#48 帰還へ
ついに期限の4ヶ月が経った。我々は明日、帰還の途につく。
今夜は、出発する我々をねぎらうパーティが催されることになった。
私とマデリーンさんは、いつもの社交界に参加する際の格好で参上した。
パーティは、首都の中心部に近いホテルの会場を貸し切って行われた。我々は、会場までお迎えの車で向かう。
車を降りて会場に入るとき、我々に走り寄る人がいた。
ああ、あれはリンさんだ。わざわざ来てくれたのだ。まさか最後の最後で会えるとは思わなかった。
どうやら、我々が帰還すると聞いて大急ぎで来たらしい。リンさんは、マデリーンさんのそばに来てこう話す。
「あの!魔女のマデリーンさん!私言いましたよ!勉強なんか嫌だって!」
「そうなの!?で、どうだった!?」
「さすがに飛び降りようとした後のことだったから、それほど怒られなかったの。でも、あんたの将来のためだって言ってきたから、言ってやったのよ。私の将来って、私が決めちゃいけないの?って。」
「うんうん、それで?」
「でね、私、言ったの。将来魔女のいる星に行くんだって。」
「えっ!?魔女の星!?」
「マデリーンさんのいる星だよ。地球760って星だっけ?私そこに行きたいって言ったの。そのためなら、勉強頑張れるって。」
「そうなの?でも、そんなにいいところじゃないわよ。」
「でもさ私、マデリーンさんに出会わなかったら多分死んでいたんだよ。だったら、いっそのことその魔女の星に行ってみたいなぁって。そうしないと、多分私は後悔する。そう考えたの。」
「そうなんだ。いいわよ!いつでも迎えてあげるわ!王国中の魔女を集めて、あなたを歓迎してあげる!」
「ありがとう!何年かかるかわからないけど、私、絶対に行くね!それまで待っててね!」
「わかったわ、いつでもいらっしゃい。王国最強の魔女がいつでも待っているわよ!」
そういってリンさんは帰っていった。
また一人、アイリスさんのような人を作ってしまったらしい。これでまた地球760が騒がしくなりそうだ。
会場に入ると、すでに我々の艦隊の人々が大勢いた。
目立つのはやはりあの2人、ローランド少佐とイレーネ公女だ。あのセレブ臭は、何人もかなわない。どこからでも神々しく見える。
所詮、我々はにわか男爵と元伯爵嬢、現役公爵の2人組にかなうはずなどない。
他にもロサさんやアルベルト少尉、サリアンナさんとロレンソ先輩、アリアンナさんにシェリフさん、そしてハイン少尉とロージィさんもいる。
「やあ、ハイン少尉。」
「あ、ダニエル大尉殿、お久しぶりです。」
「先日は大変だったね。」
「そうですね、いきなりおとり艦隊をやる羽目になりましたから、大変でした。」
「そうですよ~バンバン音が鳴り響いてて、私、泣きそうでしたよ~」
いや、そうでなくても泣いているだろう、ロージィさんは。
「じゃあさ、ロージィ。せっかくの立食パーティーだから、いろいろ食べよう。ピラフにピザにローストビーフにステーキにフライドポテトにサラダに、あとデザートには…」
「ええっ!?そんなにいっぺんに食べられないよぉ~」
絶対、ロージィさん泣かせて楽しんでるだろ、ハイン少尉。
「やあ、男爵殿。こんなところで何してるんだい?」
続いて現れたのは、お調子者のフレッド中尉だ。
「これはこれは騎士殿。ずいぶんとご機嫌だな。」
「当たり前だろ、俺に元気がなくなったときは、この世が暗黒に満ち溢れるときだ。」
そんなわけないだろう。お前が一人消えたところで、世界はいつも通りだ。
「あら、ダニエル男爵にマデリーンさん、ご無沙汰しております。」
アンリエットさんが現れた。
「あら、アンリエット、元気そうね。」
「おかげさまで、マデリーンさん。でも、この星にはクレープがないんですよ。信じられます?そんな星がまだあるなんて。」
いや、つい最近まで地球760にもなかっただろう。すっかりクレープが基準のお嬢様だな。
「そういえばフレッド。アンリエットさんとは戻ったら結婚するのか?」
「んんっ!?そういうことになってるねぇ!」
「…他人事みたいだな、うまくやってるのか?」
「うまくいってるよぉ!この間の戦闘で、戦場告白ってやつをやったのよ!いやあ、艦内がもりあがったねぇ。」
戦場告白って…お前すでに告白済みだろうが。
「そうなんですよ~フレッドったら突然、この戦闘でお前は死なない!なぜなら俺と結婚する運命だからだって、急に戦闘前の食堂で言い出すんですよ。恥ずかしいったらありゃしない…でもね、なんだかちょっと嬉しくて…」
すっかりこいつのペースに乗せられているな、アンリエットさん。行く末が心配だ。
「おや、ダニエル殿。先日の戦艦ニューフォーレイカーで会って以来だな。元気か?」
イレーネさんだ。この人、こういう場所ではびっくりするくらいお嬢様に見える。
「お久しぶりですね。そういえば、前回の戦闘ではどうだったんですか?」
「おお!よくぞ聞いてくれた!実は夫が大活躍でな!あのおとり作戦を立案し、我々の合同軍を見事勝利に導いた。あの凛々しい姿、ダニエル殿にも見せてやりたかったぞ!」
その凛々しい夫の無謀な作戦で、我々航空隊は結構苦労したんですよ。それこそ、この人たちに見せてやりたい。
「おお、貴族のお嬢様もいらっしゃるのお。」
「これはこれはシュウ殿。お久しぶりでございます。」
「いやあ、あんたらのおかげで、わしも月に行けたり、びっくりするような機械を見させてもらったり、ほんとに刺激的な毎日じゃったわ。明日、旅立ってしまうんじゃのお。ちょっと、寂しいな。」
「シュウさん、また地球760にでも遊びに来てください。大歓迎しますよ。」
「そうよ!王国の魔女をかき集めて、大歓迎会をやるわよ!」
「そりゃ楽しそうじゃの。わしももうすぐ引退じゃし、妻を連れていくかのお。」
「そうですよ、ぜひ来てください。」
シュウさんには本当にお世話になった。最初に出会ったときはどうなるかと思ったが、今こうして信頼しあえる仲になれた。
演壇では、この首都の知事さんがスピーチを始めた。この首都の郊外に宇宙港が建設されており、既に民間の交易もはじまりつつあるとの話があった。併設の街も作られており、地球627の人々が住み始めている。
この星には2つの勢力が覇権を争っていたが、この星域で戦闘も行われており、一致団結してこれに対抗せねばならないと考えるようになったようだ。今まさに和平への道を急ピッチですすめているとのこと。
地上での争いも多くが停戦したらしい。とはいっても、まだ小競り合いは続いているが、大規模な戦闘は行われなくなった。
つい4か月前までは、この星では互いに争い、宇宙人を恐れる人々ばかりだったが、今はすっかり変わってしまった。地球760では、まだ多くの国が惑星統一政府への参加をためらっており、宇宙人の存在を知らない人々も多くいる。2年も先行しているというのに、地球規模の国家同士の連携やメディアの発達がないため、地球769に追い越されてしまいそうだ。
そんな星の発展に、私自身が関われたことを誇りに思う。
さて、翌日。私は駆逐艦6707号艦に乗り込む。マデリーンさんと部屋で、モニター越しに出発を見守った。
「これより我が艦、6707号艦は、地球760に向け出発する。機関始動!両舷微速上昇!」
駆逐艦6707号艦は浮上し始めた。いつものように、高度4万メートルまで浮上したのち、大気圏を離脱する。
私とマデリーンさんは、静かにこの星を眺める。たった4か月の滞在だったが、本当にいろいろな出来事に遭遇した。
我々夫婦はこの星で、一度の交渉、一度の戦闘、そして一人の人命の救出に立ち会った。連盟側の人とも語り合えた。まずまずの成果ではなかろうか。
この成果をもって、私は地球760への帰還の途につく。




