#25 戦闘開始
「艦長だ。あと10分で、我が艦隊はワープに入る。その先にどれだけの敵艦隊が集結しているのかは不明だ。いきなり戦闘開始となる可能性がある。ワープ直後の戦闘に備え、戦闘態勢にて突入する。砲撃戦用意!総員、各自戦闘配置につけ!」
艦内放送がかかる。いよいよ、戦場に到達する。
マデリーンさんが見て感動した、あの綺麗で果てしなく大きな星雲の片隅で、今度は殺し合いが始まる。つくづく人間というのは、愚かでちっぽけな存在だと思う。
そして、ワープ開始。ものの数秒でワープ通路を抜ける。そして、目の前が明るくなった。
我々の前方60万キロの位置に艦影多数。しかし、艦色は灰色。つまり、味方の連合側の駆逐艦だ。
敵艦隊はまだ遠くにいるということで、戦闘態勢は一旦解除された。
現在、この空域に集結中で、現在すでに我々を含めて5万3千隻。
地球401からも防衛艦隊の一部が駆けつけてきた。その数4千隻。こっちの9千隻と合わせて、我々の星からは1万3千隻がこの戦いに参加することになる。
加えて、地球104、221、346、561の近隣の4惑星の遠征艦隊が集結。これで我が方は5万3千隻となった。
一方、敵艦隊は1200万キロ先で集結中で、現在5万隻。ほぼ同数だ。
敵艦隊はこちらに向かって進撃中。あと10時間後には、射程圏内に入る予定だ。
5つの艦隊は横一線に並んで前進する。敵艦隊も我々に合わせて横一線に並んだ。
我々がわずかに多いものの、ほぼ互角と言える勢力。地形的にも、数的にもどちらも大きな差はない。チーム艦隊の参謀によれば、このまま、弾が尽きるまで撃ち続けて、残弾切れで撤退…という戦いになるかと予想していた。
一番嫌なパターンだ。出来れば早く終わらせてほしい。いや、そんな無益な戦いが予想されるのなら、敵さん諦めて、撤退してくれないだろうか?
勝っても負けても、人が死ぬ。ましてや、得られる見込みのない戦いなんて、なぜやろうと思うのだろうか?
しかし、敵は進撃を止めない。まっすぐこちらに進んでくる。戦いは、避けられそうにない。
ところで、ここにきて双方の拮抗した勢力状況を崩す勢力が出現した。
なんと、地球001の艦隊がやってきた。
この星の5つある遠征艦隊の内の一つが、この空域に駆けつけてきたのだ。その数、1万隻。
我々の右翼側に合流すると連絡があった。我々は速度を落とし、この新たな援軍を迎え入れる。
これで、戦力は連合側が6万3千、連盟側が5万。我々の方が有利になった。
これを受けて、敵艦隊は進撃をやめて撤退行動に移った…と言いたいところだが、そうはならない。
むしろ、進撃の速度を上げてきた。
何せ、彼らにとって地球001は倒すべき相手であり、その艦隊が出現したとなれば、引くわけにはいかないようだ。
敵艦隊の陣形がやや地球001のいる右翼側に偏ってきた。この戦いで勝利できなくとも、少しでも地球001にダメージを与えようという作戦に切り替えてきたらしい。
我々にとっては、頼りがいのある援軍の登場。だが一方で、敵を煽り立てる存在だった。いいのか悪いのか、分からない。
敵艦隊までの距離が、あと100万キロとなった。戦闘開始まで、あと40分。
ここで、急に我々パイロットに発艦命令が出た。
戦闘に先立ち、例のスパースレーダーを展開せよとのことだ。これだけの大艦隊同士の戦闘、電波障害の有無に関わらず、敵艦の詳細な位置を把握するために、予め配置することにしたらしい。地球401艦隊に所属する哨戒機全機に命令が下る。
まさかこのタイミングで発進するとは思っていなかった。私は急いで格納庫に向かう。
同乗するのは、モイラ少尉と地球760から参加した、ヴァリアーノ訓練生、そしてアルベルト少尉の3人。
アルベルト少尉が乗り込んだのは、エンジン不調などの不測の事態に備えるためだ。どのみち整備科は艦内にいても、戦闘中はすることがないので、乗せられたようだ。
ヴァリアーノ訓練生は、歳は23歳。王都よりやや西寄り、私の領地であるダミア村の少し手前にある街出身の騎士。もちろん、戦闘は初めてだ。
「男爵様、この戦の先陣を賜ったこと、誇りに思います。騎士の務めとして、いざという時には、身を呈してお守りいたします。」
心意気はありがたいが、我々の戦場では、身を呈しても、多分守れない。まとめて吹っ飛ばされるのが落ちだ。
「そういえば、ヴァリアーノさんは剣の腕もなかなかだと聞くけど、そうなの?」
「いえ、私などは王国の騎士団では取るに足らない存在ですよ。」
などと謙遜するが、彼は結構な腕の持ち主らしい。
3か月前に行われた国王陛下の御前試合で、彼は準優勝だったそうだ。流石に騎士団長には敵わないようで、最後には負けてしまったようだが、それでもこの歳でこれだけの剣の腕、たいしたものだ。
これだけの腕なら、そのまま剣士として一生を捧げそうなものだが、これからの時代は剣ではダメ、航空機の時代だと感じたようで、パイロット訓練生に志願してきた。
普通、一つの得意なものを手に入れると、それを頑なに守り抜こうとするものだ。それをあっさりと捨てて転身できる彼の先見性と度胸に、私は感服している。
発艦して30分経過、艦隊から見て上方の、距離2万キロほど離れたところで、我々はスパースレーダーの展開準備に入る。
哨戒機同士は1キロ間隔で、総勢1万6千機が400×400機に並び、ひとつのレーダーとなる。
これで、400キロ四方の巨大なレーダーを設置したのと同じ効果が得られる。この情報は、一旦我々の艦隊司令部に送られて、そこで高速演算されて画像化。その情報は、この空域の味方艦隊にデータリンクされる。
「ああ、男爵様?もうちょっと機体を下に向けてもらえますか?…ああ、いいですよ。これでOKです。」
モイラ少尉、もう普段はいいから、せめて作戦行動中くらい階級で呼んでくれ。
私は手元のモニターを見る。艦隊旗艦で演算処理されたレーダー画像が写っていた。いままで見たこともないくらい、鮮明なレーダー画像がそこには映っていた。
駆逐艦のレーダーでは、敵艦隊の姿を捉えることができるものの、まるで雲のようにぼやっとしていて、大体の位置しか分からない。光学観測を組み合わせて、やっと敵艦に狙いを定めることができる。
だがこのスパースレーダーは、敵艦隊の一隻一隻が区別できるほど高分解能が得られる。これほどの感度なら、レーダー射撃のみでもかなり正確な砲撃戦ができそうだ。早速、味方艦隊にこのデータが展開される。
あと10分で、我々の艦隊は敵艦隊との射程圏内に突入する。距離、38万キロ。
だが、この時点で地球001艦隊は、砲撃を開始した。
「右翼、地球001艦隊、砲撃を開始しました!」
艦隊司令部より、通信で状況報告が入る。艦隊の右翼方向を見ると、無数の青白いビームが見えた。その先には、無数の光の玉が見える。ただ、相手はまだ射程圏外、撃ち返すことができない。
この距離から砲撃ができるとは、やはり地球001の技術は我々よりも高いことが分かる。
我々が保有している宇宙船やワープ航法、そしてスマホに至るまで、ほぼ全てこの地球001からもたらされたものだ。
駆逐艦や戦艦の建造技術、ビーム砲や複座機、哨戒機と呼ばれる個々の兵器、設計は全て地球001のものであり、これを公開技術として共有している。
なぜこれほどの破壊力のある技術が公開されているのか、と言えば、それは敵である連盟側も保有している技術だからだ。
敵が持っているのなら、秘匿したところで仕方がない。そういうわけで、これだけの兵器の技術が軍事機密扱いにもならず、広められているのだ。
だが、我々の兵器に使われている技術は連合、連盟の二つの陣営に別れた160年前時点の技術であり、そこからほぼ何も変わっていない。
しかし、これらの技術を作り出した地球001。我々と違い、彼らが160年も同じ技術レベルにとどまっているわけがない。当然、我々以上のものを開発し投入しているようだ。
38万キロという、我々にとっては射程外からの砲撃が可能なのも、そういう理由だろう。射程距離、装填時間、威力のいずれも、我々よりも高いと聞く。ただし、我々には技術そのものだけでなく、その実力値すらも公開されていない。
今の時点で砲撃しているのは、地球001だけ。敵艦隊は一方的に撃たれているだけだ。
しかし10分が経過して、ようやく両者の距離が30万キロになった。
その瞬間、この空域に存在する11万隻の艦から、一斉に砲撃が開始された。
大会戦の始まりである。
以前、私が経験した戦闘は1千隻同士。しかもモニター越しで見ていただけだった。今回は双方合わせて約11万隻、しかも、2万キロ上から窓越しで生の戦闘を目視で見ている。
眼下は無数の青白いビームのシャワーが広がっている。そして、その先にはたくさんの白い光の玉が点滅する。
11万隻、1100万人以上の人が今ここで撃ち合っている。あの光の向こうで、この瞬間にも何人かの人が死んでいるのだろう。
我々のところには、全く攻撃がない。我々の存在が探知されていないため、敵は撃ってこない。しかし、もしこのスパースレーダーの哨戒機集団のことが知れたら、多分一斉に砲撃してくるだろう。そうなったら、哨戒機などひとたまりもない。
それよりも心配なことは、帰る場所が無事でいられるかどうかだ。
駆逐艦6707号艦には、モイラ少尉の旦那さんであるワーナー少尉を始め、ロレンソ先輩や砲撃長もいる。ここにいるモイラ少尉や、残されたサリアンナさんやエドナさんのことを思うと、無事でいてほしいと願わずにはいられない。
宇宙港に着くと飛んでくるマデリーンさんを迎えに行くというと、不機嫌な顔をしつつも許可を出してくれるあの艦長も、あの光の向こうで戦っているのだ。
だが、我々はここでじっとして、レーダー任務に専念するほかない。
モイラ少尉も不安そうに外を見ている。結婚したばかりの旦那さんのことが心配なのだろう。
我々の地球401の艦隊は、全体のやや右翼側にいる。地球001がすぐ横にいる。
敵が地球001に引き寄せられているため、我々の艦隊は他よりも負担が多い気がする。
だが、地球001は強い。装填時間が短い上に、砲撃の威力も大きいようで、敵のバリアを削り取っている。地球001の正面の敵艦隊の被害は大きく、徐々に撤退行動に移りつつある。
戦闘開始から40分後、地球001と対峙していた敵の左翼艦隊が撤退に転ずる。後退する敵を追撃する地球001艦隊。後退する敵に合わせて前進し、敵をさらに追い込む。
緒戦の段階で、地球001のロングレンジ砲撃を受けていた敵左翼艦隊は、ここから見ても、かなりの損害だ。撃沈した艦艇は、15パーセントを超えている。
一方の地球001艦隊は、ほとんどダメージがない。えげつないほど強い艦隊だ。敵でなくてよかった…
その地球001艦隊は、敵の左翼艦隊の撤退を確認すると、今度は我々地球401艦隊の正面の艦隊に攻撃を仕掛ける。
突如、2つの艦隊を相手にすることとなった敵の艦隊は、混乱に陥る。レーダーで全体を見ている我々には、よくわかる。
通常、艦隊の陣形は、各艦が一定間隔で並んでいる。我々の艦隊では、駆逐艦同士が5キロ間隔で並ぶ。
この間隔を保ったまま、1万隻の駆逐艦が縦に10段、横に1000列並んでいる。その後方200キロほどのところに、戦艦30隻が控えている。
正面から見れば、高さ45キロ、幅4995キロの長方形をしている。
もっとも、戦闘が激しくなれば、この陣形は徐々に崩れ出す。攻撃に隙を作らないようにするため、なるべく陣形を保とうとするものの、撃沈する艦が出れば、そこを補うためどうしても碁盤目状の陣形は崩れ出す。
この崩れっぷりを見れば、混乱の度合いがわかる。
で、我々の正面にいる敵艦隊の陣形が大きく崩れ始めた。碁盤目状どころではない。まるでかき混ぜたタピオカジュースのような状態だ。
それでも、しばらくはその場に留まろうとするが、20分もすると、後退を余儀なくされる。
犠牲が10パーセントを超えると、艦隊としては壊滅的といえる状態だ。まさに正面の敵は、そんな状態に陥っている。
通常の艦隊戦では、3、4時間撃ち合ってもせいぜい2パーセントの犠牲で終わるのが一般的とされている。それがわずか1、2時間のうちに10パーセントもの犠牲が出るということは、とんでもないことである。
だが、そういう事態が目の前で起こっている。
地球001艦隊が、強すぎるのだ。
彼らの主砲は、1バルブ装填で我々の3バルブ装填並の攻撃力があるようだ。このため、当たればバリアをも突き破るだけの威力があるらしく、当たればほぼ確実に相手を撃沈している。レーダーを見ていると、敵の消耗ぶりがよく分かる。レーダー上の点が、次々に消えていく。
地球001が放ったビームの先に見える光の玉には、確実に人の死が存在していることになる。
これはもはや、戦闘ではない。虐殺行為だ。
勝てるはずのない戦いに、敵艦隊は挑んでしまった。
こうして3時間ほど撃ち合いが続くいたが、敵艦隊が一方的に削り取られていくだけの戦闘だった。
ようやく、敵艦隊は敗走する。
我々は、30万キロ以上離れた敵を撃たない。いや、撃てない。射程が、30万キロしかないからだ。
ところが、地球001艦隊は、38万キロまで撃ち続ける。
敗走してすでに戦闘の意思のない敵艦隊に向かって撃ち続ける行為は、はたから見てても気持ちのいいものではない。
おそらく、地球001にとっては、相手に力に差を思い知らせることが目的なのだろう。執拗に撃ち続ける。
結果として、味方は765隻が撃沈。一方の敵艦隊は、1万5千隻以上が沈んだ。
一方的なまでの大勝利である。
だが、この戦術的勝利は、戦略的には果たして正しかったのだろうか?
もし、私が敵の立場だったら、どうか?
おそらく、恨みに思うだろう。決して許せない相手として、再び戦いに挑むことは間違いない。
160年も戦闘状態が続いているのは、まさに地球001の突出した強さが原因だ。
こんな戦闘が続く限り、おそらくこの宇宙に平和は訪れないのではないか?
大勝利した我々でさえ、6万3千隻の艦隊から8万人近い犠牲者が出た。あの無敵に見える地球001でさえも、60隻ほどが沈んだ。
さて、戦闘開始から3時間半。ようやく、我々に帰還命令が出る。
私は、母艦である駆逐艦6707号艦を目指す。
が、さっきから駆逐艦6707号艦の応答がない。
我々の艦隊は比較的激戦区にいたため、206隻もの犠牲が出ている。
この296隻に、我々の艦が入っている可能性は否定できない。
「タコヤキよりクレープ!応答されたし!」
モイラ少尉がいくら呼びかけても、全く返事がない。
機内に緊張が走る。まさか…撃沈してしまったのか!?
急いで我が艦のいる空域に向かう。と同時に、我々のチーム艦隊のリーダー艦である駆逐艦6710号艦に連絡する。
「こちら駆逐艦6707号艦所属の哨戒機1番機!所属艦より応答なし!当艦の状況を連絡されたし!」
「へ?いるよ、6707号艦。」
緊迫した我々の呼びかけに、能天気な返信を寄越したのは、副長であるローランド公爵閣下だ。
「…ああ、えーと、こちら駆逐艦6710号艦。駆逐艦6707号艦は健在、目視にて確認している。こちらからも呼びかけてみるので、待機せよ。」
そういうと、ローランド少佐は一旦通信を切る。
無事だということが分かり、我々は安堵した。が、なぜ駆逐艦6707号艦は我々の呼びかけに応じないのか?
ローランド少佐より、再び通信がきた。
「こちら駆逐艦6710号艦、6707号艦の状況を知らせる。長距離通信用アンテナが破損したため、哨戒機との通信が不能となった模様。当艦が通信をバイパスする。このまま待機せよ。」
そういうと、ローランド少佐が誰かに何かを指示する声が聞こえた。
その直後、通信が切り替わった。
「クレープよりタコヤキへ、すまない、アンテナをやられたため、当艦は長距離通信が不能となった。格納庫は無事のため、このまま帰還し、第1格納庫に着艦されたし。」
「タコヤキよりクレープへ。了解、これより帰還する。」
ああ、よかった…この能天気なコールサインが通じる。アンテナをやられたというのは気がかりだが、艦は健在なようだ。
30分ほど飛行し、我々の艦のいる場所までたどり着く。無数の駆逐艦の中から、鼻っ面に「401-2-6707」と書かれた艦を見つける。
艦は無事だ。だが、艦橋の左横あたりが少し黒い。若干被弾したようだ。
近接通信は可能だったため、近づくと直接通信が可能になった。
私の機はアプローチに入る。無線で呼びかけると、右弦格納庫のハッチが開く。中から伸びてきたアームがこの哨戒機をつかみ、格納庫内に引っ張り込んでくれる。
ハッチが閉まり、格納庫内の空気圧が上げられる。空気圧がOKになったことを知らせる緑色のランプが点くと、格納庫内に整備員が何人か入ってきた。そこには、ロレンソ少尉もいる。
機を降りた私は、ロレンソ少尉に聞いた。
「ロレンソ先輩、艦の外を見たんですが、なんなのです?あの被弾後は。」
「ああ、あれね。いやあ、あの時はちょっとやばかったんだよ…」
聞けば、バリアの展開遅れで被弾したらしい。が、直撃ではなくやや左をかすめたため、無事だったようだ。
この時、艦の左側にある通信用とレーダー用のアンテナを破損。艦のレーダーは使い物にならなくなったらしいが、哨戒機のスパースレーダーのおかげで、支障はなかったようだ。
やはり、ここは激戦区だったようで、かなり激しく敵のビームが飛んできたらしい。前回の戦闘並みだったという。
ここにいたら、あの激しい戦闘シーンを再び体験する羽目になるところだった。実際、被弾までしてるところを見ると、大変だったようだ。
地球001艦隊が援護に回り始めてから、急にビームの数が減ったようで、それからは隊列を整えつつ砲撃を続けたらしい。
ひやっとした場面はあったものの、結果としては無事で何よりだった。
が、手放しに喜べない事実も聞いた。
我々のチームの1隻、駆逐艦6702号艦が撃沈された。
一瞬の出来事だったらしい。真正面からビームの直撃を受けて、跡形もなく消し飛んでしまったそうだ。もちろん、艦内の全員が死亡。我々同様にレーダー任務についていたこの艦の哨戒機だけが残ったため、駆逐艦6710号艦に着艦したらしい。
身近な艦で犠牲が出た。駆逐艦6702号艦の乗員も気の毒だが、残されたこの艦の哨戒機、および乗員100名の遺族の気持ちを思うと、いたたまれない。
直径1万4千光年のリング状の宙域には、現在700以上の人類生存惑星が存在しているが、推定では全部で3000個以上の人類生存惑星があるんじゃないかと言われている。
このリング状の宇宙で死んだものは、この3000個の惑星のどこかに転生するという説を唱える宗教家もいる。信じがたい話ではあるが、この時ばかりは信じてしまいたい気分だった。
あの100名は、この辺りのどこの星で、生まれ変わってくれるはずだ。そう思うことにした。
食堂に行くと、砲撃長とワーナー少尉が食事をしていた。ワーナー少尉の姿を見たモイラ少尉、泣きながら抱きついていた。
こんな姿を周りに見せることなど決してしないモイラ少尉。通信不能でひやっとした場面もあったから、安心したのだろう。気持ちはよくわかる。
「おいおい!こんなところでいちゃつくな!部屋でやれ!部屋で!」
この砲撃長の一言で、モイラ少尉は我に返った。ここには20人ほどがいる食堂。そんな場所でらしくない行動に出ていたため、今頃恥ずかしくなったらしく、顔が真っ赤だ。
「わ…私、心配したんですよ!?この艦から応答がないから、まさかって思った瞬間もあったんです。分かります?この気持ち。」
「何言ってるんだ、この艦が沈むわけねえだろう!気合いの問題だよ!気合いの!」
その言葉は、絶対に駆逐艦6702号艦の関係者の前では、言ってはならない。まるであの艦には気合いがなかったかのようだ。それに、あのビームによる攻撃は、人間の気合いごときでどうにかなるものではない。
なお、この食堂で抱き合っていたのはモイラ少尉とワーナー少尉だけではない。なんでも、この戦闘前に戦場告白した人がいて、その2人も抱き合ってた。すでに夫婦となっている者同士より、そっちの方が注目されていた。
安心したら、急にお腹がすいてきたので、そのまま食事をする。食べながら、砲撃長から我々の任務の様子を聞かれた。
「ふん!お前らはいいよな。ビーム砲火の真っ只中に放り込まれた我々なんて、本当に大変だったんだぞ!」
「我々だって大変でしたよ。もし敵が我々の存在に気づいて、こっちを攻撃してきたら、我々などひとたまりもないですからね。」
「そんなことあるわけないだろう!仮に敵がお前らに気づいても、そんな蚊トンボ集団なんて相手にするわけがないだろう!」
つくづく失礼な人だ。敵の目を奪うのは戦の定石。哨戒機の隊列からレーダー任務をしていることはバレバレだから、もし敵が気づいていれば、間違いなく撃ってきただろう。
結局のところ、我々もこの艦も、運良く生き残れた。とにかく、運が良かった。それだけだ。
だが、今回は地球001艦隊の戦闘を目の当たりにした。さすがは技術発祥の星、地球001。あの星の艦隊が味方にいるだけで、あれだけ有利に戦えることを思い知らされた。恐ろしい相手だ。
敵の撤退を確認したのち、この宙域の味方艦隊は解散、各々自惑星に帰って行く。我々も帰還の途についた。




