#80 地球001 vs 地球760
今頃はレアさん、屋敷に帰りついている頃だろうか?それともまだリュウジさんと一緒なのだろうか?そんなことを考えていると、思わず顔がにやけてしまう。
「…どうされたんですか?艦長。」
ラナ少尉が、怪訝そうな顔でこちらをにらんでくる。いかんいかん、そんなことを考えているときではなかった。私は帽子を正し、顔を引き締める。
現在、我がチーム艦隊10隻は地球760から3000キロの軌道上に展開している。規定時刻になり次第、第5惑星軌道まで向かう予定だ。
が、まだこの低軌道上にいる時に、異変は起こる。
「レーダーに感!2時方向、距離300万キロ、10隻の艦艇が急速接近中!」
「艦艇!?」
「この船影はステルスレーダーのみに反応!間違いなく、相手はステルス塗装を使った戦闘艦です!」
急に艦内に緊張が走る。まさか敵艦隊か!?が、別のオペレーターの次の言葉で、緊張が解ける。
「艦色視認!明灰白色!連合側艦艇です!」
なんだ…友軍か。だが、今この周辺にいる艦隊は我々だけのはず。うちの防衛艦隊でも地球401の駐留艦隊でもなさそうだ。しかし事前に他の星の艦艇が来るなどという報告も聞いていない。いったいどこから来た艦艇なのか?
それにしても、友軍にしてはこの10隻の動きがどこかおかしい。もう地球760軌道付近だというのに、高速でこちらに向かっている。
胸騒ぎを感じた私は、この艦艇に通信を試みることにした。が、通信士が叫ぶ。
「味方艦艇、通信に出ません!応答なし!」
やはり、何かおかしいぞ。ともかく応答があるまで、呼びかけを続けさせた。
「通信士は呼びかけを続行!航海士、艦を90度回頭、艦首をあの艦隊に向ける!」
「了解!面舵90度!」
そして私はマイクを取り、砲撃管制室につなぐ。
「艦橋より砲撃管制へ!砲撃戦用意!」
「なに!?敵が現れたのか!?」
「いや、そうではないが、念のためだ。砲撃長、相手からの攻撃に備えて、バリア展開準備!」
「りょ…了解!」
続いて、私は艦内放送で呼びかける。
「達する。艦長のダニエルだ。現在、友軍ながら不審な動きをする艦艇10隻が接近中、戦闘突入の可能性もある。各員直ちに持ち場につけ、以上。」
艦橋も慌ただしくなった。皆、ばたばたと配置につく。一方で通信士は必死に呼びかけるも、相手から全く応答がない。
この状況で、さらに新たな情報が我々を混迷に陥れる。
「所属識別コードを受信しました!この不審艦艇の所属は…地球001です!」
「なに!?地球001…だと!?」
どういうことだ?相手はなんと、地球001だという。宇宙統一連合の盟主である地球001の艦艇が、なぜ同じ連合側のこの星で不審な行動をとるのか?
「偽装コードの可能性は!?」
「軍用の識別コードで確認!高度な暗号なので、偽装のしようがありません!」
てことは、本当に地球001の艦艇なのか?しかし、なぜ…ますます意図が分からない。
この10隻の船団はついに距離45万キロまで接近した。ここでようやく、相手から無電が入る。
「地球001艦隊より入電!…えーと、なんです、こりゃ!?」
「どうした!読んでみろ!」
「は、はい!『こちら地球001、第7遠征艦隊所属、駆逐艦3340号艦。リュウジ研究員の引き渡しを要求する』、以上です!」
なんだって、リュウジ研究員?あの重力子研究所の、あのリュウジ研究員か?
「…誰ですかね?リュウジ研究員って。」
通信士が周りに尋ねるが、知る人はいない。多分、この艦橋ではリュウジという名前に聞き覚えがあるのは、私だけだろう。
この艦隊は、リュウジ研究員の引き渡しを要求してきた。しかし、もしあのリュウジさんのことを示しているなら、事はそれほど単純ではない。そのリュウジさん、つい先週にこの星の住人になったばかりだ。すでに宇宙港の事務所で、正式に住民票を得ている。
特に亡命だの逃亡だのと言う理由で来たわけではないし、ここの研究所で働くということで、なんら問題なく住民権を得ることができた。特に地球001の政府や、連合側に反旗を翻すような行動は見られない。むしろ今の研究は、連合側の技術進歩に貢献するためにやっていることだ。
そういうわけで、別に引き渡すべき理由がないし、この星の住人である以上、我々防衛艦隊は彼を守るべき義務がある。いくら連合の盟主だからと言って、そう簡単に要求には応じられない。
私は、地球001のチーム艦隊に打電する。ここは地球760の星域内、なんらかの引き渡し要求があるならこの星の行政機関を通じて行っていただきたい、と通告した。
すでに地球001のチーム艦隊は、距離40万キロまで迫っていた。
ここで、さらに信じがたいことが起こる。
「相手艦艇よりエネルギー波検出!主砲装填確認、撃ってきます!」
砲撃管制室が、なんと相手の発砲を警告してきた。なんてことだ、まさか、こちらに向かって砲撃してくるのか?相手は、味方ではないのか?
「バリア展開!全力即時退避!!」
こちらはまだ射程外だ。防御の構えをとる。が、ものの7、8秒で、青白いビームがこの艦の横をかすめていく。
幸い、我々のチーム艦隊10隻には当たらなかった。というより、最初から狙いを外していたようだ。これはおそらく、威嚇砲撃だろう。
しかし、我々の持つ砲の射程より10万キロも離れていて、しかもどう見ても我々の3バルブ砲撃に相当するエネルギーのビームがわずか7、8秒で放たれる。もしこれが直撃すれば、おそらく我々のバリアでは防ぎきれない。つまり相手が本気を出せば、我々は一発も撃つことなく全滅に追い込まれることを示している。
我々は恐怖に陥る。味方だと思っていた艦艇が、いきなり刃を向けてきた。それも、この宇宙で最恐の刃だ。
「地球001艦隊より入電、先ほどと同じです!『リュウジ研究員の引き渡しを要求する』」
なぜだ?なぜ、政治犯でもない民間人一人の引き渡し要求を行うために、味方を撃つ行為に出るのか?それほどまでにリュウジ研究員というのは、重要人物なのだろうか?
相手は40万キロで対峙している。明らかに、我々の射程外から威圧するつもりだ。このままこちらが彼らの要求を受け入れるのを待っているのだろう。
だが、私は決断した。
「相手艦艇に打電、『こちらは地球760防衛艦隊所属、駆逐艦0972号艦。ここは地球760の星域である。連合軍規第61条に基づき、軍事行動の停止を要求する。』と。」
第61条とは、同じ陣営の領域内でも、その星域外の艦艇は許可なく軍事行動を行ってはならないとする条文である。ここは地球760、たとえ地球001であっても、我々が要求しない限りは軍事行動を起こしてはならない。
連合、連盟に分かれたばかりの160年前には、味方同士でも内紛が絶えなかったらしい。勝手に他の星域に入ってきては同じ陣営同士撃ち合うということが頻発したそうだ。そこで、これを防ぐために作られた条文がこの第61条。
連合軍規には、昔の混乱期を背景に作られた条文が多い。だが、事情がよく分からないが、今回はまさにその混乱期と同じ状況に陥っている。この法規を盾に、相手の自制を促すほかない。
それに、いくら連合一の力を持つ地球001でも、ここで我々を撃ってしまえば連合の結束にかかわる事態につながりかねない。相手もそのことはわかっているだろうから、撃ってこないはずだ。
が、なにせ警告もなくいきなり威嚇砲撃をしてくる相手だ。絶対に撃たないという保証はない。おそらく次撃つときがあれば、間違いなく当てにくるだろう。もしあの10隻の艦隊のリーダーが感情にかられて行動する人物であったなら、宇宙が2つの陣営に分かれるきっかけとなった「地球003の悲劇」を再現することになるかもしれない。
もしかしたら今、私はこの宇宙の歴史の転換点に立たされているのではないか?このわずか10隻の艦隊の暴走が、連合内の分裂を誘発し、その後の宇宙は3つの陣営に分かれ…という未来が容易に想像できる。だが、その先の歴史には、私の姿はないだろう。
私はこのとき、死を覚悟した。私が死んだときのことを考える。
もし私が死んだら、マデリーンさんはうまく生きていけるだろうか?あのお屋敷は、どうなってしまうのだろうか?娘のアイリーン、レアさんやクレアさん、それにカロンさんも、この先どうなるのだろう?
でもマデリーンさんのことだ。うまく生きてくれることだろう。たとえお屋敷がなくなっても、王都の片隅でしぶとく生きていくはずだ。
でも、この船に乗る人々の家族はどうなってしまう?砲撃長がいなくなれば、エドナさんが残されてしまう。同様に、ロサさんもサリアンナさんもエルザさんも、夫を亡くしてしまうことになる。カルラ中尉もアルヴィン男爵との新婚生活を、ラナ少尉とトビアス少佐の新婚生活も、ここで一瞬にして消えてしまう。
そこまでのリスクを承知で、この星のために命を投げ捨てるのか?それならば彼らの要求を受け入れるのが得策ではないのか?
だが、もし私がここで彼らの要求を受け入れてしまったら、この星はどうなってしまうのだろうか?
地球001の恫喝に、同盟に加わったばかりの惑星が屈してしまった。そういう事実は瞬く間に伝わり、特に陣営に加わったばかりの700番台の星に動揺を与えてしまうことになる。この一件に味を占めた地球001が、些細な口実で同じような恫喝を新興惑星に対し繰り返してくるのではないかという疑心暗鬼が、これらの星で生まれかねない。
場合によっては、ある星は連盟側に寝返り、あるいは第3の陣営が生まれるきっかけになるかもしれない。そうなればこの宇宙の混迷はさらに深まることとなる。どっちにしても、ろくな未来が描けない。
だから、我々は引くわけにはいかない。たとえこの命、果てるとも。我々はこの星の防衛艦隊だ。最後まで盾になる覚悟を貫くしかない。
だが、あの威嚇砲撃以降、地球001の艦隊は撃ってこない。40万キロ先で対峙したまま動きがない。もっとも、動きがないことがかえって不気味に感じる。
依然として相手の動きがない中、カルラ中尉が私に意見具申する。
「艦長!作戦参謀、意見具申!艦隊の下方向に移動を進言します!」
「…カルラ中尉、そちらに我々が動けば、我々の背後にこの地球760が入ってしまう。そうなれば、彼らが我々に向かって砲撃したときに、地球760にビームが着弾してしまうことになるぞ。」
「なればこそです!彼らは地球003の悲劇の再来を恐れて撃ってこないはずです!我々に発砲する確率がぐんと下がるはずです!」
「作戦参謀、君の意見は正しいかもしれない。だが、それは我々がこの星を盾にするようなものだ。防衛艦隊の一員として、その案は許可できない。」
私は、カルラ中尉の意見を却下した。万が一にもこの星に高エネルギー砲が着弾するようなことは、あってはならない。そこにもし王都があったなら、大変な悲劇がもたらされることは必定だ。
結局、我々は地球001艦隊と対峙し続ける。結局彼らは撃ってこないし、我々もここを動けない。この状態が3時間続いた。
長い長い3時間だった。一週間ほど対峙し続けたのではないかと思うほど、長い時間に感じる。その間に、この状況を知った我が防衛艦隊と地球401の駐留艦隊のいくつかの部隊が集結してくる。一方の地球001の300隻の小艦隊がこちらに向かってくる。さらに数の増えた味方同士のにらみ合いにまで発展する。この両者の均衡を破ったのは、地球760から発せられた一通の電文だった。
発信元はリュウジさん、地球001艦隊宛てであるが、平文のためこの空域の艦艇全てが受信する。この電文には、地球001艦隊の身柄引き渡し要求は受け入れられないが、代わりに研究成果の開示には応じる、そんな感じの内容が書かれていた。
このリュウジさんの提案を、地球001の艦隊が受け入れた。ただし、地球001の小艦隊300隻のこの星への駐留が条件だと返信が来た。
地球760側はこの受け入れを承諾。これにより、我がチーム艦隊と地球001の10隻との戦闘は回避された。
これまで3度の戦闘を経験したが、死を覚悟したのはおそらくこれが最初だろう。いや、死の覚悟はあの魔王と戦った時以来か?ともかく、今回私は生きて地球760へ帰還することができた。
本来は7日間宇宙にいるはずだったが、この出来事のおかげで、たった一日で引き返すことになった。いつものように王都宇宙港の第47番ドックに着陸する。
一方、あの地球001の10隻も王都宇宙港に降りてきた。第103から112番ドックに着陸していく。
ついさっき我々に威嚇砲撃を行い、我々と対峙していた相手がすぐそばに入港する。確かに彼らは同じ陣営の艦艇、ここに降りることはなんらおかしなことではないのだが、砲撃された相手だけになんだかとても複雑な気分だ。
以前、私は地球001の艦隊とともに連盟軍と戦った。その時、彼らの強さをまざまざと見せつけられた。
その彼らが、我々にその砲を向けてきたのだ。しかも、射程外からの威嚇砲撃だ。心穏やかでいられるはずがない。
そんな思いを抱きながら、私は宇宙港のロビーに着く。せっかく早く帰ってきたし、マデリーンさんに連絡してお土産でも買って帰ろうかと思って歩いていた。
そのとき、正面から佐官クラスの軍服に、艦長用の制帽を被った人物が歩いてくる。胸につけた飾緒と袖章から、階級は大佐だとわかった。
その見ず知らずの大佐殿が、私の方の向かって歩いてくる。誰だろうか、この人は?その大佐殿は私のそばに来て、こう尋ねてきた。
「失礼ですが、こちらの、地球760の駆逐艦0972号艦の艦長殿を探しているのですが、ご存知ありませんか?」
「私が駆逐艦0972号艦の艦長、ダニエルです。失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「そうですか、私は地球001第7遠征艦隊所属の駆逐艦3340号艦の艦長、アーノルドと申します。」
…なんと、さっき我々と対峙していた地球001のチーム艦隊のリーダー艦である、駆逐艦3340号艦の艦長が現れた。つまり、さっき我々を威圧してきたあの艦隊の指揮官だ。駆逐艦0972号艦の艦長と名指ししていることから、間違いなくこの人は、先程まで自分の艦隊に楯突いてきた相手のリーダー艦の艦長を探してやってきたのだろう。
突然現れた地球001のこの艦長、いったい私に何の用か?抗議でもしにきたのか?私は一瞬、身構える。
「いやあ、ありがとう!私はあなたの勇気に救われた!」
突然、予想もしない言葉を受ける。そして、アーノルド艦長から握手された。
「えっ!?あ、あの…」
「そうだ、まずはあなたに謝らなくてはならない。我が艦隊による恫喝行為と威嚇砲撃の件、お詫び申し上げる。」
今度は深々と頭を下げるアーノルド艦長。ますますよく理解できない話の流れに、アーノルド艦長は説明してくれる。
かいつまんで言えば、あの恫喝行為、威嚇砲撃は地球001政府の命令だったらしい。軍人である以上、政府に従わなくてはならず、アーノルド艦長は渋々作戦を実行していたようだ。
この星の防衛艦隊は、設立されてまだ日が浅い。だから、この恫喝に屈して引き揚げてしまうのではないかと心配していたらしい。そうなれば、ますます地球001艦隊の評判は落ちるし、場合によってはこの星が連盟側に寝返ってしまう危険もある。周辺の星域にも多大な影響が及ぶ。アーノルド艦長もそこまで考えたようだ。
ところが、この不利な状況でここの防衛艦隊は自身の役割を貫く。あくまでもこの星の「盾」としての役目に徹して、我々と対峙し続けた。故に、彼らも動くことはできなくなった。
「考えられる最悪の事態は避けられた。こんなことを言うのはおかしなことだが、地球760艦隊の勇気に、我々、いや連合は救われたのだ。」
「はあ…ただ、我々は防衛艦隊として当然の行動をとっただけです。賞賛されることではないですよ。」
それにしても、国王陛下ならともかく、対峙した相手から賞賛されるなどとは思ってもみなかった。
アーノルド館長によれば、地球001では最近、強硬派が民衆の支持を得て力をつけつつあるようだ。彼らはかつての地球001の威信を取り戻すことを公約に掲げており、その強硬派が今回の軍事行動を指令してきたそうだ。
「…だが、今回の行動は明らかに地球001の汚点となる行為だ。当然、この一件は地球001内では強硬派の支持を下げる結果となるだろう。これをきっかけに、再び穏健派が復権することを願うまでだ。ただ、こういう形でしか正常に導けない私の星は、いったいこの先どうするつもりなのだろうか?我が星のことながら、憂うばかりだ。」
地球001の人が自分の星の政府の弱体化を期待するなどとは、おかしな話だ。なるほど、リュウジさんがこの星に住みたいと言い出したのが分かる気がする。こういう事情もあったのではないか?
「やあ、ダニエルさん。今回は災難だったな。いや、迷惑をかけたと言うべきか。」
そこに、別の人物から声をかけられる。よく見るとあのリュウジさんだ。しかも、レアさんと一緒だ。2人でこちらに向かって歩いてくる。
「あ、リュウジさん。あとで行きますんで、そちらでお待ちください。」
さすがにこのアーノルド艦長と引き合わせるのはまずいと思い、リュウジさんに奥で待ってもらうよう声をかける。だがリュウジさんはお構いなしにこちらへ歩いてくる。
「いや、どちらかというと、私はそちらの人に用事があるんだ。」
「えっ!?あの、この人は…」
「地球001艦隊の艦長殿だろ?私は、さっき電文で送った約束を履行するためにきたんだよ。」
そういうと、リュウジさんは指先ほどの記憶媒体をアーノルド艦長に手渡す。アーノルド艦長はそれを受け取り、こう言った。
「私個人としては、このデータが地球001に渡ることなど、望んではいないのだがね。」
リュウジさんも応える。
「いやあ、私個人としても、これが画期的なデータなどとは思って欲しくはないのですけどね。我々はまだこの星の持つ神秘の、ほんの入り口にたどり着いたに過ぎない。だから、このデータを受け取ったところで、あなた方は何も得られるものはないですよ。」
そういうと、リュウジさんはレアさんの肩に手をかける。それを見て、アーノルド艦長は言った。
「…その人は、いわゆる『魔女』なのかね?」
「そうですよ。地球001の科学力をさらに数百年分推し進めることができる力、それが彼女には秘められているんです。でも、我々はまだ知らないことが多すぎる。だから私はこの星に留まりたいんですよ。」
「なるほど、君がここに留まりたいという理由がよく分かった。私も政府に対し、意見具申しておこう。」
「ありがとうございます。そうしてくれると、私としてはとてもありがたい。」
アーノルド艦長は、我々に向かって敬礼する。
「では、私は失礼する。しばらく我々の300隻の艦隊もここに留まることになる。またゆっくりと、ダニエル艦長と語りたいものですね。では…」
そういうとアーノルド艦長はその場を去る。私は返礼して、それを見送った。
レアさんが心配そうに私に尋ねる。
「あの!ダニエル様!何か大変なことが起きたんですか!?リュウジさんが急にダニエル様が危ないとおっしゃるもので、私もついてきてしまったんです!」
事情はよくわかっていないようだが、レアさんも私の身に何か起きたことを悟っていたらしい。
「ああ、レアさん、別にこの通り無事ですから、心配することはありませんよ。」
「そうなんですか?でも本当に大丈夫だったんですか?先ほどの方とは、いったい何があったのでしょうか?」
おそらく、アーノルド艦長の指揮する10隻の艦隊と私の艦隊が対峙していることを、たまたまリュウジさんのそばにいたレアさんも知ったのだろう。そこで、私はレアさんにこう話す。
「あの、レアさん。」
「はい。」
「…このことはマデリーンさんに内緒にしていただけませんか?」
「えっ!?」
「この通り、私は無事でした。だからマデリーンさんには余計な心配をかけたくないんです。」
「はい、ダニエル様。仰せの通りにいたします。」
わざわざマデリーンさん余計な心配などかけたくはない。だから、たまたま予定が変わって私は早々に帰ることになった、その帰りにレアさんと偶然会って一緒に帰った。そういうことにしておく。
「いや、本当にすまない。私の行動が、こんな結果を招くなんて…」
リュウジさんが申し訳なさそうに話す。が、別にリュウジさんは政治犯でも逃亡者でもない。普通にこの地球760にやってきて、移住を希望した一市民に過ぎない。しかし重力子研究の第一人者だったために、今回ターゲットにされてしまったようだ。
「私はただ研究に没頭したかったんだ。ここに来れば、たくさんの魔女がいて、重力子の研究が飛躍的に進む、そう思ったから、ここにきたんだよ。それなのに、地球001政府ときたら…」
「リュウジさん、大丈夫ですよ。我々はあなた方を守るためにここにいるのです。あなたは何も気にすることはないんですよ。」
「そうですよ、ダニエル様はこの王国の男爵様なので、なんとかしてくれますよ!」
「えっ!?男爵!?ダニエルさんが!?」
リュウジさんが驚いた様子で聞き返す。
「…あれ?リュウジさん、私が男爵だと話してませんでしたっけ?」
「いや、初耳だ。つまり、あなたはここの貴族ってこと?」
「はい、いろいろありまして、私はここでは貴族をやってるんですよ。」
「そうですよ、ダニエル様は、私の住むカピエトラの街の領主様なんですよ。」
「カピエトラの街!?それは、レアさんが生まれ故郷なのか?」
「いえ、私は魔女なので、16歳で家を出てカピエトラの街に住みついたんです。だから、生まれ故郷ではないのですが。」
「ええっ!?16歳で家を出る!?なんで魔女だと家を出なきゃいけないの!?」
魔女の力を解明し、重力子の技術を飛躍的に発展させるために邁進するリュウジさん。だが、そんなリュウジさんは、この星の魔女のこと、そしてこの星のことをまだほとんど知らない。リュウジさんは魔女の力の秘密以外にも、知るべきことは多そうだ。




