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#4 ショッピングモールの魔女と魔王

 翌朝、私とマデリーンさんはいつもよりも遅い目覚めだった。


 昨晩の帝都からの帰り道、車でぐっすり寝ていたマデリーンさんだが、家に着いてからは急に元気になり、買ってきた帝都ワインを1本飲み干してしまった。私もそろって夜更かししてしまったため、朝起きるのがすっかり遅くなった。


 朝起きると、食卓にはトーストとベーコンエッグが2人分並んでいる。自動調理ロボットはいつも通り朝7時に作ってくれるのだが、朝10時過ぎまで寝ていたため、3時間も放置された朝食はすっかり冷めている。


 この冷めた朝食を前に途方に暮れていると、マデリーンさんも目覚める。ベッドの方から、声がした。


「あー、帝都チキンが食べたい……」


 よくまあ朝からそんなくどいものを食べたくなるものだ、この魔女は。


 とりあえず、冷めてしまった朝食を電子レンジで温める。食卓に並べたところで、マデリーンさんはようやく布団から出てくる。


 2人でくちゃくちゃと朝食を食べ始める。まあ、昨日食べたあの帝都チキンにはかなわないが、これはこれで美味い。


 だが、もう我が家には食材がない。つまり、今日買い出しに行かないと、明日以降は食糧危機に陥ることを意味していた。


 ということで、この街のショッピングモールに出かけることにした。


 朝食後に、車に乗り込んだ2人。ショッピングモール自体は我が家からすぐそばだが、今日は大量に食材を買い込む予定だから、車でないと運びきれない。自動運転で、ショッピングモールへと向かう。


 ちょうど話題作が公開されたばかりなので、ついでに映画でも観に行こうという話になった。その話題作というのは、魔王と勇者が戦うシリーズものの最新作。で、どういうわけかマデリーンさんはこの魔王シリーズが大好きだ。過去16作を自分のスマホで観て、この17作目は映画館で観たいと言っていた。


 魔女が魔王ものの映画が大好きというのも、決して変ではないのだろうが、なんだか違和感を感じてしまう。何と表現すればいいのだろうか?架空のキャラクターが架空ものを見に行くような、そういう違和感とでもいえばいいだろうか。


 などという私自身もつい1年前まで、まさか魔女を奥さんにするなどとは想像すらしていなかった。


 現在、宇宙には人類の生存する星が全部で760以上ある。


 そのうち、我々の属する宇宙統一連合に属する惑星は400ほど。その中に「魔法」が存在する惑星は、たったの5つしかない。


 おそらく敵対する陣営である銀河解放連盟の方を合わせても、10個ほどしかないのではないか?それくらい魔法というものが存在する惑星は珍しいのだ。


 その魔女のいるここ地球(アース)760でも、魔女の数は少ない。女性の100人に1人ほどの割合で存在し、そこから空を飛べる一等魔女は更に5人に1人の割合となる。


 魔女から魔女の子供が生まれるわけではないらしい。ごく普通の人から突然、魔女が生まれる方が多いという。実際、マデリーンさんの両親も兄弟も普通の人だ。彼女だけ魔女として生まれたらしい。


 そういえば、私はマデリーンさんの家族に会ったことがない。やはり魔女という存在は、家族からも忌み嫌われているのだろうか?そのあたりの話を、まだマデリーンさんに確認したことはない。当たり前だが、とても聞きづらい話だ。


 しかし、今や宇宙船が飛び交う時代。魔女でなくても空を飛べるようになった。そんな差別、いずれ消滅してしまうことだろう。いや、消滅するべきだ。


 などと考えていると、目的地に到着する。


 この街にある最も大きな複合商業施設、ショッピングモールだ。


 地上4階建、建物内面積は10万平方メートルを超える。スーパーマーケットに飲食店街、多くの専門店に映画館やスポーツ施設まであり、ここにくれば一通りのものが揃う。


 今日は日曜日。この宇宙港周辺の多くの企業や教練施設は休日であるため、たくさんの人がこのショッピングモールに集まっていた。


 ところで、この施設にはイベント用の大きなホールがある。


 ここではロサさんのコスプレショーが行われることが多い。アニメで人気の魔法少女の姿をしたロサさんが、実際にこのイベントホールで舞いあがる。アニメのように攻撃魔法は使えないが、空を飛ぶところだけは本物だ。この星でもテレビが普及し始めて、アニメを見た子供がたくさん集まってくるようだ。


 いや、正確には子供だけではなく、大人のファンも多い。むしろ、大人の方が多いかもしれない。最近では、ロサさんのコスプレの噂を聞きつけた帝国のアニメファンまで集まってくるため、すごい人数になってしまうようだ。


 元々はアニメ専門店の前だけでひっそりとやってただけなのに、いつのまにか大きなイベントにまで成長してしまった。ロサさんも、いつまで続けるのだろうか?


 だが本物の魔女が魔法少女のコスプレするというのは、そうそう見られるものでもない。1万4千光年に広がる我々の宇宙でも、そんなものが見られるのはここくらいのものだろう。小柄なロサさんはちょうどキャラと雰囲気がかぶっていて、より一層その人気を集めている。人が集まるわけだ。


 だが、ロサさんは人妻だ。アルベルト少尉という整備科所属の旦那がいる。まさにこのアニメの道に誘い込んだ張本人が、ロサさんの旦那である。


 こういっては悪いが、見るからにオタクなアルベルト少尉。そんな少尉がロサさんの心をつかんでしまった。コスプレイベントに集まる人々は、そのことを知っているのだろうか?ちなみにイベント中は、アルベルト少尉はロサさんのサポートに回り、アイテムをこっそり手渡ししたり、照明を調整したりしている。こういうところだけはまめな旦那だ。


 だが、コスプレイベントはまだ行われていない。別の用事を済ませることにした。


 最近のマデリーンさんとの会話で、そろそろソファーを買おうかという話になっていた。我が家にはまだ、ソファーがない。床にマットをひいただけで、リビングには物がほとんど置かれていない。


 あまりものを置きたくない主義な2人なのだが、ソファーくらいは買おうかという話になった。そこで、家具が売られているコーナーに向かう。


 その家具売り場で、あの砲撃長に出会う。横には、エドナさんもいる。


 エドナさん、砲撃長に服を買ってもらったようだ。おかげで、昨日のあの姿とうって変わって、見違えるように綺麗になった。


「あれ?砲撃長殿、こんなところで何してるんですか?」

「えっ!?ああ、ダニエル中尉か…いやその、エドナの部屋の家具を揃えようと思って…」


 たかが家具の話をするのに、なぜか動揺している。一体どうしたというのか?


「砲撃長殿?一体どうしたんです?なんだか動揺してません?」

「いや、なんでもない。昨日の疲れでも出たんだろう。気にするな。」


 だが、この場所はダブルベッドが置いてある場所だ。ははーん、なんだ、そういうことか。


 エドナさんはマデリーンさんと話している。にこやかな顔をして喋る2人。あまり性格が合いそうな2人だとは思わないが、マデリーンさんはわりと人付き合いが得意。エドナさんに合わせて話をしているようだ。


「それにしてもエドナさん、よく笑うようになりましたね。」

「ああ、昨日まではあまりいい生活をしていなかったからな。自由に外に出られて、まともなものが食べられる。たったそれだけのことが、幸せだと感じてるみたいだよ。」


 あまり昔のことを聞いていないけど、今まで抑圧された生活を送り続けてたんだろうな、きっと。


「だが、アメーバか何かじゃあるまいし、人間はただ動き回って、飯を食うだけの存在じゃない。それ以外の何かに打ち込める自由があるってことを、エドナに教えてあげないといけないのかなって思ってるのよ、俺は。」


 砲撃長なりにいろいろとお考えのようだ。へぇ~、なるほど、その答えがダブルベッドというわけなのか。


「でも砲撃長殿、あんまりあれこれと彼女に言ってしまうと、プレッシャーになりかねないですよ。いいんじゃないですか、当面は美味しいものを食べて、好きなところに行くだけでも。そのうち、エドナさんにもやりたいことが見つかるんじゃないですか?」

「そ……そうか、そういうものなのか?この手のことは、お前の方が先輩だな。分かった、しばらくは焦らず様子を見ることにするよ。」


 そう言って、我々は砲撃長とエドナさんと別れる。


「さてマデリーンさん、我々も本来の目的である、ソファー選びに向かいますか。」

「了解!」


 そこからソファー売り場に行く。たくさんのソファーが売っていた。


 ここで、我々の間にバトルが始まる。


 マデリーンさんは2人掛けのものを選ぼうとする、一方私は1人用の小さなソファーを提案。


「あの部屋に2人用なんて狭いよ、きっと。1人用ならちょうどいいって。」


 一方のマデリーンさんは、1人用なんて意味がないという。


「…あんたと一緒に座りたいのよ。分かるでしょう?」


 なんとまあ、可愛いことを言ってくれる魔女だ。この一言で、私はマデリーンさんの意見に賛同する。


 ソファーはその日の夕方に届けられることになった。我々はそのまま、中央のホールに向かう。


 もうコスプレショーが始まっていた。そこは1階から4階まで吹き抜けとなっていて、その吹き抜け周辺には大勢の人が集まっている。


 それにしてもこれ全部、あのアニメのファンなのか?人だかりにつられた一般客もいるのだろうが、すごい人数だ。


 我々がいるのは3階だが、この階にも人は多くてよく見えない。何とか人混みをかき分けて、前の方に向かう。


 すると、とんがり帽子の魔法少女が飛んできたのが見えた。ロサさんだ。いつもは人見知りなロサさんも、この衣装を着て空に舞うと、途端に別人に変わる。


「みんなーっ!今日も盛り上がってるーっ!?じゃあ、行くわよ!」


 ロサさんと言えば、初対面の人の前では言葉が出ないほどの人見知りな人だった。今は多少ましになったが、それでも普段はあそこまで積極的ではない。まるでロサさんそっくりな別人が、空を舞っているのかと錯覚する。


 さて、ロサさんは4階のあたりまで飛んでいく。釣り糸もなしで空中を舞う姿は、この星の住人でもあまり見られない光景だろう。魔女というのは一定数存在するが、これまではどちらかといえば差別の対象だったため、人前でおおっぴらに飛んでる姿をあらわすことはほとんどない。


 そんなコスプレショーは、いつも通り滞りなく進むはずだった。が、突然、アクシデントが起きる。


 ホールの中央には、上から垂れ幕が下がっている。今日2人で見ようといっていた、映画の垂れ幕だ。


 それが突然、何かの拍子に外れたのだ。垂れ幕を固定していた2箇所のワイヤーの内、1箇所が外れたらしい。


 もう1箇所からもぎしぎしとやばそうな音を立てて、今にも切れそうだ。たまたまその横を飛んでいたロサさん。思わず幕の本体をつかんでしまった。


 その直後、もう1箇所のワイヤーも切れる。あまり腕力がなさそうなロサさんの腕に、結構な重さの垂れ幕がのしかかる。


 この垂れ幕、ただの垂れ幕ではない。両面とも動画を表示できる薄いOLEDの垂れ幕だ。だから、ただの布の幕よりもさらに重い。


 1階の広場には大勢の人がいる。こんなものが落ちたら、当然けが人が出るだろう。ロサさんは必死に持つが、あまり持ちそうにない。


「ロサ!今助けるから、絶対に離しちゃダメよ!」


 突然、マデリーンさんがロサさんに向かって叫ぶ。


 何をするのかと思ったら、仕切り用に使われていた、2つの赤いコーンの上に取り付けるコーンバーを、マデリーンさんは手に取る。これにまたがって、マデリーンさんはロサさんの元に飛んでいった。


 そしてマデリーンさんは空中で垂れ幕のもう一方をつかむ。そのまま2人でこの垂れ幕を持ったまま、ゆっくりと下に降りていった。


 突然現れた2人目の魔女。このサプライズな出来事に、会場は大いに盛り上がる。もっとも、マデリーンさんはごく普通のカジュアルな格好で、しかも乗っているのはホウキではなくコーンバー。どう見ても魔法少女ではないのだが、観客にとってはもはやどうでもいいらしい。


 ショーはこの時点で中止となったが、思わぬものを見られた観客は満足したようだ。


 私は急いで1階に降りる。


 まだすごい人だかりだ。それはそうだろう、思わぬ魔女の登場で、皆集まっている。


 だが、それは私の妻だ。勝手に魔法少女にされては困る。人混みをかき分けて、私はマデリーンさんの元にたどり着く。


 見ると、ロサさんとマデリーンさんは並んで写真を撮られていた。2人揃って、笑顔でポーズをとっている。


 ダメだ……すっかり魔法少女気取りだぞ、マデリーンさん。コーンバー片手に、その撮影会に応じている。


 そこに、このショッピングモールの責任者っぽい人が現れた。垂れ幕落下と聞きつけて、急いできたようだ。私もその場に行く。


 どうやら垂れ幕の根元が錆びていて、そこから破断したようだ。その責任者はそれを見て平謝りだった。


 ここにもう1人の魔女がいたのが幸いだった。ロサさん一人では支えきれず、下の観客に落下して危うくけが人が出たのは間違いない。


「いやあ、ほんと助かりました。ロサさんもよくあそこであの垂れ幕をキャッチできたものです。さらにあなたがいらっしゃらなかったら、大変なことになるところでした。そしてマデリーンさん、あなたが現れたのが、本当に幸いでした。」


 で、何かお礼がしたいと言われたが、急に言われても思いつかない。が、ちょうどこの垂れ幕にある映画を観に行くんですよと言ったら、その責任者は2人分の映画のタダ券をくれた。


 それにしても、ショーが終わるといつもの人見知りのロサさんに戻ってしまった。なんだかもじもじしてあまりしゃべりたがらない。どうしてこの人は、こうも極端なのだろうか?


 ということで、あとのことはその場にいたアルベルト少尉が処理してくれた。


 ところで、そのイベントのスタッフからマデリーンさんは誘われている。2人目の魔法少女をやらないかと。だが、そのお誘いをやんわりと断って、我々夫婦はその場を去った。


 映画館に行った。我々の見たい映画が始まるまで、あと20分ほど。先ほどもらったタダ券を渡し、映画館の中に入る。


 はじまるまでしばらく間があったので、売店に向かう。映画館といえばポップコーン。地球(アース)001で始まったこの風習、数百年も続くこの奇妙な伝統に疑問を抱きつつ、我々もついつい従ってしまう。


 映画館に入る途中、先ほどのイベントでマデリーンさんの活躍を見ていた人が現れて、写真を求められる。快く応じるマデリーンさん。ちょっとした人気者になってしまった。


 映画が始まった。この魔王シリーズに登場する武器は、魔法を除けば剣に盾、そして弓矢と、ほぼこの星のつい1年前までに使われていたものとそっくりだ。お城も少々カラフルなことをの除けば、ほとんどこの星のものと同じような石造りの古風なもの。そんなところに、魔王軍が攻めてくる。


 画面いっぱいに広がる不気味な顔をしたゴブリンやオーク、そしてドラゴンの大群。なすすべもなく敗れる人間の軍勢。


 それを、なぜかたった数人の勇者の集団が現れてそれらを退け、ついには魔王城まで攻め入る。そして、紆余曲折の末に魔王を破り、人類は救われる……


 このシリーズ、毎度このパターンだ。ただ、戦闘シーンの迫力は格別で、これが多くの人々を魅了している。映画館では実物大の立体映像で見せられるため、その迫力がさらに増す。


 目の前にドラゴンや魔王が迫ってきたときは、さすがのマデリーンさんも悲痛な顔をして私にしがみついてきた。実態があるわけではないと分かっていても、映画慣れしていないマデリーンさんにとっては、やはり怖いらしい。


 映画が終わって外に出る。マデリーンさんは不安げな表情だ。


「あんなのに攻められたら、さすがの私でも飛んでいけないわ……魔王に書簡を持っていけとか言われたらどうしよう……」


 変な心配をするマデリーンさんだな。だが、あんなのが攻めてくるというシチュエーションがそもそもありえないので大丈夫だろう。700以上ある惑星で、魔王が発見されたという話は今のところ聞いたことがない。


「あの豚みたいな兵士や、空飛ぶトカゲなんて攻めてきたら、王都は大丈夫かしら?」


 なかなか不安が解消されないようなので、私が一言忠告する。


「マデリーンさん、あんなのが攻めてきたって、我々駐留艦隊がうち滅ぼしてやります。どうぞ、御心配なさらずに。」

「そんなこと言ったってあんた、剣も使えないじゃないの。どうやって戦うのよ!?」

「大丈夫、私は勇者ダニエル。剣が使えなかろうが、いざとなれば哨戒機を操り、魔王城に攻め入って、あの首を打ち取ってご覧にいれましょう。」

「じゃあ、私はその横にいる魔法使いってことでどう!?」


 もうノリノリだ。でも本当に魔王の軍勢なんてものが現れたら、駆逐艦の主砲で一斉砲撃するだけだろう。いくら魔王でも、我々の高エネルギービーム砲には敵うまい。


 さて、映画も楽しんだし、あとは食料品を買って帰ろうということになった。スーパーマーケット領域に向かう。


 相変わらず、ここの食材コーナーは品が多い。最近は王都から来る客も多く、余計に品を充実させているようだ。


 マデリーンさんはひき肉を大量に買い込む。ハンバーグ用だ。パスタも外せない。油断しているとマデリーンさんは野菜をスルーするので、私が野菜類をかごに放り込んでいく。


「私、パプリカは赤いのじゃないと嫌だ!」


 いちいちうるさい妻だな。赤でも黄色でもオレンジでも、味はたいして変わらないだろうに。


 以前はレンジで簡単に作れるリゾットやパスタといったレトルト食品が好きだったが、自動調理器を買ってからというもの、食材にこだわるようになった。


 単に自分で作る手間がなくなったとたんに贅沢になったというところなのだろうが、味気ないレトルト食品よりは、機械作りとはいえ普通の料理の方がいいらしい。


 ハーブを売っているコーナーに来た。そこに並んだ草を見ていたら、ふと気になったことがあった。


 そういえばうちの魔女って、ツボに毒草やらカラフルな薬品やらを入れてこねくり回すという、魔女にありがちな怪しい儀式をすることがないよな。そういう伝統って、ここの魔女にもあるんだろうか?


 そこでマデリーンさんに尋ねてみると、


「はあ?儀式?なにそれ。」

「いや、魔力を強めるために、なにやらおまじないをやるなんてこと、しないの。」

「そうねえ、魔力を上げたかったら、まず美味しいものを食べること。それくらいかしら。」


 特にハンバーグがいいらしいと、マデリーンさんはおっしゃる。好きな食べ物をあげただけだが、要するにああいう魔女っぽい儀式は、ここではやらないらしい。


 車の後席に大量の食材を搭載して帰路につく。家までは数分だが、ちょうど帰宅ラッシュにかかって、ショッピングモールの敷地から出るだけで10分以上もかかってしまった。


 やっと家に着くと、ちょうどソファーが届いたところだった。慌てて車を停めて、リビングに運んでもらう。


 今日の買い物で買った食材を調理用ロボットの前に置く。こいつは食材をつまみながら種類を記録し、冷蔵庫などにしまってくれる。すると食材に合わせて、横のモニターに推奨レシピが表示される。そこから料理を選んで時間をセットすれば、あとは自動で料理を作ってくれる。実に便利な機械だ。


 だが、買ってきた食材に偏りがあるせいだろう、推奨レシピは○○ハンバーグばかり出てくる。どんだけハンバーグを勧めるんだ、このロボットは。やはりひき肉を買いすぎたらしい。


 買ってきたばかりのソファーに2人で座ってみた。座り心地は悪くない。テレビも2人で見ることができる。マデリーンさんの主張する通り、2人用で正解だったみたいだ。


 こうして今日は暮れていく。明日は月曜日だが、私の休日はまだ3日ある。さて、何をして過ごそうか?

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