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#14 ショッピングモールでの女子会

この街始まって以来、初めての魔女同士のゼロヨン対決が行われる。


いや、多分1万4千光年の宇宙でも初めてだろう。こんな対決、滅多にあるものじゃない。


合図は私が行うこととなった。るーるは、5つ数えてスタート。カウントダウンをはじめた。


「5!4!3!」


地上5メートルほどのところに、マデリーンさんとミリアさんが並んで浮いている。


「2!1!ゴォォォッ!」


合図とともに、両者一斉にスタート。2人とも速い。


マデリーンさんは最大速度に達したようだが…ミリアさんはマデリーンさんを追い抜いた。


確かに速い。噂通りだ。もっとも、劇的に速いわけではないようで、その差は時速にして5キロくらいというところか?


だが、公園の手前でミリアさんは減速する。みるみる高度も落ちて、あと少しでゴールというところで地上に降りてしまう。


いったい何が起こったのか!?私は急いで公園の向かう。


マデリーンさんは悠々と公園の入り口からホウキに乗って引き返してきた。


ミリアさんのところに近づく。かなり息が荒い。どうしたんだろうか?


「やっぱり、噂通りね。」


マデリーンさんがミリアさんに言い放つ。


「う…うるさい…わね…やっぱり…私の方…が…速く…飛べたじゃないの…」


息が切れてて喋るのが辛そうだ。


「でも、公園の入り口がゴールって言ったじゃない。私の方が先に着いたわよ?」


マデリーンさんが答える。


「ねえ、マデリーンさん?」

「なに?」

「彼女のことを『噂通り』って言ってたけど、どういう噂だったの?」

「ああ、彼女は速いんだけど、長く飛べないって言われてたのよ。まるで火打ち石の火花のように、手前で一瞬きらめくのが精一杯な魔女、だから『石火の魔女』なんだって。」

「う…うるさい…私だ…って…これでも…長く飛ぼうと…努力して…いるんだから。」


黙ってればいいものを無理に反論するものだから、余計に息切れが激しくなる。


このままでは可愛そうなので、公園に連れて行って何か飲ませることにした。ちょうど公園内に自販機があったので、そこでオレンジジュースを一本買ってきた。


ベンチに座ってそれを飲むミリアさん。多少落ち着いたようだ。


「全く、負けると分かってるならやめておけばよかったのに。だらしないわね。」

「いいじゃない!一瞬でもあんたを抜かせたら、それでいいのよ!」

「そんなの意味ないじゃない!だいたいあんたは虚弱過ぎるのよ!どうせ草ばっかり食べてるんでしょう!?」


あれ?このフレーズ、聞いたことがあるぞ。


「うるさいわね!ロヌギ草は魔力を得る大事な食べ物よ!何言ってるの!」

「そういうのは、勝ってから言いなさい。」

「ぐぬぬ…」


草を食うって、そういう意味だったんだ。でもなんだ?ロヌギ草って?


「マデリーンさん?なにそのロヌギ草っていうのは?」

「ああ、ロヌギ草というのは魔女が魔力を保つためにもっともいいものと言われてる植物なのよ。」

「ええっ!?でも、マデリーンさん、そんなもの食べてたっけ?」

「食べるわけないじゃない!あんな不味いもの!」

「でも、魔力にはいいって…」

「迷信よ!迷信!なによりも、そんなもの食べていない私が、これだけ魔力があるのよ。普通の食事の方がいいに決まってるじゃないの。」


確かに、マデリーンさんの飛行能力は高い。最大速度70キロ、到達高度2000メートル、1回の食事で飛べる距離は約200キロ。もはや、人間離れしている。


一方でミリアさん、最大速度こそ75キロくらいありそうだが、飛距離は300メートルほど。到達高度も知れてるだろう。


「ええっ!?じゃあ、あんた普段何食ってるのよ!?」

「私?そうね、デミグラハンバーグに、チーズハンバーグ、それからキノコハンバーグに…」


マデリーンさん、ハンバーグが多過ぎだ。でも、これが本当に今の彼女の魔力の素だ。ハンバーグに限らず、彼女の食事は肉類が多い。ちなみに昨日の夜はカレーハンバーグというやつだった。


「何そのなんとかハンバーグっていうのは?」

「あんた、もしかして、ハンバーグを知らないの?」

「なにそれ?初めて聞いたわ。」

「…ええと、ところでさ、あんた。ここに来て何か変だとは思わなかったの?」

「…うーん、そうね…王都に近づいたらなんか空飛んでるし、馬のない馬車がたくさん走ってるし。確かに変よね。」


あれ?もしかして、今王都や帝都などこの辺りで起こっている変化を知らない人なの?よく周りの変化に驚かずに、ここまでたどり着けたものだ。


「…あんた、どこから来たの?」

「私は王国の西の外れの小さな街、ヴァルニアから来たのよ。」

「じゃあ、もしかして、宇宙から新たな人々がやってきた話は知らないってこと?」

「はあ?宇宙?なにそれ。」


妙なものが道や空を走っているんだから、まずその異常事態に気づけよと言いたい。だいたい魔女と鳥以外に、空を飛べるものはなかったんじゃないのか?この星は。


「…あんた、相当鈍いわね。」

「うるさいわね!お前を探すことに気を取られていただけよ!王都に行ったら会えるって聞いたから、頑張って旅して、やっとここまで来たんだから!」

「わざわざ来てもらって申し訳ないけど、もう魔女の速さ自慢なんて意味ないわよ。私の旦那だって、私なんかよりももっと早い空飛ぶ乗り物に乗れるんだよ。」

「はあ?旦那ぁ!?あんた魔女のくせに、結婚してるの!?」


驚くポイントがずれてる気がする。でもマデリーンさんのおっしゃる通り、この魔女は鈍い。


「…上見なさいよ、上!」

「なによ、上って…」

「いいから!!」


ちょうど真上に、全長1千メートル級の大型輸送船が通り過ぎるところだった。いくら鈍感な魔女さんでも、こいつの大きさには驚いたようだ。


「あわわ…なにあれ!?なんであんな大きなものが空飛んでるの?」


やっと周囲の異変を感じたようだ。


「あれがハンバーグって食べ物をここにもたらしてくれた張本人よ!あんな船でさえ、あんたや私よりも速く飛べるってのよ!もうそういう時代なの!分かる!?」

「あわわわっ!ハンバーグ…怖い!」


ハンバーグにいらぬ印象が植え付けられてしまった。いや、ハンバーグどころじゃないだろう…


「そういうことだから、今さら魔女同士が速さを競ったところで、どうしようもないのよ。」

「うう…そんな…私、それしか取り柄がないのに…」


あれだけ強気だった魔女が、急に落ち込んでしまった。ここに来るまでに周囲の異変に気づかない鈍感ぶりもあっぱれだが、今の狼狽ぶりにはちょっと気の毒に感じてしまう。この魔女、これから先の人生、この調子で大丈夫なのか?


「…もう、しょうがないわね。じゃあ、私がそのハンバーグをおごってあげる。それでも食べて、元気出しなさい!」

「え?本当?ハンバーグ食べられるの?」

「今回だけよ!食べたら、さっさと家に帰りなさい!」

「うんうん、分かった、そうする!」


ミリアさん、さっきまでの威勢の良さは何処へやら、急に大人しくなりマデリーンさんについていく。


で、マデリーンさんが向かったのは、ショッピングモールのフードコート。はて?こんなところにハンバーグのお店なんて、あったっけか?


だがよく見ると、そこには新しくできたハンバーグ専門店があった。いつのまにこんなものができていたんだ?気づかなかった。よくチェックしていたな、マデリーンさん。さすがはハンバーグマニア。


初めて見るハンバーグに、ミリアさんは興味津々だ。


「これって、お肉なの?何この茶色いソースのようなものは?」

「食べれば分かるわよ。おごりなんだから、一番安いやつね!」


ミリアさんに渡されたのは、トッピングのないごく普通のハンバーグ。それに、ポテトとニンジン、コーンなどの付け合わせがついただけのものだ。


だが彼女にとっては、たったこれだけでも衝撃的だったようだ。


「何これ!美味しい!美味しいだけじゃなくて、力が湧きそう!こんなものがこの世にあったなんて…」

「だから言ったでしょう?草ばっかり食べてたら、魔力なんて湧かくわけないって。」


妙に微笑ましい光景になってきた。さっきまでゼロヨン対決をやりあったもの同士とは思えない。


そこへ突然、ある人物があらわれた。


「あれ?中尉殿ではないですか。どうしたんです?こんなところで。」


モイラ少尉だ。


「少尉こそ、なぜここに?」

「私はイレーネ様、ローランド少佐殿のお供でここにいるんですよ。」

「ああそうだった、ご苦労様…ってことは、イレーネさんもここに来ているってこと?」

「おお!ダニエル殿とマデリーン殿ではないか!こんなところで会えるとは、奇遇だな!」


ショッピングモールのフードコートに現れた公国のご令嬢。そばには侍女のアンナさん。後ろには、ローランド少佐の姿もあった。


ショッピングモールだって、レストランくらいあるだろうに。なぜ、フードコートなのか?


「なぜ、ここにいるんです?少佐殿。」

「いや…モイラ少尉がデートにはまず映画だというので、ここにきたのだ。」

「で、どうでした?反応は?」

「とんでもないほどのカルチャーショックだったようだが、大喜びだよ。見た映画があの勇者シリーズだったからかな?剣士があの魔王に勝利するシーンを見て、大変ご満足な様子だ。」

「はあ、あれを見せちゃったんですね。」


うーん、イレーネさん、これをきっかけに明日からは少佐の前でも剣を振り始めるかもしれない。


そこに今度は、毒舌魔女が現れた。


「あれ?マデリーンじゃないの?どうしたんですか?こんなところで。」


アリアンナさんだ。旦那のシェリフ交渉官も一緒だ。


「この変な魔女が来て、ハンバーグを知らないなんていうもんだから、ここに連れて来たのよ。」

「変な魔女っていうな!これでも石火の魔女と言われてるんだぞ!」

「なんだ、マデリーンと同じスピード狂同士じゃないの。」


相変わらず、アリアンナさんは一言多い気がする。


「でもこいつ、うちから公園までも持たなかったのよ!本当に火打ち石のような奴だわ。」

「うるさいわね!私だってハンバーグ食べたらもっと飛べるんだから!」


ああ、せっかく仲よくなれたところなのに、アリアンナさんの登場でぶち壊しだ。


「なんだなんだ!?急にやかましくなったぞ?」


と、イレーネさんが言う。


「そういうあなたこそ誰なんです?まるでカビの生えた花瓶みたいな服ですねぇ。」

「我が名はイレーネ!これでもオルドムド公国の次女であるぞ!」

「ああ、アリアンナ、ちょっとまずいよ、この人にその毒舌は…」


普段は焦ることがないシェリフさんが、今回ばかりは焦った。そりゃそうだ、まさに我々のところの交渉官がこの公国と交渉中。そのご令嬢を怒らせれば、なにかと厄介だ。


「なんだ!?騒がしいと思ったら、ワーナーにモイラ少尉、ダニエル中尉とその奥さん、それと…誰だ!?俺の知らん奴がいるぞ!?」


今度は砲撃長が現れた。エドナさんも一緒にいる。


「砲撃長殿。なんでこんなところにいるんですか?」

「なんでって、そりゃお前、ここしか買い物するところがないだろう!」


まあ、そうなんですけどね。だからってわざわざこの混乱状態の最中に現れなくても…


「あれ?みなさんお揃いで…って、あの方々はどちら様でしょうか?」

「ええと、まずあちらはローランド少佐にイレーネさん。あ、イレーネさんはオルドムド公国のご令嬢なんですけどね。」

「ええ!?じゃあ、公爵様じゃないですか!」

「おい、ローランド少佐って、うちのチーム艦隊にいる公爵じゃなかったか!?」


ややこしくなってきた。頼むから、話は最後まで聞いてください。


「あれ?ダニエル中尉殿。どうしたんです?こんなところで。」

「あの…なんでこんなに人がいるんですか?」


そこに今度はアルベルトとロサさんが登場。


「アルベルト少尉がいるということは…もしかして…」

「なんだか賑やかだな!あれ!?イレーネじゃないか!」

「兄上!兄上もここにいらしたんですか!」

「このアルベルトという者から指南を受け、アニメという芸術についていろいろ調べていたんだ。いやあ、ここは素晴らしい!まるでお城のような建物に、あらゆる人々と文化・芸術が集められている!こんな場所が王都にあるなんて、思いもよらなかった!」


やっぱり、フェルマン殿だ。アルベルトのやつ、ここのアニメショップに連れてきていたのか?


もちろん、キャロルさんも一緒だ。2人とも、アニメショップの袋をたくさん抱えている。


「おい!マデリーン!なんだこの人混みは!!」


…多分現れると思っていたが、やはり現れた。サリアンナさんだ。


「サリアンナ…あまり早くいかないでくれよ…」


夫のロレンソ先輩も一緒だ。あいかわらずサリアンナさんの荷物持ちのようだ。


こうして、このショッピングモールのフードコートに、突如この星での私の知り合いが集結した。


女性陣は、魔女5人に侍女2人、公爵嬢、奴隷、軍人が各1人。計10人


男性陣は公爵のご子息と交渉官が1人づつ、軍人6人。計8人。


合計、18人もの大集団が、ここショッピングモールのフードコートに集結した。


「ちょ…ちょっと!何よこの人たちは!」


ハンバーグを食べにきただけのミリアさんは、マデリーンさんの知り合いの多さに驚く。


「知らないわよ!私だってこんなに集まってくるなんて、思ってなかったんだから!」


マデリーンさんも逆ギレ状態だ。


思えば、ここでペアがいないのはアンナさんとミリアさんだけ。あとは夫または恋人同士。


ミリアさん、自分以外に魔女が4人いることに驚く。


(ミ)「ええ!ここにいる私以外の魔女はみんな結婚しているの!?」

(マ)「そうよ、あなたくらいのものよ、未婚の魔女なんて。」

(アリ)「これから『石火の魔女』なんてダサい名前やめて、『未婚の魔女』って自称すればいいじゃない。」

(ミ)「ええ!かっこ悪いわ!そんなの!」

(イ)「なんだ、ここは魔女だらけなのか!?しかも一等魔女ばかりとは…妾もこんなにたくさんの魔女に会うのは初めてだ。」

(ロサ)「…うう…人が多い…早く家に帰りたい…」


当初は男女のペアでいたのだが、だんだんと女性陣が集結していく。


きっかけは、エドナさんの下ネタだった。


(アリ)「ええ!?あのクマ野郎が、あなたにそんな激しいことをするの!?」

(エ)「そうなんですよ…私が買われた時に、私が身につけていた手枷を大事にもっててですね…夜になるとそれを…」

(イ)「くっ!なんという下劣な男だ!…でもなぜだ…ちょっと気になるな。」

(ロサ)「だ…ダメですよ…貴族様がそんないやらしいことをなさっては…」

(マ)「そういうロサはどうなのよ!」

(ロサ)「いや、私は普通ですよ!魔法少女の格好して、ベッドに入って…」

(サ)「おい!それのどこが普通なんだ!」


そのうち、女子会の流れは、徐々に男性批判へと傾いていく。


(アリ)「私のところの豚野郎もそうですよ~。私のことなんて、ラーメンの中に沈んだもやしくらいにしか思ってないんじゃないかって思うこともあるんですよ。」

(サ)「なんだ!そうなのか!?お前とうまくやれてると思ったんだが、そんな無神経なやつなのか、あの野郎は。」

(マ)「男なんて、そんなものよ。多少のことは大目に見てあげなさいよ。」

(イ)「そうなのか!?ローランド殿は優しいぞ!私が風呂に入る時などは…」

(マ)「ああ、そういうのは3ヶ月もするとだんだん慣れてきて、いずれあなたのこともベッドのクッションくらいにしか思ってくれないですよ!」

(キ)「そうですよね…私の旦那様はお優しいんですけど、確かに長いこといると、ちょっと…って思うこともありますよね。」

(ミ)「ちょっと!私だけ話に参加できないじゃないの!」

(マ)「悔しかったら、草ばかり食べてないで、さっさと男を作るのね。」

(ミ)「そんなこと言ったって…私だって何人も告白したのよ!でも魔女だからって言われて…」

(サ)「ばっかだなぁ。王国や帝国の人間じゃあ私らに偏見持ってる奴ばかりだから、相手にするだけダメだ。狙うなら、この宇宙港の街の人間よ。」

(ミ)「そうなの!?じゃあ、私、頑張ってみようかな?」

(マ)「まずはその虚弱体質をなんとかなさい。」

(ミ)「うるさいわね!言われなくったってわかってるわよ!」

(エ)「ああ…ミラルディ様の悪口を言ってしまった…今夜はお仕置きされるかな、えへ。」

(アン)「イレーネ様、ピザというのを食べながら話されますと、ドレスが汚れますよ。」


一方の男性陣は、女子会を横目に話す。


(私)「…女性陣は言いたい放題ですね。」

(砲)「お前などはまだいいじゃないか!俺なんか『クマ野郎』だぞ!なんて言い草だ!」

(ロー)「大丈夫かな?イレーネさん。あの中にいるとろくでもないことを吹き込まれそうで。」

(ワ)「大丈夫ですよ、ああいうのはストレス発散になるんですよ。気にしなくてもいいと思いますよ。」

(砲)「そんなこと言ってると、お前だってどう思われてるか分かったもんじゃないぞ!さっきマデリーンさんが『男なんて…』と言ってる時に、モイラのやつ、うなずいてたぞ!」

(ワ)「ええ!?そうなんですか!?」

(私)「別に気にしなくていいんじゃないか?」

(ワ)「いや、気になるでしょう!モイラさんから嫌われてるところがあったら、結婚してからやっていけるかどうか心配だし。」

(私)「一緒に暮らし始めたらいいところも悪いところも見えてきて、だんだんとお互いが妥協しあって、それで夫婦になるんだ。大丈夫だよ。」

(ロー)「そう言うものなのか?参考になるな。」

(フェ)「キャロルもメイドだが、私と二人きりの時は御構い無しだぞ。一見大人しいが、怒ったら手がつけられない。いくら身分差があっても、大変だぞ、夫婦ってのは。」

(ロレ)「そうですよね、サリアンナも可愛い人なんですけど、ヘソを曲げたら大変で…」

(アル)「…ベッドで魔法少女の格好というのは、普通じゃないのか…」


みんな想い想いにしゃべっている。女子の結束に対し、男子側も結束しつつあった。


だが、敵は10人に対し、我々は8人。艦隊戦ならなんとか勝負できる戦力差だが、出来れば同じにしたいと考えるのは、軍人の性。侍女のアンナさんはイレーネさんの相手しかしていないからカウント外として良さそうだが、ミリアさんはそうではない。そこで、必然的にミリアさんのお相手話になる。


(ワ)「あのミリアって人にお相手が出来れば、僕らはほぼ同数になれるんですよね。」

(砲)「なんだ!同数にする必要はあるのか!?」

(私)「それは置いといても、あの輪の中に入り込んでますから、独り身だと言うのはちょっと可哀想ですよね。」

(シェ)「そうだね…誰かいい人、いないかな。」

(ロレ)「魔女の独り身は、こじれると厄介ですからね。」

(私)「さすがは先輩、分かっていらっしゃる。」

(ワ)「そういうものなんですかね?」

(シェ)「気持ちはわかるよ。」

(アル)「うちのはそんなにこじれていないなあ。」

(フェ)「魔女はあんまり関わりがないから、わからないなあ。そういうものなのか?」

(ロレ)「我々の知る魔女で、サリアンナが一番歳上だが、一番ひねくれてるからね。」

(私)「マデリーンさんよりもアリアンナさんの方が若いですけど、アリアンナさんの方がキツイかなあ。」

(シェ)「いや、そうでもないよ。家の中だと、素直なんだけどなあ。」

(ロー)「話を聞いてると、魔女というのは2面性があるのか?」

(私)「うーん、どうでしょう?うちのは、中二病っぽい時と普通モードがあるかな?」

(ロレ)「うちはツンデレと甘えモード。」

(アル)「うちは人見知りと魔法少女。」

(シェ)「うちのは表ではドSっぽいけど、裏ではドMなところかな?」

(ロー)「う…やっぱりそうなのか。」

(フェ)「厄介だなあ、魔女というのは。すると、ミリアという者の相手探しは大変じゃないか?」

(私)「あ、でも彼女、このあと故郷に戻るってことになってるはずです。」

(シェ)「なんだ、じゃあお相手のことを考えてもしょうがないよね。」


あとから考えたら、別にどうせもいいことを話したものだと思うのだが、こういう集まりも悪くはない。


結局、2時間ほどそこにいた。


(イ)「…もう一度聞く。メールとやらが使えるように、ローランド殿に教えてもらえば良いのだな?」

(モ)「そうですよ。それでみんなと連絡が取り合えますから。」

(ア)「できれば、Linebookも使えるようにお願いしてね。」

(イ)「そうだったな、あの会話をやり取りするやつだな…うーん、そうなるとやはり自分用のスマホとかいうやつも欲しいな…」

(ミ)「わ、私はどうすればいいのよ!」

(マ)「知らないわよ!自分でなんとかしなさい!」

(ミ)「ええーっ!?」

(エ)「では皆様、またLinebookで。」

(サ)「じゃあな!」

(ロサ)「お元気で…」


女子というものは、何時間語ってもまだ語り足りないようだ。これはどこの星でも見られる傾向だろうが、何時間しゃべった後でも、メールやSNSでまだ語りあうようだ。イレーネさんも自分用スマホを持つのも、時間の問題だろう。


「ところで、あんた!男どもの中で、私の悪口を言ってないわよね?」


それは私のセリフだ。私の方はありのまま、客観的な事実表現にとどめたつもりだ。


「それよりも…ミリアさん、どうするの?」

「あんた、もう故郷に帰りなよ。ハンバーグも食べたんだしさ。」

「…残る。」

「えっ!?」

「私、ここに残る!決めた!」

「残るったって、どこに住むのよ!?この街じゃ、許可がないと住めないのよ!?」

「うるさいわね!今どうするか考えてるのよ!」

「考えるったって、何か当てでもあるの?」

「ぐぬぬ…」


ミリアさんは困惑している。ここに住むのは、マデリーンさんのおっしゃる通り許可が必要だ。


だが、現地民に居住許可はそう簡単には降りない。エドナさんの時のように紹介所で住み込みの使用人とでもしないことにはダメだろう。だが、まさか我が家で雇うわけにもいかず。どうしたものか?


いや、待てよ?王都の紹介所で登録して、本当に住み込みの使用人として雇ってもらうという手はある。うまく雇ってくれる人に巡り会えば、ここに住むことができる。


ということで、我々は王都に向かう。ミリアさんをそのままにするわけにもいかないし、ちょっと付き合うとするか。


「あのさ、この街で働く気があるなら、もしかしたら住めるかもしれないけど、どうする?」

「働く!私、ここに住めるなら、なんでもする!」

「じゃあ、紹介所というところに行こうか。」

「行く行く!どこにあるの?それ。」

「王都だよ。」

「ええーっ、今から王都に行くの?」

「仕方ないでしょう、マデリーンさん。放っておくわけにもいかないし。」


ということで、一旦家に戻り、車に乗りかえる。


「な…何よこれ!?馬がないのに走るよ?どうなってるの!?」

「うるさいわね!せっかく付き合ってやってるんだから、少しは静かに乗れないの!?」


やかましくて面倒な魔女2人を乗せて、王都に向かう。


王都内の紹介所に着いた。そこで、仕事の紹介を受けることにする。


…のだが、いったい彼女は何ができるのか?


「あの~ミリアさん?」

「はい。」

「あなたって、何ができます?」

「空を飛べますよ。」

「いや、そういう役に立たない能力を除いて…」

「役立たずとは何よ!」


マデリーンさんが怒り出す。今、ミリアさんと会話してるんだが…


「マデリーンさんのように郵便配達ができるくらい長距離が飛べればいいけれど、彼女の場合は300メートルほどしか飛べないから、それじゃ役に立たないでしょうが。」

「あ…そうよね。それじゃあダメよね。」

「ダメって言うな!ダメって!」

「じゃあ、他に何ができるのよ!」

「…雑巾掛けとロヌギ草の調理、あとは…ホウキで掃除できるわ!」

「…こりゃダメだ。何の役にも立たないわ…」


薄々気づいてはいたが、彼女、働くためのスキルがないようだ。


困った…が、ここまで来たからには、登録だけでもしておこう。


我々は紹介所に入った。だが、受付を見ると身を乗り上げて話しかけている男がいる。


「…だから!せっかくこの星にきたんだから、この条件じゃないと割に合わないんだよ!誰かいないの!?」

「いやあ、旦那、今そういう人はいないんです。少し待ってもらえませんかね?」


その男、話ぶりからして誰かを雇いたいのでここに来た人のようだ。


だが。その男を見て私は思わず声を上げた。


「あ!」


男は振り返る。


「おお!ダニエルじゃないか!久しぶりだな!」

「なんだ!エイブラム!この星に来ていたのか!」


それは私の幼馴染、エイブラムだった。

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