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#62 出産ラッシュの終わりと駆逐艦6707号艦との別れ

海賊捕獲から、1か月ほどが経った。


結局、海賊団は指名手配中の20隻の海賊団だと正式に確認された。生き残りの立会いによる乗員の確認、船内の多くの証拠品、そして乗員の出身が判明した。


この海賊団、もしかすると連盟による後ろ盾があるのではと言われていたが、そんなことはなくて、連合側の地球(アース)397出身だと分かった。


首謀者はこの星で強盗の前科があり、服役して外に出た直後に突然姿を消していたらしい。星を出た後、仲間を集め船を奪い、海賊団として活動していたことが、取り調べによって明らかになる。


だが、未だにこの首謀者の男だけ容疑を否認している。しかし本人がいくら否定し続けても、証言や証拠はすでに揃っている。おまけにこの海賊団は、これまでに数百人は殺している。この首謀者、今さらどうあがいても最高刑は免れまい。


普通、海賊というのは捕まえた人々を人質にして身代金を要求するものだが、この海賊団は敢えて口封じを選んだようだ。だが、女性がいた場合は生かして乗員の相手をさせていたようで、あの船団から10人ほどの女性が救出された。全くもって、鬼畜な海賊団である。


ところで、王国に駐留する駆逐艦がいくつもの星系を騒がせた海賊団を捕まえたとあって、王国内では大騒ぎになっていた。


特に国王陛下はいたく感銘されたようだ。なんと言っても今回は地球(アース)760の防衛艦隊、しかも艦長以下乗員全てがこの王国の人間、それがいきなり輝かしい功績を挙げたとあって、この艦の全ての乗員に勲章が贈られることになった。


特に功績のある者として、私は不審船の識別信号を見抜いたラナ准尉、海賊団を追尾したトビアス大尉、海賊団の足を止めた砲撃長、海賊団を攻撃、沈黙させたフレッド大尉とヴァリアーノ中尉を推薦した。


この5人と私を合わせた6人は、陛下からランデリック一等勲章を授与されることとなった。同時に、我が駆逐艦の乗員全員に渡される二等勲章を、私が代表して受け取る。


その授与式で、陛下より激励の言葉を頂いた。今後も王国のため、地球(アース)760のため、尽くしてほしい、と。


これに感動したのは、トビアス大尉とラナ准尉だ。まさかこれほど大きな功績をこんなにも早く挙げられるなんて思ってもいなかったはずだ。それが念願叶って勲章を受け取ることになり、陛下の前で歓喜していた。コンラッド伯爵様どころではない。この国の最高位のお方から、直接勲章を頂いたのだ。


そういえば、海賊団に狙われた船団には、やはりアイリスさんが乗っていた。地球(アース)401に戻っていて、貿易船で帰って来るところを、危うくあの海賊団に襲われるところだった。


アイリスさんの会社が黒い船団だったのが、狙われた原因だったようだ。捕まえた海賊の1人が、そう自供した。同じ船団同士が接近することはよくある話だが、仲間内で荷物の積み替えなどを行なったり、補給を行なったりするため、接近、接触は珍しくない。そういうところを他の船団が目撃しても、気にすることがない。だから、同じ色の船同士なら同じ船団内で何か作業をしているのだろうと思われるだけ。誰も不審に思わない。このためここ海賊は、同じ黒い色の船団を狙っていたようだ。


「いやあ、助かりました。あそこで海賊に襲われてたら、積荷や船がなくなって、うちの会社は倒産しちゃったかもしれないところでしたよ。」


いや、会社倒産の前に、自分の命の心配をしようよ、アイリスさん。


で、このブラック企業からもお礼にと、あるものを贈られた。それは、ポケットティッシュ1千個。まだ余ってたようで、気前よくくれることになった。軍司令部を経由してそれを受け取った私は、艦の乗員100名に10個づつ配ったのだが…海賊から守ったお礼が、ポケットティッシュ?少し腑に落ちないが、まあいいか。


軍からも論功行賞があった。地球(アース)760防衛艦隊司令部は、私を始め駆逐艦0972号艦のすべての乗員を1階級特進とした。


つまり私は中佐に、フレッド、トビアス、砲撃長は少佐に、ロレンソ、アルベルト、バーナルド、ハイン、ジェームスは大尉に、ラナ准尉は少尉になった。


おまけに、駆逐艦0972号艦はチーム艦隊のリーダー艦ということになった。通常は下1桁が0の艦がリーダー艦だが、このチームに限り0972号艦がリーダー艦という扱いになる。


が、リーダー艦の艦長って、普通大佐が務めるものでは?と艦隊司令部に問い合わせてみたが、元々ここのチーム艦隊には大佐がいないらしくて、中佐でもいいとのことだった。いや、それでいいのか?本当に。


少佐になったばかりだったのに、いきなり昇進。おまけにチーム艦隊のリーダー艦の艦長。給料も増えたが、それ以上に責任の方が増えた。


おかげで、階級ではローランド中佐に追いついてしまった。しかし、いずれこの人はすぐにでも大佐になることだろう。


そのローランド中佐だが、私が宇宙に行ってる間に「父親」になっていた。


イレーネさんが出産したのだ。予定通り、男の子だ。名はベンジャミン二世。オルドムド家でもっとも武勲を挙げた当主の名を取って付けられたそうだ。なんとまあ仰々しい名前だことで。


そして、アリアンナさんにもついに子供が生まれ、一連の出産ラッシュの最後を飾る。こちらも男の子で、名前はディーア。シェリフさんがつけたのかと思いきや、なんとアリアンナさんがつけた名前だとか。普段の人の呼び方が歪んでる人なのに、意外にまともな名前を考えたものだ。


生まれるものあれば、去る者あり。


今日はついに、ワーナー中尉とモイラ中尉が、地球(アース)401に帰星する日だ。


正確には、駆逐艦6707号艦が地球(アース)401に帰ってしまう日だ。この日、地球(アース)401 遠征艦隊の3分の1にあたる3000隻が帰星する。


こちらの防衛艦隊が増えてきたので、遠征艦隊は徐々に地球(アース)401に戻る。10年で完全に地球(アース)401の艦隊はこの星からいなくなる予定だ。


それまでに我々 地球(アース)760の防衛艦隊は、船と航空機、そして人材を揃えて、連盟軍に対抗できるよう拡充せねばならない。


…って、私はすっかりこっちの人だ。まさか3年前にはこの星に残るだなんて、私自身考えもしなかった。


「男爵様、こっちでも頑張ってくださいね。」

「ああ、モイラ中尉にワーナー中尉、いろいろと世話になった。道中気をつけて。」

「モイラ!こっちにきたらメールちょうだいね!すぐ女子会開くから!」


宇宙港でのお出迎えに、私とマデリーンさんがきていた。他にも砲撃長やロレンソ先輩など我が艦にいる元駆逐艦6707号艦の乗員に、ローランド中佐もくる。


もちろん、生まれたばかりの子供を連れたイレーネさんやアリアンナさん、サリアンナさんにロサさん、エドナさんなど、女子会のメンバーもいる。皆、モイラ中尉と話をしている。


ところで、駆逐艦6707号艦の艦長もここを離れることになる。モイラ少尉のために集まった我々は、艦長にも挨拶をする。


「艦長、お世話になりました。」

「ダニエル中佐、君もとうとう艦長だな。3年前には、まさか君が艦長になるなんて思ってもみなかったが、思えば君も数々の戦いで成長したものだ。この星のため、頑張ってくれ。」

「はい、艦長。」

「今度会うことがあるとすれば、大規模な艦隊戦が起きたときかな?それまで、元気で。」

「艦長も、お元気で。」


我々一同、敬礼して送る。思えばこの艦長、宇宙港に入港するたびにマデリーンさんが飛んでくるのを、渋々ながら了承してくれた。私も同じ立場になったが、そこまで寛大になれるだろうか?


他の乗員が乗り込む前に、艦長は乗船しなくてはいけないので、足早に駆逐艦6707号艦に向かっていった。もう50代のこの艦長。我々は、その背中を見送る。


「…私ですね…本当は残ろうかなぁって思ったんですよ?でもやっぱり、帰ろうって決めて…でもいざ離れるとなったらやっぱりちょっと悲しくなっちゃいますね…」


モイラ中尉にしては珍しく泣いている。横で慰めるワーナー中尉。


「何言ってんのよ!数日ほど宇宙船に乗れば着く距離じゃないのよ!これからも時々こっちに来るんでしょ?いつでも待ってるわよ!」


というマデリーンさんの言葉に励まされるモイラ中尉。


別れは名残惜しいが、出発の時間が迫ってきた。


「では、そろそろ参ります。中佐殿。」

「こっちも負けずに男子会をやるから、それまではお元気で。」


女性陣は涙と励ましあいのお別れだが、男どもは一同敬礼で見送る。


2人は我々に敬礼したのち、駆逐艦6707号艦の方に向かう。そのまま彼らは振り返ることなく、ゲートの奥に消えていった。


我々は宇宙港のスカイデッキに向かう。少し離れたところに、駆逐艦6707号艦が見えた。


私は遠征艦隊に配属されてからこっちの駆逐艦0972号艦に転属されるまでの、5年余を過ごしてきた艦だ。この艦で戦闘も3度経験した。地球(アース)769に遠征したり、魔王の住む世界に飛ばされたりもした。


その艦とも、今日でお別れだ。


建造されて50年が経つこの艦が、母星に向けて出航する。


ドックのロックが解除された。ゆっくりと上昇する駆逐艦6707号艦。いつも通り、機関全開可能な規定高度まで上昇して、大気圏離脱を行う。


が、この艦はもうここには戻らない。私は思わず、駆逐艦6707号艦に向かって敬礼する。


元駆逐艦6707号艦の乗員だった者も私と同様、敬礼していた。雲ひとつない真っ青な空に吸い込まれるように、全長300メートルのこの艦は上昇を続ける。しかし、すぐに見えなくなってしまった。


こうして、我々はこの星に取り残された。かつての母艦が去ってしまった今、改めて地球(アース)760に残ったことを実感する。


そして、振り返ると、そこにはマデリーンさんをはじめとするこの星の家族がいた。


今日から我々は、正式にこの星の住人だ。私はそう感じた。

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