#85 超巨大戦艦「ゴンドワナ」
カロンさんの夏季休暇もあと1週間を切った。来週からいよいよ学校生活が再開する。
そんな夏の終わり時に、この星系にとてつもないものが現れる。
地球001の保有する、この宇宙最大の戦艦「ゴンドワナ」が、この地球760にやってきたのだ。
この戦艦、大きいなんてものじゃない。全長700キロメートル、質量900兆トン、軍民合わせて430万人が住むといわれる超巨大戦艦。収容艦艇数は1万隻で、10メートル級砲門が3000門もある。これだけでも化け物レベルの船だが、さらに2000メートル級砲門を2門装備している。一撃で、数百隻を消滅できる宇宙最強のエネルギー砲だ。
通常の戦艦がせいぜい全長3~4キロメートルであることを思えば、その並外れた大きさがお分かりいただけると思う。
それにしても、こんな化け物戦艦がなぜわざわざこの星までやってきたのか?それは実に単純な理由で、重力子エンジンの強化のためである。
大きいが故に、機動力が低い。だからこそ少しでも機動力を上げるため、当然のことながら推力を強化したくなる。そこで、ちょうど駆逐艦0972号艦と同じ改修を施し、この戦艦の機動力を大幅に向上させるつもりのようだ。
この戦艦ゴンドワナは、破壊力こそ抜群だが、機動力が低すぎて滅多に戦線投入されない。しかしこの戦艦の機動力がちょっとでも上がれば、この強大な戦闘力を投入できる機会も増えることだろう。というわけで、我々の駆逐艦の実証試験成功の報を受けてすぐに、この戦艦の機関強化が決定された。
その戦艦に、私の駆逐艦0972号艦とその乗員が招待された。また、我々の王国の魔女数名と、王国貴族も何人か同伴することになった。
というわけで、私とマデリーンさんにアイリーン、それにカロンさんとクレアさん、ロサさんとアルベルト大尉とリサちゃん、またベルクソーラさんも行くことになった。貴族では、エマニエルさんとカルロス男爵夫妻、アンドリュー子爵とイザベルさん、そしてアルヴィン男爵とカルラ中尉が行く。主賓としてリュウジさんと、その妻のレアさんも参加する。
そして、なぜかモイラ中尉もついてくることになった。
「…なぜ、モイラ中尉まで?」
「良いではないですか!1人くらい増えても、邪魔ではないでしょう?」
ずかずかと私の駆逐艦0972号艦に乗るモイラ中尉。こういう図々しさは相変わらずだ。
艦橋には、魔女に貴族にモイラ中尉といった来賓がぞろぞろと乗り込んできた。皆、窓際に集まって、出発の時を今か今かと待っている。
「あれ!?カルラじゃないの!?なんでここに!?それにあなたどうしてそんな貴族みたいな格好してるの!?」
「も、モイラじゃないの!いや、私ね、ここの作戦参謀で、しかもアルヴィン男爵の妻なので、今日はこういう格好で乗ってるのよ。」
なんだ、この2人は知り合いだったのか。それにしても、モイラ中尉もびっくりだろう。正直言って、男にモテるとは言いがたいカルラ中尉が、今や貴族の奥様だ。だが、まさか貴族の間ではカルラ中尉が「絶世の美女」であることは、さすがの恋愛の達人でも知る由もない。
それにしても、さっきから艦橋内をアイリーンが走り回っている。リサちゃんもついていく。2人で艦橋内にいる人の前で立ち止まっては、にこっと笑顔を振りまいている。
だが、この小悪魔がただ笑顔を振りまいているだけで済むはずがない。案の定、いたずらが始まった。
「あ、そこを押しちゃダメ!」
ラナ少尉が叫ぶ。どうやらレーダーの表示切替スイッチを押してるようだ。パカパカとレーダーの表示が切り替わっている。それを見て、げらげらと笑うアイリーン。
「こらっ!アイリーン!いたずらしちゃいかん!」
艦長自ら怒る。するとアイリーンは途端に泣き顔になり、
「うわぁーん!パパ大嫌い!」
得意の精神攻撃を仕掛けてきた。そのままマデリーンさんのところに走っていく。
このところ、マデリーンさんのつわりはおさまってきた。アイリーンの時もそうだったが、つわりはずっと続かない。そんなマデリーンさん、泣き出したアイリーンを抱き寄せている。
「…では、そろそろ出航する。行き先は地球760から50万キロ離れた軌道上に展開中の地球001所属の戦艦ゴンドワナ。大気圏離脱後すぐにアプローチに入る。機関始動、両舷微速上昇!」
「機関始動、船体ロック解除、両舷微速上昇!」
艦がゆっくりと浮き上がる。この手の船に初めて乗ったイザベルさんが声を上げる。
「うわっ!?う、浮き出した!すごいわ!やっぱり宇宙船というのはすごいですわね、お父様!」
浮いただけで興奮状態だ。ここから先、もっと刺激的なイベントが続くのだが、大丈夫だろうか?
徐々に規定高度まで上昇する。空気の薄い場所に来ると、空は暗くなり、正面には大気の層が見える。
「か、カロン!なぜ空が急に暗くなったの!?まさかもう夜になったのかしら!?」
「いえ、ここは空気が薄いところなので、昼でも暗くなるんですよ。」
「そ、そうだったんですわね…って、あなた、そういえばいいの!?そういうことは、知らない人ってことになってるんじゃないの!?」
「はい、でも今ここには私が地球401出身だと知ってる人ばかりですから、大丈夫ですよ。」
「えっ!?じゃあ、エマニエルもカロンのこと知ってるの!?」
「ええ、知ってますよ。ついでに私が魔女だってこと、カロンもご存知ですわ。」
なんだ、イザベルさん、エマニエルさんの正体も知ってたんだ。どういう経緯でそうなったのかは知らないが、案外イザベルさんには人望があるのか、そういう秘密を打ち明けやすい人物なのかもしれない。
といってるうちに、規定高度の4万メートルに達する。いよいよ大気圏離脱だ。
改修後の試験航行では慣性制御が追いつかなかったり、船体の一部が壊れたりと散々だったが、すでにこの艦は推力3倍に対応済み。慣性制御も改修されており、機関最大時でもいつも通り加速度を感じることはなくなった。
「これより、大気圏離脱を行う。機関最大、両舷前進いっぱい!」
「機関出力100パーセント、両舷前進いっぱーい!」
トビアス少佐が目一杯出力レバーを引く。艦は急加速し、周りの風景が流れ始める。
「か、カロン!地面が動き出しましたわよ!どうなってるの!?」
窓の外を指差してわめいているイザベルさん。いや、正確には我々が動いているのだが…このお嬢様は、この艦の挙動一つ一つにいちいち反応して面白い。
辺りはすっかり真っ暗な宇宙空間だ。その暗闇を背景に、カロンさん、エマニエルさん、そしてイザベルさんの3人は窓際で楽しそうに会話している。この調子ならば、秋の高校生活も
すぐ横ではリュウジさんとレアさんが窓際で寄り添いながら何かを話している。結婚したての頃はまだレアさんはリュウジさんに遠慮気味なところがあったが、今ではどこから見てもすっかり夫婦だ。
「あ、見えてきたわ、あれよね、今から行く戦艦ていうのは。」
マデリーンさんが窓の外を指差して言う。その先に、あの戦艦特有のゴツゴツとした形が見える。マデリーンさんの指摘通り、あれがまさに今回の行き先である戦艦「ゴンドワナ」だ。
だが、マデリーンさんは、おそらくこの戦艦のとんでもなさを認識していない。艦橋にいる乗員の何人かはざわざわしている。窓から見えるあの戦艦、実はまだ8000キロ彼方にあるのだ。そんなに離れているというのに、すでにあの大きさで見える。さすがは宇宙最大の戦艦だ。
「距離7600、相対速度、毎秒15キロ!」
「距離1200で減速する。進路そのまま、両舷前進微速!」
「両舷前進びそーく!」
徐々に大きくなる戦艦ゴンドワナ。だが、すでにマデリーンさんもこの戦艦の異常さに気付き始めた。
「なによ、あれ…まだ大きくなるの!?」
地球001にかつて存在した超大陸の名を持つこの戦艦、長さだけで我々の知る戦艦のざっと200倍はある。もう視界いっぱいに見える戦艦ゴンドワナだが、まだまだ大きくなる。
「ハ…ハーデス!?何だこの大きな岩の塊は!?」
戦艦そのものが初体験のベルクソーラさん。しかし、こいつは戦艦慣れしている我々でさえ圧倒されるほどの大きさだ。
すでに我々の目の前は岩肌しか見えない。厚さ方向でさえ60キロという、これでさえ通常の戦艦の長さの20倍だ。なんてバカでかい戦艦なのか。
こいつは、戦艦なんてものじゃない。もはや移動可能な小惑星要塞、いや「衛星」だ。
ここで戦艦ゴンドワナより通信が入る。
「ゴンドワナ第3管制より地球760艦隊0972号艦へ、第7502番ドックへ入港されたし。」
「0972号艦よりゴンドワナへ。了解、7502番ドックへ入港いたします。」
といっても、その7502番ドックがどこにあるのかわからない。無線で位置を再度確認して、入港準備に入る。
「両舷前進最微速!入港準備!」
「7502番ドックより繋留ビーコン捕捉!」
「了解、ビーコンの誘導に従い、入港する!」
収容艦艇数1万隻なこの戦艦。その気になればこの空域にいる全ての艦艇を収容できるほどのドックが存在する。
だが、この戦艦を収容できるドックがこの宇宙には存在しない。現在、重力子エンジンの改修が行われているが、ドックではなくこの軌道上で行うことになっている。30基もある機関のうち、3基が現在改修中。艦の後ろ側には工作艦が数十隻ほど展開していた。
あまりに大きいため、1年近くはここに滞在することになるらしい。機関の改修工事だけで1年。なんと恐ろしいことか。
さて、この超巨大戦艦のドックの一つに向かって我々は入港する。下はどこまでも続く岩肌。そんな巨大な戦艦からすれば、我々の駆逐艦などまるで埃だ。
「ドックに接続!両舷停止!エアロックパイプが接続されます!」
「了解。接続部を点検。」
「繋留ロック1、2番接続よし!エアロック結合よし!」
「よし、機関停止。昇降口のハッチ解放。」
姿を確認して30分、ようやくこの巨大戦艦にたどり着いた。我々は早速、艦内に入る。
「達する、艦長のダニエルだ。ただいまより72時間の乗艦許可が下りた。現在、艦隊標準時1400、3日後の1330までに当艦へ帰還せよ。以上。」
私は艦橋内の来客の何人かを連れて、この巨大戦艦に乗り込む。
通常、戦艦と言えばその通路の先に鉄道があり、そこから街に向かう。だが、この巨大戦艦は、その鉄道のスケールが違う。
正面には駅があった。そこには我々の知る普通の鉄道があり、そこに乗り込む。だが、ここから先が普通の戦艦と大きく異なる。
なんと、鉄道に乗って向かうのは街ではなく「駅」。時速500キロのリニア鉄道の駅に向かっている。艦が大きすぎて通常の鉄道では移動時間がかかりすぎるため、艦内には高速鉄道が敷かれているそうだ。おかげで、この艦内の街に出るには一度乗り継ぎが必要となる。
なんだかくらくらしてきた。こんなにでかい戦艦作ってどうするつもりだったのだ?地球001は。
一同、鉄道に乗り込む。4駅ほど行くと、そのリニア鉄道の乗り継ぎ駅に着いた。そこでリニア鉄道に乗り換える。
その鉄道に乗って、さらに我々は驚く。
戦艦内の鉄道とは、普通は地下鉄のようにトンネル内を移動するだけだ。駅に着くときは明るくなるが、それ以外はトンネルの中を走り続けるだけ。
だがこのリニア鉄道、乗ってすぐに明るい場所に出た。そのを見ると、街が見えてきた。
そこは人口120万人が住む艦内の街。あまりに大きい街の出現に、一同ここが戦艦の中であることをすっかり忘れてしまう。
驚いたことに、この大きさの街が艦内に3つあるという。我々が向かうのはその2番目の街で、それが今、眼前に見えている第2ゴンドワナシティーだ。
つまり、街だけで400万人近くいるってことになる。ここで生活している人々もたくさんおり、学校や商店、それにビル群も見える。
また、戦艦内だというのに、車が走っている。もはや地上の街とは区別がつかない。ここはまさに、地球001の都市がそのまま作られているようだ。
この第2ゴンドワナシティーの駅に到着すると、小型のバスが迎えに来ていた。
「ダニエル艦長様とリュウジ研究員様ですね。地球001の政府より依頼を受けまして、皆様を『ゴンドワナホテル』までご案内いたします。」
バスに乗って移動する我々一同。窓の外はごく普通の街並み。ビル群が多く、ちょうど地球401の大都市であるロージニアに近い風景だ。
10キロ四方、高さ1キロのこの空間内に120万人が住んでいる。さすがに人口密度が高いため、よく見ると街は3層構造になっている。道路が高さ50メートルごとに敷かれており、ビルの多くは50、100メートルの高さでその道路とつながっている。
我々は初め一番下の層を走っていたが、徐々に上の層の道路に移動する。気が付けば高さ100メートルの一番上の3層目の道路を走っている。下を覗くと、街の中を歩く人々が見える。一番下はどうやら歩行者がメインで、車は2、3層目を走るようになっているらしい。
そのままずっと走り、あるビルの横にたどり着く。
高さ100メートルだが、道路に隣接しており、道路に面して玄関がある。我々はその玄関前で降りて、建物の中に向かう。
ここが「ゴンドワナホテル」らしい。高さ400メートルのビルで、宿泊施設からイベント会場まで全てが備わったこの艦内最大の施設らしい。
この高さから、さらに300メートルもの高さがあるこの太いビルを見上げて、一同言葉を失う。本当にここは、戦艦の中なのか!?
「お待ちしておりました、私は地球001統合政府、産業省のヤスヒコと申します。この3日間、皆さまをご案内いたしますので、よろしくお願いいたします。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
なんだかひょろっとした人物が出てきた。どうやら、地球001の政府関係者らしい。なんだか頼りなげだが、人はよさそうな感じだ。リュウジさん曰く、名前からしてリュウジさんと同郷の方らしい。
このヤスヒコさんに連れられて、我々は大きな宴会場に通された。事前に聞かされていたことだが、これから重力子技術の発展を祝うパーティーが行われる。
立食パーティーだが、妊娠中のマデリーンさんには椅子が準備されていた。
「あの、リュウジ様。舞台の方によろしくお願いいたします。」
「あ、はい、わかりました。」
リュウジさんはレアさんを連れて、前の舞台に向かって歩く。
しばらくすると、パーティーが開催される。初めに政府高官らしき方が挨拶を行った。
「お集まりの皆様、本日はわざわざお集まりいただきありがとうございます。この地球760により、240年もの間、発展のなかった重力子エンジンに革命的な進化がもたらされ…」
まあ、こういうところでの偉い人の挨拶というものは、なかなか終わらないものだ。延々とこの人の挨拶を聞かされる。
やっと終わったと思ったら、今度はリュウジさん登場だ。
「重力子研究員のリュウジです。本日はこのような場にお招きいただき、誠にありがとうございます。さて、私の重力子研究がこのように進んだのは、この星にいる魔女のおかげです。彼女達の協力無くして今回の成果はあり得ませんでした。この場を借りてお礼申し上げます。さて、その重力子の発展をもたらしたのは…」
プロジェクターになにやらよくわからない記号やら数式やらが映される。分かる人には分かるのだろうが、私にはさっぱりわからない話が続く。
難しい話ばかり続き、うちの魔女たちや貴族の方々は退屈そうだ。マデリーンさんはプロジェクターのために暗くなった会場のおかげで眠くなってきたようで、大あくびをしている。
「…とまあ、このような発見により、重力子の効率を3倍向上させることに成功しました。その多大な発展をもたらしてくれた魔女の一人を、ここにご紹介いたします。」
急に会場が明るくなる。そして舞台を見ると、リュウジさんの横にレアさんが出てきた。
「私の妻、レアです。魔女としては決して強い魔力を持つ魔女ではありませんが、私の研究だけでなく、私自身の支えになってくれました。いまではすっかり、私の最愛の妻です。」
会場から一斉に拍手が起こる。急に表舞台に出てきて喝さいを受け、ちょっと恥ずかしそうなレアさん。
「いいよーレア、さすがは王国魔女!」
レアさんの登場で急に目が覚めたマデリーンさん。レアさんを遠くから盛り上げる。
やっと一連の前座が終わって、ようやく立食パーティーが始まる。こうなるとクレアさんの出番だ。
「んーんまいでふー!」
お皿いっぱいに盛り付けた食べ物を一心に食べるクレアさん。すでに3皿ほど平らげてしまった。クレアさん、どんなところでも本当によく食べる。
マデリーンさんにもたくさんの人がやってくる。どうやらマデリーンさんは、地球001でも有名らしい。
「あなたが異世界で魔王を倒したという魔女ですか?」
「なんでも、魔王に伝説の剣を突き刺して倒してしまったとか!」
「王国一の魔女でありながら、勇者にまでなったというのは本当ですか?」
「そうよ!王国最強の魔女で勇者のマデリーンとは、私のことよ!」
地球001では、あの魔王退治の件で有名らしい。というのも、10年に一度くらいの割合で、地球001では不明艦が出るらしい。
どうやら我々が遭遇した異世界転移というものが起きてるらしい。この不明艦問題は稀にしか起こらない現象ながら、多くの艦艇を抱え、時折不明艦を出してしまう地球001ではかなり問題になってるらしい。どうやったら一度潜り込んだ世界から出られるのか?そのきっかけになりそうなのが、マデリーンさんというわけだ。
我々はこの異世界から出た数少ない人間らしい。これまでに3例しかなく、いずれの証言でもどこかで作られた映画の世界だったそうだ。それに気づいて、そのエンディングに向かって歩んだものだけがその世界の出口を見つけ、帰ってこられたらしい。
だが、魔王シリーズのような例は我々が初。これまで出られた事例はどちらかというと穏便な内容の映画ばかり。魔王を倒さなきゃいけないなんて事例は、今まではなかったらしい。
それで「勇者マデリーン」に関心が及ぶわけだ。自慢げに語るマデリーンさんに、たくさんの人が集まっている。
「パパ、ボテト食べたい!」
ママがたくさんの人に阻まれて近づけないため、アイリーンは私のところにやってくる。私はアイリーンのために、フライドポテトを取ってくる。
美味そうにポテトを食べるアイリーン。そこにリサちゃんやってきて、2人で一緒に食べている。母親のロサさんは、あまりの人の多さに四苦八苦しながらも、いろいろな料理を物色しているところだった。
「いやあ、美味しいですね、ここの料理。さすがは地球001、食べ物も機械も一流ですよね。」
ロサさんはローストビーフをほおばりながら感心している。でもロサさん、もう少し娘のことを気にかけてあげてください。
遠くではリュウジさんとレアさんがいろいろな人と話をしている。時々レアさんが、会場のそばにある水槽に手を入れて、あの水の球を作っては会場の人を驚かせている。
まさしく彼女のこの力が、今回この戦艦の機動力を強化する源となるのだ。地球401でのマデリーンさんとロサさんから始まった魔女の研究が、ここについに実を結んだのだ。
エマニエルさんとイザベルさん、それにカロンさんもあちこちの料理に手を出している。子爵家のイザベルさんでも見たことのない食べ物が多く、一つ一つ手に取っては食べ、味を堪能している。
「なによ、この黄色いぷるぷるした食べ物は!?」
「ああ、これはプリンといって、とても甘い食べ物ですよ。」
カロンさんに教えられたプリンを口にするイザベルさんとエマニエルさん。これがひどく気に入ったらしく、イザベルさんはカロンさんに、同じものが王都でも食べられるかと問い詰めていた。
「王都に帰ってからもこのプリンというものは食べられるのか!?」
「ああ、プリンなんてショッピングモールに行けばたくさん売ってますよ。今度一緒に行きませんか?」
他にも様々な食べ物をつまんでは、カロンさんに聞いていた。
マデリーンさんは妊婦だからおとなしくしているだろう…などということはなかった。
「うわっ!ここのハンバーグ、柔らかくて美味しい!」
あいかわらずハンバーグのチェックに余念がない。特にチーズハンバーグが気に入ったようで、2、3個ほど食べていた。
途中、魔女の魔力を見せてくれるよう求められていたが、マデリーンさんは妊娠中で今は飛ぶことができない。代わりにロサさんとベルクソーラさんが飛んでみせた。
「見よ、わが力!これが、リトラ王国最強の妖精の力!」
そう言って、テーブルにあった料理の入った皿を浮かせてみせるベルクソーラさん。
「あ、私もできますよ!せーの…おりゃあ!」
ベルクソーラさんを見て思わず調子に乗ったクレアさんも、料理の乗ったテーブルを一つ浮かせてみせた。
急に魔女が魔力を見せ始めたため、たくさんの人が集まってきた。こうなると、もはや魔女ショーである。リュウジさんまでやってきて、集まった人々にこう語っていた。
「これだけ小さな魔女達が、これだけの力を発揮できるんです。今回、我々は重力子エンジンの効率を3倍まで上げました。が、彼女らに比べたら我々の重力子機関はまだまだ非効率なのです。さらに研究を進めて、より小さくて力のある重力子機関ができることを、私は信じております。」
この研究というのは長い間停滞していたらしい。だが、リュウジさんの魔女研究で、200年以上停滞していた研究が一気に進んだ。
おかげで今、宇宙で最も注目される星になりつつある地球760。超巨大戦艦までやってきて、ますますこの星はにぎやかになってきた。
しかし、注目を浴びるということは、一方で連盟軍を呼び寄せることにもなりかねない。できれば平穏な日々を望む我々だが、いつまでこの平和が保たれるのだろうか?




