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#31 上昇専門と推進専門

銀色の髪に、大きなホウキを抱えた女の子。


この店の前ということを考慮すると、やはりどう考えても魔女だろう。


ちょうどアンリエットさんとペネローザさんが、お互いの話をし始めた時だった。


いそいそとそのお店に入ってきたそのホウキ少女。ただ、狭い店内は、マデリーンさん、ミリアさんを囲む一般のお客さんによって埋め尽くされていた。


「あの…」


とその銀髪の少女は呼びかけるが、シャロンさんに届かない。仕方がないので、私が声をかける。


「ここのお店にご用です?」

「そう…」

「ええと、ホウキを持ってるということは、もしかして…」

「そう、私は一等魔女。名前はアウレーナ。21歳。」

「ええっ!?マデリーンさんと同い年!?」


思わず叫んでしまった。外観はどう見ても15、6歳にしか見えない。


私の叫び声を聞いて、シャロンさんがやってくる。


「あ!すいません!気がつかなくて…ええと、いらっしゃいませ!あの、どういったものをお探しですか?」

「私、前に飛びたいの!」

「はい!?」


突然意味不明なことを言う。前に飛ぶ?なんのこっちゃ。


「どうしたの?」


シャロンさんの声で、マデリーンさんとロサさん、ミリアさんも集まって来た。


「ええと…なんていったっけ、アウレーナさんと言う一等魔女さんらしいんだけど…」

「ええ!?一等魔女!?すごい!空飛べるんですか!?」


シャロンさんは興奮気味だが、ここには今、空を飛べない魔女が2人いるんです。ご配慮願えませんかね。


しかし、今日だけで6人目の魔女が現れた。シャロンさんが興奮するのも無理はない。私にとっても8人目の知り合い魔女となる。


「マデリーン様のお知り合いですか?」

「いいや、知らない。ねえ、あんた。どこから来たの?」

「私は帝国の南側の山向こうの街から来た。ここに来れば、魔女を大事にしてくれると聞いて、はるばるやってきたのだ。」

「ふうん。そうなの。」

「この街にたどり着いて、どこに行けばいいかと尋ねたら、ここに魔女の道具を売ってる店があると言われて来たのだ。」

「ふうん…で、あんた、一等魔女ってことは、飛べるの?」

「飛ぶことはできる。だが、役に立たない飛び方しかできない。」

「役に立たない?どういうこと?」

「見れば分かる。」


そういうと、アウレーナさんはホウキにまたがった。


ふわりと浮かぶ。そのままショッピングモールの天井近くまで浮き上がった。


なんだ、ちゃんと飛べるじゃないか。そう思っていたが、どうも様子がおかしい。


アウレーナさん、うんうんと顔を真っ赤にして力んでいる。何をしているのだろうか?


「…あんたまさか、前に進めないの?」


マデリーンさんがぼそっとつぶやくように聞く。


「…そう、全く前に進めない。このまま宙に浮いてるだけ。」


ゆっくり降りてくるアウレーナさん。


「浮かぶだけなら、一日中でも浮かんでられる。だが、前に進めないから、何もできない。」


つまり、最大速力0キロの魔女ということになる。つまり、地上最遅の魔女。マデリーンさんとは真逆だ。


「…だから、16の時に家を出て以来、ずっと帝国の奥地でロヌギ草だけを食べて生きていくだけの生活をしている。でも、私だって、何か人の役に立つことをやりたい…」


ホウキを握りしめて語るアウレーナさん。何もせず、ただ生きていくだけの生活なんて、なんのために生きているのかわからないという気持ち、分からないでもない…いや、ちょっと待った。16で家を出た!?


「あの、アウレーナさんは、16歳で家を出ちゃったんですか!?」

「そうだ。別に普通だろ。」

「何言ってんの、当たり前じゃないのよ。」


アウレーナさんだけでなく、マデリーンさんにまで言われてしまった。ええ?この星では、16歳で家を出るのが普通なのか?


「…でも、王都を見てても16歳以上で家にいる人、たくさんいるよ?それほんと?」

「何言ってるんだ、魔女だけだ。家を出るのは。」

「はあ?魔女だけ??なんで?」

「いや、そういうことになっている。」

「そうよ、そういうものよ。」


2人揃って、何を当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりだ。でも、なんで魔女だけ16歳で家を出なきゃいけないのか?全くもって、合理的な説明がない。


「じゃあ普通の人はどうしてるの?」

「さあ、16で出る人もいれば、そのまま家にいる人だっているんじゃない?」

「じゃあさ、なんで魔女だけそんな歳で家を出なきゃいけないんだ!?なんか、変じゃないか?」

「うーん、変かなぁ…そういうものだと思って生きてきたから、特におかしいと思ったことはないんだけど…だって、ロサもアリアンナもサリアンナもミリアも、みんなそうだよ。」

「でも、魔女だからと言って、生きていく上で何か特別な能力があるわけじゃないんでしょう?」

「私は空を飛べるわよ。」

「いや、それはそうだけど、魔女だからといって地面から勝手に食べ物が出せるわけじゃないでしょ?」

「そりゃそうだけど…」

「だったら、いきなり放り込まれたら、下手をすれば死んじゃうよ!どうなってるの!」

「ま、まあ、そうだよね。実際、何人かはのたれ死んでるようだし…」


衝撃的な事実だった。魔女っていうだけで、ある年齢になったら放り出されるんだ。それが常識だと、魔女本人が言っている。


「…多分、昔から魔女というのは疎ましい存在だし、親にしてみれば呪われた子供がずっと家にいるのは居心地が悪いし、それで16歳で成人を迎えたらすぐに家を出るという習慣

できたんだと思うよ。」

「でもさあ…」

「あんたの星の常識とは違うのよ、ここは。これから先は変わっていくかもしれないけどさ、今までの私達魔女は、そういう世界で生きてきたの。」


想像以上だった。魔女という存在がそこまで理不尽な扱いを受けていたなんて…アンリエットさんが魔女という事実を隠し続けてきたわけだ。


「じゃあ、マデリーンさんも16歳で家を出たの?」

「いや、私は15で飛び出したわ。」

「はあ?なんで?」

「16になったら一人で生きていかなきゃいけないでしょう?だから、うちの親は家庭教師を雇って、あれやこれやといろいろ私に教育してきたの。学問に、料理に、剣術に、体術。でも、あまりに詰め込むものだから嫌になって、16になる前に家を出てきたのよ。」


そういえば以前、家を出たと言っていたが、そういうことだったのか…でも、家庭教師をつけたとか剣術まで習ったとか、聞いていると随分と裕福な家庭のやることが多い気がするんだが…


「…マデリーンさん、家庭教師だの、剣術だのって、もしかして随分と裕福な家にいらっしゃったんですか?」

「そうよ、私の家、伯爵家だったの。」

「はあ!?伯爵家!?」


なんと、マデリーンさんは元貴族だった。いや、今でも男爵の嫁だから、きぞくなんだが、男爵どころか伯爵だ。次々に明かされる魔女とマデリーンさんの真実。


「といっても、この王国じゃないわよ。私はヴェスミア王国のとある伯爵家出身なの。家を飛び出した後にロヌギ草で食いつないで、なんとかこの王国にたどり着いて、死にかけていたところをコンラッド伯爵様に拾っていただいたの。で、郵便屋になったのよ。」


知らなかった。初めて聞いたマデリーンさんの過去。結婚してもう1年以上経つが、そんな話をしてもらったことがなかった。


通りで社交界に行っても、物怖じせず堂々としていられるわけだ。貴族相手に郵便屋をしていたというのも、やはり元貴族ゆえだろうか。マデリーンさんに関するいろいろなものが、繋がった気がする。


と同時に、以前から抱いていた謎も解けた。なぜ、魔女に親がいないのか?


いや、いないのではない、縁を切っただけなのだ。これがこの世界での常識というわけだ。


マデリーンさんの話を、アウレーナさんにシャロンさん、他の一般客の人々もじっと聞いていた。


「あの、もしかしてあなたは、この王国で最も速いと言われるあの雷光の魔女か?」


アウレーナさんがマデリーンさんに尋ねた。


「そうよ!私こそ王国最速の魔女、マデリーン!」

「すごい…まさか本物に会えるとは…私、ずっとあなたに憧れてたの。ちゃんと前に進める魔女。羨ましくて仕方がなかった。」


変な感心の仕方だが、やはり魔女の間ではマデリーンさんは有名人だ。いや、最近はこっちの一般人にも有名になってしまった。どこへいっても有名人な魔女、マデリーンさん。しかもその過去が、伯爵家のご令嬢だということも、たった今判明した。


「あれ?ダニエルさんにマデリーンさん、こんなところで会えるとは、やはり魔女のお店だけのことはありますねぇ!」


アイリスさんが現れた。あの、今ちょっと頭の中を整理しているところだ。もうしばらくしてから現れて欲しかった。


「アイリスさんも、このお店に用があるの?」

「そうですよ。何せ魔女を1人雇っちゃったものですから、何かいいものないかなぁってきたんですよ。」


はあ、魔女を一人雇った?


そう言えば、アイリスさんと一緒に誰かついてきている。私にとっては、9人目の魔女だ。


8人目の魔女の登場と、魔女の常識とマデリーンさんの過去で頭がいっぱいなのに、さらにここへもう1人の魔女が登場だ。


「…ええと、アイリスさん?この方、どんな魔女なんです?」

「はい!こちらの基準では二等魔女さんらしいんですが、これが面白い魔女さんなんですよ。」

「へえ、あっしはジーナって言います!いやあ、魔女だって黙って暮らしてたんですけど、アイリスさんにバレちゃいまして、雇われちゃいました。」


随分と軽いノリの魔女が登場だ。


「なんだかとても明るいでしょう?この魔女さん。」

「そうですかい?16で家を追い出されて、この王都でひっそりと靴磨きして暮らしてたんでっせ?暗い境遇なんすよ、これでも。」

「…ええと、ジーナさん?二等魔女さんということは、何かものを浮かべたりできるんですか?」


私はジーナさんに聞いてみた。


「いえいえ、ものを浮かべるとか、そういうのはちょっとダメなんすよ。」

「そうなの?じゃあ、何ができるの?」

「そうすねぇ…まあ、見ててください!いいでっか?とくとご覧あれ!これが私の力でっせ!」


そう言って、手のひらを前に差し出し、力を込めた。


一瞬、パンッという音とともに、手のひらに青白い光が見えた。


次の瞬間、ジーナさんは後ろに飛ばされた。自販機コーナーの机や椅子に向かって飛んでいき、そのままがしゃんとぶつかった。


何が起きたのか!?わけがわからないまま、私はジーナさんの元に行く。


「だ、大丈夫!?」

「へえ、大丈夫でっせ!慣れてますんで。」


ゆっくり立ち上がるジーナさん。


「ね?面白い魔女でしょ?彼女、ものを浮かせるんじゃなくて、自分を吹っ飛ばせる魔女なのよ。」


なんじゃそら?これまた奇想天外な二等魔女さんの登場だ。


「で、どうしてこの魔女さんを雇ったんですか?」

「実はね、本社でペネローザさんを紹介したら、こっちの出張所は魔女だらけだと思ったらしいの。ところがいるのはペネローザさんだけで、あとは普通の人。だからこっちにきた人たちが不満を漏らしているんですよ。だから、魔女を積極的に募集中なんです!どこかいい魔女さん、いませんか?」


たったそれだけの理由で雇ったんだ。さすがはブラック企業。


「でも、ただ後ろに吹っ飛ぶだけの魔女さん、いったい何をさせるんですか?」

「いやあ…実は全然考えてなかったので、どうしようかと思っているんですよ。台車に乗せて、ものを押してもらうとか…」


フォークリフトでやった方が早いだろう。無理やりすぎないか?


「そうだ、そういうことなら、ここにも魔女がいるんだけど。」

「はい!?どこ?どこです?」

「いや、こちらの銀髪の彼女なんだけど…」

「えっ!?この人、魔女なの!?採用!!」

「な、なんだ!?誰だ、お前は!?」


いきなりアウレーナさんに向かって採用だなんていうものだから、アウレーナさんはびっくりだ。


「アイリスさん?何も見ないで決めてしまうんですか?」

「いやあ、魔女だと聞いてつい…ところで、どんな魔女さんなんです?」

「うーん、なんていうか、上昇と下降だけできる魔女だよ。」

「えっ!?なにそれ?面白い!」


というわけで、アウレーナさんにはアイリスさんの前でも実際に飛んでもらったのだが、先程と同様に、上に飛ぶだけで前に進まない。


これを見てアイリスさん。急に何か思い立ったようだ。


「あのさ、ジーナさんとアウレーナさんを組み合わせると、丁度いいんじゃないの?」

「はあ!?」

「だって、片や上下のみで、片や吹っ飛ぶだけ。一緒にすれば、前にも進めて空を飛べるよ?きっと。」


面白いことを考えるものだ。でも、どうやって組み合わせる?


「アウレーナさんのホウキの後ろにジーナさんが乗って、後ろに向かってあれをやれば、前進できるじゃない!」

「いや、そうだけど、いくらなんでもアウレーナさんは2人いっぺんに浮かせられないんじゃないの?」

「ええ!?ダメなんですか?」

「いや、いけるぞ、2人くらい。」


アウレーナさんはそう答える。


「いくらなんでも、2人は重くない?」

「いや、大丈夫だ。問題ない。私は岩を持ち上げたこともある。人1人くらい楽勝だ。」


どうやら、一等魔女版のペネローザさんといったところのようだ。ただし、上昇専門。


一方こちらの吹っ飛び魔女も、それなりのパワーがありそうだ。


というわけで、早速組み合わせてみることに…したのだけれど、ここじゃ危なそうだ。場所を変えることにした。


「またのご来店をお待ちしております!皆さん、またきてくださいね!」


シャロンさんに見送られて、魔女の専門店を後にした。向かうは…いつものフードコートだ。


すっかりお腹が空いてしまった。何をするにも、まず食事だ。


結局、私とマデリーンさんの他に、ロサさんとペネローザさん、アイリスさんにジーナさん、そしてアウレーナさんがついてきた。あ、おまけでアルベルトもいる。こいつ、ほとんど喋らないから、いるかどうかが分からない。


マデリーンさんは、いつものハンバーグ専門店でキノコハンバーグを頼んでいた。


すると、ロサさんもつられてハンバーグ専門店に行く。すると、ぞろぞろと他の魔女も続く。


…結局、全員ハンバーグだ。私は最近ここで、ハンバーグ以外を食べた記憶がない。


「なんだ?この食い物は?」


アウレーナさん、なんとなくマデリーンさんと同じものを頼んでしまったが、それがなんだか分からない。


「ハンバーグよ。美味しくて、魔力もつくわよ!」

「そうなのか?しかしどうやって食べるのだ?これは。」


世話の焼ける魔女だ。ロサさんがフォークとナイフの使い方を教えていた。


だが、よほど美味かったのか、無言で食べ始める。ジーナさんも王都で暮らしてはいたものの、ハンバーグは初めてらしく、がつがつと食べていた。


食べ終わって、ようやく口を開くアウレーナさん。


「…なんだこの美味いものは。この世にこんな食べ物があったなんて…」


ロヌギ草ばかり食べてたようだから、この味は格別なようだ。


この際だから、私はもう一つのずっと前から抱いていた疑問を魔女たちにぶつけた。いったい、ロヌギ草って、どうやって食べるのか?まさか、そのまま食べるわけではあるまい。


いろいろな食べ方があるそうだ。葉っぱの部分はそのままでも食べられるが、苦味があるので、刻んだ葉を煮てアクを取ってやるとなんとか食べられるらしい。


茎の部分は、塩を入れたお湯で煮てやるといいそうだ。塩はロヌギ草が生えているところなら大抵近くに岩塩が採れる場所があるから、それを使うのだという。


また、上には実がなるそうで、これを絞り機にかけてやれば、油が取れる。


結構力がいるようで、大変らしいが、ペネローザさんもアウレーナさんも、力技に頼ったそうだ。平らな石の上に溝を掘って、これに大量の実を載せ、上から重い岩を載せてやると、溝を伝ってたくさんの油が取れる。なんとも魔女らしい解決法だ。


「でもアウレーナさん、どうやって岩を浮かせるの?まさかホウキに吊るして引っ張り上げてるの?」

「いや、岩の上に座って、直接浮かせるんだ。」

「へえ、でも、岩を浮かせたあと、どうやってその土台の石の上まで岩を移動するの?」

「長い棒で地面や近くの木を突いて、無理矢理動かすんだ。これが結構、大変。」


そりゃそうだろうな。川下りの船のように、棒だけで正確な場所に動かすのは至難の業だろう。


ペネローザさんは聞くまでもない。こっちは簡単だ。持ち上げた岩を振り落とすだけ。


だが、こちらはこちらで、失敗談はあるようだ。


「一度いっぺんにたくさん油を取ってやろうと思って、たくさんの実を置いてそこに大っきい岩を持ってきて振り下ろしたんですよ。そしたら、土台の石が割れて、せっかく苦労して取った実が全部ダメになってしまって…」


何事も、横着はいけない。それにしても、こんなに控えめな性格をしてるのに、することがダイナミック過ぎる。


根っこの部分からは、ちょっと硬い芋のようなものが取れるそうだ。貴重なタンパク源のようだ。だが、これがまた皮を剥くのが大変らしく、結局ペネローザさん、アウレーナさんといった力技系魔女は、例によって岩を使って叩き割る。


ロヌギ草のレシピは全部で20以上あるようだ。本当にいろいろな食べ方があって、それだけでなんとか食いつなごうとする魔女たちの苦労が偲ばれる。


携行食も作れるそうで、アウレーナさんはそれを持ってここまで旅をしてきたそうだ。多分、以前のミリアさんもそうだったんだろうな。


なお、油は街で売れるので、お金に変えて服や他の食べ物を買うこともあるらしい。


今日は魔女のことをいろいろ知ることとなった。16で家を出る習慣があること、ロヌギ草の食べ方にいろいろあること。


そして、マデリーンさんが、伯爵嬢だったこと。


同じ貴族でも、アンリエットさんが家を出ていないのは、表向きは普通の人ということになってるからだろう。魔力の弱い魔女は、普通の人に紛れて家を出ることはしないようだ。


この星のことを、私はまだ多くを知らない。これからも驚くような文化や習慣に出くわすことだろう。


さて、食事が終わって、場所を移動することにした。


アイリスさん、早速アランさんを呼ぶ。10人乗り自家用車とともに、アランさんは現れた。こういうとき本当に便利だ、この10人乗り。


向かった先は、宇宙港の輸送船の積み下ろし場。ここでさっきの組み合わせ実験をしようということになった。


ホウキの代わりをどうするのか…と思ったら、アイリスさんが指をさすその先にあるのはなんとコンテナ。


高さ3メートルほどのこのコンテナに乗ってみようとおっしゃる。


大丈夫なのか?こんな大きなコンテナ。いくらなんでも、ペネローザさん並みの怪力があるわけではないし…


ところがアンリエットさん、ハシゴでいそいそとそのコンテナの上に乗ると、真ん中に座り込んだ。


ゆっくりと上昇するコンテナ。すごい、浮かんだぞ。


いくら空のコンテナとはいえ、それなりの重さがあるだろうに、軽々と持ち上げてしまった。前に進めない分、上昇に特化した魔女らしい。


「すごい!満載のコンテナをこんなに軽々と持ち上げるなんて!」


…これ、満載だったのか。いったい何トンあるんだ?このコンテナ。


さて、続いてジーナさんの出番だ。コンテナに巻かれた固定バンドにハーネスを取り付けて、体を固定する。


そのままアウレーナさんがコンテナを持ち上げる。そこでジーナさん、例の反動魔法をかける。


「はあ!」


掛け声とともに、ゆっくりとコンテナが動き出す。おお、すごいすごい。


すごいけど、どうやって向きを変えるんだ?これ。同じ方向しか進めないぞ?


すると、ジーナさんが横を向いて再び反動魔法を放つ。ゆっくりと回転が始まる。ある程度回ったら、反対向きに逆噴射をかけて止まる。


これなら、行きたい方向に自在に行ける。2人で一人前。なかなかいい組み合わせだ。


「すごいわ!これなら、新しいビジネスが始められるわ!」


アイリスさんは叫ぶ。新しいビジネス?なんだろ、気になる。


「なんです?新しいビジネスっていうのは?」

「うちの小型輸送船を使って、宇宙港以外でも荷物の積み下ろしを行うのよ!この2人がいれば、簡単だわ!」

「でも、そういうのは船についたクレーンやロボットアームでやればいいんじゃないの?」

「いやいや、それが船のクレーンって、あまり使い勝手が良くないんですよ。例えば、小さな街だと大きな広場がなくて、クレーンでは荷物を下ろせないんですよ。クレーンって長さに限度があるから、ある程度高度を下げないといけないんですけど、大きい広場でないと船が建物に当たっちゃうんですよね。でもこの2人を使えば、そんな街でも高いところから荷物を下ろせるんですよ。いやあ、これはいい商売になりますわ!」


すっかりアウレーナさんを社員にする気満々だ。でも、アウレーナさんの、何かの役に立ちたいという想いは叶えられそうだ。


それにしても、15、6歳にしか見えないアウレーナさんに、あれだけのパワーがあるとは驚きだ。ジーナさんの魔法も独特。この両者を組み合わせようと思ったアイリスさんもたいしたアイデアマンだ。


早速、2人を王都の事務所に連れて行くことになった。私とマデリーンさん、ロサさん、アルベルトは、宇宙港を出て適当な場所に降ろされる。


「いいのかしらね?あの会社、あんなに魔女を雇って。」

「まあ、いいんじゃないの?あのままでは一生草を食ってるか、靴磨いてるしか生きようがない人達だったんだから、才能が活かせて役に立つ。最高の職場だと思うけどなあ。」


たいして才能もなかったのに、パイロットになろうと思って目指し、でもドッグファイトに耐えられず哨戒機乗りになった私からすれば、人にはない能力があって、それを活かす場があることは、とても羨ましいと思う。


不安もある。ペネローザさんもそうだが、いくら魔女とはいえ、生身の人間がコンテナを直接持ち上げたり、運んだりして大丈夫なのか?安全上の問題はないのだろうか?それが心配だ。


新たな怪力魔女と、反動魔女の登場。私の人間関係は、ややこしくなるばかりだ。

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