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#148 アイリーンの魔女友

またアイリーンと散歩することになった。

まだあどけない少女だが、一等魔女としての能力は大人顔負け、そして、少なくとも2人の同年代の男から好かれている。

が、そうは言っても、まだ小学生の女の子だ。甘いものは大好きだし、野原を元気に走り回りたがる無邪気な年頃の娘だ。

というわけで、また公園にやってきた。


「アイリーン!今日こそお前を倒す!」


最初に来たのは、あの坊ちゃんだ。ジョエルとかいう貴族の息子。飽きもせず、ゲーム勝負を挑んできた。

だが、負ける。また負ける。いや、やっぱりわざと負けていないか?そのあとに仲良く話しているところを見ると、ゲームは所詮、話しかけるためのきっかけのようだ。


「へぇ~!すごいな、艦隊結成記念パーティに出席したのかよ!?」

「えへへ、すごいでしょう!パパが司令官だからね。」

「いいなぁ……僕も行きたかったな。で、どんなところだった?」

「そうね、料理がいっぱい並んでて、たくさんの司令官やおばさんがいて……そうそう、公爵家の嫡男という人にも出会ったわよ。私と同い年の。」

「えっ!?嫡男!?ど、どんなやつだった!?」

「うん、さすがは公国の次期当主って感じで、凛々しかったよ。私に優しくしてくれるし、紳士だったなぁ。」

「うっ!そうなんだ……それはすごいな……」


ジョエル君の心に、穏やかではない事案が芽生えたようだ。彼はおそらく直感的に、その公爵家の嫡男という人物の話に、アイリーンに対する危機感を感じたようだ。

だが、ジョエル君よ。今は焦っても意味はない。当のアイリーンには、残念ながらその嫡男にもジョエル君にも、友達以上の何かを感じていることはない。


もやもやした気持ちで帰っていくジョエル君を、手を振って見送るアイリーンのもとに、別の友人が現れた。


「あ、アイリーン……」

「あっ、ポリーヌじゃないの。どうしたの?」


現れたのは、小さな女の子だった。どうやら知り合いらしい。


「友達か?」

「そう、同じクラスの子。しかも彼女、魔女だよ。」

「えっ!?魔女!?」


うちの敷地に住むあの2人以外の魔女の友達だ。だが、どう見ても頼りなさげな彼女。どういう魔女なのだろうか?


「ねえ……その横にいる人は……」

「私のパパだよ。」

「ええっ!?アイリーンのパパって……司令官で子爵様の……」

「大丈夫だよ、噛み付いたりしないから。」


猛獣か、私は。ともかく、やはり気の弱そうな子だということはわかった。


「じゃあ、アイリーン。私ね、ちょっとお使いがあるから、行くね。」

「いつもの頼まれごと?」

「そう……でも、私なんかに頼まなくてもいいのに……」

「いやあ、ポリーヌじゃなきゃダメなんだよ、きっと。」

「そ、そうかな……」

「そんなに心細いのなら、ついていってあげようか?」

「えっ?いいの?でも……」

「いいよ、どうせ暇つぶしの散歩だもん。付き合うわよ。」


うーん、友達想いのいい娘だ。こういう器の大きいところは、マデリーンさんにそっくりだな。


「じゃあ、パパ。ポリーヌに付き合うから、先に家に帰ってていいわよ。」

「いや、そういうわけにはいかないだろう。私もついていくよ。」

「そう。じゃあ、はぐれないようにね。」


どっちが大人だかわからないことを言う。私が迷うわけないだろう。

ポリーヌちゃんについていくと、公園を抜けて平民街に入っていく。ここはフレアさんの住んでいたあたりの地域だな。しばらく歩くと、壊れかけた家が見えてきた。

ポリーヌちゃんは、その家に向かって歩いていく。そして、その家の前で立ち止まった。

変だな。お使いって、こんなところに何があるんだ?てっきり買い物だと思っていたが、とても何かを売っている店には見えない。

まさかと思うが、やばいものを売っている隠れ家などではないだろうな。この王都でも、裏でドラッグの売買が行われていると言う。もしかして、気の弱い娘ならば警戒されないから、使い走りとして使われているのではないか?

だとすると、この星の治安に関わる私としても看過できない。腰にある銃に手を当てながら、ポリーヌちゃんの後ろについていく。


「ここなの?」

「うん、そう。もういらないんだって、このお家。」

「そうなの。でも大丈夫?大きいよ、これ。」

「うん……多分、大丈夫。前にこれより大きい貴族のお屋敷をやったから。」


なんだ?なぜ家の大きさなど気にするのだ?アイリーンとの会話が、まるで読めない。だが、どうやらこれからポリーヌちゃんが何をするのか、アイリーンは知っているようだ。


「おお、来た来た。ポリーヌちゃん、頼んだよ。」

「はい、親方。じゃあ、さっと終わらせますね……」


ガタイのいい職人が一人現れた。アイリーンも知っている人物のようで、手を振っている。特段、怪しげな人物ではなさそうだ。ますます状況が読めない。一体、何が始まるのか?

ポリーヌちゃんは、その古い家に近づいていく。そして、壁に手を当てた。


「パパ、ちょっと下がってて。危ないよ。」

「は?なにが……」


私がアイリーンに答えようとした、その時だった。


空気が一瞬、パンと張り詰めたような、そんな衝撃を感じる。

その直後、ドーンと言う腹に響く音が伝わってきた。そして、目の前に砂煙が立ち上っているのが見えた。

なんということだ。2階建てのあの家が、なくなっている。徐々に晴れる砂煙、その中にポリーヌちゃんが立っていた。

あの古い家は、どこにも見当たらない。基礎部分の石が見えるだけで、その上にあったものはまるで無くなっていた。


「いやあ、さすがポリーヌちゃんだ。一瞬だったね。」


その親方と呼ばれている職人が、ポリーヌちゃんのところに歩み寄る。そして、土まみれになったポリーヌちゃんの服や頭を払う。


「ごほごほ、はあ……また汚れちゃった……」

「相変わらず、すごい力ね、ポリーヌ。」

「あははは、今日は全部粉々にしちゃったよ。親方のやることがなくなっちゃった。」

「いいよ、その方が俺も助かる。」


ここでようやく理解した。彼女は、この家を解体するためにやってきたのだ。

そして、彼女は破壊系二等魔女だと分かった。

だがこの破壊力、並みの力ではない。我が軍にも破壊系のレイラ大尉がいるが、おそらくあれ以上だ。

しかしこの子、まだ小学生だぞ?それでもうこの破壊力だ。

見た目で騙されていた。とんでもない魔女だ。将来、我が軍の特殊部隊に欲しい。即座に私は、そう考える。


「ああ……帰ってすぐにお風呂はいらなきゃ……」

「そうだな。気いつけてかえれや!ところで、そこにいる2人は?」

「私の同級生で、アイリーン。で、その横にいるのは、アイリーンのパパの、ダニエル閣下。」

「アイリーンちゃんに、ダニエル閣下……って、おい!王国最強の貴族、ダニエル様とその娘さんじゃないのか!?」


私の正体を知って驚く親方。ぺこぺこと頭を下げる親方に、苦笑いしながら手を振る私。

だが、私の方が驚きだ。まさかこんな破壊力を持った魔女に会えるとは思わなかった。

それにしてもだ。アイリーンの友人には、普通の子はいないのか、普通の子は。

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