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#45 おとり艦隊

シュウさん達と月や戦艦に行ってから、2週間ほどが過ぎた。


我々は衛星軌道上にて待機していた。交渉や探索といった任務は地球(アース)627がこなしており、もはや我々の出番はないのではと思われた。


だが、ここで緊急事態が発生する。


アステロイドベルトにいる地球(アース)627の艦隊主力から、敵艦隊出現の報がもたらされたのだ。


ただちに地球(アース)627の艦隊はアステロイドベルトに向かって出撃していく。地球(アース)401の300隻もついていった。


現在、我々は地球(アース)627艦隊の指揮下にいるが、それは探索と交渉に関する行動のみ。戦闘行動は含まれていない。


つまり、我々は敵艦隊出現でも出撃する義務はない。


が、我々にとっても敵である連盟艦隊が出現したとあっては、我々も出撃せざるを得ない。


で、我々は出撃したわけだが、ひとつだけ問題がある。


我々遠征艦隊の10隻に限った話だが、家族を乗せっぱなしなことだ。


もちろん、マデリーンさんも乗っている。身重のロサさんまでいる。


星に降ろす間も無かったので、そのまま連れてきてしまった。


10隻だけ残るという選択肢もあったのだが、


「我らは地球(アース)760の代表として乗っているのだ!それが敵を目の前に参加せぬとあっては末代までの恥!一刻も早く戦闘に参加するべきである!」


というイレーネ公女様のありがたい御決断により、マデリーンさんら非戦闘員まで戦闘に参加する羽目になってしまった。


「戦闘開始時、整備科は家族とともに食堂にて待機。我々パイロットも待機するが、出動がある可能性がある。その時は、モイラ少尉と、ロレンソ少尉に同乗していただくこととする。以上。」


パイロットと整備科のブリーフィングで、私はこう宣言しておいた。前回の会戦時はアルベルト少尉が乗っていたが、彼には身重のロサさんがいる。このため、サリアンナさんには申し訳ないが、今回はロレンソ先輩に同行をお願いすることにした。


もっとも、今回は出撃があるかどうかわからない。普通の艦隊戦では、航空機隊の出撃など滅多にない。砲撃による放射エネルギーによるノイズで、レーダーが使い物にならない事態でも起こらない限り、我々に出撃する機会はない。


我々の戦闘は、ただひたすら駆逐艦の主砲で射程ギリギリから撃ち合うだけ。それだけだ。航空機が戦闘に入り込む余地など、ない。


アステロイドベルトに到達まで、あと5時間と迫った。


現状では、我々300隻、そして地球(アース)760を出撃した地球(アース)627の1000隻がアステロイドベルトに向かっている。


おそらく、この1300隻は敵艦隊に捕捉されているだろう。なにせエンジンをふかしっぱなしだ。放射エネルギーで探知されているに決まっている。


が、艦隊主力9000隻は、アステロイドベルトの小惑星に紛れていて、まだ捕捉されていない。


我々から見て敵艦隊は艦隊主力のやや右側にいる。もし、敵艦隊をうまくアステロイドベルトに潜む9000隻の前に引きずり出せれば…


そう考えた人物がいる。


ローランド少佐だ。


彼の作戦はこうだ。


すでに捕捉されている1300隻で、おとりとして敵の目の前に出る。


おとりで敵艦隊をうまく艦隊主力の前に誘い込めれば、我々は一気に優位に立てる。


だが、たった1300隻でどうやって敵を誘うのか?そんな少数では、1万隻の艦隊は見向きもしてくれまい。


そこで、この1300隻を8000隻以上の艦隊に見せかける策を講じることとなった。


そこで、航空機隊の出撃がかかった。


この「おとり増量作戦」、やり方は単純だ。


哨戒機一機あたり、3つの小惑星を牽引させる。一隻あたり哨戒機はだいたい2機あるから、全部で2600機。それぞれが3つの小惑星引っ張ってこれば、3倍の7800隻の「船」が作れる。


言うのは簡単だが、それをいきなりこの戦場で、短時間でやれとおっしゃる。


まあ、上の考えることなんてそんなものだ。現場のことなんて分かっちゃいない。


だが、やるしかない。うまくいけば早く戦闘を終了させられて、多くの味方が救われる。


だが、おとりとなる我々には危険な作戦だ。一つ間違えれば、我々が殲滅されてしまう。


しかし、マデリーンさんやロサさん、いや、その他の大勢の地球(アース)760の非戦闘員をも抱えたまま、我々はおとり作戦を決行することになってしまった。


我々の艦隊は、艦隊主力よりやや手前で、アステロイドベルトに突入する。


ここで我々航空機隊は発艦。手頃な小惑星を1機あたり3つ集めるのが目的だ。


…で、発艦時にまたトラブルだ。


「やだやだ!私も行く!」

「だめだって!今度のは戦闘なんだよ?危ないって!」

「危ないなら、なおのこと行く!あんただけ死んだら、私はどうすればいいのよ!」


マデリーンさんが哨戒機に乗ると言ってきかない。困ったものだ、これは軍事行動、前回の時とは違う。


「いいんじゃないですか?大尉殿。」

「モイラ少尉!これは軍事行動だ!彼女を乗せる理由がない!」

「いいんじゃないですか?理由なんて。今最優先しなくてはならないことは、発艦することです。我々には、時間がないんですよ。それに、魔女なら小惑星探しに役立つかもしれませんよ。我々よりもマデリーンさんは目がいいですし。」


そう言われて、私は渋々マデリーンさんを乗せることにした。


すでに艦内には船外服の着用命令が出ていた。我々も全員、船外服を着て乗機する。


「タコヤキよりクレープ!直ちに発艦する!」


私の機体は発進した。制限時間はあと30分ほど。その間に、手頃な大きさの小惑星を集めないといけない。


ステルス塗装を施した駆逐艦は、レーダー上ではだいたい50メートルほどの小惑星と同じくらいに見える。だから、集めるのは20~70メートルほどの小惑星を3個。これらを見つけて、アンカーを撃ち込み、牽引する。


ところが発艦が遅れたため、あらかたちょうどいいサイズの小惑星は持っていかれていた。私の周辺では数機が血眼になって小惑星探しをしている状態だ。


大きすぎるものはたくさんあるのだが、お目当のサイズはなかなかない。たくさんの中から手頃なサイズの小惑星を探すということが、こんなに大変だとは思わなかった。


ちょうどいいサイズのを見つけた、と思ったら、別の機がアンカーを撃ち込んできた。


「ああ!もう!私達のやつだったのにぃ!」


マデリーンさんも怒り狂っている。が、こういうものは早い者勝ち。残念だが、こっちの負けだ。


時間ばかりが過ぎる。あと10分で集めないといけないのに、我々の機体はまだ一つも牽引していない。


「右側の、あのでっかいやつ!あれに向かって飛んで!」

「どうしたの、マデリーンさん?」

「いいから!」


なにかを見つけたらしいが、レーダーには100メートル以上の大きな小惑星が一つあるだけ。ちょっとこれは大き過ぎる。


が、マデリーンさんが指し示す通り飛んで行くと、その小惑星はよく見ると3つに割れていた。


よくこんなのを見つけたものだ。さすがは魔女、目がいい。土壇場で、私の機は目的の小惑星を探し当てた。


この3つの小惑星を牽引する。いよいよ作戦開始だ。


1300隻と共に、我々のおとり艦隊はアステロイドベルトを出た。


敵艦隊はあと200万キロまで迫っていた。その間、我々から140万キロ先に艦隊主力がいる。


ぎりぎりまで潜んでいるが、もし艦隊主力の射程圏外を通り過ぎてアステロイドベルトを通過しようとしたら、正体をバラして追撃に入らざるを得なくなる。


そうなる前に、我々おとり艦隊に引き寄せて、敵艦隊をこちらの艦隊の前におびき寄せる。


数の上では、我々は約8000隻の艦隊に見える。おとりと悟られることがないよう、前進して敵艦隊を追尾する。


だが、あまり突進しすぎて、敵艦隊から砲撃を受けたらひとたまりもない。ただの小惑星と哨戒機がほとんど。しかし、だからといって減速・後退すると、今度はおとりであること疑われてしまう。強気な行動を取らざるを得ない。


我々おとり艦隊が敵艦隊の射程に入る前に、地球(アース)627の主力9000隻が敵側面を撃ってくれれば、我々は助かる。


だが、敵はなかなかこっちに動かない。依然として、地球(アース)769方面に進軍中。おとり作戦は失敗か?


我々はさらに前進する。そろそろ回頭してもらわないと、味方の艦隊を通り過ぎてしまう。


「いったい、どうなってんのよ!?上手くいってるの?」

「いや…まだ分からない。敵はこっちに向かってこないんだ。」

「ああ!もう!じれったいわね!私が行っておびき寄せてこようか?」


魔女が1人動いたくらいじゃ、全く動じないだろう。相手は1万隻もの艦隊。無数のゾウの群れに、アリが一匹飛び込むようなもの。全く気づいてもらえないだろう。


もうダメかと思われたその時、敵艦隊が一斉に回頭してきた。


アステロイドベルトすれすれにこっちへ向かってきた。どうやら、アステロイドベルトを背後にして戦いつもりらしい。その方がいざという時に小惑星の影に逃げ込めるため、有利になる。


だがその小惑星には、すでに味方の9000隻の艦隊が潜んでいることを、彼らはまだ知らない。


こっちに接近してくる敵艦隊。我々はさらに前進する。


だが、我々は少し前進し過ぎた。


すでに味方の艦隊がいる領域の真ん前に達していた。敵艦隊より、我々の方が先に味方艦隊の射程内に入ってしまっている。


敵艦隊まではあと40万キロ。もはや、このまま前進を続けるしかないため、1300隻だけで砲撃戦に突入するのは避けられない。


ここで、我々哨戒機に帰還命令が出た。小惑星を切り離し、直ちに帰還せよと言う。


哨戒機では、砲撃に対して無力だ。もはや敵の誘い込みに成功し、これ以上駆逐艦の外にいても危険だと判断された。私は直ちに帰還する。


駆逐艦6707号艦に到着した。格納庫に入ると、敵艦隊までの距離が出てきた。


我々はすでに味方の艦隊がいる空域を3万キロほど追い越しており、敵艦隊までの距離は31万キロまで迫っていた。


このままでは、1300隻対1万隻の砲撃戦が始まる。味方の艦隊の動きはない。まだ、小惑星帯に潜んでいる。


「敵艦隊まで30万キロ!射程に入ります!」

「砲撃戦用意!」


艦内放送で、いよいよ戦闘開始が告げられた。


すでに敵は我々の偽装を見破っている頃だ。射程に入ったということは、同時に目視可能圏の入ったことになる。


「砲撃開始!」

「撃ち方、始め!」


艦長の号令と、砲撃長の声が放送で響いてくる。


我々は食堂に向かっていた。艦内に凄まじい轟音が鳴り響き、振動がビリビリと伝わってくる。


「ロ…ロレンソ~!」


おろおろしながら走ってくる人がいる。サリアンナさんだ。


「サリアンナ!」

「もぉ~、いったい何よ!この凄い音は!?怖い!助けて~!」


もはや錯乱状態だ。ロレンソ少尉はサリアンナさんを抱きしめる。


マデリーンさんはまだ立っていられるようだ。おろおろするサリアンナさんを見て、こう言ってのけた。


「だらしないわねぇ!これくらいのことでぎゃあぎゃあ騒いでどうすんのよ!?私達は王国の魔女!これしきのことで…」


と演説している最中に、突然ギギィーッと艦内にヤスリ同士をこすりつけたような音が鳴り響く。


「きゃあ~っ!」


さすがのマデリーンさんもびっくりだ。私にしがみついてきた。


「…なんなのよ、今の不愉快な音は…」

「ああ、あれは敵の砲撃がこの艦のバリアに接触したんだよ。」


砲撃は続いている。発射時の音と振動が時折伝わってくる。しかし、ここでは状況がよくわからない。


ロレンソ少尉にサリアンナさん、そして私とマデリーンさんは食堂に向かった。


そこはいつも以上に人が多い。よく考えたら、家族同伴だ。もはや席が溢れている。


テレビモニターを見た。そこに戦況が示されていた。


それを見る限りでは、最初の砲撃で偽装艦に使った小惑星のほとんどが破壊されたようだ。今は1300隻対1万隻の砲撃戦となっている。


この1300隻の艦隊は後退しつつ攻撃をしていた。このまま前進しても勝ち目はない。


だが、味方艦隊はまだ3万キロも後ろのアステロイドベルトに潜んでいる。まだ敵艦隊は射程外だ。このまま、あと3万キロも1万隻の攻撃に耐えながら、後退するのか!?


ロサさんがいた。アルベルト少尉にしがみついているが、すでに覚悟していたのか、意外と冷静そうだ。


サリアンナさんはもうロレンソ少尉にしがみついて離れそうにない。がっしり胴体にしがみついており、ロレンソ少尉がその背中をさすっている。


アリアンナさんはというと、シェリフ交渉官の腕にしがみついている。サリアンナさんほどではないが、いつもより動揺しているのが見てとれる。


エドナさんがいた。同じく砲撃科に夫がいるモイラ少尉と一緒だ。だがこの人、この砲撃と着弾時の衝撃音がするたびに笑みを浮かべている気がする。


エリザさんは、夫のバーナルド中尉と一緒に手をつないで立っていた。エリザさん、意外と動じていない。やはり修羅場を経験済みだからだろうか?


で、マデリーンさんはというと、私の左腕に、まるでアスパラガスのベーコン巻きのベーコンにでもなったかのように巻き付いて離れない。マデリーンさんは一度砲撃訓練に付き合ったことがあり、砲撃音そのものには慣れているが、着弾時の衝撃音は初体験。初めて聞くその音に、恐怖したようだ。


こんな状況で、5分経過した。


たった5分ではあるが、我々にとっては非常に長い時に感じられた。が、その5分で、我々の状況が一変する。


「アステロイドベルトより発砲!味方の艦隊主力が、砲撃を開始した模様!」


なんと、もう敵艦隊を味方の9000隻の前に誘い込んだようだ。正確には、味方の艦隊が小惑星帯の中を密かに移動して、敵艦隊の真横に着いたようだ。


こうなると形勢は一気に逆転。敵艦隊は側面をとられ、大混乱に陥ったようだ。


艦内放送で戦況が伝えられると、急に歓声が沸き起こる。あちこちで抱き合うカップルがいる。いや、まだ勝利が確定したわけではないんだが。


ただ、時折聞こえてきた、あの敵の砲撃をバリアが受け止める際の不快な音は、ぱたっと止んだ。こちらの砲撃音だけが響く。それだけ敵の砲撃が少なくなったということのようだ。


それを受けて、マデリーンさんは徐々に私の腕から離れてきた。


「あれ?あの嫌な音がしなくなった…」

「形勢が逆転したらしいからね。敵の攻撃は随分と減ったと思うよ。」

「そ…そうなの?よかった…」


やっとマデリーンさんが腕から離れる。


そのままマデリーンさんはロサさんのところに駆け寄る。やっぱり、ロサさんの身体の状態が状態だけに、心配だったようだ。


心配そうな顔をするマデリーンさんに、にこっと微笑んでみせるロサさん。まだ砲撃は続いており、とても安心できる状況ではないのだが、ロサさんなりにマデリーンさんを気遣っているようだ。


それから砲撃は30分ほど続いたが、ついに砲撃中止の命令が艦内に響いた。


砲撃音が止んで、艦内は急にいつものように静かになった。


戦闘は終わったようだ。警戒態勢はまだ解かれていないが、モニター上のレーダーサイト画像を見る限り、敵艦隊は撤退を始めたようだ。


さらに30分すると、船外服着用解除命令が出た。皆さん、暑苦しい船外服を脱ぎ始める。


ただ、エドナさんだけは素っ裸の状態で船外服を着ていたようで、その場で船外服を脱ごうとするエドナさんを、モイラ少尉が慌てて部屋に連れて行く一幕もあった。なんだろうね?この人。


2時間後には、敵艦隊は警戒ゾーンの外側へと撤退していった。警戒態勢は解かれる。


ここで、お互いの損害が発表された。


まず味方。撃沈170隻、損傷12隻。ほぼ全て1300隻の中艦隊の艦艇だ。


地球(アース)401の300隻のうち、沈んだのは5隻。比較的損害が軽微なのは、最近だけで2度も戦闘を経験しているからだろうか?


一方、敵の連盟艦隊は、撃沈1000隻以上。側面からの不意打ちで、損害が増したらしい。


遠征艦隊から来た10隻は、幸いにも全て生き延びることができた。6701号艦がアンテナを損傷した程度で済んでいる。


我々の側で2万人近く、敵に至っては10万人超の死者が出たことになる。毎回思うのだが、いったいこの戦闘で何が得られたのであろうか?


ともかく、こうして私の人生3度目の戦闘は終わった。

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