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#58 大志を抱く大尉と准尉

マデリーンさんが、ハンバーグを食べている。


それ自体は何ら珍しい光景ではないが、なぜか黒い服を着て、頭には黒いとんがり帽をかぶり、なぜかテーブルの上には祭壇が作られ、水晶でできたドクロが置かれている。


まるで魔女じゃないか…いや、魔女なのだが、この星の魔女というより、宇宙一般の魔女の風景がそこにはあった。


その周りには、お香が焚かれている。レモングラスという、気分をすっきりしてくれるお香だそうだ。


お風呂にもこのレモングラスの香り付きの塩を入れてるようで、なんだかプンプンする。おまけに寝室の角には、安産祈願のツボが置かれている。


全部、あの魔女グッズ専門店で買わされたものだ。なんでも、魔力の強い子供が欲しいと相談した結果、魔女グッズ店の魔女オタク、シャロンさんがマデリーンさんにあれこれと勧めてきた。あの魔女オタク、ここぞとばかりにマデリーンさんをそそのかす。


こんなもので、本当に魔力が上がるのかね?とても信じられない。


ロサさんに子供が生まれてから、すでひと月半が経った。ついに、うちの子供の性別も分かった。


なんと、マデリーンさん念願の女の子。それを聞いたマデリーンさん、ご覧の通り魔女の魔力を高めるための儀式にご執心だ。


ところでマデリーンさん、一つの難題を抱えている。シャロンさんに言われたらしいのだが、魔女の魔力を最高に高めるいい方法があるというのだ。


それは、縁結びを後押しすること。


モイラ中尉なら得意だが、マデリーンさんはあまり経験はない。結果的に縁結びに貢献した例はあるものの、今からカップルになりそうな2人を探そうにも、そうそう見つかるものではない。


で、困ってしまったマデリーンさん。それにしてもあの魔女オタクめ、余計なことをマデリーンさんに吹き込んだおかげで、変な悩みが増えたじゃないか。


そんなマデリーンさんのもとに、ラナ准尉が来ていた。相談事があるらしい。


また、功績をあげる方法について聞きにきたのだろうかと思いきや、彼女を紹介して欲しい人がいるという。


「で、その人とは…実はコンラッド伯爵様なのです。」

「えっ!?伯爵様!?」

「はい、そうです。この王国においては、陛下に次ぐお方。実績・人望も厚く、まさに王国一の貴族であられるコンラッド伯爵様に是非お会いしたくて。」

「はあ…でも、今は私よりもこっちの男爵の方が近いわよね。」


マデリーンさん、私にふってきやがった。いくらなんでも、無茶だろう。


「少佐殿、いや、男爵様、お願い致します。」

「で、でもラナ准尉は子爵家にお勤めだったんでしょう?そっちのルートで会うことはできなかったのかな?」

「いえ、所詮は侍女ですから、そのような願いは聞き入れていただけそうにありません。ですが、王国最強の魔女様は伯爵様とお知り合いでしたし、それでお話に来たのです。」


うーん、どうしようか。どういう口実を作れば、それとなくコンラッド伯爵様にラナ准尉を会わせられるのだろうか?


私は考え込んでいた。すると今度は、私に来客だ。


「ダニエル様、トビアス大尉様がいらっしゃいました。」

「えっ!?トビアス大尉!?」


カロンさんに言って、リビングに通してもらう。トビアス大尉が入ってくる。


「お休みのところ申し訳ありません。実は少佐殿にお願いがありまして…あれ!?ラナ准尉!?」


同じ艦の艦橋勤務同士、一応顔見知りの間柄だ。


「トビアス大尉。どうしたんですか?」

「い、いや、ラナ准尉こそ。なぜここに?」

「私はマデリーン様にお願いがあって参ったのです。」

「ええっ!?王国最強の魔女、勇者マデリーン様に、こんな気軽にお会いしていたの?」

「大尉殿こそ、王国と最初に接触し、王国に利益をもたらすきっかけとなられ男爵位を受けられた、このダニエル少佐殿と気軽にお会いしているではありませんか。」

「そ、そうですね。そういわれてみれば、私もすごいお方とお知り合いになれたのですよね。」

「あ…いえ、私もそうです。ダニエル少佐殿、いえ、男爵様のおかげです。」


お互い言い合いをしていたら、急に我に返ってしまったようだ。でも、私もマデリーンさんも、そんなに謙遜するような相手ではない。


「で?トビアス大尉は何の用でうちまで?」

「えっ!?ああ、すいません。実はですね、お会いしたい方がいまして…なんとかお取次ぎ願えないかと伺ったのです。」

「そうなのか。で、会いたいというのは、いったい誰なの?」

「はい、王国で2番目の実力者とされる貴族、コンラッド伯爵様です。」


な、なんだって!?凄い偶然だが、ラナ准尉と全く同じ人に会いたいと言ってきた。


「大尉殿!なぜ伯爵様に会われるなどとおっしゃるのです!?」


ラナ准尉が突然割り込んできた。


「いや、だって、この王国にいたら一度お会いしたいと思うのは当然のお方!陛下の次に権力がありながら、民のことを第一にお考えになられる、そんなお方なのだぞ!?」

「だからこそ、有名だからお会いしたいというのは失礼ではありませんか!?」


なんだろうか、突然言い合いがはじまってしまった。マデリーンさんとカロンさん、急に始まった2人の口げんかに戸惑っている。


「…あの、ラナ准尉。あなたもその伯爵様に会いたいといっていたじゃないか。」

「はい、そうです!でも、私はそんな不純な動機ではありません!伯爵様にお顔を覚えていただければ、この先何かとよきこともあろうかと思いまして…」


似たようなものじゃないか、こちらの動機も。あまり人のことは言えない。


要するにこの2人、有名人好きなようだ。トビアス大尉は単なるミーハーなだけのようだが、ラナ准尉はこの先功績をあげるにあたって、貴族の知り合いを増やしておきたいという思惑のようだ。


変な共通点を見出してしまったが、それを見て私は一つの策を思いつく。


「伯爵様に会うためのいい口実がある。」

「えっ!?そうなんですか!?」


2人同時に叫んできた。やっぱりこの2人、気が合うんじゃないのだろうか?


私の提案はこうだ。コンラッド伯爵様のところに、私とマデリーンさん、そしてトビアス大尉とラナ准尉でうかがう。地球(アース)769からの帰還と魔王退治、そしてマデリーンさん懐妊の報告を兼ねた挨拶ということにして伺い、そこでこの星にも優秀な人材が育っていると言いつつ、この2人を紹介する。


案の定、2人はそれぞれ、自分だけいればいいのではないかと言い張ったが、一人だけ連れて行くのはバランスが悪い、ここは2人いた方が形としてはいいと私が主張した。それで結局、2人とも行くことになった。


「しかし、ラナ准尉がコンラッド伯爵様にお会いしたいとは、意外だったな。」

「大尉殿こそ、男爵家の御子息ではありませんか。わざわざダニエル男爵様を頼らなくても…」

「いや、武人として会うことに意味があるのですよ。いずれは武勲を立てて、私もこの王国、いや、この星の英雄になるんです!」

「ええっ!?大尉殿が!?いや、さすがにそれは…」

「私はいずれ艦長になり、そして艦隊司令部に昇りつめ、艦隊戦で勝利し、王国一の武人として一等勲章をいただくのです。叶うならば、私も男爵位をいただきこの王国の貴族として名を連ねたいのですよ!」


なんだ、ラナ准尉の願望とほとんど一緒じゃないか。やっぱりこの2人、妙に共通点が多い。


で、ラナ准尉の方を見ると、すっかり目を輝かせて聞いている。そういえばラナ准尉は、魔王シリーズの映画を見て涙を流すような人だった。ということは、このトビアス大尉の「英雄になり、貴族として名を連ねる」という宣言に、心動かされてしまったのではないか。


で、ラナ准尉、雰囲気に飲まれて、トビアス大尉に自分の本心を垣間見せてしまう。


「大尉殿、実は私も武人として何か功績をあげたいのですが…レーダーサイトを見るしか能がないのです。」

「大丈夫だ。レーダーで最初に敵を発見し、勝利に貢献したレーダー担当の話を、私はいくつも聞いている。レーダー担当者こそ、武勲をあげるのに最も適した任務なのだよ。」


調子いいなぁ…そんなものだろうか?でもラナ准尉はすっかり乗り気だ。


おかげでこの2人、私の家だというのにすっかり意気投合してしまった。それにしても、ラナ准尉がこれだけ目を輝かせているところを初めてみた。提案した自分が言うのもなんだが、やはりこの2人で行くのは正解だと思った。


さて、伯爵様の予定を確認していたら、その日の午後に会えることが分かった。早速、みんなで伯爵様のお屋敷に伺う。


車で20分ほどの場所。私とマデリーンさん、カロンさんにラナ准尉、そしてトビアス大尉の5人が乗った車を、伯爵様のお屋敷の横の来客駐車場に停める。


「おお!ダニエル男爵殿!久しいのお!」

「ご無沙汰しております、伯爵様。」


早速私は、伯爵様に地球(アース)769での出来事から帰還までの話をする。


「もう少し早くうかがって報告するべきでしたが、妻が妊娠しておりまして…」

「そうか!マデリーンもついに人の親になるのだな!」

「はい、伯爵様。おかげさまで。」

「いやいや、数年前にそなたが私の屋敷の前で倒れていたのを見つけた時は、まさかここまでの魔女になるとは思わなんだな。今回の件でも、王国の威信を高めてくれたこと、改めて礼を申す。」


マデリーンさんが珍しくあたふたしている。命の恩人である伯爵様から深々とお礼を言われるなど、マデリーンさんにとってはあまりに恐れ多いことだからだ。


「それにしても男爵殿、そなたも男爵らしくなってきたな。召使を雇うとは。」


そばに控えているカロンさんのことを指して仰せになる。


「はい、妻のお世話係として雇ったのですが、なかなかの逸材でして。」

「そうであったか。そなたには貴族として、武人として、これからも期待しているぞ。」

「はい。で、伯爵様。その、武人として是非紹介したい人がおりまして。」

「ほう、誰かな?」

「はい、王国出身で、現在、地球(アース)760の防衛艦隊に所属するこの若い2人なのですが。」

「ほほぉ、男爵殿、いや、少佐殿が見込んだ相手とは、それはまた頼もしいな。」


そこでトビアス大尉、ラナ准尉は伯爵様に向かって敬礼する。


で、マデリーンさん、突然こんなことを言い出した。


「このカップルは、力を合わせてこの王国のため、星のため、武勲をあげてみせると申しております。」

「そうなのか?それはまた頼もしいカップルだな。いやはや、王国の未来は明るいな。」


マデリーンさんの一言で、この2人、カップルということにされてしまった。これを聞いた瞬間、トビアス大尉とラナ准尉の顔がこわばったが、相手が相手だけに否定しようにもできない。


伯爵様は、2人の前に立たれて言った。


「今、王国とこの星は大急ぎで軍備と経済基盤の整備を行っておる。が、あまりにも前途多難、なかなか人が育たない。このままでは連盟相手だけでなく、連合の中でも埋もれてしまいかねない。そんな中、若い者が志高くして軍務に励んでくれること、嬉しく思う。そなたらには期待するところ大である!どうか、この王国のため、力を尽くしてほしい!」

「はっ!王国のため、我ら全力を尽くします!」


伯爵様の言葉を受けて、トビアス大尉が応える。伯爵様との会見は無事終わった。


さすがに2人とも、あの伯爵様から激励されて、感激のあまり放心状態だった。ラナ准尉に至っては涙を流している。


「…ああ、男爵様。ありがとうございます。まさか伯爵様よりあのようなお言葉を頂戴することになるとは…」

「そうね、だから2人一緒で頑張ってね!応援してるから!」


マデリーンさん、例のシャロンさんから言われていた縁結びの件もあって、要するにこの2人を引っ付けたいようだ。だからさっき、伯爵様の前であんなことを言ったのだろう。しかし、マデリーンさんをのこの発言により、伯爵様はお喜びになられた。伯爵様自身は、今のこの王国、この星の現況に危機感を持たれているようだ。だからこそ、若い人の志に心打たれたのだ。


結果として、この訪問はよかった。私も伯爵様に近況を報告でき、伯爵様は人材の成長を実感され、マデリーンさんは「縁結びへの貢献」という課題を達成できた。


そしてなによりも、この2人はこれをきっかけに付き合い始めた。


はたから見ていたら水と油な2人だったが、予想以上に共通点が多い2人、多分うまくやるだろう。


で、その日の夜のこと。


相変わらず、マデリーンさんは怪しい衣装とアイテムを並べて食事をとる。


そこにカロンさんが、スマホを片手に血相を変えてやってくる。


「マデリーン様!大変です!このサイトによると、魔力を高めるには、お料理をカルドロンという大釜で作らないといけないらしいですよ!」

「ええっ!?しまった!大急ぎで買わなきゃ!それってあの魔女グッズのお店にあるかしら?」


マデリーンさんの悩みは続く。これが出産まで続くのか?この先が心配だ。

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