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#5 ジェットコースターと魔女の撮影会

 ベッドの中で、明日どこに行くかマデリーンさんと話した。


 するとマデリーンさん、王都から少し離れた場所にできたというテーマパークに行きたいと言い出す。


 なんだそれ?私は初耳だ。そんなものいつの間にできたんだ?知らなかった。


 というわけで翌日、早速そのテーマパークに行ってみることにした。


 ちょうど帝都と王都の間あたりにあるこのテーマパーク。明らかに、この2つの街の、特に宇宙港の街に住む住人をターゲットにした施設だ。


 今日は平日で、人混みは比較的少ないはず…なのだが、これが意外に多い。


 ちょうど帝都では祭りをやっているので、その帰りにここに立ち寄る人や、馬車で荷物を運ぶ途中に立ち寄る人など、いろいろなようだ。


 ここの入場料は、我々宇宙港の関係者には高めに設定されている。なんでもこのテーマパークは、この星の住人に外の文化を広めるという目的もあって、この星の住人であることを示せば安くなる仕組みのようだ。


 だが、マデリーンさんは宇宙港の街の居住許可を持つ身であるため、残念ながら「こっち側」扱いだった。高額な入場料を取られる。


 門から入ると、そこはアーケード街だった。カラフルな店が立ち並ぶ街が我々を出迎える。そこを抜けると、このパークのシンボルが目に飛び込む。


 ……だが、どう見てもこのシンボルは「高層ビル」。テーマパークの象徴がビルとはこれ如何に?


 確かに、普通のビルとは異なりおしゃれなデザインではある。上は円筒形で、少しねじれたような螺旋形の変わった形をしている。下に行くにつれて広がっており、下層は大きなフードコートがある。


 まあ悪くはないが、テーマパークのシンボルといえば、普通お城か何かじゃないかと思うのだが……私の感覚では、とても違和感を覚える建物だ。この星向けに作った施設だからだろうか?


 が、ネットで調べてみると、パークのシンボルを「お城」にできない事情がわかった。


 ここは帝国の支配地域である。このため、お城のような建物を建設するには、帝国の皇帝陛下の許可が必要。しかも、帝都にある皇帝陛下の宮殿を上回るものを作ってはならないという制約があるのだという。


 そこでこのパークの経営者は、城がダメなら高層ビルにしてしまえということで決めたそうだ。帝国の法でも、城はダメだが、ビルがダメだとは謳われていない。その法のスキを突いてビルが建てられてしまった。この星に地球(アース)401の文化を伝えるのが目的なら、こういう建物の方がいいという事情もあるようだ。


 だがマデリーンさんにとっては、この建物はかえって新鮮に映ったようだ。そういえばマデリーンさんは高層ビルというものを見るのは初めて。窓ガラスが垂直にそそり立ち、天を貫くように真っ直ぐ伸びるこの建物に感動していた。確かにこんな建物は、この星にはまだない。


 早速、展望台に登ってみた。最上階の高さは100メートルほど。実はこのビル、それほど高いビルではない。だがここの住人にとっては驚きの高さのようで、皆窓の外を眺めている。


 でもまあ、うちの妻は高度2000メートルまで飛べる魔女だ。この程度の高さ、たいして感動しないだろう……と思っていたら、これがどうして大喜びだった。


「見て見て!ほら、王都が見えるよ!あそこに見えるの、うちの街じゃない?」


 あなた普段も飛んでるでしょうが、と私は言ったのだが、マデリーンさん曰く、自分で飛んでる時は前ばかり見ていて、あまり周りを見ていないという。周りをじっくりと見渡せる場所ということで、すっかり気に入ってしまったようだ。


 その高層ビルを出てさらに奥へと向かうと、その向こう側には数多くのアトラクションが並ぶ。


 目の前にはメリーゴーランドが見える。この手の施設では定番のアトラクションだ。私にとってはちょっと気恥ずかしいこの乗り物は、ここではかなり人気があって、大勢の人が並んでいる。


 ところが、メリーゴーランドのくるくる回る馬車の中に、どこかで見たことのある顔を発見する。


 砲撃長だ。またしてもこの人に出会ってしまう。この人と会うのは3日連続。一体、どうなってるんだ?


 隣にいるのはもちろんエドナさん。向かい合わせのオープンな馬車に乗って、笑顔で何かを話しながら揺られている。


 私はスマホで撮影した。するとマデリーンさんが怪訝そうな顔でこっちを見て言った。


「あんた、こんなもの撮ってどうするのよ!?」


 私は何も言わず、今撮影した写真をマデリーンさん見せる。察したマデリーンさん、夫婦2人してにやけたのは、いうまでもない。


 音楽が鳴りやみ、メリーゴーランドが止まる。エドナさんと共ににこやかに降りる砲撃長だが、私とマデリーンさんの姿を見てその笑顔が消える。


「な、なんだお前ら!?いつからここにいるんだ!?」


 あまりに砲撃長らしからぬ場所での遭遇に、彼は戸惑っているようだ。


「まあ、この星ではそれほど行くところがあるわけではありませんから、ばったり出会うのも仕方がないでしょう。」


 にやにやしながら答える私。ばつの悪そうな顔でこちらを見る砲撃長。そんな砲撃長とは対照的に、きらびやかなテーマパークの雰囲気に喜びを隠せないエドナさん。


 まあ出会ってしまったことだし、我々夫婦はせっかくなので砲撃長カップルと一緒に行動することにした。


 さてこのテーマパーク最大のアトラクションに向かう。それは「ジェットコースター」。


 最頂部は高さ97メートル、全長2500メートルの、落下式としてはかなり大きなコースターである。


 マデリーンさんは乗り気だ。意外にもエドナさんも興味津々。


「あ……あれに乗るのか……?」


 唯一その異様なコースターに尻込みしているのは、砲撃長だ。


「たいしたものじゃないですよ、一瞬で終わりますって。」

「いや、俺はああいうのは苦手で……」


 普段は強気な砲撃長が、妙に弱気だ。私はわざとけしかける。


「砲撃長!」

「な、なんだ!?」

「軍人たるもの、いかなる障害にも恐れてはならないと、普段から砲撃長自身がおっしゃっているではありませんか!安全の保障されたコースターごときに、何を恐れているのです!?」

「い、いや!恐れているのではない!エドナのやつが心配なだけだ!私はエドナが怖がっていると思って……」


 するとすかさず、エドナさんはこうつぶやく。


「私、こういうの初めて。面白そう。」


 結局、この一言でコースターに乗ることに決した。


 列に並ぶこと約10分、我々4人はコースターに乗りこむ。身体を固定するバーが降りてきて、ゆっくりと動き出す。どんどんと最頂部に向かって、コースターは登り続ける。


 さて、この時点でエドナさんはどうやら後悔し始めていた。


「あれ……あの、ちょっと高すぎやしませんか?」

「いや!大丈夫だ!エドナ、俺の手をしっかり握っていろ!」


 我々の後ろにいるエドナさんと砲撃長。そのエドナさんは思った以上に高い場所に来てしまったため、どうやら途中で怖くなってきたらしい。それを励ます砲撃長殿。


 一方のマデリーンさんはといえば、まだまだ余裕だ。


「ねえねえ、そろそろあのビルと同じくらいじゃない?もうちょっと高いといいんだけど。」


 高度2000メートルまで上昇可能で、垂直降下もお手のものなこの魔女にとっては、高々100メートル程度のジェットコースターなんて大したものではないらしい。


 最頂部についた。いよいよ降下だ。


 体が急に軽くなる。ゴォーッという音とともに、この車体は一気に加速する。


 じらすように時間をかけて登り切った97メートルもの高さを、あっという間に下り切る。が、そこから再び上昇。右へ急旋回する。


「きゃー!」

「うわぁ!」


 コーナーに差し掛かるたびに、後ろの2人の悲鳴が聞こえてくる。途中暗い場所を駆け巡ったり、くるっと一回転したり、突然横Gがかかったりと、予想外の動きと荷重で乗客達を驚愕に陥れる。


 ものの20秒ほどで駆け巡った。マデリーンさんは爽快な顔で出てくる。


「いやあ、これ楽しいわね!もう一回乗ろう!」

「はあ、やっぱり俺はダメだ、こういうの……」


 さすがの砲撃長も、これには参ったようだ。


 が、それ以上に参っている人間がいる。


「おい!大丈夫か!?」

「ま……まだ目が回ってます……はあぁ……」


 エドナさんだ。想像以上の揺れと加速度で、参ってしまったようだ。


 砲撃長はエドナさんを抱えて、近くのベンチへと向かう。私とマデリーンさんは、目を回したエドナさんのために飲み物を買いにいった。


「大丈夫ですか?砲撃長殿。」

「うーん、ちょっと刺激が強すぎたようだな。エドナにはもうちょっと落ち着いた乗り物でないとだめだな。」

「私は大丈夫だったよ!今度自分で飛んだ時にもああいう動き、やってみようかな?」

「やめておいた方がいいよ。あれはレールがあるからできる動きであって……」


 エドナさんにジュースをあげながら、私は興奮気味のマデリーンさんを諭す。そのエドナさんだが、もらったジュースを少しづつ飲んでいる。だんだんと回復してきたようだ。


「それにしてもダニエル中尉よ、お前は何ともないのか?」

「当たり前でしょう、私はパイロットですよ!?複座機による耐G訓練に比べたら、あの程度の加速度なんて、たいしたことないですよ。」


 パイロットの訓練で複座機で高度2万メートルから一気に1000メートルまで慣性制御なしに急降下するという訓練があるが、あれは頭の血が上り気を失いそうになる。それに比べれば、こっちはただの自由落下だ。どうってことはない。


「……すいません、私、迷惑かけちゃって……」

「いいよ、もう大丈夫かい?」

「はい、なんとか歩けます。」


 エドナさんも回復してきたため、別のアトラクションに行くことにした。


 向かったのは、水槽内を潜水艦のような乗り物で巡るという緩めのアトラクション。多人数で優雅な空間を楽しめて、それでいて激しくはない。エドナさんにはピッタリのアトラクションだ。


 中に乗り込むと、そこは海の中だった。青や黄色の熱帯性の海水魚が泳いでる。


「見て見て!あれ美味しそう!」


 魚好きなマデリーンさんは、(さば)やイワシのような魚を見つけては興奮して叫んでいる。だが、ここは夢の楽園。食べちゃダメでしょう、食べちゃ。


 ジェットコースターにやられた砲撃長とエドナさんも、ここは楽しめているようだ。2人で色とりどりの魚を見ては何か語りあっている。


「ちょっと!なによ、あのとんがったいかつい魚は!?」


 マデリーンさんが指差す方向にいた魚、それは小さなサメだった。


 なんだここ、そんなものまで泳いでるのか!?海を知らないマデリーンさんにとっては、それは驚異の魚だった。目の前を悠々と過ぎ去るサメ、それを唖然としてやり過ごす王国最速の魔女。


 それにしても砲撃長とエドナさん、2人寄り添ってこの海中散歩を楽しんでいる。エドナさんにとっても、ここは初めて見る未知の世界。多分、いい思い出となるだろう。この様子を見る限りでは、この2人が夫婦になるのも時間の問題かな。私はそう感じた。


 さて、フードコートへ昼食を食べるため、再びあのビルへと行く。


 フードコートでメニューを眺めるが、こういうところの常で値段が高い。ただここは、かなりゆったりした空間だ。テーブルがたくさんあり、多くの人がごった返しているというのに空きがたくさんある。どうやら、ちょっと過大なビルを作ってしまったために、フードコートが大きすぎるらしい。


 ところで、このビルの上の階はどうなってるのだろうか?と思って調べてみると、何と上はオフィスになってるようだ。テーマパークのど真ん中にオフィス。どんな職場だ。


 ここには帝都や王都を相手に商売をしている商社が入ってるそうだ。その会社の社員はこのテーマパークに入り放題で、商談相手も商談の合間に、この施設内のアトラクションに乗ることができる。


 このフードコートも、上のオフィスビルと兼用で使うところになっている。つまりここは、社員食堂を兼ねているらしい。こんな高い昼食で、社員の負担ではないのか?と心配になるが、どうやらあとで社員割引が適用される仕組みだそうだ。


 レジャー施設のど真ん中にある職場、何というホワイト企業。私も軍を辞めて、ここに就職しようか。思わずそんなことを考えてしまう。まさに夢の職場だ。


 昼食を食べた後、再びアトラクションコーナーに戻る。そこでコーヒーカップやゴーカート、観覧車にも乗った。


 マデリーンさんがもう一度ジェットコースターに乗りたいと言ったので、私が付き合った。高いところから一気に落ちるあの瞬間が、マデリーンさんにはたまらないらしい。


 一通り遊んだところで、土産物店を覗く。


 そこで何故かホウキが売られている。するとマデリーンさんは、そのホウキを買う。商品名もずばり「魔女のホウキ」だ。


 そういえば、ここのイメージキャラクターの1人に「魔女」がいる。このホウキは、その魔女が持ってるホウキだ。先っぽにハートマークのついた、なんとも微妙なデザイン。よくこんな恥ずかしいデザインのホウキを買いたいと思うものだ。ホウキを見ると買いたくなるのは、魔女の本能だろうか?だが、雰囲気にのまれてこういうものに手を出してしまうあたり、迂闊というか可愛いというか、マデリーンさんらしい。


 それにしてもここはテーマパークだけあって、子供が多い。風船が人気のようで、あちこちで風船を買ってもらっている子供がいた。


「ああ!」


 1人の子供が叫んでいる。見ると、うっかり風船を手放してしまったようで、子供の手を離れた風船は、空高く舞い上がっていく。


「うわぁーん、飛んでっちゃった!」

「しょうがないね……もう諦めなさい、新しいのを買ってあげるから。」


 泣き出す子供を、その親はなだめている。


 が、それを見たマデリーンさん。さっき買ったホウキにまたがって、空に舞い上がる。


 王国最速魔女にとって、風に流れる風船に追いつくことは造作もない。空中で風船をキャッチして、ゆっくり下りてくる。


「はい、これ。取ってきてあげたわよ。」


 その風船をその子に手渡す。この子、一体なにが起きたのか、理解するのにちょっと時間がかかったようだ。


「あ、ありがとう!」


 お礼を言う子供。どうやらこの親子、服装からして我々と同じ地球(アース)401出身のようだ。魔女を見るのは初めてらしい。


「あ……ありがとうございます、おかげで助かりました!」


 親の方もお礼を言っていた。マデリーンさんは軽く手を振って応える。


「まさかこんなところでそのホウキが役立つとは……」

「そうね、でもこれ、ちょっとバランス悪いわね。多分、この先についている変なマークがダメね。」


 我々夫婦にとってはなんてことない風景なのだが、砲撃長とエドナさんは驚いた様子だった。


「……お前の奥さんって、魔女だとは聞いてたけど、本当に飛ぶんだな。」

「あれ?砲撃長はマデリーンさんが飛ぶところを見るの、初めてでしたっけ?」

「すごいです!あんなにさりげなく飛べちゃうんですね!さすがは『雷光の魔女』です!」


 と4人で盛り上がってると、どこからともなく背広姿の人物が現れた。


「おい!さっき飛んでたのはあなたかね!?」


 ……誰だ、この男。もしかして、ここの警備員か?やはり、ここで飛んじゃまずかったのだろうか。私が代わりに対応する。


「あの、すいません。子供の風船を取ってあげただけなんですが……」


 するとこの背広男は、突然私に名刺を差し出してきた。


「申し訳ありません。わたくし、ここの企画・管理をしてます、トウドウと言います。」

「はあ……トウドウさんですか……あの、そのトウドウさんが何か?」

「先ほどの飛行っぷり、拝見させていただきました。このお方は一等魔女、それもかなりの熟練者とお見受けしますが、違いますか?」

「ええ、確かにその通りですね。」

「やはり!ただものではないと思いました!で、そんな魔女様に折り入って、お願いがあるのですが……」

「えっ!?お願い!?」


 この背広男に連れられて、我々4人はこのビルの15階に案内された。


 さて、このトウドウさんのお願いだが、要するにこのテーマパークの「魔女モデル」になってほしいというものだった。


 といっても、2時間限定。その間に、宣伝用の写真撮影をしたいらしい。


 その代わり4人分のチケット代をキャッシュバックしてくれる上に、撮影後は最上階にあるレストランのディナーを御馳走してくれるという。


 これを聞いたマデリーンさんは乗り気だ。最上階のレストランではステーキが食べられると聞いて、なおやる気になったようだ。私は正直あまり乗り気ではなかったが、まあ2時間くらいならとOKしてしまった。


 だが、そこからが大変だった。


 奥の更衣室で「魔女」の格好にされるマデリーンさん。ピンクの衣装にハートマークの胸飾り、どちらかというと、ちょっと古風なアニメキャラ風の格好に変身させられる。


 そこから、いろいろなところに行かされる。ビルのてっぺんにある展望台の真横や観覧車の頂点付近、ジェットコースターのてっぺんなどなど。


 地上に降りてからも、お店の前や、フードコート、挙げ句の果てにはオフィスビルの中でも撮影が行われる。


 たった2時間しかないため、撮影は大急ぎで行われる。あれやこれやと要求され、応えるマデリーンさん。だが、締め切り時間が近づくにつれ、要求はエスカレートする。


 要するにこの撮影会は「窓の外には魔女が!?」的な意外性の高い写真を撮ってるようだ。まるでCGのようだが、画像加工は一切ない。


 突然始まった魔女の撮影会を、他の観客達も見上げていた。本物の魔女がアトラクションの横をふわふわと飛んでいる。この星の人間でも、そうそう見られる光景ではない。


 結局、予定を若干上回る2時間半の撮影となってしまった。もうマデリーンさんはくたくた。疲労困憊。撮影終了を聞かされて、ベンチでへたばっていた。


「あー疲れた……お腹空いた……喉乾いた……死ぬーっ!」

「お疲れさま。どうやらいい写真が撮れたみたいだよ。」

「写真より、肉食べたい……ワイン飲みたい……」


 すっかりお疲れだが、食欲だけは旺盛だ。


「いやあ、お疲れ様でした、魔女様!おかげさまででいい写真が撮れましたよ!やっぱり、さすがは本物の魔女!ではお礼のディナーの準備が整いましたので、ご案内いたしますよ。」


 案内されたレストランは、この辺りでもトップクラスのお店。地球(アース)401でも5つ星の店から招いたシェフに、極上の食材、そして、最高級のワイン。


「おい…お前とお前の奥さんはいいけど、俺とエドナは何にもしていないぞ。いいのか?本当に。」

「いいんじゃないですか?一緒の方がマデリーンさんも喜びますよ。」

「そうだよ、せっかく頑張ったんだから、みんなで食べていきましょう。」


 最初に出てきたのは、食前酒の白ワインと、あの帝都チキンだ。少量ではあったが、さすが一流レストラン。味付けは、一昨日食べたあの味を上回っている。


 マデリーンさんも満足のようだ。だが、今の彼女は質より量。もっと食べたいようだ。


 腕によりをかけたという言葉がぴったりな食べ物が続々と登場する。ワインも高級な帝都もののようで、とても美味い。食材も帝国各地から取り寄せた最高級品だというが、これは素人でも分かるほどの逸品だ。


 ぷりぷりしたシュリンプに、柔らかな帆立、そして、メインディッシュはシャトーブリアンという牛肉の最高級部位を使った肉料理。


 一口で、そこらの肉と違うことを悟る。こんな牛肉がこの世にはあるんだ。私やマデリーンさん、砲撃長、そしてエドナさんも、その味の前に言葉を失った。


 デザートにはほんのり甘いムースにイチゴを添えて、シロップがかかったものが出てきた。実はマデリーンさんはイチゴが大好き、おそらくは最高級のそのイチゴデザートをあっという間に平らげる。


 ここでお腹が膨れてきたのか、ようやく会話するゆとりがマデリーンさんにも出てきた。早速我々夫婦は、砲撃長とエドナさんに質問する。


「で!あれからどうなのよ!?2人仲良くやってるの?」

「ミラルディ様はお優しいですよ。私は良いご主人様に巡り会えたと思ってます。大きくて柔らかいベッドに一緒に寝ていただいて、その上シャワーまで一緒に浴びて……」

「えっ!?一緒にシャワーを!?」


 赤裸々な夜の生活内容をしゃあしゃあと話し始めるエドナさん。モイラ少尉が聞いたら、間違いなく興奮しそうな内容だ。


「いや!おい!あれはエドナさんがシャワーの使い方が分からないというから……仕方なくだな!」

「私でも、いきなりシャワーが一緒なんてやらなかったなあ。本当に使い方を教えていただけですか、砲撃長殿?」

「そ、そういうお前らはどうなんだ!?一緒に風呂だって入ってるんだろう、ああ!?」


 盛り上がってきたのはいいが、ここらで軌道修正しないと単なる私生活の暴露大会になりそうだ。ここは高級レストランだし、そこは一応わきまえないと。


「ミラルディ様は、私をショッピングモールという大きなところに連れていっていただいて……あ、昨日お会いしましたよね。で、あのあと大きなベッドを買って、クレープというものを食べて、それからエプロンというものを買ったんです。」

「エプロン?あれ?エドナさんは料理するんですか?」

「いえ、キッチンには腕のような機械が勝手に料理を作ってくれるので、私は料理を作らないんですけど、どうしてもミラルディ様が使いたいっていうので買ったんですよ。」


 ダメだ、どうしても下ネタへと行き着いてしまう。再び、軌道修正を試みる私。


 だが、話を聞く限りでは砲撃長とエドナさんは上手くいってるようだ。おそらく砲撃長も、彼女が可愛くて仕方がないのだろう。シャワーの件も、エプロンのことも、若干問題ありと言えども、これも一つの愛情の現れのようだ。


 レストランを出て、再びあのトウドウさんという人と話をした。またそのうち、お願いしますと頼まれてしまうマデリーンさん。


 あの人はここのパークの企画を取り仕切ってる人のようで、テーマパーク内にオフィスを作るというアイデアも彼によるものらしい。


 かなりのやり手の人物のようだ。マデリーンさんを見たときにはびびっと来たといってたが、おそらく宣伝効果のありそうなネタだと直感で嗅ぎ分けたのだろう。だが、マデリーンさんはもう撮影会はごめんだと思っている。適当にやり過ごして、そのやり手マネージャーと別れた。


 そして、テーマパークの出口で砲撃長とエドナさんとも別れ、我々夫婦も家路につく。


 車の中でマデリーンさんに今日のことを話しかけてみるが、マデリーンさん、すっかり寝ている。よほど疲れたようで、おまけにワインの入ってるから余計に寝てしまったようだ。


 会うたびに、どんどん関係が進んでるあの2人。このままさらにいい関係になることを私は願った。

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