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#54 マデリーンとカロンの奮闘

翌日から、カロンさんを巻き込んでのマデリーンさんの奮闘が始まる。


と言っても、つわりとの戦いだ。だが、マデリーンさん的には困ったことがある。


それは、女子会、魔女会への毎週一回の定期配信が滞ってること。そんなマメなことをやってた事実にも驚きだが、それがここ3週間できなくなってるという。


長い文章を打ちこむと途端に気持ち悪くなるのだという。脳波コントロールだから別に文章を見なくても打てるが、読み直して文章の体裁を整えたりするのができなくて困ってるらしい。


そこでカロンさんの登場だ。マデリーンさんは会報作成作業を、カロンさんにやってもらうことにした。


こういうことはさすが地球(アース)401出身者、打ち込みも文書チェックも早い。


おまけに、返信もマデリーンさんに聞いてうまくやってくれる。まさにマデリーンさんの執事と化した。いやあ、こういうことは、地球(アース)401出身でよかった。


さらにカロンさん、買い物でも役に立つ。考えてみれば地球(アース)401出身だから、電子マネーの使い方には慣れている。孤児施設では買い物担当だったらしく、ショッピングモールでの買い付けは手馴れたものだ。


そのうち、どこのコーナーにどんなものが売っているかだとか、何時から食材が安売りを始めるかまでを把握し始めた。まるで主婦だな。


カロンさん用のスマホを渡したら、マデリーンさんに食べられそうなものかどうかを写真付きでメッセージを送って確認し、買ってくるという気の使いようだ。


さらに自動調理機や洗濯機、掃除機のセットは彼女がみんなやってくれる。献立まで考えてくれるため、本当に全てお任せだ。


いやあ、想定以上だ。使用人としては、アンナさん並ではないか?


ただ、問題がないわけではない。


「男爵さまー!マデリーンさまー!朝ですよー!」


寝室のドアを叩いて、毎朝7時に起こしにくる。平日はともかく、休日も御構いなしだ。


どうやら、毎朝同じ時間に起きないといけないという信念があるらしく、彼女自身は6時半に起きている。調理機が朝食を作る時間としてセットしている7時には起こすのが、当然だと思ってるようだ。


休日くらいのんびり寝ていたいという願望は、彼女には通用しない。


また、こちらの星の常識というものを知らないから、そこは教えないといけない。


カロンさんは自称「貧民街出身」だ。それを押し通す以上、ある程度はここの庶民や貧民街の人々の生活を知らないといけない。


この地球(アース)401と760との間には、数百年分のジェネレーションギャップがある。特に衛生面のギャップは大きすぎる。


帝都や王都では、庶民が手づかみで食事するのは当たり前だ。食器というものは意外に贅沢なもので、下手をすると皿すらないこともある。テーブルに直置きで食べるなんて、特に貧民街では当たり前の光景だ。


彼女はついつい食器をうまく使ってしまうが、あれは平民でもわりと上位の人達の習慣だ。食事は手づかみが基本。これは覚えておいた方がよい。


トイレ事情はもっと悲惨だ。ちゃんとしたトイレというものはない。自宅の外で垂れ流すのが当たり前で、それが道の真ん中にある溝に流れていき、雨が降れば流されていく。


だが、大雨となればかなり悲惨なことになる。街の大通りには、汚物が溢れることになる。


庶民にとって、風呂などというものは基本的にはない。あっても水浴びだ。寒い時は水浴びなどできないから、冬の間は体を洗わないのが普通だったりする。


貴族なら、お湯を浴びるという習慣はある。が、それでも週に一度くらい。ただ最近は、貴族の間には我々の文化が入り込み、ユニットバスで毎日というのが当たり前になりつつある。庶民でも、王都なら徐々に我々と同じ水準の生活が普及しつつある。


が、貧民街だとそうはいかない。未だに手づかみの食事、垂れ流しのトイレ事情、水浴びが普通。地球(アース)401の人間からすれば、信じられない衛生環境だが、そういうものだと心得ておかねばならない。


そんなに構える必要はないかもしれないけれど、私の周囲には妙に勘のいいやつが多過ぎる。知識としては、知っておかねばならない。


もっとも、カロンさんも3日間だけそういう生活を強いられた。言わずと知れた、奴隷小屋での生活だ。人として扱われないから、鎖で繋がれたまま、便は垂れ流しだったようだ。競りの直前には、素っ裸にされて水洗い。もう羞恥心なんてものは感じさせてもらえなかったらしい。このときは、さすがに自分で奴隷商人に売り込んだことを後悔したそうだ。


さて、今日はイレーネさんが我が家に急にいらした。相手は仮にも貴族のご令嬢だ。そのお相手をするために、アンナさんから公女様向けの礼儀作法を教わっていた。


そのイレーネさん、わざわざうちまで来ていったい何の用かと思ったら、なんと懐妊したというのだ。嬉しくなって、わざわざ我が家までいらっしゃったとのこと。


「いやあ、これで父上にも顔向けできる。兄上も近々男の子が生まれると聞いているので、ようやく我が公国も安泰だ。めでたいめでたい!」

「えっ!?フェルマン殿にお子さんが!?母親は当然、キャロルさんですよね?」

「当たり前だ。相変わらず正室を取らぬと言っておるから、キャロルが公国の跡取りを生むことになった。まあ今の時代、貴族だなんだと言ってる時ではないしな。父上も喜んでおるし。」


しばらく会わないうちに、そんなことになっていたんだ。知らなかった。


カロンさんが、帝都の紅茶を入れて持ってきた。アンナさんに教わった通り、先にミルクを注ぎ、その上から紅茶をゆっくり注ぐ。公国だけでなく、王国や帝国の貴族にも通じるミルクティーの作法だそうだ。


「ところで男爵殿、このカロンとかいう使用人もだいぶメイドらしくなってきたな。」

「はあ、そうですね。アンナさんのおかげでもあるんですが。」

「この調子なら、王室でも通用するほどのメイドになれるぞ。おまけに、スマホや統一文字の習得も早い。私などはどれだけ時間がかかったことか…いやはや、恐れ入ったぞ。」


イレーネ公女直々にお褒めの言葉を頂戴して申し訳ないが、そりゃ地球(アース)401出身だから当たり前です。


「ところでマデリーン殿、もうそろそろ子供の性別は分からないのか?」

「ええ、まだね。でも王国最強の魔女をこれだけ苦しめるんですもの、絶対魔女だわ!それも、とびっきりのやつ!」

「はっはっはっ!マデリーン殿らしいな。私は息子が良いな。大きくなったら、一緒に剣術をするのよ。それが夢だ。」


子供が生まれても、まだ剣術やるんだ。さすがは剣士イレーネ公女殿下。胎教に剣術をやりそうだな。


「ところでカロンとやら、どうだここの生活は。」

「はい、以前いたところと比べると、まるで天国のようです。なにせ鎖で繋がれていたものですから…」

「は!?鎖!?貧民街というのは、そんなに酷いことをしてるのか?」


おい、いくらなんでも貧民街の住人は鎖で繋がれていないだろう。ちょっと行き過ぎだ。


そこはマデリーンさんがさらっと説明する。


「実はこの娘、奴隷市場で買ったのよ。私が思わずビビッときたものだから、つい…」

「ああ、なるほど。そうだったのか。じゃああのエドナとかいう娘と同じような境遇なんだな。」

「ええ、そうなの。だけど歳がまだ15だし、あまり奴隷だったなんてことは知られたくなくてね。」

「まあ、そうだろうな。もっとも、エドナやマドレーヌは、自分が奴隷だったとちょっとおおっぴらにしすぎだ。普通は隠すものだからな。まあ、私はこの件、知らなかったことにしておくぞ。」


奴隷だったことはバレてしまったが、おかげでこれ以上の詮索もなく、地球(アース)401出身であることは悟られなかった。


イレーネさんが帰ったあと、カロンさんから聞かれる。


「あの…私以外にもいるんですか?奴隷だった人。」

「意外とこの街にはいるらしいけど、私が知ってるのは2人。イレーネさんの反応を見てわかったと思うけど、2人ともそのことを公言しちゃってるからね。」

「でも一度お会いしたいですね、その方々と。近くに住んでるんですか?」

「すぐ近くに1人、少し離れた宇宙港の横あたりにもう1人。会うとしたら、お勧めは少し離れた方かなあ。」


まあ、いずれ顔を合わせることにはなるんだろうけど、なるべくなら近くの方の元奴隷には会わせたくないなあ。多分、ショックが大きい。


だが、運命というやつは残酷なもので、その近くにいる推奨できない方の元奴隷が、我が家に来てしまった。


エドナさん登場。突然どうしたんだろうか?マデリーンさんに会うや否や、会話を切り出す。


「マデリーン様、実は黙っていたんですけど…」

「な、なあに!?わざわざ1人で来るなんて珍しい。」


動揺するマデリーンさん。エドナさんがわざわざもったいつけて話すことなど、大抵はろくなことがない。


「実は私も…子供を授かったんですよ。」

「ええっ!?そ、そうだったの!?なんだ、おめでとう!」


意外と普通の内容でほっとする。話を聞くと、マデリーンさんとほぼ同じくらいに装填されたらしい。つまり、ちょうど地球(アース)769に帰り道、魔王退治のあとくらいだ。あの時は砲撃長もよほど暇だったんだろう。


まあ、人間に限らず生命というものは、命の危機を感じると子孫を残そうという本能が働くらしい。今にして思えば、魔王事件の衝撃が刺激になったんだろうと思う。あれはほんと、やばかった。乗り切れなかったら今頃どうなっていたか?


「でもミラルディ様は、まだ誰にも話すなというんですよ。」

「えっ!?なんで!?おめでたい話じゃない。」

「安定期に入ってからじゃないと、安心できないからっておっしゃるんですよ。ああ、でもとうとう喋っちゃった。私どうしよう、ミラルディ様にバレたら私…」


などと言いながら嬉しそうな表情をするのは、いつものエドナさんだ。


「ダニエル様。」


こっそりカロンさんが声をかけてきた。


「エドナさんて、元奴隷だったという人ですよね。イレーネ様が確かそうおっしゃってましたし。」

「…よく覚えてるな、その通りだ。」

「少しお話ししてもいいです?」

「うーん…あまりお勧めはしないけどね。少し話すくらいなら…」


と言ったのがいけなかった。ドノーマルな彼女が、エドナさんの超絶ドM感性についていけるはずがない。


あろうことかそのエドナさんに奴隷だったことを打ち明けたものだから、エドナさん、ついにヒートアップしてしまった。


「ええっ!?あなたもそうなの!?じゃあさ、手枷と首輪はあるの!?」

「えっ!?ああ、ダニエル様が処分されましたが。」

「うわぁ、もったいない!私にくれれば、手と足に両方つけて…」


エドナさんのドM妄想を聞かされて、みるみる顔が青ざめていくカロンさん。マデリーンさんはすでに耐性がついてるから、横で紅茶をすすってる。


「でも、マデリーン様が妊娠中ということは、ダニエル様の相手をカロンさんがしてあげてるんですか?いやあ、萌えますねぇ。私もつわりが酷くなったら、ミラルディ様も若い使用人を雇って、2人でいるところに私が入っていって…」


今度は別の方向の妄想が捗ってしまった。もうダメだ、15歳のカロンさんに聞かせる話ではない。すっかり顔色を失っているカロンさん。私がお勧めしないと言った理由を、心の底から悟ったことだろう。


ちなみにエドナさんは妊娠してからというもの、砲撃長の体臭を嗅ぐと気持ち悪くなるらしい。すでにオヤジ臭い砲撃長も問題だが、エドナさんの方が深刻だ。


「ええっ!?じゃあ、砲撃長のそばにいられないじゃん!?どうしてんの!?」

「いえ、ずっとお側にいますよ。」

「だって今、気持ち悪くなるって…」

「そうですよ、こんな快感、こんな時じゃなきゃ味わえないでしょう?吐き気に耐えながら、もうべったりですよ。私。」


…ダメだこりゃ。この状況にかえって喜んでる。さすがのマデリーンさんもこれにはドン引きなようだ。


私のスマホに砲撃長からメッセージが来る。エドナさんが来てないかという確認だったのだが、これを聞いたエドナさん。


「ミラルディ様に黙って出て来ちゃったから、お怒りなんだろうな。私またお仕置きされちゃうかも…」


と笑みを浮かべて言いながら、家に帰っていった。エドナさん、頼むから子供が生まれるまでは、あまり無茶なプレイを控えてもらうようにしていただきたい。


さて、エドナさんが帰ったあと、私はなぜか2人から冷たい視線を浴びる羽目になる。


「まあ、男爵なら若い側室の1人や2人、いるのが普通だからね。」

「ええっ!?私ってやっぱり、ダニエル様のお相手しないといけないんですか?」


あの、2人共、エドナさんの言葉に惑わされすぎです。私は地球(アース)401出身の常識人。そんなことしませんてば。


こうなると、もう1人の元奴隷に会うのが怖くなったようだが、あちらはエドナさんよりはまともで明るい性格だから大丈夫だと伝えておいた。


そんなこんなで、カロンさんが来て早3週間が経つ。


マデリーンさん、突然つわりが改善した。体が慣れたせいもあるが、本当に楽になったようだ。


そこで、カロンさんと一緒に散歩するようになった。


その散歩に、私もついていった。公園まで行って、コンビニ経由で帰ってくるというのがいつものパターンらしい。


ちなみに今、コンビニでは魔王シリーズのグッズが売られているらしい。今はシリーズ21のグッズが販売中。いったいこの魔王はどういう攻撃をしてくるのか?一応聞いてみると


「ああ、シリーズ21の魔王は最強よ。駆逐艦みたいに巨大なビームを撃ってくるの。」


なんだそれ?もはや駆逐艦じゃん。シリーズ17の魔王でさえ苦戦したのに、そんな魔王を相手にすることがあったら、間違いなく死ぬぞ。


カロンさんもすっかり魔王シリーズにはまってしまった。マデリーンさんにすっかり染められてしまったな。


で、その公園でついにもう1人の元奴隷に出会った。


マドレーヌさんだ。旦那のブッシュさんもいる。久しぶりだな、この2人に会うのは。


「あれ!?ダニエル男爵様じゃありませんか、何をしてはるんです?」

「ああ、マデリーンさんとカロンさんの散歩についてきてるんだ。」

「そうなんですか、そういえばマデリーン様!聞きましたよ、宇宙での活躍!まさか勇者になられるとは、さすがは王国最強の魔女ですね!奴隷の私とは大違いですよ!」


「奴隷」というキーワードにびくっとしたのはカロンさん。


「あ、あの、もしかしてマドレーヌさんですか?」

「えっ!?私の名前をご存知で!いやあ、嬉しいですねぇ!自己紹介の前に名前を呼ばれるなんて初めて!」

「あ、いえ、実はあるお方から聞いていたので…」

「お初にお目にかかります!私、マドレーヌって言います!歳は19、奴隷やってまーす!お値段なんと1000ユニドル!」

「そうなんですよ、こいつ、自動調理機よりも安い!リーズナブルな奴隷でっせ!」


ブッシュさんのフォローが入る。また夫婦漫才を始める気か?


「でもわし最近な、お前より自動調理機の方がマシや思うんや。」

「なんで。」

「お前、こないだ料理作ったやろ。あれ見て考え変わったわ。」

「ああ、そうや。先日サラダ作ったんですわ!でもなんや硬いサラダができてもうて。よう見たらレタスと間違えて、1ドルショップのプラスチック皿を砕いてドレッシングかけてたんですわぁ!」

「…あほやなぁ、なにをどう間違えたらこうなるんや!」

「いや、お前が『(さら)だ』作れ言うたからやないか…」


このバカバカしいネタに、カロンさんは大うけ、もう笑いをこらえるのに必死だった。


「で、そちらのお嬢さんはどちら様で?」

「ああ、カロンさんと言って、マデリーンさんのサポートをしてもらってる使用人だ。」

「はえーっ!さすがは男爵様!マデリーン様も大変な時期ですもんね、いい人に巡り会えたものです!」

「カロンって言います。あの…実は私も…奴隷だったんです。」


マドレーヌさん会ったら、このことは打ち明けておこうと言ってたから、少し戸惑いながらも自身のことを話す。


「えっ!?そうなんですか?カロンさんが奴隷!?いやあ、男爵様もいやらしいですねぇ!マデリーン様というお方がありながら…」

「あ、いや、そういうんじゃないから。しかも、マデリーンさんが競り落としたんだけどね。」

「そうよ!なんか彼女を見たらビビってきたの!ほら!おかげですごくいい娘でしょ!」

「うわぁ…私もマデリーン様にビビってきてほしかったですわぁ…私なんて…」

「アイリスさんにビビってきて買われてしまったんやもんな。おかげ様でいい社畜ですわ!」


ブッシュさんもマドレーヌさんに容赦ないな。しかしこの2人、この調子でしゃべりまくるからか、営業成績はいいらしい。


「カロンさん、同じ奴隷同士!仲良くしましょ!せや!いっしょにコンビ組みませんか?ちょうど今の相方に飽きてきたとこやし…」

「ええっ!?そんな、マドレーヌさん!わしを見捨てんといて…」

「あほ!私のこと奴隷奴隷ってうるさいわ!なんだと思っとるんや、われ!」

「それ、自分で言うとるんやないか…」


もう笑いをこらえるのに必死なカロンさん。でも、こちらはエドナさんとは全然違うタイプの人物だった。こちらとはうまくやれるんじゃなかろうか?


そんな嵐のような2人と別れて、通常の散歩に戻る。そのまま、コンビニに向かった。


コンビニに着くと、魔王シリーズのグッズが並ぶ。


「うわぁ!やっと出た!」


マデリーンさんが叫ぶ。何をしてるのかと思ったら、魔王グッズのくじを引いてたようだ。


で、当たったのはシリーズ21の魔王のぬいぐるみ。何度かチャレンジして、ようやく当てたらしい。箱型の機械からぬいぐるみが出てきた。


しかしこの魔王、真ん中に砲身のようなものがついてて、ちょっとだきづらそうだ。


なお、この魔王も相変わらず真上の防御はなさそうだとのこと。もし出会っても、真上から刺せば勝てる…とマデリーンさんは言うが、もうあの世界に迷い込むことはさすがにない。


で、コンビニを出ると、今度はアリアンナさんとシェリフさんに出会った。


「あれ?王国最強の痴女マデリーンじゃないですか!」


もうアリアンナさんの毒舌は王国最強だ。マデリーンさんにこんなことを平気で言えるのは、アリアンナさんしかいない。


「アリアンナ、珍しいわね、こんなところで会うなんて。」

「今、そこの病院に行ってきたのよ。」

「えっ!アリアンナ、どこか悪いの?」

「いいえ、実はね、私もようやく子供を授かったのよ。ロサどころかマデリーンでさえ授かったと聞いて、うちの豚野郎にちょっと頑張ってもらってたの。」


あ、そうなんだ。こんなアリアンナさんでも、人の親になろうとしているんだ。


「へえ、よかったじゃない!おめでとう!」

「ありがとう、マデリーン。ところで、横に金魚のフンのようにひっついてる奴隷みたいなのは誰なの?」


おそらく、アリアンナさんはいつもの調子の毒舌口調を言ったに過ぎないのだが、たまたまそれが真を突いてたので、カロンさんが思わずこう言う。


「ええっ!?あの、ど、どうしてわかっちゃったんですか?」


ああ、カロンさん。アリアンナさんの根拠のない蔑称に、いちいち反応しなくてもよかったのに…


「あれ?まさかほんとに奴隷だったの!?」


この反応に、意外にもアリアンナさんの方が動揺してる。


「…はい、いろいろありまして…その…」

「あらま、この変態男爵、マデリーンというものがいながら…ちょっと羨ましいなぁ。」

「ああ!違うんだって!カロンは私が買ったの!」

「ええっ!マデリーンが!?あんた、魔王のぬいぐるみの感覚で買ったんじゃないわよね!?」

「そんなわけないでしょ!使用人を雇おうと探してたら、帝都で見かけて競り落としたのよ!だから、今はこの王国最強の魔女である私専属のメイドよ!」

「はえ~そうなんだ。てっきり本当に王国最強の痴女になったのかと思ったわよ。」


どうしてこうみんな、奴隷に対してろくな発想をしないんだ?なんでカロンさんに、そういういかがわしいお相手をさせたがるんだ?そういう男に見えるんだろうか?私は。


「さ、アリアンナ。そろそろ行こうか。アリアンナもつわりが酷くなったら、使用人を雇ってあげるよ。」

「ええっ!?ほんと!?でもそれにかこつけて、あんたの相手をさせようとか考えてるんじゃあ…」

「何言ってるんだ!アリアンナも一緒に3人でだな…」


この夫婦、何やらおかしな方向の会話をして帰っていった。


さて、こういうことがあったものだから、カロンさんはこれ以降、奴隷であったことを隠さなくなった。


その方が地球(アース)401出身であることを悟られなくなるし、いいカムフラージュになる。それに、マドレーヌさんやエドナさんのようにこれだけ個性の強い元奴隷がこれだけいると、ノーマルなカロンさんが今さら奴隷だったと言ったところで誰も気にしない。


また、その度にマデリーンさんがフォローしてくれる。その時の様子を武勇伝ぽく語るマデリーンさんを組み合わせれば、誰もそれ以上詮索しなくなる。


マデリーンさんとカロンさんの奮闘は、まだまだ続く。だが、この調子なら大丈夫だろう。案外この2人、いいコンビだな。私はそう感じた。

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