙を見つけたというので、じゃあ、親子で行ってみようかということになってですね…」


このお母さん、年齢のわりにお若く見える。お姉さんだと言われたら、多分信じてしまうだろう。


ちなみに、ご主人のクリフさんもついてきた。クリフさんはこの王都に住む豪商の方で、キャロラインさんに魔女と知りつつも一目惚れして求婚したらしい。双子を産んだ時は19歳の時だったが、クリフさん曰く、キャロラインさんはその時からほとんど変わっていないそうだ。


双子と母親の3人の魔女。しかも全員が一等魔女という。魔女じゃないのは、ご主人だけだ。


なおこの双子さんはすでに16歳を超えているが、独り立ちはさせなかったらしい。2年前にはすでに宇宙を相手に商売を始めていたクリフさん、この古い慣習にさっさと見切りをつけたそうだ。


親子揃って仲がいい。近所でも評判なようだ。魔女ということを隠すことなく暮らしているが、特に嫌な目に会うわけでもなく過ごしているようだ。


この親子を見ていると、マデリーンさんとアイリーンの未来の姿を想像する。この2人もこういう親子になるのだろうか?だが、アイリーンもマデリーンさんもわりと気が強い。もしかすると、2人で喧嘩ばかりするんじゃなかろうか?


いきなり5人の魔女を迎え、王都魔女会のイベント部隊は18人になった。それを見て、参加を見送っているサリアンナさんはちょっと考え込んでいた。


「うー…私も出た方がいいのかしら…」


だがサリアンナさん、やっぱり飛ぶのが苦手らしく、すごすごと部屋に戻っていった。


なお、アリアンナさんはというと、マデリーンさん同様、2人目を妊娠中だ。こちらも魔女イベントには参加できない。


さて、総勢18人の魔女がショッピングモールに現れた。


予め、宇宙港ではポスターで告知済み。おかげで、たくさんの地球(アース)001の人々が押し寄せた。


「さあ、みんな!魔女ショーの始まりよ!」


どうして魔法少女の格好になると、ロサさんはああも積極的になるのだろうか?マイク片手に、吹き抜けの4階から飛び出してきたロサさん。吹き抜けをぐるりと取り囲む観客に向かって手を振る。


まずは一等魔女の皆さんが登場。ロサさんを先頭に、ミリアさん、ロージィさん、パナラットさん、ベルクソーラさん、キャロライン親子3人にアマンダさん、そしてあの研究所のおかげで一等魔女になったシャロットさんとデーシィさんが続く。


デーシィさんはまるでグラビアアイドルにような姿で登場。観客は釘付けだ。


だが、やはりキャロライン、キャロル、キャロリンの3人のインパクトは大きい。本当にそっくりな3人が空を飛んでいる。まさかこの3人の一番前を飛んでいるのがお母さんとは、誰も思うまい。


下には2メートル四方の大きな箱が3つある。真ん中の箱には、アウレーナさんが乗っている。


アウレーナさんはそのまま浮き上がる。3階まで登ると、ジーナさんがいつものように気合を入れる。


「いきますよー…はあっ!」


パンッという乾いた音とともに、荷物が動き出す。といってもここは狭い会場、いつものように全力を出したら、ショッピングモールの吹き抜けの内側に激突してしまう。アマンダさんが指示を出して、その吹き抜け内を回っている。


その両脇に置かれた箱を持つのは、怪力系二等魔女のクレアさんとペネローザさんだ。


自身の身長を超える大きさの箱を持ち上げる2人。この2人は背が小さいだけに、より一層強烈なインパクトを与える。


だが、ペネローザさんの持っている箱が突然割れる。中から、鎧姿のカリーナさん登場。


「我が名はカリーナ!王国に仇す悪魔に、鉄槌を食らわす!」


そう叫んだ途端、突然アウレーナさんとジーナさんの箱の底がぱかっと開く。その中から、黒くて丸い風船のようなものが落ちてくる。


ホウキにまたがったカリーナさん、空中でこの黒い物体を真っ二つにする。すると、中からたくさんの花吹雪が舞い散る。


このド派手な演出に観客は大喜び。魔女なのに女騎士であるカリーナさんの登場に、会場は大いに盛り上がった。


さて、派手なショーの後は、二等魔女たちのささやかな魔力が披露される。アリサさんとレアさんは観客の中に入り、離れたカップを持ち上げたり、水の球を作っている。


レアさんの球を恐る恐る触る子供達。不思議な感触に驚いていた。


エリザさんは、希望する観客を持ち上げていた。クレアさんは相変わらず箱を持ったまま歩いている。


吹き抜けの下では、あの魔女グッズ専門店の臨時店舗が開いていた。


「さあ、魔女たちが日頃使っているグッズ、今なら2割引で販売中でーす!」

「ついでに、呪い殺したい方がいましたら、相談に乗りますよー。」


シャロンさんとパナラットさんが2人揃って、グッズの売り込みを図る。


「グレイス貿易でーす!彼女ら共々、よろしくお願いしまーす!」


6人の魔女とアイリスさんが並んで、ポケットティッシュを配っている。アランさん、マドレーヌさんにブッシュさん、レーガンさんの姿もあった。


そばにあるアニメショップでは、ロサさんが着ているあの服が売られている。女の子を中心に売れ…あ、いや、むしろ男の大きなお友達が、たくさん買っているぞ!?


最初のショーよりは、後半の身近な魔女達と触れ合う方が好評だった。今後、こっちのスタイルを中心にしたほうがよさそうだ。


2時間に及ぶショーは大成功。今後も週に一回、このショッピングモールにて行うことになっている。


初日の打ち上げは、フードコートで行われた。魔女達にはこのエリアにある各店より料理が振舞われた。


「今日は大成功よー!みんな、がっつり食べるわよ!かんぱーい!」


なぜかこういう時だけ会長として出しゃばるマデリーンさん。もちろん料理は、あのハンバーグ専門店のデミグラハンバーグだ。


「んーんまいでふー!」


相変わらずよく食べるクレアさんだ、もう何杯目だろうか?そのすぐ横ではキャロルさん、キャロリンさんは2人仲良く帝都チキンを頬張る。さらにその横にはキャロラインさんと夫のクリフさんが一緒にピザを食べている。


「うーむ、お主、なかなかいい腕をしているではないか!」

「はっ!ありがたきお言葉!」


カリーナさんを賞賛するイレーネさん。似た者同士、気が合うようだ。


「ふぇぇぇーっ、人がたくさんいたよーっ!」


大勢の人がいたという事実だけで泣きだすロージィさん。しかし彼女の場合、人が少なくても泣きだすのではないか?そんな彼女を、旦那のハイン大尉が抱き寄せていた。


ここにいる王都の魔女達により、観光客の満足度向上という目的は満たされた。魔女グッズの店の販促とあの貿易会社の宣伝も上手く行ったようだ。


だが、マデリーンさんの掲げた「魔女の誇り」ってやつは示せたのだろうか?こればかりは疑問符が付く。だが、王国、帝国では自身が魔女であることを見せつけるなど、よほどの神経の持ち主でもなければできない行為。それが堂々と自分の持つ能力を披露できる時代になったのだ。魔女の地位向上には貢献しているだろう。笑顔でデミグラハンバーグに食らいつくマデリーンさんを見ながら、私はそう考えていた。

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