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#24 招集

ミリア村が私の領地になってから、1ヶ月ほどが過ぎた。


今のところ、ミリア村の牧場は順調のようだ。予定通り、あと2ヶ月で初出荷を行う。


そのとき、例の宇宙港ホテルの20階のレストランで試食会を行うそうだ。そこで思惑通りの肉ができていれば、出荷に踏み切る。


ダミア村のロヌギ草ビジネスも順調に伸びている。ただの草から、思わぬ収入が得られた村民も、徐々に暮らしの質が向上しつつあるようだ。村のどの家庭も、家電が当たり前になりつつある。


ところでエイブラムのやつ、私の知らないうちに、勝手にダミア村の小麦畑を使ったビジネスを展開していた。


小麦を刈り取った後の畑に、なんと飼料用の大麦を植えていたのだ。


こいつは品種改良された速成型の麦で、来月には収穫できるという。これをやつの商社が買い上げて、ミリア村のロヌギ牛の飼料として使うんだそうだ。


それを聞いた私は、エイブラムに抗議した。だが、エイブラムは取り合わない。


「どうせ空いている小麦畑。そこで大麦を作ったところで、何も問題はないだろう?」

「いや、なぜ勝手に領民を使って大麦なんか作らせるんだ!」

「別にいいだろう?お前の領地内で使うものだ。急遽必要になったものだし、しょうがないじゃない?」

「だいたい、ロヌギ牛っていうのは、ロヌギ草だけで育てる牛じゃないのか?」

「いや、ロヌギ草だけ食べさせ続けると、脂肪でぶよぶよになってかえって肉質が落ちる。だから、大麦も要るんだよ。」


この調子だ。気がついたら、私の領地を勝手に使っている。これじゃどっちが領主なんだか分からない。


「分かった、分かった。今度からちゃんと一言言うよ。それでいいだろう?じゃあな。」


頭の回転は早いやつだが、時々こうやって暴走するところがある。用心しないと。


そういえば、オルドムド公国の戦艦用ドックで修理をしていた戦艦ニューフォーレイカーは、つい先日宇宙に戻った。


その間、公国と戦艦内の住人の交流が続いた。おかげで、通貨の交換などの交流のための仕組みが整った。


来月には、別の艦のメンテナンスを行うことになっている。併設した宇宙港にも宇宙船が行き来し始め、にわかに活気付いてるようだ。


そんな中、ローランド少佐とイレーネさんの婚約が発表された。いつかはそうなると思ってたけど、ついに正式に結婚することになったようだ。


なお、ワーナー少尉とモイラ少尉の結婚式もつい先日行われた。私とマデリーンさんも出席した。


貴族でもないのに結婚式を挙げるという概念がないこの星にあって、マデリーンさんを始め多くのこの星の人が、この一般人の結婚式というのを目の当たりにした。


「えーっ!?こういうの、私もやっておけばよかった!」


とはマデリーンさんの談。


「いやあ、参考になるな…これが最先端の結婚式か。最初は白いドレスから始めるんだな…」


と、うなっていらっしゃるのはイレーネさん。


しかし、自分の結婚披露宴でも「恋愛の達人」魂を忘れないのがモイラ少尉。


結婚式という雰囲気を利用して、その雰囲気の飲まれていい感じになっている相手同士をたくみにくっつけようとするモイラ少尉。


それがやりたいというだけの理由で、披露宴を立食パーティー形式にしたほどだ。いいのか?旦那さんをほっといて。


そういえば、休日中でも仕事のことが頭から離れない、あの貿易業者の面々だが、こちらもいろいろと進行中だ。


まずマドレーヌさんとペネローザさんだが、このブラック企業に取り込まれて一ヶ月が経ち、それぞれ業務に慣れ始めたようだ。


マドレーヌさんはお得意先回りや営業活動のため、アイリスさんに同行。あの調子で、出先でも評判のようだ。


一方のペネローザさん、アイリスさんには月一回の仕事と言われて連れてこられたが、平日はほぼ毎日働いている。


というのも、100メートル級の小型船舶を購入し、宇宙港間の荷物の輸送業務を始めてしまったため、頻繁に積み下ろしが行われるためだ。


ペネローザさん、重さ10トンを超えるコンテナでも楽々持ち上げてしまうため、ロボットクレーンを使って積み下ろすよりも早く作業を終えてしまう。


すごい怪力なのに、中身は控えめな魔女さん。なぜかそのギャップが萌えるのか、宇宙港の貨物担当者の間で密かに人気だ。あまりにちやほやされるので、ついついやる気になってしまうようだ。


だが、ペネローザさんと仲がいいのは、同じ会社で貨物を担当しているレーガンさん。


雰囲気がアルベルト少尉に似ていると言われているこのレーガンさん、週末にペネローザさんと一緒にアニメショップにいるところを目撃されている。


それどころか、ロサさんのショーに2人で来ているところを私もちらっと見かけた。マドレーヌさんの話によれば、時々ペネローザさんは自分の部屋に帰ってこないらしい。同じアパートのレーガンさんの部屋にしょっちゅう行ってると言ってた。


そういえば、アイリスさんもよくアランさんと一緒にいるところを目撃されている。仕事仲間だから、一緒にいるのは当たり前と思いきや、時々部屋まで一緒について行ってるらしい。これは、モイラ少尉情報だ。


それではマドレーヌさんが一人きりで可哀想だと思ってたら、こっちはこっちで相手がいるらしい。相手は、やはり同じ会社の営業担当のブッシュさんというお方。こちらも、似た者同士で気があうようだ。


そういえば元女海賊のカトリーヌさんは、この会社の100メートル級小型船の航海士兼船長をしている。船員は10人いるが、男勝りな性格で彼らを仕切ってるらしい。


この出張所の様子を、先日本社が取材にきたそうだ。やる気満々な社員の姿や、荷物を持ち上げる不思議な魔女が働く姿が、あちらでも好評だったそうで、第2次派遣隊の希望者はかなり増えたようだ。これで慢性的な人手不足が解消されるといいのだが…


そんな平和な地球(アース)760を脅かす事態が、再び発生した。


いや、この星だけではない。地球(アース)401にも関わる事態だ。


ここから3日の場所にある、ワームホール帯の交差点のあの星雲のある空域に向けて、敵艦隊が多数集結しようとしているとの報がもたらされた。


傍受した無線から、その数は5個艦隊、5万隻もの大艦隊が集められているとのことだ。


それを受けて、我々の艦隊司令部はこの星雲への派兵を決定した。


同時に、周辺域の惑星にも応援要請を行う。相手は5個艦隊だ。地球(アース)401だけではとても足りない。


当然、我々にも召集がかかる。ただちに宇宙港に集結し、アステロイドベルトにいる艦隊主力と合流、しかるのちに星雲に向けて進発せよ、という命令が下った。


「大丈夫だよ、今度も無事、帰ってくるさ。」

「ほんと?絶対だよ!絶対帰ってきてね!」


不安そうなマデリーンさん。私は、2パーセントの確率で嘘になる約束をするしか、彼女を安心させる術がなかった。


宇宙港に駆けつけ、駆逐艦6707号艦に乗り込む。緊急発進モードのため、地上付近でいきなりエンジン出力上昇。まだ夜明け前の王都周辺に、けたたましい騒音を鳴り響かせる。


3時間後には、この星の月の裏側にあるラグランジュポイントに集結した我が小隊は、アステロイドベルトに向かって発進。10時間後に遠征艦隊は集結して、星雲に向けて出発していた。


さて、艦隊が星雲に向けてばたばたと動いている間、私はパイロットとしての仕事をする。


格納庫にある私の機体を、艦隊戦用の装備に換装する作業をしていた。


そこにはロレンソ少尉にモイラ少尉、アルベルト少尉がいる。ロレンソ、アルベルト両少尉は整備科、モイラ少尉は技術武官としての仕事をこなす。


艦隊戦では、度々レーダーが効かなくなる。砲撃による強烈な電磁波によってノイズが発生、長時間撃ち合うとこのノイズが空間中に蓄積して、レーダーが全く効かなくなることがある。


その時は航空隊が発艦し、ノイズの少ない場所から索敵を行い、艦隊司令部や小隊旗艦、母艦に送信する。


この時、複数の哨戒機を連結させて一つの大きなレーダーとして使う「スパースレーダー」と呼ばれる技術がある。今搭載しようとしているのは、そのスパースレーダー用のレーダー装備である。


複数の哨戒機のレーダーを連結しても、一つ一つは小さなレーダーであるため、取得する情報には隙間が存在する。この飛び飛びの情報から全体像をあぶり出す「スパースモデリング」と呼ばれる技術を使って、数千機以上の哨戒機をあたかも一つの大きなレーダーとして使えるようにするのが「スパースレーダー」と呼ばれるものだ。


このスパースレーダーの専門家が、モイラ少尉というわけだ。


そういえば、普段の生活でもモイラ少尉は、断片的な噂話や目撃情報をうまくつなぎ合わせて、誰が誰と付き合ってるのかをあぶり出すのが得意だが、まさにそういうのが得意な専門家なわけだ。


そのモイラ少尉は、レーダーのチェックをしている。


「男爵様~、ちょっとレーダーのスイッチを入れていただいて、いいですか~?」


爵位で呼ぶな、階級で呼べ、階級で。どいつもこいつも…全く、軍隊を何だと思ってるんだ。


「はい、いいですよ。感度良好です。」


できれば、このレーダーを使うことなく、帰還したいものだ。


だいたい、宇宙での戦闘は一生に一度経験できるかどうかのものだと言ったのは、いったいどいつだ!?


この半年のうちに、私は2度目の戦闘を経験する羽目になってしまった。しかも今度は、数個艦隊のぶつかり合いとなる予定だ。


ああ、前回の戦闘でも死にそうだったのに、またあんな思いをせにゃならんとは…今から憂鬱だ。


そういえば、前回の戦闘で傷ついた戦艦ニューフォーレイカーはすっかり直って、戦線に復帰した。で、復帰早々、再び戦闘に巻き込まれることになってしまった。


戦闘を行うのが目的で作られた宇宙船だから、戦闘に参加するのは当たり前なんだが、何だかちょっぴり気の毒に思う。


哨戒機の準備は整った。我々4人、モイラ、ロレンソ、アルベルト各少尉、そして私は、食堂に行く。


そこには、ワーナー少尉と砲撃長もいた。


「おう!ダニエル男爵!こっちだ、こっち!」


私のことを爵位で呼ぶのが当たり前になりつつあるようだ。もういちいち否定するのが面倒になってきた。


「なんですか?砲撃長殿。」

「いや、先日捕まえた海賊のその後がどうなったのか、聞きたくてな。」

「何で急にそんなこと聞くんです?あれからもうひと月以上経ってますよ。」

「いや、戦闘までは暇だからな。それに、なんていうかその…今度の戦闘は、前回より規模が大きいからな。ちょっと気を紛らわしたいんだよ…」


砲撃長ほどの人でも、緊張することがあるんだ。確かに今度の戦闘の規模は、前回の比ではない。


相手は少なくとも5万隻はいることが分かっている。一方、我々はこの時点で何隻集められるか分かっていない。それに、戦場であるあの星雲に着いたら、いきなり目の前に5万隻ってこともありうる。我々9千隻と5万隻。そんな戦闘、考えたくもない。


我々は今、9千隻で戦場に向かっている。1千隻は地球(アース)760に残してある。というのも、留守を狙って敵の小兵力が襲ってくる可能性もあるので、防衛用に残してきたのだ。


私もどちらかというと、防衛に残りたい気分だった。が、あっちはあっちで、たったの千隻で惑星を守備せよと言われてるわけで、我々同様、気が気ではないだろう。いまごろは、彼らもピリピリしているはずだ。


「先日も話したとおりですよ、カトリーヌさんは、アイリスさんの会社の小型船を操ってお仕事しているし、他の7人は、あの『ロヌギ牛』ブランド立ち上げのために、牧場で働いてます。私が知ってるのはそれだけですね。」

「そうか…また海賊にでもなるんじゃないかって心配したんだが、案外大丈夫だな。」


なぜそこで彼らがまた海賊になると考えてしまうのか?だいたいあの時、彼らを何とかしろ私に振ってきたのは、あんたでしょうが。


「でも、海賊とは言わないまでも、強盗は増えてるらしいですよ。原因はあの海賊と同じで、急に産業構造や流通形態が変わってしまい、取り残された人々が生活のために犯行に走るというものが多いらしいですね。」

「我々、この星に来ちゃってよかったんですかね?なんだか、かえって不幸な人を増やしてるんじゃないのかしら?」

「いや、そうばっかりでもねえだろう!エドナなんて、我々がいなかったら今頃はどこでどうなってるのか、分かんねえんだぞ!?」

「砲撃長殿の夜のお相手をしてる方が、よっぽどか大変なんじゃないんですか?」

「いやあ、最近は俺の方が大変だぞ。エドナのやつ、もっと刺激的じゃないといやだって…あ、いや、そんなことよりもだ!あれだ、強盗だ強盗!」


話のはぐらかし方が下手だな、砲撃長は。


「いやあ、私はエドナさんのことの方が知りたいですよ。普段の生活ではどうなんです?エドナさん。」

「いやあ、普段は普通だぞ。それがどうしたんだ!?」

「そうですか?私は彼女が昼間、どう過ごしているのか、全然知らないんですよ。砲撃長がいないときは家からあんまり出ないようだし、引きこもってるんじゃないですか?」

「そうか?魔女どもに引っ張り出されてる気がするが、違うのか?」


知らない人が聞いたら、魔女がエドナさんに酷いことをしているようにも聞こえる。せいぜい、ショッピングモールで女子会に呼び出されているくらいだろう。


「それなんですよ。誰かに引っ張り出されて動くだけで、自分では外出しないんですか?」

「いや、そうでもない。時々一人で出歩いてるぞ。」

「えっ!?どこに出歩いてるんですか?」

「夜中に時々、1人で出て行くんだ。」


…夜中に1人で外出って、いや、ダメじゃないの?それ。


「夜中に1人って…やばくないですか?それって…」

「俺も最初は付いて行こうかって言ってたんだが、頑なに断るんだ。だから、1人で行かせてる。」

「ちょ…ちょっと!それって、砲撃長にも内緒でどこかまずいところに出入りしてるんじゃないですか!?」


エドナさんのややマゾっぽいところを考慮すると、心配になるのが普通だ。いったい彼女、砲撃長を置いて、どこに行ってるのか?


「ああ、心配ない。すぐに帰ってくる。」

「すぐに?じゃあいったいどこに行ってるんです?」

「近所のコンビニだ。」

「コンビニ!?夜中に1人でわざわざコンビニへ行くんですか?」

「ああ、コンビニ限定グッズにハマっててな、夜中から発売開始されることが多いから、わざわざ行くんだよ。」

「…なんで、わざわざ1人で行くんですか?」

「なんていうかな、1人で深夜にコンビニに行くと、なんだかいけないことをしているような背徳感を感じるんだそうだ。それが楽しみで、わざわざ1人で行きたがるんだ。まあ、うちの目の前にある店だし、まあいいかって送り出してるけどな。」


エドナさんらしいといえばそれまでだが、それ以前に、コンビニグッズの存在を教えたのが、うちの魔女のような気がしてならない。


「で、何を買ってくるんですか?」

「ああ、この間は『核融合炉クマ』っていうやつを買って来てたぞ。今ロージニアで流行ってるものらしいな。」


あの意味不明なグッズが、ここまで来ていたのか。でもエドナさんの買うものにしては、思いの外普通だった。


「そういうお前らはどうなんだ?人の話ばっかりしてないで、自分のことを少しは言えよ。」

「えっ!?私達?いや、普通ですよ。ワーナーの家に住んで、休日になったら買い物して、家に帰ってから麻雀して…」

「おい!?夫婦で麻雀なんてするのか!?」

「えっ!?おかしいですか?」

「おかしいとまでは言わないが…なんかちょっと変じゃないか?」

「いやあ、大事な戦いなんですよ!これが!負けた方は、次の週のゴミ捨て当番をすることになってるんですから!」

「…おかげで、ほとんど僕がゴミ捨てしてますけどね…」


恋愛の達人は、夫婦麻雀で夫にゴミ捨てをさせていた。衝撃的とは言えないが、変な夫婦だ。


「そういやロレンソ!お前の方が謎だぞ!」

「えっ!?何がです?」

「あのサリアンナとかいう高慢ちきな魔女!あんなのが奥さんで、よく身が持つな!」

「いやあ、家では普通なんですよ。わりと甘えん坊で、猫語で会話して…」

「猫語で会話!?何だそりゃ?」

「『ご主人~?お風呂ににゃさいますかぁ』『にゃにいってるにゃあ~、お前の方が先だにゃあ~』って感じに話すことですよ。別に普通でしょ!?」


いや、普通ではない。それ以前に、あのサリアンナさんがそんな言葉遣いをしているとは、想像できない。一度本物を見てみたいものだ。


そんなたわいもない日常の話をして、その日は暮れた。明日は大ワープ後に、戦場である星雲に到着する予定だ。


ワープをしたらすぐに本格的な艦隊戦が始まる。かもしれない。それが済んだら、再び平和な日々は訪れるのだろうか?我々は生きて帰れるんだろうか。どうしても、不安が頭をよぎる。


彼らと共に地球(アース)760に戻ってから、このたわいもない会話の続きをしたい。それが、今の私の一番の願いだ。

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