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#16 地球(アース)401へ

さて、2週間の休暇などあっという間に終わってしまった。


私も心機一転、新たな生徒を迎えて、第2期目の教官としてスタートを切った。


…と言いたかったところだが、新たな任務が入り、しばらく教官業を中断することになった。


新たな任務とは、マデリーンさんを伴って、地球(アース)401に戻るというものだ。


この星の魔女を調べたいという研究機関からの依頼を受け、マデリーンさんを伴って地球(アース)401に行き、魔女の秘密をその研究機関で調べるのに付き添う。それがその任務の内容だ。


なんでも、3500光年も離れた地球(アース)001からわざわざ技術者がいらっしゃるそうだ。ただ、この地球(アース)760では調査に必要な機器類がないので、地球(アース)401で合流することとなった。


ということで、200光年離れた地球(アース)401に1年2ヶ月ぶりに帰ることになった。


乗艦するのは、駆逐艦6707号艦。私にとって、いつもの駆逐艦だ。


なんだか、マデリーンさんを実験体にするようで心苦しいが、マデリーンさんはあまり気にしていない。実際、調査といっても、閉鎖された部屋で飛んでもらうだけのようで、そこで重力子の流れや、力の発生源を捉えようとしているとのことだ。


この調査の狙いは、重力子の効率的な発生手段の確立だそうだ。


我々は重力子エンジンを利用して、重力を制御することで空中に浮き上がったり、慣性制御という、宇宙空間でも地上と同じ重力を生み出す仕組みを動かしている。


ところが、この重力子エンジンというやつは、エネルギーを大量に消費する。これは昔から我々にとって悩みの種だ。


重力子エンジンを動かすための核融合炉は大型化し、それに合わせて船も大型化、宇宙船は大きくなるばかり。


また、核融合炉は小型化できているものの、重力子エンジンの小型化はうまくいっていない。複座機に搭載される重力子エンジンがもっとも小型のものだ。


これが車に搭載できるほど小型のエンジンができれば、用途が大きく広がる。


エネルギー消費の低減と小型化、これらを阻むのが、重力子制御手段の効率化がこれ以上進まないことらしい。


ところがである。ここに、ハンバーグ1つで王都から帝都の間を平然と飛んでのける魔女がいる。


魔女が重力子を制御して飛んでいることは分かっている。マデリーンさんは核融合炉など搭載していないが、重力子を操ることができる。つまり、我々の重力子エンジンよりもはるかに効率よく重力子を制御できていることになる。


今のところこの星で最速、最長の飛行距離を誇るマデリーンさんを調査すれば、もしかしたら重力子制御の効率化を飛躍的にあげる手段が見つかるかもしれない。そう思われたらしい。


ということで、夫婦そろって私の故郷である地球(アース)401に行くことになった。


向こうでの滞在期間は1ヶ月ほどを予定。往復に20日はかかるため、実際には2ヶ月くらい留守にする。


マデリーンさんにとっては、初の星系外への旅となる。


荷物をまとめて、マデリーンさんと一緒に宇宙港に向かう。


今回は、事情が事情だけにVIP待遇だ。黒い車がお迎えにきて、直接宇宙港まで乗せていってくれた。


目の前には駆逐艦6707号艦がいた。これで地球(アース)401に向かう。


ただし、この船のクルーの多くが登場しない。艦長やモイラ少尉とワーナー少尉、砲撃長のミラルディ大尉、ロレンソ先輩は、地上勤務のため登場しない。


アルベルト少尉だけが一緒に乗ることになった。もちろん、ロサさんも一緒だ。理由は、マデリーンさんと同じ。


というわけで、いつもの駆逐艦6707号艦だが、要員をごそっと変えての航海となる。


「艦長!各部要員、配置につきました!いつでも出発できます!」

「ご苦労。ではこれより、地球(アース)401に向けて出発する。両舷微速上昇!」

「エンジン始動!両舷微速上昇!」


艦が浮き始める。いつものように、高度4万メートルまで上昇し、そこでエンジン全開。大気圏を離脱する。


今回、この船には地球(アース)760出身の人が何人か任務に就く。航海士にレーダー手、通信士、そして艦長候補の人も搭乗している。


皆この数ヶ月の訓練を経て、一人前の士官として宇宙に出たばかり。だが、まだ半年ほどの訓練を受けただけであり、この先こういう星系外航海の任務に同行して経験を積む。


さて、出迎えるたびに駆逐艦に降り立つマデリーンさんにとってはもう何度目になるのかわからない駆逐艦乗艦、そして2回目の宇宙航行だが、ロサさんは宇宙に出るのも駆逐艦に乗るのも初めて。ピリピリしたやりとりをしているこの艦橋の雰囲気に、かなりおどおどしている。すでに何度も駆逐艦に乗っているマデリーンさんは慣れたものだ。


今回の旅は、第21小隊の300隻が同行する。だが、戦艦はいつものニューフォーレイカーではなく、第20小隊所属の戦艦「ニューレーニア」が同行する。ニューフォーレイカーは近々、公国に完成する予定のドックに入るため、準備のためこの星にとどまることになっているからだ。


たかがマデリーンさん護衛にこれだけの艦艇が集結…というわけでもなく、いろいろな任務があるようだ。訓練航海、政府要人の送迎、交代要員の移送…などである。


外を見ると、すでにかなりの高度に達したようで、大気が薄くなっていて空も暗い。そろそろ目標高度に達するようだ。


「高度4万メートルに到達しました!周囲300キロ以内に障害物なし!進路クリアー!」

「これより、大気圏を離脱する。機関最大!両舷前進強速!」

「機関出力100パーセント!両舷前進強速!」


機関が目一杯回ったことを示す、あの独特の轟音が鳴り響く。振動もびりびりと伝わってくる。


地上の大陸や海が、みるみる後ろに流れていく。そのまま高度を上げながら増速、3分後に惑星軌道を外れ、この星の月の真裏に向かう。そこが小隊集結ポイントだ。


青くて丸い地球(アース)401が、みるみる小さくなっていった。この惑星とも、しばしの別れだ。


さて宇宙に出たばかりだが、もう昼食の時間だ。我々4人は早速、艦内の食堂に向かう。


私はカレーライス、マデリーンさんはチーズハンバーグを頼む。アルベルトはハンバーガーのセットで、ロサさんはキノコチーズリゾットを頼んでいた。


「あら、ロサのリゾットってやつ、美味しそうね。」

「これ、くどくなくて美味しいんですよ。最近の私のお気に入りです。」

「へえ、昔は草ばっかり食べてたのに、随分と食べ物の好みが増えたわね。この間までは、ピザばっかり食べてたのに。」

「ああいうお手軽な食べ物もいいんですけど、最近は少し広げてみようかと思ってて…」


そういえば、私はロサさんのことをあまり知らない。知り合ってからもうかれこれ一年経つが、あまり自分のことを喋らないので、彼女のことを知る機会がない。夫のアルベルトも同様に無口だ。


よくこれだけ無口の夫婦が上手くいってるものだと思う。喧嘩などするのだろうか?ロサさんがホウキを持って外に飛び出すほどの喧嘩をやらかしたことはあるのだろうか?


なかなか謎の多い夫婦である。無口で向かい合ってるだけだが、ロサさんはニコニコしているし、アルベルトもにこっと笑い返している。不思議なことだが、無言のうちにコミュニケーションを取っているようだ。


まあ、せっかく一緒の船に乗ったわけで、あっちでもしばらく一緒に過ごすことになる。いろいろとこの夫婦のこと、探ってみよう。


ところで、艦内ではロサさんは大人気だ。なにせショッピングモールで毎週のようにショーを行なっているため、ちょっとした有名人だ。


「あ!魔法少女さんだ!こんなところでどうしたの?」

「…ああ、ええと、その…」

「僕ら地球(アース)401に向かってるんだよ。」


アルベルトが代わりに応える。


食事を終えて帰る途中の通路でも声をかけられる。


「あれ?魔法少女さんが乗ってるよ?どうしたの?」


その度にアルベルトが応える。魔法少女の時のロサさんは活発な少女だが、普段はこの通り、ただの人見知りな奥さんだ。


さて、私とマデリーンさんの部屋と、アルベルト夫婦の部屋は隣同士になっている。夫婦向けの2人部屋が艦内で一箇所にかたまっているため、こうなった。


それにしても、アルベルトのやつ、どうしてあんなにたくさんのカバンを持ってるのか?聞いてみたら


「ああ、これは魔法少女の服やアイテムですよ。商売道具だから、ちゃんと持っておかないと。」


まさか、戦艦内の街でもショーをやらかすつもりじゃないだろうな。


さて、部屋に戻ったものの、することがない。今回は地球(アース)401に行くのが目的であり、それ以外の任務を持っていない。


いつもなら哨戒機の整備に付き添ったり、パイロット同士でブリーフィングするのだが、今回は哨戒機を搭載していない。地球(アース)760においてきた。


格納庫に行っても鍵がかかっていて入れない。帰還者の荷物を載せているようで、この航海中は荷物部屋として使っているため、だれも入れない。


パイロット候補生も乗っていないので、教官任務もない。


ということで、食事以外は部屋にこもってテレビを見るだけの退屈な毎日を過ごすことになりそうだ。


200光年の道のりは10日間で、その間に6回のワープを行う。


1回目、2回目のワープはせいぜい2、3光年彼方に飛ぶだけで、あまり大したものではない。ただひたすらワープポイントである「ワームホール帯」という場所に1日ほどかけてたどり着くだけの作業だ。


だが、3回目のワープだけは、別格だ。


3回目のワープでは、一気に120光年の距離を飛ぶ。地球(アース)401と760の間では、最長距離のワープである。


距離だけではない。実は、飛んだ先の場所がすごい。


私は、3回目のワープが行われる直前に、マデリーンさんとロサさんを艦橋に連れて行った。


ロサさんは艦橋のピリピリした雰囲気があまり好きではないようだが、今回ばかりは私がゴリ押しして連れて行く。アルベルトも一緒だ。


艦長の許可は事前に取っておいたので、4人で艦橋に立ち入る。


駆逐艦という船には、艦橋にしか大きな窓がない。あとは艦後方の左右にある展望室という場所に、小さな窓があるだけ。ただ、とても小さい窓なので、一人覗くのがやっとという大きさ。


外を直接眺めるには、艦橋に来るしかない。


艦橋についたときには、ちょうどその3度目のワープに入るところだ。


「機関良好!ワームホール帯まであと3分、距離、2万キロ!」

「艦内主要機器最終チェック!」

「重力子エンジン、核融合炉、2基とも正常!問題なし!」

「レーダーに障害物探知なし!」

「外部センサー、正常に作動!問題なし!」


ワープ前の点検作業が続く。


「ねえ、いったい何が始まるの?」

「ああ、これからワープに入るんだよ。」

「ワープ?あの、すごい距離を移動するっていう、あれ?」

「そう、あれ。」


ピンときていないようだが、実はマデリーンさん、この艦はすでに2回ワープしてるんですよ。


いよいよ、3回目のワープが始まった。


「ワームホール帯に突入します!」

「今度のワープは大重力帯に出る!総員!衝撃に備え!」


ワームホール帯というところに突っ込んだ。あたりが真っ暗になる。


数秒ほど続いたのちに、一瞬大きな揺れとともにあたりが急に明るくなる。


「きゃあ!?何?何が起きたの!?」


マデリーンさん、衝撃と眩しさに驚いて、私にしがみついた。ロサさんも同様に、アルベルトにつかまっている。


眩しくて、しばらく目の前に何があるのかわからなかったが、目が慣れて来るとその眩しいものの正体が見えてきた。


星雲だ。ここには、星の残骸であり、新たな星が生まれようとしている場所だ。


「…何よここ…すごくきれい…」


マデリーンさん、目の前に広がる巨大な天体を見て、言葉を失った。


薄い緑色のガスが、あたり一面に広がっている。目の前にあるような星雲だが、これでも0.5光年は離れている。


これでも比較的小さな星雲で、中心部に星の残骸である白色矮星がある。この白色矮星の巨大な重力のおかげか、ここはたくさんのワームホール帯が集中する、いわば宇宙の交差点だ。


地球(アース)401、760だけでなく、他の星々にもつながっている。このため、多くの交易船や艦隊が通行する場所でもある。このときも、ある惑星の中艦隊が航行中であった。


ところでこの星雲、よく見ると明るい中にも黒い筋状のものが見える。暗黒星雲と呼んでる部分だ。


この黒い星雲のおどろおどろしい光景に、ロサさんはちょっと怖がっていた。が、その星雲の奥にキラキラと光るものを見つけて、興味がわいたようだ。


「なんです?あの宝石のような光は!」


ロサさんも興味が出てきたようだ。


「ああ、あれは星の赤ん坊といったところですね。あれがそのうちどんどん大きくなって、夜空の星になるんですよ。」

「そうなんだ。星の赤ちゃんなんですね。なんてきれいで、可愛らしいんでしょう…」


もっとも、その可愛らしい天体は、我々はおろか、多分地球(アース)760の恒星よりも大きい星だ。宇宙では、赤ちゃんですらスケールが大きい。


しばらく眺めていたこの2人。宇宙の神秘を垣間見て、感動したようだ。


おかげで、2人ともその日の昼食は緑色のほうれん草スープを頼んでいた。このスープが、まるであの星雲のように見えるらしい。


この空域を2日間かけて通過するため、しばらくは部屋のテレビから、外のカメラ映像を見ることができるチャンネルにしてこの星雲を眺めていた。


が、2日後に再びワープ。星雲は姿を消した。


すると、再びテレビやスマホで動画を見る日々に戻る。神秘に惹かれていた魔女は、今や股を開いてだらしない格好でテレビを見るだけの怠慢生活に逆戻りしていた。


だが、星雲を抜けた直後に、我々の駆逐艦は戦艦での補給を受けることになった。


つまり、戦艦への乗艦許可が出る。


「ああ、やっと戦艦に行ける!」

「退屈だったもんね、せっかくだし、いろいろ買い物しようっと!」

「あの~、戦艦って、いったいどういうところなんですか?」


ロサさんがきょとんとした顔で尋ねてきた。


「ああ、そうか、ロサさんは初めてだよね、戦艦に行くの。」

「あの中に街があるのよ!こじんまりとしてるけれど、ショッピングモールのようなところがあって、店もいっぱいで、料理もここの食堂とは比べられないくらい美味しいわよ!」

「ええ!?そんなものがあるんですか?知らなかった…」


本来は「戦艦」という名だから、戦う船なんだけどね。最近はどちらかというと、補給の為の船ってことになっている。


駆逐艦乗員にとっては、この殺風景な宇宙空間で唯一と言える憂さ晴らしのできる場所。戦艦内の400メートル四方の街には、美味しい食べ物やきれいな服、スポーツに音楽に映画、好きなものを堪能できる場所だ。


しばらく我々4人で話し込んでいたら、ガシャンというドッキング音が聞こえた。どうやら、戦艦に接続したらしい。


「これより当艦は、戦艦ニューレーニアにて補給活動を行う。これに伴い、艦隊標準時1800より翌0300まで戦艦への乗艦を許可する。各自、制限時間の30分前には帰艦されたし。以上。」


艦長の声で艦内放送が入る。いよいよ、乗艦だ。


艦底部付近にある接続口から通路に入る。通路を抜けると、大きな空間に出る。


ここはブロック部で、戦艦のもっとも外側の部分。この空間は、被弾時の被害を最小にするために設けられた空間であり、物置程度に使われるが、特にこれといって使い物のない空間だ。


戦艦ニューフォーレイカーは、このブロックのいくつかで空気が抜けたままになっている。元々被弾時の衝撃緩和が目的で作られた空間であるため、空気はなくても困らないのだが、こういうときに通路として使えないため、不便だ。


その空間を抜けると、鉄道の駅がある。そこから電車に乗り、街のあるブロックに向かう。


全長4000メートル級の戦艦ニューレーニアの中を、歩いて移動するのは大変だ。真っ直ぐな通路などなくて、艦の前から後ろまで移動しようと思うと、だいたい20キロくらいの距離を歩く羽目になる。


限られた時間しか与えられていない我々は、頻繁にやってくるこの電車に乗って移動するのが一番いい。ホームに電車が入ってきて、ドアが開く。我々はそこに乗り込む。


今日はかなり人が多い。他の駆逐艦乗員にのラッシュと重なったようだ。ロサさんはこういう電車は初めてで、人の多さに混乱しているようだ。


3駅ほど耐えると、街のある駅に着いた。


ドアが開くと、そこはもう街の入り口だ。乗客は一斉に降りる。


ロサさんとアルベルト、私とマデリーンさんも降りる。


「わあ、こっちの街の方が、新しくない!?」


一度ニューフォーレイカーの街へ行ったことがあるマデリーンさん。おっしゃる通りで、こちらの方が船が新しい分、街も新しい。


つい5年前に新造されたばかりの戦艦ニューレーニア。街もまだできたばかりなので、とてもきれいだ。なお、ニューフォーレイカーはもう作られて80年ほど経つ老朽艦、もうあと20年で退役する予定だそうだ。


まずは昼食だ。艦隊標準時では今は19時だが、王都の時間では昼の12時だ。どうもあの標準時というのは感覚と合わないことが多くて、使いづらい。


4人で向かったのは、ラーメン店だった。どうもここ最近、体も動かしていないのに肉ばかり食べている。このままではまずいということで、たまには肉じゃないものを食べようということになった。


…のだが、このお店のラーメンというやつ、上に載っている肉が大きい。まるでステーキのような巨大チャーシューだ。


マデリーンさんは大喜びで食べる。ロサさんはあまりにくどそうな料理に面食らったが、食べてみるとあっさりとしたスープで、意外と食がすすむ。あっという間に平らげてしまった。


食べ終えたら、早速スポーツ店に向かう。実は今回、この2人の魔女が戦艦内にて浮上可能かどうかのテストをするよう、研究機関から依頼されていた。


魔法使いの存在する星というのは、我々連合側に5つ確認されている。だが、地球(アース)760以外の星に住む魔法使いたちは、地上を離れた途端、ただの人になってしまう。


だが、この常識を崩したのがマデリーンさんだ。地球(アース)760からずっと離れたアステロイドベルト付近にいる戦艦内でも飛んでみせた。惑星から離れても魔法が使える魔女というのは、少なくとも連合側では初めてだった。


だが、恒星系を離れたらどうか?ただの人に戻ってしまわないか?それを確認するために、今回このスポーツ店の中で飛んでみることになった。


ロサさんとマデリーンさんは、ゴルフクラブをを手に取りまたがる。マデリーンさん曰く、これが一番ホウキに近いらしい。


その後、力を込めるマデリーンさんとロサさん。


2人とも惑星の上と同様、徐々に浮いていく。


これで、こんな宇宙の果てでもマデリーンさんとロサさんは空中に浮かぶことができるとわかった。やはり地球(アース)760の魔女は、他の星に存在する魔法使いと違って、明らかに違う原理で飛んでることがわかる。


突然、空中に浮かぶ魔女が現れたものだから、スポーツ店の周りに人混みができた。ただ、今回は任務の一環で飛んでいるため、これ以上の浮遊はやらない…はずだったのだが、ロサさんもマデリーンさんも、調子に乗ってしまった。びゅんびゅんとスポーツ店の上を飛び回る。


考えてみれば、ここ6日間というものずーっと狭い駆逐艦内にいたから、少々動きたくなったのだろう。ストレス発散という意味もあって、派手に飛びたくなったようだ。ということで、2人には思う存分飛んでもらうことにした。


ということで、ロサさんとマデリーンさんは20分くらい飛び回っていた。


「あーっ!気持ちいい!やっぱり空は最高!」

「ほんとですよね、もうちょっと駆逐艦の天井も高いといいんですけどね。」


さて、このとき使ったゴルフクラブだが、そのままおいていくわけにもいかず購入することにした。


「いやあ、置いといてもらった方が、我々はありがたいですけどね。魔女のまたがったクラブがあると触れ込めば、それだけで買ってみえるお客様が増えると思うんですよね。」


いや、我々にとってそれは困る。頼むから、そんな趣向のお客さんを集めて売り上げを増やさないで欲しい。


クラブを片手に歩く魔女2人と、付き添う軍人2人。この妙な集団が次に寄ったのは、メディア系のお店。我々夫婦は音楽で、アルベルト夫妻はアニメがお目当だ。


マデリーンさん、最近はなぜか癒し系音楽にはまっている。リラックスすると、よく飛べるそうだ。そうなのか?この間までは、激しいテンポの曲を聴くとよく飛べるといっていたが。


ヘッドホンを当てて曲を選ぶ魔女。その向こうには、新作のアニメ動画をゲットして興奮する魔女がいる。


さすがアニメを売ってるコーナーだけに、ロサさんを知る人は多い。時々写真撮影を求められていた。


マデリーンさんも買う音楽が決まったようだ。電子マネー決済後にスマホを店内のデバイスに当てると、ダウンロード開始。すぐに転送完了。


そのあとは我々は映画館に行く。アルベルト夫婦はそのままアニメコーナーにとどまる。


ここでやっているたのは、相変わらずあの勇者シリーズだ。いつのまにか新作が出ていた。ただし、パターンはいつも通りだが。


そろそろ別の映画が流行らないものだろうか…しかし、中世のレベルから宇宙進出を果たす星が多いためだろうか、こういう中世風の映画が流行ってしまうようだ。この辺の事情は、連盟側でも同じなのだろうか?


つい3時間前にあれだけ大量の肉が載った昼食を食べたというのに、もうスイーツを食べに行く。別腹という言葉はあるが、マデリーンさんはさっき空を飛んでたから、その分お腹も空いてるようだ。


そのため、大きなパフェを頼んだ。これがビールジョッキに入った、巨大なパフェだ。


こんなに食えるんだろうか?心配になったが、みるみるビールジョッキの中身がマデリーンさんに取り込まれてなくなっていく。


それはそれで今度は食べ過ぎで心配になるが、メニューにはこんな一文が書かれていた。


「カロリー抑え目!ロヌギ草パフェ!」


おい、エイブラム、もう「ロヌギ草ビジネス」を始めてる奴がいるぞ。


戦艦内ではネットが使える。戦艦では恒星間通信が可能で、地球(アース)760へメールが送れる。あの星に残っているモイラ少尉やイレーネさんと、メールでやりとりしていた。


特に星雲の写真をイレーネさんに送ったら、今すぐにでもこっちに行きたいといってたそうだ。


なお、フェルマン殿とイレーネさんは公国に戻り、早速大型艦向け宇宙港の建設に立ち会ってるようだ。


そしてフェルマン殿は宇宙港周辺の街整備に際して、公国内でのアニメ専門店の出店を進めているようだ。フェルマン殿、すっかりアニメにはまってしまったようだ。


メールのやり取りでわかるのはこれくらい。またあの星に戻ったら、いろいろ聞いてみよう。


こうしてメールのやり取りも終えた私は、パフェを平らげて満足したマデリーンさんとともに、駆逐艦に引き揚げていった。


その後の3日間は、再び退屈な日々が続く。そして地球(アース)760を出て10日目、ついに、地球(アース)401に到着した。

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