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#79 レアの恋心

魔女達が研究所に出入りするようになってから、2週間が経った。


季節は急速に春に変わりつつあった。あの寒い日々はどこへやら、ぽかぽかとした陽気にかられて、公園や通りにはたくさんの人々の歩く姿を見かけるようになった。


王都の春は、白い花で覆われる。冬の間はまるで枯れ木のような木から、急にたくさんの白い花が咲き始める。王都では雪が溶けたタイミングで咲き始めることから「雪花(ゆきばな)」と呼ばれている。雪が花に化けて、この王都の周りに咲き乱れるのだと信じられており、そう呼ばれているらしい。


その雪花(ゆきばな)の咲く街路を歩き、バス停に向かう。そこから王都郊外へ向かい、重力子研究所の建物にたどり着く。


すでにたくさんの魔女たちが来ていた。シャロットさん、デーシィさん、ロージィさんも先週から参加。また、パナラットさんも現れた。彼女の場合は自身の魔力のためというより、魔女グッズ専門店の営業も兼ねているようだ。


おかげで、リュウジさんと所長のアイザックさんは、たくさんの魔女の相手に追われる羽目になった。本当に様々な魔女が集まったため、データ取りに苦労しているようだ。


そこで、この研究所の施設を活かして効率的にデータを取ることを考えた。具体的には、一等魔女と二等魔女を組み合わせて、2人同時にデータを取る。


一等魔女は空を飛べるため、施設の上の方のセンサーを使う。一方で二等魔女は地面近くにしかいないため、下側のセンサーを使って重力子を測定する。これで一度に2人づつ測定できるから、合計で17人いる魔女を素早く測定できる。


さて、これだけたくさんの魔女を測定した結果、いろいろ面白いことが分かってきたようだ。


リュウジさんによれば、二等魔女には2種類いるらしい。一つは、一等魔女と同じように自分の体から重力子を出すもの。このタイプの二等魔女は単に魔力が小さいだけなので、自分の体を浮上できない。だから、魔力を大きくしてあげれば”一等魔女”に昇格できる。


実際、この手の魔女だったシャロットさん、デーシィさんは、リュウジさんのアドバイスで”一等魔女”に転向できた。2人ともホウキにまたがって浮上するほどまで魔力が高まる。


「うわぁ!デーシィが飛んでる!凄いじゃないの!これで空飛ぶグラビアアイドルとしてデビューよぉ!」

「ええっ!?私、あの格好で飛ぶんですか!?」


喜ぶアイリスさんとは裏腹に、デーシィさんの悩みは増える。


ジーナさんはこの一つ目のタイプながら、ちょっと特殊だ。体内から重力子を発生させている。が、その力の方向は他の魔女とは逆で、自分を吹き飛ばすしかできないようだ。空を飛ぶどころではない。ただこの研究所のおかげで、ジーナさんの魔力も強化される。おかげですさまじい推進力が得られた。コンテナ一つなら軽く吹き飛ばせるくらいの推進力だ。それにしても、体がもつのか?


そして、もう一つのタイプの魔女、例えばペネローザさんがその魔女に該当する。彼女は不思議なことに、体内ではなく地面から重力子を得てものを持ち上げるようだ。おかげで、際限なく重いものを持ち上げることができる代わりに、地面から離れると途端に力が消滅してしまう。この手の魔女はペネローザさんのほかに、エルザさん、アンリエットさん、そしてクレアさん。


一等魔女ながら、アウレーナさんはこの魔女と同じ部類のようだ。アウレーナさん自体は重力子を発しておらず、なぜかアウレーナさんの真下の地面から力を得ているらしい。どうしてこうなるのか?さらなる研究が必要とのこと。


妖精のベルクソーラさんのあの魔力も分析された。遠隔でものを持ち上げるあの能力、手のひらから重力子を放出できるのが特徴のようだ。


だが、ベルクソーラさんの魔力はこれまで、せいぜい50センチ飛ばすのがせいぜいだった。しかし手の形を変えるだけで、この有効距離を1メートル先まで効かせることが可能となった。


「ハ…ハーデス!?なんだ、急に力が強くなった!どうなってる!?」


急に魔力が強化されたベルクソーラさん。驚きつつも、その強化された魔力に満足している様子だった。


一等魔女の場合は、力の大小はあれど、重力子の出し方はマデリーンさんやロサさんとほぼ同じ。ただミリアさんだけは非常に効率が悪いらしい。これが、彼女が短距離型だった要因のようだ。そこでリュウジさん、ミリアさんの効率を改善するための専用のホウキを作った。


一見するとただのホウキだが、穂先の部分は特殊な繊維を使っており、これで魔力の発散を止める。すると体力の消費を抑えらえるため、ミリアさんも長く飛ぶことができるそうだ。


実際にミリアさん、かなり長距離を飛ぶことができるようになった。以前より軽々と飛ぶことができるようになったミリアさん、嬉しそうに宙を舞っている。


この調子で魔女たちは皆、何らかの魔力増強が行われた。それと共に、リュウジさんのデータもたまっていく。


いろいろな魔女を分析し、強化しているリュウジさんだが、彼が最も注目しているのは意外にもレアさんだった。


実は彼女が最も特殊な魔女だと、リュウジさんは言う。


「えっ!?レアさんが特殊な魔女!?」

「そう、重力子研究的には、彼女はかなり特殊だ。」

「で、でも、あまり魔力は強くなさそうですよ。」

「その通りで、魔力が強いわけではない。が、不思議なことに、彼女だけが手のひらの上で力の発生方向を自在に操れるんだよ。」


そういえば、レアさんは水を球状にすることができる。マデリーンさんも散々真似しようとしているが、未だにできていない。今のところ、これができるのはレアさんだけ。その秘密は、まさにこの重力子を繊細に制御できる能力にあるのだとリュウジさんは言う。


水の球を作る技は二等魔女なら練習次第でできるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。彼女の手先で観測される重力子は、他の魔女とは比べ物にならないくらい整然としているそうだ。


実際に映像を見せてもらった。他の魔女の重力子の映像は、まるでゆらゆらと揺れる炎のような不安定な形をしている。それに対してレアさんだけは揺れが見られない。


「いやあ、すごい!大発見だ!どうしたらこんなにきれいな重力子を発生できるんだ!?」

「ひやぁ!」


興奮したリュウジさんは、思わずレアさんの手を握る。いきなり手を握られたレアさん、変な声をあげる。


「…あ、ごめんなさい。つい興奮してしまって…」

「いえ、私こそごめんなさい、急に声をあげてしまって…」


恥ずかしそうに手をさすっているレアさん。しかし、これをきっかけにリュウジさんとよく会話するようになった。


ただ、レアさんだけは他の魔女と違い、魔力強化がされていない。リュウジさん的には、彼女の力はとても難解なのだそうだ。


「いやあ、すまない。レアさんだけはどうしても未解明な部分が多いんだ。また来週もきていただけますか?」

「はい、リュウジさんのためならば、喜んで。」


よっぽどレアさんは特殊なようだ。それだけに、リュウジさん曰く、彼女の魔力の秘密を解明すれば重力子研究に飛躍的な発展をもたらせるかもしれないとのことだ。そんなにすごかったのか、レアさん。


雪花(ゆきばな)が散り、雪花の木に葉が生えたころになっても、まだレアさんは研究所に通い続ける。他の魔女たちはだんだんと研究所に行く頻度が下がる中、レアさんだけは精力的に通い続ける。


そして、春も盛りのある日のこと。いつものように、私とマデリーンさん、カロンさんにクレアさんと共に、レアさんも一緒に食事を食べていた時だった。突然、レアさんは食器をテーブルに置き、私に向かってこんなことを言い出した。


「あの!ダニエル様!」

「は、はい!」


急に叫ぶからびっくりしてしまう。いったい、どうしたというのか?


「あのですね…その、私、お暇をいただくわけにはまいりませんか?」

「えっ!?暇を!?使用人をやめたいということ?」

「はい…そうです…」

「また突然どうしたの?カピエトラの街に帰るつもり?」

「いえ、あそこには戻るつもりはありません。ただ私、このままではここで満足に働くことができそうにないので…」


なんで急に思いつめたことを言い出すんだろうか?使用人をやめるだなんて、いったい何があったのだろうか?


そんなレアさんを突然、マデリーンさんが問いただす。


「レア!あんたさ!」

「は、はい!」

「何か隠してるでしょ!?」

「えっ!?いや、その…」

「でなきゃ突然やめるなんていうわけないわよね。」

「…ううっ…」

「どうなのよ!」

「ううっ…マデリーン様…仰せの通りでございます…」


マデリーンさんが問い詰める。


「やっぱりねぇ。最近あんた、どこかぼーっとしていたのよね。だから、何かあるんじゃないかなあって思ってさ。」

「…すいません。だからこのままでは私、ご迷惑かなぁって。」

「で?何があったのよ!?」

「いや、それは…」

「あんた、うちの家族の一員なのよ!?何を遠慮してるのよ!」

「いや、だって、恥ずかしくて…」

「恥ずかしいもへったくれもないわよ!やめなきゃならないほど思い詰めたのなら、私達だって他人事じゃないのよ!」

「ううっ…でも…」


なかなか口を割らないレアさん。おかげで責めつづけるマデリーンさん。とうとう観念して、レアさんが白状する。


「あの…実はですね、私……好きな人ができちゃいまして…」

「はあ!?」


マデリーンさんが叫ぶ。


「あんた、そんなことくらいで、辞めるだの恥ずかしいだのと言ってたの!?」

「いや、その、お相手があまりに不釣り合いな相手なので、とても言い出せなくて…」

「誰なのよ、その相手は!」

「…リュウジさんです…」


一瞬、衝撃が走る。なんと相手はあのリュウジさんだった。


「なんだ、あんた達やっぱりできてたのね!それならそうと言えばいいのに。」

「いえ、それがまだ告白もしておりませんで…」

「なによあんた、まだ自分の気持ちも打ち明けてないの!?そんな状態で、ここをやめようと思ってたの!?」

「ううっ…すいません…でもこのままじゃ私、このお屋敷のお荷物になるばかりで…」

「…ダメね。」

「はい?」

「使用人やめるっていうのは、ダメね。」

「ええっ!?そんな…」

「そんなにやめたきゃ、その相手の男に告白して、うまくいってからやめなさい!何事も中途半端はダメ!」

「…マデリーン様…」


先程から、レアさんはマデリーンさんに責められ続けている。もうレアさんの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


「だいたいあんたさ、うちの領地の出身なんでしょう?その領地からお金をもらってるわけだし、別にあんた一人がただ飯食らったって元は取れてんだから、お荷物だの足手まといだのと考えちゃダメよ!」

「ま、マデリーン様…申し訳ございません…」


よく聞くと、マデリーンさんはレアさんのことをちゃんとフォローしているんだが、あまりに責め立てているので、レアさんの味方なのか敵なのかわからない。でも、私もこの意見には賛成だ。


「でもさ、リュウジってあんたよりも13歳も年上よ!?なんでそんなおっさん、好きになったのよ。」


おっさん呼ばわりとは、かわいそうなリュウジさんだ。


「あの方は凄くご立派な方で、ご自分の研究に凄く誇りをもっていらして、しかも私の力がこの宇宙を変えるだなんておっしゃるんです。それで私、惹かれてしまったんです。でも、私のような田舎出身の魔女なんかとは到底釣り合わないはずなんですが、そう思えば思うほど私、どうしても忘れられなくて…」

「そういえばあんたさ、明日も行くんでしょ?研究所に。」

「はい、行きます。」

「じゃあ、明日は屋敷に帰っちゃダメだからね。」

「ええっ!?か、帰ったらだめって…どうすれば…」

「決まってるでしょ!?リュウジのところに行くのよ!」

「ま、マデリーン様!あの、それは…」

「あんた王国の魔女でしょ!それくらいの覚悟で行きなさいよ!!それにあんた、もっと自信持った方がいいわよ。レアが本気出せばリュウジなんてイチコロよ!大丈夫だって!」


マデリーンさん、カロンさんやクレアさんがいる前でかなり過激なことをおっしゃる。大体この言葉の意味が分かる微妙な年ごろのカロンさんが、反応に困ってる。ともかく、翌日にレアさんは一世一代の賭けに出ることになった。


マデリーンさんとクレアさん、カロンさんに見送られて、研究所に出かけるレアさん。一晩経ったら少し吹っ切れたようで、意気揚々とバス停に向かった。


で、結論から言えば、この日の夜、レアさんは帰ってこなかった。


リュウジさんは研究一筋で、未だに独身男性。今まで女性との付き合いがあったのかどうかは知らないが、突然13歳も年下の魔女さんに好かれてしまった。今頃どのような思いでいるのだろうか?


その次の日、朝帰りのレアさんを迎えたがったが、私は任務に就くため宇宙港に向かう。その日から一週間の予定でパトロールにつくことになっていた。


いずれレアさんには、今後のことを聞いてみよう。その前に、リュウジさんとの仲が深まることを祈ることにした。

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