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#17 研究機関とビルの上の女

「大気圏突入まであと1分、衛星軌道からの離脱を開始します。」

「ロージニア宇宙港より入電。『入港許可承認、第335ドックへ入港されたし』です」


ついに私は帰ってきた。故郷の星、地球(アース)401だ。


今向かっているロージニアという街は、私の故郷だ。


私の生まれた地球(アース)401は、今から100年ほど前に連合側に加わった星だ。


当時の地球(アース)401の文化レベルは3。蒸気機関車が走り、ラジオ放送が始まったくらいのレベルだったらしい。


100年ほど前のある日、この星に地球(アース)104の駆逐艦がやってきた。初めて駆逐艦が下りてきたのがこのロージニアの街だったそうだ。


それから徐々に地球(アース)104から文化や技術を取りれて、100年かけて今のような星になった。


地上に向けて降下を始めた。マデリーンさん、ロサさんは、初めてみる地球(アース)401に興味津々だ。


上空2万メートルに達する。地上を見ると、明らかに周りと違う部分が見えてきた。


緑が少なく、灰色っぽいゴツゴツとした模様が広がる。これが1000万人都市、ロージニアだ。


灰色っぽいものはビル群。そのビル群の一角に宇宙港がある。


それこそ、開かれたばかりの頃の宇宙港は、今の地球(アース)760の宇宙港のように急造で作られた街が併設されてたそうだが、今はすっかり大都市の一部になってしまった。当時の面影はない。


徐々に降下するにつれ、マデリーンさんとロサさんはその異様な街の姿に驚きつつあった。


高いビルが立ち並び、道路も複雑。おまけに宇宙港にはたくさんのドックがある。マデリーンさんの星の宇宙港とは、全く規模が違う。


そりゃ我々が宇宙に進出してもう100年以上経つ。その差は、どうしても大きい。


ビルの谷間にある宇宙港に入港する駆逐艦6707号艦。第335ドックに向かって、ゆっくりと降下する。そしてドック内に入り、ガシャンという音とともに接続した。


地上に降り立ったマデリーンさんとロサさんを迎えたのは、高さ200メートル以上のビルがたくさん立ち並ぶ街並みだった。


「はあ…あんたって、こんな大きな街で育ったんだねぇ。王都が可愛く見えるわ。」

「数十年経てば、いずれ王都もああなると思うよ。」

「アルベルト…あの高い建物、倒れてこないわよね…」

「大丈夫だよ、ロサ。滅多に倒れないから。」


ビル群にビビる魔女2人をなんとか引っ張って、我々は宇宙港内の通関施設に向かう。


そこで手続きを終えて、ようやく宇宙港のターミナルビルに出る。


そこにはお土産屋あり、食事処あり、アミューズメント施設あり。


あまりに選択肢が多すぎて、2人の魔女は戸惑っている様子だった。


そこへ、1人の人物が現れた。軍司令部から派遣された大尉殿だった。


「あの、ダニエル大尉ですね?」

「…ええと、ダニエルですが、私は中尉ですよ。」

「ああ、そうだ、そういえばまだ辞令を受けていませんよね。あなたは本日付で大尉に昇進されたそうです。」

「…えっ?ええっ!!」


着くや否や、いきなり昇進を告げられる。でも、なんで?


さらに驚いたことに、私は王国より「男爵」の称号も頂くことになってるらしい。これにはマデリーンさんもロサさんも驚いていた。地球(アース)760に帰還し次第、国王陛下より直々に爵位を受ける旨、交渉官殿を通じて艦隊司令部に連絡があったそうだ。


なんでも、地球(アース)401と760の橋渡し、その後騎士たちをパイロットとして育成した功績で「男爵」の位と領地を賜ることが決まったとのこと。地球(アース)760に帰り次第、私は「男爵」になってしまう。


で、その連絡を受けた艦隊司令部、貴族の称号を受けたものが中尉というのはいささかまずいということになって、急遽こじつけるように大尉昇進が決まったようだ。


とりあえず、表向きの理由は公国での交渉のきっかけを作ったことがその昇進理由。あまり、軍人らしくない功績だ。しかも王国と仲が悪い公国との交渉を昇進理由にしても大丈夫なのだろうか?


まあ、なんにしても昇進はありがたい。これで給料も少しは増えるし、増えた分でマデリーンさんと美味しいものを食べに行ける。


宇宙港を出ると、我々にお迎えの車がやってきた。真っ黒なリムジンだ。ここでもいきなりVIP待遇だ。


我々4人を乗せたリムジンは、ビルの谷間を通って、まずは宿泊先に向かう。


車の窓から空を見上げて、高層ビルに圧倒されているマデリーンさんとロサさん。しばらく走って、ビル群の中でもひときわ高いビルの前で止まった。


超高級ホテルに着いた。100階建のビルで、この首都でも最も高いビルだ。


で、そこの95階に我々は泊まることになった。


果てしなく上り続けるエレベーター。まもなく95階に着く。


そこは地上から400メートルほどの高さにある部屋で、周りの200メートル級のビルですら見下ろせる高さ。


聞くところによると、空高く飛ぶ魔女をお迎えするのに、低い場所では失礼に当たるという配慮からこうなったらしい。


そんな配慮のおかげで、私の1ヶ月分の給料で一泊すらできない部屋に、なんと1ヶ月も住めることになった。


窓の外を見るマデリーンさん。街の風景に圧倒されている。


「…あのさ、なんでここって、こんなに高い建物だらけなの!?」

「人が多過ぎるんだよ。住んでいる人だけで1千万人、旅行やビジネスで来る人も合わせればもっといるよ。でも地面の広さが限られてるから、縦に伸びた結果、こうなったんだよ。」


王都の人口は10万人ほど。帝都は800万人と言われるが、実は帝都と言われる範囲がとても広いためで、中心部は300万人ほどのようだ。


その帝都の中心部と同じくらいの領域に1千万人が詰め込まれてるのが、このロージニアという街だ。


王都の時間で生活していたため、我々にとっては今朝の10時くらいだが、ここの時間では17時。もう夕方になろうとしている。


初日の夕食は豪華なことに、ここの100階にあるレストランでフルコースということになってるそうだ。


私は正装用の軍服、マデリーンさんも一番いいドレスを出した。


アルベルトは私と同様に正装用の軍服、ロサさんは魔法少女の格好…ではなく、わりとちゃんとしたドレスを着て登場。


ここの食事がもうとんでもない豪華なやつで、とても私には言葉で表せないほどの料理ばかり。お肉は柔らかくて濃厚、スープやサラダもこれまで食べたものとは比べ物にならないほどの美味だ。素人の私でも分かる。


ところでここのレストランのある100階は、中央部分が立ち入れないようになっている。


ネットで調べると、100階の中心部分には重力子エンジンが収められているらしい。


エネルギーは地上にある大きな核融合炉から供給され、50階と100階にこの重力子エンジンを取り付けてあるとのこと。


ここは地震は少ない地域だが、まれに起こるので、その時の衝撃をこの2基のエンジンで打ち消すんだそうだ。


また建物の歪みなどが検知されれば起動し、修正作業を行ってるそうだ。意外なところで働く重力子エンジンの存在を知った。


食事を終えて、外の風景を眺める。


すでに日は沈み、そこは街灯りが星のように光るロージニアの夜景が広がっている。


マデリーンさん、ロサさんはもちろん大喜びだ。


「なにこれ!?どうして地上に星空が広がってんの!?」

「きれい…とってもきれいです!」


さて、食事を堪能した後はそれぞれの部屋に戻る。そこには、私のうちの2階にある部屋よりも広いんじゃないかと思いたくなるほどのダブルベッドがあった。うーん、さすがは高級ホテル。ベッドも半端なものではない。


時計を見ると、もう夜の10時。ただ、王都時間ではまだ昼の3時ごろなので、正直あまり眠くない。


しまったな、時差のことを考えて、駆逐艦内でちょっとづつ時差調整しておくんだった。


という心配をよそに、マデリーンさんはすーすー寝息をたてて寝ていた。今日は刺激がありすぎて、疲れたようだ。私もその寝顔につられて、いつの間にか寝てしまった。


翌日からは、ここロージニアの郊外にある研究施設で魔女調査が始まった。


そこには、高さ90メートル、幅150メートル、奥行き400メートルの巨大な空間のある建物だった。


これは、300メートル級の標準サイズの駆逐艦がすっぽり入るよう作られた施設。駆逐艦内の重力子の流れを見ることができる、この星最大の重力子測定施設だそうだ。


そこでこの2人の魔女に飛んでもらって、彼女らがどこで重力子を制御しているかを測定するのだ。


「あ、どうも、私は地球(アース)001から来ましたリュウジって言います。よろしくお願いします。」


この人が今回の調査の中心人物、リュウジ主任研究員殿。連合側における、重力子研究の第一人者らしい。


私は地球(アース)001の人と会うのは初めてだ。これまでの歴史からいって、もっと我々を見下した態度で接してくる人物かと思っていたが、意外なほど腰が低い。


ただし、ちょっと変な人らしく、どういうわけか昼食はスパゲティしか食べないそうだ。なんでも、あの形が重力子を連想させてくれるらしい。研究者のこういう感性は、私には分からない。


挨拶が済んだところで、いよいよ測定開始。で、やることと言えば、ロサさんとマデリーンさんが交互にこの広い研究施設内を全力で飛ぶ。ただそれだけだ。その魔女の飛行を、この施設内の全センサーで測定する。


測定中は、私とアルベルトは外で待機。横の部屋からじーっと眺めている。


広い施設内を全力で飛ぶマデリーンさんとロサさん。なんだか楽しそうだ。


時々休憩して、何かジュースや軽食をもらっている。


一方、我々は存在を忘れられてるようで、水の入ったペットボトル1本が置かれた机だけの部屋に軟禁された状態で放置された。


別に部屋に鍵がかかっているわけではなく、自由に出入りできるのだが、通路に出た時の場違い感が半端ではなく、出たところで行くあてもない。結局、トイレに行くとき以外はこの部屋にとどまるほかはない。


最初は嬉しそうに飛ぶ魔女たちを眺めていたが、それもだんだん飽きてきて、スマホで時間つぶしをするようになる。


マデリーンさんとロサさんは、研究者のリクエストに答えて、いろいろな飛び方をしている。


これを1日6時間行い、またあのホテルに帰るという日々が週5日続き、週末の2日が休みという日々を4週間ほど繰り返す。


さすが連合屈指の研究者と最高の研究施設を使っただけあって、ある程度魔女の力の秘密が解けたらしく、5日目にして飛び方の改善点が提案された。


ここでマデリーンさん、時速82キロというとんでもない記録を出す。ミリアさんをはるかにしのぐ速度だ。元々時速45キロ程度だったロサさんでも、60キロ以上を出した。


研究者によると、魔女が空を飛ぶために使っているのは、男性にはない器官、すなわち「子宮」だそうだ。


で、子宮に近い股間と触媒に使っている棒の当て方次第では、より力を引き出せるそうだ…が、よくもそういうデリケートな部分の話を、何の抵抗もなくしゃあしゃあと話すものだ。聞いてるこっちはちょっと恥ずかしくなる。


そういえばマデリーンさんが、魔女が子供を産むと飛べなくなったり、逆に速く飛べるようになる魔女がいるといっていたが、そういうことなのか?少なくとも、あの星でも男が魔法を使えない理由の説明にはなる。


こうして5日目を終えて、ここにきて初めての休日を迎えた。


そこで私は、実家に向かうことにした。


このロージニアの都心外縁部のマンションの一室、そこが我が家だ。


ちなみに隣に大きなマンションが建っている。こっちにはあのエイブラムの実家がある。


マデリーンさんは珍しく緊張気味だ。なにせ、初めて会う相手だ。


メールで写真などを送ってはいるものの、対面で話す機会はなかった。うちの両親も私の星に来たことはない。


「私、変じゃない?大丈夫!?」


いつもはもうちょっと強気な魔女だが、今日はえらい弱気だ。こっちが心配になる。


ドアホンを鳴らすと、母親が出てきた。


「あら、ダニエル!お帰り!」


続いて父親も出てきた。我々2人を家に迎え入れてくれる。


もう1年以上、ここには帰っていないから、本当に久しぶりだ。


「あなたがマデリーンさんね!会うのを楽しみにしてたのよ!」


うちの両親は人当たりがいい。お人好しすぎて欲がないから、あまり出世もできず、おかげで一人息子の学費も満足に出せなかった。だが、人間としてはとてもいい両親。すぐにマデリーンさんも打ち解けた。


近くの公園でマデリーンさんは飛んでみせたり、あの戦場の真上を飛んだ自慢話をしたり、わきあいあいとした時間を過ごす。


「そういえば最近、地球(アース)760では艦隊戦があったじゃないの。ダニエル、大丈夫だったの?」

「ああ、私の小隊も出ていたけど、相手は少数だったし、大丈夫だよ。」


まさかあの時、最激戦区の艦隊左翼にいたなんてとても言えない。ちゃんと生きて帰ってきているわけだし、敢えて心配をかけるようなことを言う必要はないだろう。


こうして、両親との時間を過ごして、夕方ごろにホテルに戻る。


地下鉄を乗り継ぎ、ホテルの最寄の一つ手前で降りた。一駅分を歩いて、街並みを眺めながら帰ろうということになった。


ところが地下鉄を抜けて地上に出ると、そこはすごい人混みだ。ここは元々人が多いところだが、尋常な数ではない。


いったい何があったのかをそばにいる人に聞いてみると、このすぐ前の高層ビルの上から飛び降りようとしている人がいるそうで、今警察が説得に当たってるそうだ。これはそれを下から見る群衆だそうだ。


確かに、上空には警察の航空機が浮かんでいる。その周りには、マスコミの航空機が何機かいる。


その先のビルに、確かに人がいる。私はパイロット、目はいい。マデリーンさんも同じく目がいいので、この人の存在に気付いた。


私は持っているスマホで、ライブチャンネルアプリを開く。この中継をやっているチャンネルがあったので、それを見た。警察の機体が近づこうとしているみたいだが、あまり刺激するのはまずいと、やや遠くから説得を繰り返している様子が映っている。


「ねえ、なんであの人、こんなビルのてっぺんにいるのよ!?」

「さあ、よく分かんないけど、飛び降り自殺しようとしてるみたいだよ。」

「はあ?なんで?」

「さあ、なんでだろう…」


映像で見る限りは、20代の若い女性のようだ。ビルの角に座りこんでいるが、ほんのちょっとでも前に出れば、あっという間に落ちそうだ。


「周りに航空機ってやつがいるけど、何してんの?」

「警察の機体からは彼女を説得してるみたいだけど、あんまり近づくと衝動で落っこちてしまうかもしれないから、なかなか近づけないんじゃないかなあ。」

「もう!何もたもたやってんのかしら!私、行ってくる!」

「あ!ちょっと!マデリーンさん!?」


私が制止する間も無く、マデリーンさんはビルのてっぺんに向かって飛んでいった。

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