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#71 遭遇

地球(アース)760防衛艦隊はすでに4000隻を超える艦艇を保有している。そのうち3000隻がすでに実戦配備されていて、この星系内のパトロール任務に就く。残りの1000隻も来年までに戦列に入るため、訓練と人材育成が進められている。


人材育成は急ピッチで進められているが、なかなか追いつかない。このため、まずは艦艇優先で、パイロットよりも航海士や艦長といった艦の運用に必要な人材の育成が優先されている。パイロット出身の私にとっては、やや寂しい限りだ。


航空機軽視の傾向は、連合側全体で見られる現象だ。だが、パイロット育成を軽視して過ぎて、パイロットが足らず未知惑星の探査がままならないケースも出て来ているらしい。


私自身もそうだが、未知惑星では航空機によって地上に降りて探索や接触を行う。大きな駆逐艦で地上探査を行うことは不可能だ。


また、戦闘は駆逐艦だけでも可能だが、パトロール時の不審船追跡や攻撃、検閲などのために航空機は必要だ。戦闘時でも、レーダー探知の補助に哨戒機を投入することがある。航空機の出番は少なくなっても、なくなることはない。


だから、いくら実戦配備を急いでも、航空機要員の育成もあまり軽視しないでほしいというのが私の意見。駆逐艦一隻あたり最低でも1機は揃えていただきたい、と事あるごとに意見具申している。


それにしても、私はすっかり艦長になってしまった。以前なら、こんな細かいことは考えもしなかったのだが、艦を仕切る立場になり、駆逐艦の運用バランスを考えなきゃいけなくなった。今にして思えば、パイロット時代は気楽だった。


そんな私は今、星系内をパトロール中だ。


現在、地球(アース)760から7000万キロのところ、この恒星系の第5惑星軌道上付近を航行中だ。ちなみに、地球(アース)760はこの恒星系の第4惑星である。


ここは商船の通り道。我が駆逐艦0972号艦とチーム艦隊10隻で、海賊行為に対する警戒を行なっている。


先日の海賊団以来、この辺りで海賊行為を行う船舶はいない。この周辺で最大規模の海賊団があっさりと捕まった星域とあって、なかなか挑んでくる海賊はいない。


自分で言うのもなんだが、おかげで平和で退屈なパトロールが続いている。任務期間は2週間。この間、ただ民間船舶の動きに注意を払い続けている。


任務について、すでに11日が経った。あと3日何事もなければ、我々は帰還できる。早く帰ってマデリーンさんやアイリーンに会いたい。


「定時報告、レーダー圏内に不審船らしきものなし。偽装信号も検出されず。問題ありません。」

「了解。引き続き、監視を続けよ。」


ここはアステロイドベルトよりも内側で、隠れ蓑にできる場所もなく、海賊船が出るとはあまり考えられない場所だ。


この星系にあるワームホール帯と地球(アース)760とを結ぶ直線上に、民間船団はずらりと並んでいる。その数およそ2000。主に地球(アース)401からの船だが、地球(アース)760へは家電や核融合といった最先端の機械類が、地球(アース)760からはロヌギ草や鉱物資源などが運ばれている。


そんな民間船団の筋をレーダーサイトで眺めていると、ラナ少尉がつぶやく。


「…ん?何これ??」

「どうした?ラナ少尉。」

「はい、我が艦の3時方向、距離100万キロに、複数の点が見えます。」


その点は、民間船団の航路からはずいぶんと外れた場所だ。

「点?ノイズか、それとも船舶か?」

「船影が小さ過ぎます、まさか…ステルス塗装対応レーダーに切り替えます!」


ラナ少尉は敵艦船索敵用のレーダーに切り替える。そこに映ったのは、10隻の艦船だった。


「ステルスレーダーにて確認、駆逐艦級10!距離300万キロ!地球(アース)760に向けて慣性航行中!」

「艦色視認!赤褐色!連盟軍艦艇です!」


光学監視員からの報告で、相手は敵のチーム艦隊であると判明。


「司令部に打電!『我、敵艦艇に遭遇!増援を乞う』」


海賊どころではない。この星系に戦闘のプロ集団が紛れ込んでいた。数が10隻ということは、おそらく隠密偵察が目的だろう。


だが、敵艦艇と分かれば行動せざるを得ない。我々はすぐに追尾に入る。


「全艦に達する!これより敵艦隊追尾に入る!面舵90度、両舷前進いっぱい!」

「面舵90度!両舷前進いっぱーい!」


我々チーム艦隊は全力で敵艦隊のあとを追う。だが、敵も我々に気づき、すぐに逃走に入る。


距離40万キロまで追い詰めたが、そこで追いつけなくなってしまった。第5惑星軌道に沿って飛び続ける敵艦隊。あと10万キロ追い詰めれば主砲の射程に入り、敵艦隊の足を止められるというのに…


とそこで、作戦参謀のカルラ中尉が叫ぶ。


「作戦参謀、意見具申!ここは敵艦隊めがけて直ちに砲撃を行うべきかと思います!」

「砲撃!?射程外だぞ!」

「バリアの効かない艦の後部に対してなら、40万キロ先でも噴射口に何らかのダメージを与えられるくらいのエネルギーが届くはずです!過去にそういう事例があります!」


さすがは軍事マニアだ。そんなことよく知ってるな。私は10隻に指示を出す。


「全艦に達する!砲撃戦用意!目標、敵艦後部!装填完了と同時に各々で砲撃!」


タイミングを揃えて斉射しようとすると、砲撃を悟られて敵は回避運動に入る恐れがある。各々装填が終わった艦からすぐに砲撃を開始すれば、敵は回避する間がない。何せ相手は射程外にいる。こんな砲撃はやったことがない。回避運動などされたら、まず当たらないだろう。


まず、我が艦の主砲が火を吹いた。続けて他の艦も次々に砲撃を開始する。


その直後、敵艦隊の動きに変化があった。4隻ほどが急に減速する。おそらく増速できなくなったようだ。これを受けて、残りの6隻も減速する。


逃げられないと思ったのか、180度回頭してこちらに砲塔を向けてくる。我々も減速し、射程ギリギリの30万キロで敵艦隊と並ぶ。


お互いにらみ合いに入った。撃てば当たる距離だが、お互いに撃たない。


たった10隻で撃ち合ってもたいして意味はない。ここは無益な撃ち合いなどせず、にらみ合いで終わらせるのがベストだ。


戦時条約では、航行可能な艦船が投降した場合はこのまま星系外に退避してもらうことになっている。いちいち中の乗員を捕虜にして敵艦を破壊したところで、捕虜の返還の手間が増えるばかり。


いまさら10隻を破壊したところで、両陣営合わせて1300艦隊、1300万隻以上の艦艇たった10隻。戦力バランスが変わる訳でもない。


それに敵がそのまま帰ってくれた方が、こっちの警戒網がたった10隻も見逃さないほどの堅牢さを持つことをアピールできる。新興惑星だが、すでに敵の偵察を自力で感知できるところまで我々は成長していることが敵に知れた方が、こちらにとってはかえって都合がいい。何にしても、そのままおかえりいただくのが一番だ。


そういうわけで、ここは撃ち合いなどしないのが大人の対応となるが、無駄と分かっていても感情的に攻撃を始める可能性もある。それが一番怖い。


ここで10隻が撃ち合えば、双方にそれなりの被害が出るだろう。死者が出るのは確実だ。そういう事態は、私としては避けたい。


味方の増援が到着するまで、緊張の時が続く。その間およそ10分。だが、人生でこれほど長く感じた10分間はなかったと思う。


ようやく味方が100隻ほど到着した。最初に到着したのは、残留する地球(アース)401遠征艦隊の艦艇だった。


110対10で、かつエンジンにダメージありの敵艦隊。もはや勝ち目などあろうはずもない。この段階で、両陣営共通バンドにて敵に投降を呼びかける。


投降に応じた敵艦10隻を、我々はぐるりと囲む。あれよあれよという間に300隻が集まり、敵艦を囲んだ。


ということで、そのままぐるりと囲んだままワームホール帯まで連行した。敵のワープアウトを確認し、任務を終えて帰還に入ったのは、敵と遭遇してから2日後のことだった。


ここから2日かけて帰還する。予定より1日遅れての帰還だ。


今回もラナ少尉の索敵に助けられた。それにカルラ中尉の機転で敵の足を止めることができた。なかなかいい人材に巡り会えたものだと思う。


予定より1日遅れて、王都の宇宙港に帰ってきた我が駆逐艦0972号艦。王都上空に差し掛かり、着陸態勢に入ろうという、その時だった。


「レーダーに感!高度1000、距離15、速力90の物体が我が艦に接近中!」


ラナ少尉は叫ぶ。艦橋内に、緊張が走った。


そういえば、この艦では初めてだったな。私はぼそっとつぶやく。


「…マデリーンさんだ。」

「はい?」

「いや、それは私の妻だ。いつものことさ。申し訳ないが、だれか甲板まで迎えに行ってくれないか?」


真昼間の王都、すでに秋を迎えて、下は収穫祭で盛り上がっている。王都の真上を飛んでると、マデリーンさんが甲板に降り立った。


まさにドックの真上に到着し、艦を降下させている時に、艦橋にマデリーンさんが入ってきた。


「ちょっとあんた!何で帰りが1日遅いのよ!そういう時は連絡ちょうだいとあれほど言ってたでしょ!」

「あー、マデリーンさん、ちょっとだけ待ってもらっていい?…両舷微速下降!第47番ドックに接舷開始!」

「両舷微速下降!」

「ちょっと!私がどれだけ心配したと思ってんのよ!聞いてるの!?」

「速力10!高度確認、ギアダウン!…分かった分かった、マデリーンさん、私も会いたかったよ!」


まったく、着陸中で忙しいこの時にいちいち喧嘩を売ってくるマデリーンさん。この可愛くてめんどくさい魔女を、私は抱き寄せた。


周りはびっくりだ。王国最強を名乗り、勲章までもらっている魔女が、いきなり艦長に抱きしめられている。だが今は着艦中、見とれている余裕はない。


「高度5、4、3…固定ロック接続、着陸!」

「ロック1番、2番接続よし!機関停止!」

「機関よし、ロックよし。任務完了。総員、下艦せよ。」

「うう…帰りが遅いから、心配したんだよお…」


マデリーンさんの背中を撫でながら、艦長任務もやる私は、着陸を終えて手の空いた艦橋内にいる20人の目を、一心に集める結果となる。


私も正直言って恥ずかしいが、この艦にいる以上この光景に離れていただくほかはない。ぞろぞろと私の横を通り過ぎて行く乗員。カルラ中尉が唖然として、私の方を見ている。


「はあ…艦長って意外と大胆な方だったんですねえ…まさか着陸中に奥さんを抱きしめるとは…」

「…実は、駆逐艦6707号艦では有名だったんだよ。いつもこの調子だったからね。」

「そうよ、夫婦なんだから、抱きついたっていいのよ!」


あまりよくはないと思うが、まあ、うちはこういう夫婦だ。


これを見たラナ少尉は、何を思ったのかトビアス少佐の前に立った。


「あの、私もああいうの、してもらっていいですか?」

「いいよ、今回の任務もお疲れさま。」


ああ、トビアス少佐までラナ少尉を抱き寄せてしまった。そういえばこの2人、先日ついに入籍して、もう夫婦になってたんだよな。そのまま2人で仲良く艦橋を出て行く。


「…私も帰ったら、抱きしめてもらおうかな…」


カルラ中尉がぼそっとつぶやいて、私に敬礼して艦橋を出て行った。


艦橋内で、2人っきりになってしまった。まだ抱きついて離れないマデリーンさん。秋の光が差し込み、静かな艦橋に残る2人を明るく照らす。


ところで、マデリーンさんはまだ気づいていないようだ。甲板にはすでに15、6人もの作業員が降り立ち、各部の点検を始めている。その中の数人が、窓越しにこちらを唖然とした顔で見ていることを。私は彼らに軽く手を振って応えておいた。


総員の退艦を確認した後に、我々夫婦も艦を降りる。そういえば、こうやって夫婦一緒に駆逐艦から降りるのは2年ぶりくらいだろうか。マデリーンさんは私の手を握ってくる。今度の冬で24歳、母親になっても若さゆえか、まだこういうところは変わらないな。私もぎゅっと握り返した。


敵と遭遇しながらも、今度も無事帰ってきた。命あることを噛み締めながら、2週間ぶりに私は平和な家族の元に帰っていった。

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