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#19 公国と戦艦ニューフォーレイカー

地球(アース)760に帰ってきてから、2週間が経った。


帰還早々に、私は王宮に呼び出される。


そこで、国王陛下直々に「男爵」の位を賜った。国王陛下直々の爵位授与式へ参加。時差ボケが一気に吹き飛ぶほど、緊張した。


そこで知ったのだが、なんと領地もいただけることになった。どうやら2年前に子孫もなく断絶した男爵家があり、そこの領地らしい。


王都から西の方にある小さな村が、いきなり私の領地になってしまった。


その村の名は「ダミア村」。爵位授与後にマデリーンさんと2人で行ってみたが、のんびりとした雰囲気の村だった。


その村の入り口付近で、私は「ロヌギ草」というものを初めて見た。マデリーンさんが教えてくれた。よく見ると、たくさん生えている。ここはロヌギ草の群生地だったようだ。


ただの葉っぱかと思いきや、葉だけではなく先端に花をつけていた。意外に高い草で、私の背丈ほどもある。


葉自体も食料になるが、花の部分もいずれ実がなり、そこから油を取り出すことができるようだ。えごまや菜の花のようなものに近い植物らしい。


村にある役場相当の小さな建物に行く。私がそこにいた人に陛下から頂いた男爵の証である紋章を見せ、ここの領主になってしまったことを告げると、慌てて何人かの人を連れてきた。


この村の人口は1100人。思ったより大きな村だった。領主が亡くなってからというもの、手続き関係が滞ってて不便なことになっていたらしく、私の登場は大いに歓迎された。


手続きというのは、婚姻や相続、調停ごとなどの決裁をするというもの。国の法律上、この手の書類は領主のサインが入らないと正式なものにならないため、今まではいちいち王都に出向いて他の貴族に代理を頼むか、ほったらかしになっているかのどちらかだったようだ。


で、行ったその日にほったらかしだった案件を一気に片付けることになった。婚姻が10件、相続が2件。


私自身もまだ新婚だというのに、婚姻届けに決裁署名するというのはなんだか妙な気分だ。そこで10組もの新婚さんに出会うわけだが、なにせここ3年は放置されていたので、すでに子供がいるカップルもいる。


村自体はまだ電化もされていない。さすがに王都から50キロほどの距離にある村なので、我々の存在を知らないということはなかったが、まだここは昔ながらの生活をしている。


だが、王都の急速な変化によって、ここでも家電を買いたいという人はいるわけで、不便を感じ始めているようだ。確かに、一度でもあの生活を知ってしまうと何とかして欲しいと思うものだろう。


ということで、私はエイブラムに連絡した。やつはたしかロヌギ草ビジネスを始めようとしていたので、ここのロヌギ草の販売権を譲る代わりに、発電用核融合炉を入手できないかと持ちかけてみた。すると、やつはその話にすぐにのってきた。早速来週にでも発電用核融合炉とともに来てくれるそうだ。


その時知ったのだが、ロヌギ草ビジネスは当たり始めたらしい。サンプルを健康食品業者に持ち込んだら、これがいい反応だったそうだ。エイブラムが目論んだダイエット食品構想だけでなく、医療用にも使えそうだということがわかったそうで、これからやつの商社が片っ端から買い占めに走ろうとしていたところだそうだ。


ついでに、ミリアさんとの関係がどうなったかと聞いてみると、驚いたことにもう入籍してしまったらしい。彼にとってはあの鈍感さがいいらしくて、すっかり気に入ってしまったようだ。でもちょっと早すぎないか!?


が、考えたら私もマデリーンさんと出会ってすぐに入籍している。人のことは言えない。


その後は、一足先に着いていたアイリスさんと再会したり、砲撃長とエドナさんが入籍していたり、ちょっと離れているうちに、この星でも少しずつ変化があった。


アイリスさんは、すっかりこの星の人達と仲良くなっていった。アリアンナさんやロサさんにエドナさんはもちろん、意外なことにサリアンナさんとも仲がいい。


「なあ、アイリス。化粧ってやつを買ってみたいのだが、どんなのがいい?」

「ああ、それなら今ロージニアで流行ってるこの明るい色のがいいですよ。サリアンナさんはお肌きれいだから、こういうのもいいですね。」


スマホ片手にサリアンナさんと話すアイリスさん。


それにしてもサリアンナさん、アイリスさん相手だと珍しく普通に話す。マデリーンさん相手だと常にけんか腰なのに、なぜだろうか?


私はこの星に戻って早々に、教官に復帰する。すでに2ヶ月が終了したところにもう1人の教官が登場。果たして相手にしてもらえるかと心配だったが、訓練生は私の指示には恐ろしいほど従ってくれる。そういえば、パイロット候補生は騎士、私は男爵。こんなところで爵位がものをいう。


こうして5日過ごしてやっと迎えた休日。マデリーンさんとショッピングモールにでも行こうかと思っていたら、ローランド少佐から呼び出しがかかる。公国に行くから、同行しろと言ってきた。


で、休日早々の朝早くに宇宙港に向かう。マデリーンさんも一緒だ。普段着のまま駆逐艦6710号艦に乗り込み、そのまま公国に向かった。


聞けば、戦艦用ドックが完成して、今日はいよいよ戦艦ニューフォーレイカーが入港するそうだ。それで一応関係者である私にも立ち会ってほしいということだった。


昼前には公国に到着。宮殿に出向くと、イレーネさんがいた。


「おお!これは男爵殿!わざわざお越しいただけるとは歓喜の極み!」


なんだかイレーネさんの口調が変わった気がする。爵位のせいか?


ところで、イレーネさんはドレス姿ではなく、軽装備の剣士といった格好だ。なんでも、軍船を迎えるのには戦の格好がふさわしいと思ったからだそうだ。


しかし、そんな格好だというのに、ローランド少佐とイレーネさんは手をつないで歩いている。この二人、すっかり仲がいいようだ。結婚は、時間の問題だろう。


ここから山の方を見ると、完成したドックが一望できる。全長5キロの巨大なドック。あそこにもうまもなく戦艦ニューフォーレイカーが降りてくる。


やがてその戦艦が空から降りてきた。ゆっくりとこちらに向かってくる戦艦ニューフォーレイカー。


全長4000メートル、厚さは500メートルを超える巨体。駆逐艦など可愛く見える。この小さな公国に、そんな想像を絶する大きさの宇宙船が降りてきたのだ。


街の人もこの大型の宇宙船を見ていた。駆逐艦は見慣れたようだが、みんな戦艦ニューフォーレイカーの方見ている。この山よりも巨大な船に、興味津々だ。


恐ろしいほどの大きさの船だが、この先この大きさの船をこの公国で受け入れることになる。そのことが、この公国の存続を左右するほどのものだとは、ここにいる住人の多くはまだ知らない。


それにしても戦艦の入港というのは、遠くから見ているとゆっくり過ぎてじれったい気分だ。だが、巨体すぎてそう見えるだけで、実際には普通の速度で降りているようだ。


しばらくして、やっとドックに接触したようだ。ガシャンという接続音がここまで鳴り響いてきた。40分をかけた入港は、何事も無く無事終了した。


が、大変なのは、ドック入港後だった。


戦艦内には通常、2万人の人がいる。修理のため一部が別の戦艦に移乗したとはいえ、まだ1万6千人もいる。


それだけの人が乗った船が、なんと3万1千人の街に降り立ったのだ。混乱しないはずがない。


まず着陸後に、いきなり艦内から3千人ほどが降りてきた。


いきなりこの街の10分の1の住人がおしよせたことも問題だが、一番の問題は通貨だ。この街に降りてきた人々は、少なからず買い物をしようとするが、お金がない。


ここは王都の銀貨、銅貨が使えるものの、戦艦内にはその王国の貨幣すらない。


一方で、オルドディーバの一部の人々も戦艦内にある街に行きたがっている。が、この街には我々が使っているユニバーサルドルとの通貨交換所がない。


結局、公国の役人が通貨の仲介を行うことになった。なお、王都では1ドル=銅貨1枚が相場。じゃあ我々の10セントはどう扱うのかといえば、ここでは紙幣になる。


王都でも、紙幣10枚で銅貨1枚になる。普通紙幣というのは高額通貨だが、王都では立場が逆で、むしろ低額通貨として使われている。偽札防止技術が低いために、紙幣の信用度が低いのが原因だろう。


一方で、我々のお金は1ドル、5ドル、10ドルがニッケル硬貨で、50ドル、100ドルは紙幣。なお、紙幣は七色に光る特殊な印刷技術を使っているため、公国の人々では偽札を作ることができない。


混乱はしたものの、なんとか通貨の交換は行われ。初日から概ね平和的な文化交流が行われた。夜までには落ち着き、それを見届けた我々は王都に戻ることとなった。


「では、我々は帰ります。フェルマン殿、今度いらっしゃった折には、ゆっくりと話しましょう。」

「そうだな、アルベルト殿とも話をしたい。近いうちに、宇宙港の街に寄ることになるだろうから、またよろしく頼む。」

「マデリーンさんもお元気で。また、一緒に話しましょう。」

「キャロルさんも、またこっちにきたら連絡ちょうだいね。みんなでしゃべりましょう!」


そう言って、フェルマン殿とキャロルさんと別れる。ここでも携帯電話の基地局が設置されて、彼らは自分のスマホから情報を入手できるようになっていた。


なお、イレーネさんはローランド少佐についてくるため、駆逐艦6710号艦に乗る。すっかりこちらの文化に染まったイレーネさん。食堂でスマホ片手になにやら打ち込んでいた。メッセージでも送ってるのだろうか?画面をにらめっこしている。


実はもう、イレーネさんもフェルマン殿も我々の文字を読めるようになった。言葉が通じるので、読み方さえ覚えてしまえばすぐに読めるようになるとはいえ、やはり必要性を感じるとあっという間に吸収してしまうものだ。


「…何を見ているのだ!?私に何かついているのか?」


イレーネさんをじーっと見ていたものだから、急に話しかけられた。


「いや、なんでもないです。ただ、すっかりスマホも使えるようになってたんですね、と思っただけでして。」

「それはそうだ。便利だからな。でもまさか1年も前にこのようなものがもたらされていたとは…実にもったいないことをしたものだ。」


イレーネさんの気持ちはよく分かる。でもたったの一年、今から挽回しても間に合う程度の差ですよ。


それにしても、相変わらずアンナさんがついてくる。身の回りのお世話から、ローランド少佐との一夜の番まで、実に健気な方だ。


それから4時間かけて、王都に到着した。


今日は本当なら、私の領地のダミア村に行く予定だったのだが、ローランド少佐の要請でお流れになってしまった。


明日はそのダミア村に行く。そういえば、エイブラムに頼んでおいた核融合炉が届いているはずだ。一度見ておかないといけない。そんなことを考えながら、私はすっかり寝てしまった。

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