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#53 使用人カロン

これは一大事だ。


地球(アース)401出身者が、奴隷として売られていた。


我々地球(アース)401出身者の治安を揺るがす事態。誰がどうやって、地球(アース)401の人間をさらい、奴隷商人に引き渡したのか?事と次第によっては、この帝都を揺るがすほどの大事件になりそうだ。


「ちょ…ちょっと待った!あなた、いったいどういう経緯で奴隷として売られちゃったの!?どこでさらわれちゃったの!?大変なことだよ、地球(アース)401出身の人間が人身売買されるなんて!」

「ああ、私が自分で奴隷商人に売り込みに行ったの。さらわれたとか、そういうのじゃないから。大丈夫です。」


…なんかすごいこと言ったぞ、この娘。


「な…なんだって!?自分で!?…じゃあ、自分の意思で奴隷になったってこと?そりゃまた、なんで?」

「ええと、まず自己紹介がまだですよね。その辺からお話しします。」


話を聞くため、近くの店に入る。はちみつ菓子とお茶を出してくれるお店だ。


「私の名はカロン。歳は15。ロージニアの孤児施設にいたんだけど、飛び出してここに来たの。」

「孤児施設に?てことは両親は…」

「事故で亡くなったわ。で、私は親戚に引き取られたの。」


彼女の家はそこそこ裕福だったらしい。財産もあって、一人が一生暮らす程度なら十分なほどの金額を蓄えていたそうだ。ところがこの親戚、なんと親の財産を奪った挙句に、彼女を孤児施設に放り込んでしまった。


腹立たしいことこの上ない話だが、この孤児施設というところがまた窮屈なところだったようで、カロンさんは耐えられなくなってそこを飛び出してしまった。


で、カロンさん、親が健在の頃にパスポートを作っており、自分名義の貯金がそれなりに残ってたので、それを使って2週間ほど前にこの星に来たのだという。


「もうあの星には嫌気がさしたの。だからもう、戻りたくないんです。ここなら魔女もいるくらいだし、楽しいところかなあと思って来たの。」


降り立ったのは帝都の宇宙港。カロンさん、ここでまず仕事を探して暮らそうと考えたらしい。だが、15歳ではどこも雇ってはくれない。


帝都の紹介所にも行ったらしいが、ここはこの星の住人しか登録できない。その後もいろいろと巡り歩いたが、ついに貯金が尽きてしまった。


そこで、奴隷市場に行って、自分を売ってくれと頼んだそうだ。売られたところでマデリーンさんが競り落としてしまったというわけだ。


マデリーンさんが言っていた、昔の自分の匂いというのはそういうことか。15歳で家ならぬ孤児院を飛び出して来た。その部分だけは、まさにマデリーンさんそっくりだな。


案外、魔女の勘は未だ冴えているようだ。おそるべしマデリーンさん。


だが、地球(アース)401出身者となれば放ってはおけない。私は、すぐに事務所に連れていこうと考えた。


が、彼女は拒絶する。


「このまま事務所になんか行ったら、私あの星に連れ戻されてしまう。パスポートも川に捨てて、ここで生きるって覚悟を決めたんです!だからお願い!ここにいさせて!」


これを聞いたマデリーンさん。


「いいんじゃない?帝都の貧民街にいたってことにすれば?」

「でもさあ…いくらなんでも地球(アース)401出身者と知ってしまった人間をこのままには…」

「そお?私は知らないわよ?彼女がどこの生まれだなんて。」


急にしらばっくれるマデリーンさん。まあ確かにそのことを知らなければ、私は彼女を使用人として雇っていたところだった。


ということで、彼女を連れて帝都の紹介所に行く。貧民街出身ってことにしてここで登録してもらう。


で、そのまま宇宙港に向かい、商社の航空機で帰路につく。


「ダニエルさん…じゃない、ご主人様って航空機を飛ばせるんですね!すごい!」


なんだかわざとらしくこの星の住人を装ってるが、やはりバレバレだな。貧民街出身者が「航空機」などという言葉は、多分知らない。


で、王都の宇宙港に着く。宇宙港の中の売店でいつものようにふわふわケーキ…あれ?マデリーンさん、干し肉を買ってる。いつものやつは?えっ?ダメ?あ、そう。それも食べられないんだ。


で、3人で売店を出る。そこでエイブラムとミリアさんにばったり会う。


「おう!男爵少佐!こんなところで会えるとは、奇遇だな!」


あまり会いたくないやつに出会ってしまった。なんだその呼び名は。


「ああ、お前んところの航空機を借りて、帝都に行った帰りだ。」

「帝都?なんでまたそんなところに?」

「マデリーンさんのつわりが酷いんで、世話係として使用人を雇うことにしたんだが、王都の紹介所にはいなくてね。」

「へえ、それで帝都まで。で、そこのボロい服を着てる娘が、その使用人てわけだ。」

「貧民街出身だから仕方ないだろ。今からショッピングモールに行って、服を調達するんだよ。」


で、エイブラムのやつ、カロンさんをじーっと見る。


「ふうん…帝都の貧民街に、こんな娘がいるんだ。意外と可愛いね。」

「あ、はい、カロンって言います。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。って、あれ?この娘の喋り方、ロージニアなまりじゃないか?」


まずい…案外鋭いな、この直感商社マン。


「まあいいか、じゃあ、うちも雇ってみるかな?使用人。」

「なんでだ?お前に必要なのか?」

「いや、うちの魔女も妊娠中だし。」

「えっ?ミリアさんも?」


あっちでマデリーンさんと話しているミリアさん。なんと、彼女もそうなんだ。


「使用人を雇うだなんていうことは、ミリアさんも、つわりが酷いのか?」

「いや、全然。こんな可愛い娘が使用人なら、雇ってもいいかなって思ってさ。」


なんだ、ミリアさんは関係ないのか。だが、カロンさんのような人はそうそういるもんじゃない。


あっちではミリアさんとマデリーンさんが話している。


「なんだ、じゃああんたも今飛べないのね。」

「そうよ。だから、勝負は子供が生まれてからね。」

「まだやる気!?懲りないわねぇ。」

「いやいや、今度は子供で勝負よ!どっちがすごい子供を産むのか!?負けないわよ!」


すごい子供って…どういう基準があるのだ?


「そんなの私が勝つに決まってんじゃない。」

「何言ってんのよ!つわりが酷くて使用人を雇うような魔女に、私が負けるわけないじゃない。」

「ばかねぇ、つわりが酷いってことは、この子の魔力がそれだけ強いってことよ!」

「ええっ!?そうなの!?じゃあ私の子、弱いのかしら…」


ミリアさん、惑わされてはダメです。こういうのは体質などの問題であって、子供の力とは関係ないですよ、きっと。


で、エイブラムとミリアさんと別れる。あの2人、どこに行くのかと思ったら、あのレストランだそうだ。ちなみにミリアさんの場合は、ステーキはOKで、ロヌギ草の匂いがダメになったそうだ。


いつもなら30分かけて歩いて帰るところだが、妊婦が歩くのもよくないなので、ここはバスに乗った。いったん家に戻り車に乗り換え、まずはいつものショッピングモールでカロンさんの服を調達することにした。


あの格好でショッピングモール内をずっと歩くのは抵抗があったので、入り口近くの店でさっさと買うことにした。わりと大きなお店なので、すぐに服は調達できたのだが…何というか、普通すぎる格好だ。


別にそれでも良かったが、何となく使用人らしい服も欲しいとカロンさんがおっしゃるので、探してみることにした。


と、そこに現れたのはジェームス中尉とアンナさん。


「ああ、少佐殿。お久しぶりです。」

「これはこれは男爵様。こんなところでお会いできるとは…何をなされているのです?」


相手の立場によって、私には呼び名がいろいろある。夫婦で呼び名が異なるのは、この夫婦とローランド・イレーネ夫婦くらいものものか。


アンナさんは相変わらずメイド服だ。さすがはメイドの鏡、いかなる時でも制服だ。


「ああ、アンナ。実はね、使用人を雇ったからそれに合う服を探してるのよ。」


マデリーンさんがアンナさんに言う。


「そうですか…つまり、メイド服が欲しいとおっしゃるのですね。」


…アンナさん的にはそうなるか。


「分かりました!私がいいお店を紹介いたしましょう!」

「ほんと!?助かるわぁ!」

「よ、よろしくお願いします。」


マデリーンさんとカロンさんはすっかり乗り気だ。が、いいのか、メイド服で?


意外なことに、そのお店はショッピングモール内にあった。しかも、てっきりコスプレ専門店かと思ったら、れっきとした仕立て屋だった。


王都にあるお店の支店だった。この街にも王都出身の人が増えたため、伝統服の需要がこの街でも増えてきた。それで、仕立て屋が進出してきたんだそうだ。


こんなご時世だと言うのに、この星の伝統服もまだ需要があるそうだ。そう言う私も一度、マデリーンさんの社交界用ドレスを作るために、王都の仕立て屋に行ったことがあったな。ああいう需要は、結構あるんだ。


で、その仕立て屋、外観こそこの星の伝統衣装を作るお店だが、中身は私が以前利用したあのお店と同じ、ロボットによる全自動裁縫機を使うお店。


アンナさんのあの服は、最近ここで作ってもらってるんだそうだ。


で、早速カロンさんの服を製作してもらう。


デザインはいろいろと見せてもらったのだが…結局、アンナさんと同じデザインのメイド服になった。


採寸から裁縫まで約30分。カロンさん用メイド服が作られていく。


アンナさんよりも少し大きい、でもデザイン的には瓜二つなメイド服が完成。早速カロンさんはそれを着る。我が家の専属メイド、カロン誕生の瞬間である。


この服、カロンさんも気に入ったようだ。メイド服を着て喜んでいる。これならどう見てもこの星の住人だ。


「しかし、変ですねえ…」


アンナさんが突然、こんなことを言い出す。


「なにがです?」

「いえ、普通この仕立て屋を最初に見た人は大抵驚くものなんですが、この娘はあまり驚いていない様子なので…」


やばい、今度はアンナさんに勘ぐられた。その場は適当にごまかしておいた。


あとは、カロンさん用のベッドや寝間着などを買って、自宅に帰った。


で、今度は自宅前でアルベルト中尉とロサさんに会う。そうそう、アルベルトもロレンソ先輩もともに、先の地球(アース)769遠征の功で中尉に昇進していた。


「あら?マデリーン、お帰り。どこかに出かけてたの?」


ロサさんはすでに妊娠8ヶ月、誰がどう見ても妊婦さんだ。


「あのね、あんまりにも私のつわりが酷いので、使用人を雇うことにしてね。」

「そ、そうなんだ、さすがは男爵様。そうですよね、お屋敷に使用人ぐらい抱えてないと、おかしいですもんね。」


お屋敷って…私の住んでるところは、アルベルト中尉と変わらないですよ。


カロンさんも、ロサさんに挨拶する。


「あ、あの私、カロンって言います。今日からこちらでお世話になることになりました。」

「こんにちは、私はロサ。こう見えても魔女なんです。」

「えっ!?魔女さんなのですか!?」

「そうよ。ここに来る前は私、すごい人見知りで、ずっと王都の北のほうの魔女の里で隠棲してたの。でも、ここに来てアルベルトと出会って、アニメのことを教えてもらってからというもの、すっかりここに馴染んちゃって。」

「へえ!アニメ好きなんですね、ロサ様は。」

「あれ?アニメのこと、知ってるの?」


あ…やばい、帝都の貧民街出身てことにしてるのに、アニメ知ってたらちょっとやばくないか?


すかさず、マデリーンさんが話題を変える。


「そういえばさ、ロサ。お腹の子、女の子だって分かったんだよね。やっぱり魔女じゃない?」

「まさか、親が魔女だと、魔女が生まれ易いって言うけど、それでも絶対に魔女になるとは限らないよ。」

「いやあ、ロサそっくりな魔女ができる気がするよ、きっと。」


などと世間話をして、この夫婦と別れる。ナイスフォロー、さすがは王国最強、勇者マデリーンさんだ。


自宅に着いた。今日は帝都まで出向いた上に、カロンさんの正体がバレないかヒヤヒヤする場面が何度もあり、すっかり疲れてしまった。


「ヴーん、ぎもぢわるいー」


おかげで、家に帰るや否やマデリーンさんのつわりがひどくなった。カロンさんに背中をさすってもらいつつ、私は自動調理機に夕飯を作らせる。


そこでふと思い出したのだが、考えてみれば食事は3人分必要だった。すっかりいつものように2人分にしてしまうところだった。危ない危ない。


ということで、3人分の料理をセット。考えてみれば、冷蔵庫の容量も2人分しかない。これではしょっちゅう買い増しが必要だ。冷蔵庫を買いなおした方がよさそうだな。


そうこうしているうちに、カロンさんのベッドが届く。2階に運んでもらって、セットしてもらった。


そういえば上の部屋のカギを渡してないやとカロンさんに鍵を渡す。そうこうしているうちに、こんどは自動調理機が出来上がりを知らせてくる。


とまあ、すったもんだの1日はようやく暮れつつあった。3人で夕飯を食べる。


「いただきまーす!」


ようやく食べ物にありつけて、喜ぶうちの魔女。カロンさんもゆっくりとかみしめるように食べ始める。


「久しぶりです…家族のように囲んでもらって食べるのは…」


孤児施設では皆、バラバラに食べていたそうで、団らんというものはなかったそうだ。


「ところでダニエル様。」


アンナさんで慣れてるとはいえ、メイド服を着てる相手から様付けで呼ばれると、少しどきっとする。


「はい、なんです?」

「ダニエル様は男爵と呼ばれたり、少佐殿と呼ばれたりしてますが、なぜ2つも身分があるんですか?」

「あーっ…まず私は軍人なんだけど、この星で王国と最初に接触した功で陛下から…」


これまでの話をカロンさんにする。地球(アース)760でマデリーンさんに出会った話は有名だから知っているが、そのあと男爵を賜って2か所の領地を得たこと、そこで行われているエイブラムの事業や、そこで出会ったペネローザさんの話などをした。


「では、男爵様は魔女のお知り合いが何人かいらっしゃるんですね。すごいです。さすがは私のご主人様!」


メイド服を着たからだろうか?なんだかすっかりメイドっぽくなってしまったな。衣装にこれほどの威力があるとは思わなかった。


「しかし、何人の魔女のお知り合いがいらっしゃるんですか?」

「そうだね…隠れ魔女を含むと11人いるね。マデリーンさんを入れると12人。そのうち、7人が一等魔女で…」

「あの、一等魔女って何ですか?」


ああ、そこから説明がいるのね。魔女の種別と、ついでにマデリーンさんのこの王国、帝国での呼び名を教えておいた。


「王国最強の魔女、そして勇者マデリーン様の御前であるぞ!頭が高い!」

「うーん!いいわぁ!今度から、その調子でお願いね!」


街中でマデリーンさんを讃える練習だそうだが、ちょっとそれはやり過ぎだろう。


おいおい我々の人脈については話すとして、その日は寝ることにした。


我が家に使用人としてやってきたカロンさん。経歴が経歴だけに、今後も波乱はありそうだ。

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