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#52 王都と領地とマデリーンさんの懐妊と地球401出身の奴隷

地球(アース)769から異世界経由で王都に戻って、2ヶ月ほどが経った。


やはりというか、半年近くもこの星を離れていたため、この星の環境は大きく変わっていた。


地球(アース)760の統一事業は大きく進んでおり、すでに8割以上の国や地域が地球(アース)760統一連合体に加盟、あちこちで宇宙港が建設されて、交易が始まっていた。


すでにこの星の艦隊も1000隻を超えており、統一連合体による独自運用が行われていた。現在は自星系内の哨戒、および海賊行為の取り締まりを行なっている。


交易が盛んになると、アイリスさんの貿易会社も繁盛しているらしく、とうとう本社からそれなりの管理職が派遣されてきたそうだ。おかげでアイリスさん、所長を解任、ただし職級は係長になり、給料が上がったそうだ。


だがアイリスさん、この待遇に不満らしい。所長ということで、会社の経費を自由に使っていたそうだが、それができなくなる。だから不満だという。自分のために使ったわけではないというが、それはさすがにまずいでしょう。


まあ、アランさんともうまくやってるようだし、ブーブー言いながらも営業活動中だそうだ。


さて、この企業にいる魔女たちは今のところ怪我もなく無事だ。ペネローザさんは相変わらず大きな荷物の積み下ろしに精を出す。レーガンさんとも晴れて入籍したらしい。夫婦揃ってブラック貿易会社に尽力する。


アウレーナ、ジーナの凸凹魔女コンビは大活躍だそうだ。山岳地帯の山あいの村に核融合炉を下ろすという仕事、通常の半分の時間と費用でできるとあって、引く手数多だそうだ。今日も元女海賊カトリーヌさんの船で出かけている。


貧民街にいた二等魔女のアリエッタさんがどうなったか気になったが、どうやら晴れてあの40代の係長と入籍したらしい。20歳以上の年の差カップル誕生で、職場でも騒然としているとのこと。おかげで帝都出張所は今、係長のもと急成長を遂げている。


なお、第2の係長を目指すべく、地球(アース)401から多くのこの会社の独身男性の熱い視線が集まっているそうだ。希望者が後を絶たないらしいが…いや、こんな状況は滅多にあるもんじゃないでしょう?


さて、カトリーヌさんとヴァリアーノさんだが、すでに夫婦となったこの2人だが、お互いの仕事柄なかなか会えないようだ。ヴァリアーノさんは防衛艦隊の哨戒機パイロットとして赴任、海賊の取り締まりを行なってるそうだ。現在は宇宙に出ている。海賊の取り締まりをしているパイロットの奥さんが元海賊とか…それは置いておき、なかなか夫婦で会う時間がなくてちょっと心配だが、これはこれでうまくやってるらしい。


ちなみに、防衛艦隊でのヴァリアーノさんの階級は少尉。すぐにでも中尉となる見込みのようだ。


ところで、私にも大きな変化があった。


地球(アース)769でも最初に先行交渉を行ったという功績で、私は少佐に昇進した。なんと、30歳手前で佐官に昇進である。ローランド少佐並みだ。


少佐ということは、駆逐艦の艦長や副官にもなれるほどの階級である。


このため、仕事の内容が大きく変わる。私の職業は、パイロット養成教官から、航空機隊隊長となった。


講義の教師は引き続き行うものの、飛行訓練には関与しなくなる。代わりに、私は指揮官としての教育を受けなくてはならなくなった。


その分給料が増えるかと思いきや、あまり増えない。責任だけが増えてしまったような状態だ。


なお地球(アース)769星域での艦隊戦で、おとり作戦を立案したローランド少佐も、その功で中佐に昇進となった。ほかにも、地球(アース)769に参加した多くの人が1階級昇進している。


だが、軍では「魔王退治」の功績は認められなかった。何せ現実世界ではない異世界での戦闘で、実績としては認め難いというのがその理由だ。あそこで私は結構頑張ったんだけどな。


しかし、この魔王退治に関しては、国王陛下がいたく感動され、なんと陛下直々に功績を称えてくださることになった。


そしてついにマデリーンさんが、王国の武勲に贈られる勲章としては最高位のランデリック一等勲章を授与された。勇者としての功績を称えてのことだ。私を含めて魔王討伐に参加したモイラ少尉、ワーナー少尉、ローランド中佐、イレーネ公女、フレッド中尉にアンリエットさんも2等勲章を授与された。


この授与式で、コルネリオ男爵は涙を流していた。そりゃそうだ。娘が本当に功績を挙げて帰ってきたのだ。この男爵家始まって以来、3つ目の勲章だという。ただしこの人、ただ岩をぶん投げただけなんですけどね…


しかし、魔女が勲章をいただくなど、王国創立以来初の快挙だ。異例中の異例、私だけでなく、王国中が驚いた。


名実ともに、王国最強の魔女になったマデリーンさん。授与式でも嬉しくてロージィさんのように涙を流していた。


ところで私の領地の現況だが、こちらはこちらで大きく変わっていた。いや、変えられていた、と言った方が適切か?


まずミリア村。ロヌギ牛ブランドで再び勢いを盛り返しているはず…と思いきや、牛以外のブランドが立ち上がっていた。


牛以外には、豚、鶏、羊まである。羊に至っては、羊肉だけでなく羊毛までブランド化していた。


しかも、以前は「ロヌギ牛」呼称していたが、ロヌギという名前が一般名詞で登録商標に使えないということで、ブランド名をミリア村から取った「ミリア牛」にしたそうだ。


同様に、ロヌギ草を食べさせた豚は「ミリア豚」、鶏は「ミリアチキン」、羊は「ミリア羊」。短絡的な名だが、これが意外と大受けらしい。


しかしいいのか?エイブラムよ。たまたま村と同じ名前のミリアさんという奥さんがいながら「ミリア豚」なんて呼び名をつけて。本人は気にするんじゃないか…と思いきや、そうでもないらしい。


この鈍感魔女はかえって大喜びなようで、自らミリアブランドの宣伝大使をかって出てるようだ。魔女人気も相まって、宣伝で大いに活躍中らしい。ミリア牛、ミリア豚を売り込む魔女ミリア…将来、彼女は後悔するんじゃなかろうか?


ミリア村では、産地での試食イベントや即売会、商談を行なっている。このブランドに惹かれて多くの人が訪れるため、村のお店にも人が入り始めるという好循環が起こりつつあった。


それに伴って、私の副収入が増える。私は売り上げの5パーセントを取り分としておいたが、これがすでに私の軍からの給料を上回るほどの額になった。この収入だけで生活できるな。


このブランド維持のため、ダミア村のロヌギ草や畑までを活用している。エイブラムのやつ、勝手に私の領地を運用していやがる。どっちが領主なのか?


でもおかげで両方の村の生活レベルは向上、すっかり家電は行き渡り、ミリア村はかつての人口に戻ったようだ。


半年離れただけでこの変わりよう。周囲の激変ぶりに、すでに置いていかれた感があるこの我が家にも、ついに大きな変化が訪れる。


きっかけは、マデリーンさんが飛べなくなったと騒いだことだった。


「どうしよう~飛べなくなっちゃったよ~!魔力が消えちゃったよ~!」


ロサさんの言葉をすっかり忘れてしまったのだろうか?この魔女は。それを聞いた私は、早速マデリーンさんを病院に連れて行く。


結論から言えば、妊娠していた。まあ、いつかはやってくる現実だと思っていたが、ついにこの日がやってきてしまった。


聞けば、妊娠12週目だという。そこから逆算すると、装填されたのはちょうどマデリーンさんが勇者になった直後の地球(アース)760への帰還途中ということになる。思い当たる節は…ありすぎて困る。


それにしても、よくこれだけ長いこと妊娠に気づかなかったものだと医者に言われる。普通はもうちょっと早く病院にくるものらしい。


まあ、そんなことを言っても仕方がない。ともかく、予定日まではあと28週間。魔女改め妊婦マデリーンの戦いは、この日から始まった。


妊娠したと聞いてから、急に気持ち悪いと言い出すようになった。いや、少し前からそうだったようだが、ここのところ特に酷いようだ。いわゆる「つわり」というやつだ。


だが、なぜかハンバーグを食べるとつわりがおさまる。おかげで、よくハンバーグを食べる。


いわゆる「食べづわり」というやつらしくて、何かを口にするとおさまるのだが、すぐに元に戻るからまた食べる。しかし、あまり食べ過ぎて急な体重増加をともなうのはよくないと先輩のロサさんから言われて、抑えるようになった。


「ヴーん、ぎもじわるい~」


ぐったりすることが増えたマデリーンさん。ソファーの上に、まるでサンショウウオのようにべったりとへばりついてくたばっている。とても魔王を倒した勇者とは思えないグダグダっぷりだ。


ところで、妊娠すると食べ物の嗜好が変わるとはよく言われる。マデリーンさんの場合は、ハンバーグだけは相変わらず食べられるようだ。


が、フライドポテトもよく食べるようになった。どうも塩味なものが好みなようだ。他にも、なぜか果物、特にイチゴとバナナが大好きになった。


逆に魚を食べなくなった。あれだけ好きだった帝都チキンも受け付けない。匂いがダメらしくて、見るのもいやだという。


お酒は飲めないし、ますますストレスが溜まる妊婦マデリーンさん。あれだけ普段元気だったのに、困ってしまうくらいぐったりだ。


だが、昇進してからの私は忙しくなった。休日以外はマデリーンさんに構ってあげられない。これではあまりに心配なので、住み込みの使用人を雇うことにした。


2階に使っていない部屋があり、マデリーンさんの魔王のぬいぐるみが積まれているだけの「魔王の間」を片付け、ここに1人住めるようにした。


マデリーンさんと話し合った結果、家事が得意そうな人を雇うことにした。


が、そういう人は王都の紹介所にはいない。そこで、帝都まで行ってみることにした。


帝都の紹介所に向かう。車では時間がかかるうえにマデリーンさんが耐えられないので、エイブラムが以前手配した、商社所有の航空機を借りて飛んで行くことにした。


ふと思ったのだが、これまで紹介所に人を連れて行ったことはあるが、人を雇いに行くのは初めてだ。まさか私が人を雇うなど、考えたこともなかった。でも一応男爵だし、別に使用人の1人や2人いてもおかしくはないのだが。


帝都の宇宙港の片隅に着陸し、帝都中心部に入る。思えば8か月ぶりにここにきたが、ここで少し暮らしたことがあったから、妙に懐かしい。


が、マデリーンさんはあちらこちらから匂う帝都チキンの匂いにやられていた。鼻をつまんで、身をかがめて歩くマデリーンさん。ああ、そこまでダメなんだ。仕方がないので、チキンの店が少ない裏道に入る。


しかし、裏道は裏道で不快なものがある。


いわゆる奴隷市場だ。まだあったんだ、これ。未だ帝都では人身売買が禁止されていないため、公然と競りが行われているのだ。


舞台に上がっている人を見ると気の毒で仕方がない。いろんな事情があって、そこにいるのだろう。だが、私は人身売買に手を出すつもりはない…


のだが、何を思ったのかマデリーンさん、ずかずかと競り会場の方へ歩いていく。


「さあ、1200ですよ?これでよろしいですか?」


舞台を仕切っている売買人が、客に向かって叫んでいた。


そこに立っているのは女の子だ。歳は15、6といったところ。美人というわけでもないが、可愛らしい顔をしている。


すると、マデリーンさんが突然叫んだ。


「1500!」


…えっ!?マデリーンさん、なんてことを言うの!?


「1500が出ました!他にはよろしいですか!?」


マデリーンさんを止めようにも、この価格が決め手となり、競りが成立してしまった。


「マデリーンさん…なんてことを…」

「いいじゃない!どうせ誰かを雇うつもりだったんでしょう?紹介所か奴隷市場かの違いだけよ!」


まあ、そうなんですけど、でもマデリーンさんらしくないな。どうしたんだ、急に。


「なんだって急に競りに参加しようなんて…」

「いや、あの娘に、なんだか少しビビッと感じるものがあったのよ。」

「なにそれ?魔女だとか、そういうもの?」

「いや、昔の私の匂いがする。」


妊娠すると匂いに敏感になるというが、そこまで鼻が効くものなのかね?ともかく、そういう理由で、我々夫婦はついに奴隷売買に手を出してしまった。


裏で彼女を引き取る。エドナさんの時のように、もらった鍵で手枷と首輪を外す。これは…どこかに捨てていこう。エドナさんのようになっても困るし。


一応、彼女のことを聞く。


「あの、聞いておきたいんだけど、誰かにさらわれたとか、そういう理由で君は売られてたのかい?そうだとしたら、君を親元まで送ってあげるけど。」


まずは人道優先だ。親がいるのなら、親元に返してあげないといけない。


「いや、私には親がいない。帰るところもない。だから、ご主人…様、よろしく頼む、じゃない、よろしくお願いします。」


なんだかぎこちない。まあ、これまで誰かにお使いするよう教育されたわけではないから、仕方がないだろう。


「私は妊娠中の妻のお世話をしてくれる人を探していたんだが、それでよければ我々の元に来て欲しい。衣食住はこちらが用意させてもらう。それでいいかい?」

「分かりました。いいです、なんでもやります。」

「では、自己紹介だ。私はダニエル。王都にいる軍人だ。で、こっちは妻のマデリーンさん。」

「私はマデリーン!王国最強の魔女にして勇者!でも、今は飛べないけどね…」


マデリーンさん、ちょっと勢いにかける自己紹介だ。やっぱり飛べないことは自身をなくしてしまうものなのだろうか?


「あの…もしかして、マデリーンさんって…」


来たな。やはり有名人マデリーンさんを、この娘も知ってるようだ。


「…もしかして、ロージニアの高層ビルの上で人を助けたという、あの魔女のマデリーンさんですか?」


…えっ!?そっち!?なんでこの星の人が、そっちのエピソードを先に挙げる?


「ええと、君は我々の星のことをよくご存知なんだね。ロージニアなんて都市まで知ってるなんて…」

「それはそうです。だって私、ロージニア出身ですから。」

「えっ!?ええっ!!」


マデリーンさんと一緒に叫んでしまった。


まさかの、地球(アース)401出身の奴隷との出会いだった。

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