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#102 第2夫人 フレア

早速、我が家でパーティが始まった。同じ敷地内に住む人も招かれる。


ロレンソ先輩にサリアンナさん、ベルクソーラさんにアルベルト大尉とロサさんもくる。


リサちゃんとアイリーンが話している。


「ねえ、何のお祝いなの?」

「パパがね、ソクシツを迎えたんだよ!」

「ソクシツ?なにそれ?」

「2人目のママだって。今日買ってきたんだよ。」

「いいなあ、うちも買わないかなあ…」


人聞きの悪いことをぽんぽんという我が娘。ただでさえ道徳観の格闘をしているというのに、我が娘アイリーンの言葉が妙に痛い。


「さあ、みんなじゃんじゃん食べるわよ~!いやあ、めでたいわぁ!」


マデリーンさんが珍しく上機嫌だ。ここ最近は、なかなかいい相手が見つからずにイライラしていたから、やっと見つけたフレアさんを見て嬉しそうだ。


まるでペットでも買ってきたかのような勢いで決まった第2夫人。ここまで、私の意思はまるで反映されていない。


私は、フレアさんの方を見る。広いリビングに広げられたテーブルの上に、大量の料理を運び込むクレアさんを見て驚いている様子。さっきもクレアさんがフレアさんの部屋に大きなベッドを運び込んでいたが、怪力系二等魔女というものを身近に見るのは初めてのようで、彼女のやることなすことが全て驚きのようだ。


それにしても彼女、大人しそうな外観だ。話し口調も丁寧で、落ち着いた話し方をする。笑うと可愛いし、こうしてみるとかなり綺麗な女性だ。


背はマデリーンさんよりちょっと低め。全体的にすらりとした体型。服は、グラハム少佐デザインの「コルマール・ヌーヴォー」の最新作の服を着ている。伸びやすく動きやすい布を使いつつ、王都の平民服のようなスタイルのワンピースで、やや幅広の腰紐をアクセントにした服だ。この紐が、腰のくびれをやや強調している。


「何いやらしい目でじーっと見てるんですか!?」


カロンさんが、私の方を見て言う。私は応える。


「いや、私は全然彼女を見ていないんだ。自分の夫人になると言われても、まるで実感がない。だから、彼女がどういう感じの人なのか、よく見ておこうと思ってね。」

「そうですよね、よく考えたら、ダニエル様がじーっといやらしい目で見てもいい相手なんですよね。なんだかとても、変な気分ですが。」


この地球(アース)401出身者のコンビだけは、このパーティーの盛り上がりようにどこか違和感を感じている。


「ん~んまい!これおいひ~!」

「こら、クレア!まだ食べちゃダメよ!」


つまみ食いするクレアさんを叱るマデリーンさん。いつも通りのドタバタな光景も垣間見える。


料理の用意が整った。大皿に乗った大量の食べ物。我が家にある自動調理ロボット3台では足らず、カロンさんやベシィさんの手も借りて作った料理の数々、そして大量のワインにビールにジュース。


「さあ、食べるわよ!どんどん注いでね!」


皆ワインやビールにジュースを思い思いに注ぎ始める。全員注ぎ終わったところで、マデリーンさんが突然、私に振る。


「じゃあ、当主のダニエルから一言、乾杯の挨拶を!」

「ええっ!?私が乾杯の音頭をとるの!?」

「当たり前でしょ!?誰のためにやってると思ってるのよ。」


この家は一体誰が仕切っているのかがよくわかる会話だなぁ。仕方がない、適当にやるか。


「えー、本日は新たにフレアさんが我が家の家族として加わりました。この我が家の新たな家族の今後の活躍を祈念いたしまして、乾杯ー!」

「乾杯ー!」


まるで職場の新人歓迎会の時のような挨拶で幕を開けたお祝い会。あちこちでグラスの音が響く。ジュースのグラスをぶつけ合って、子供らはきゃあきゃあと喜んでいる。


「それにしても、ダニエルもすっかり貴族だねえ。とうとう2人目の奥さんをもらうなんて。」

「ロレンソ先輩、私の欲望で決めた話じゃないんですよ。」

「いいじゃないの、後ろめたいことじゃないんだろ、この星ではさ。」

「そりゃそうですけど……」

「こらっ!ロレンソ!あんた何喋ってんのよ!」


私に絡むロレンソ先輩を、サリアンナさんが怒鳴りつけてくる。


「あんたもどうせ、私よりも若い奥さんが欲しいとか思ってるんでしょう!?だったら、せめて貴族にでもなれるくらいの軍功立てて、もっと稼がないとダメだよ!」

「そうだねー!僕も若い奥さんって欲しいなあって考えないこともないけど……」


すくっと立ち上がるロレンソ先輩。サリアンナさんの前に立って言った。


「サリアンナがいるとダメだよ。他の女が、かすんで見えてしまう。」


そう言って、サリアンナさんに抱きつくロレンソ先輩。顔を真っ赤にして慌てるサリアンナさん。


「ば…馬鹿!何やってるのよ!あんた、他の人がいるっていうのに……」

「いいじゃないか、ここで僕らが愛し合ってること、知られちゃまずいのかい?」

「いや……そんなことないよ……私もね、ロレンソのこと大好きだし……」


それにしてもロレンソ先輩、随分とサリアンナさんの扱いに慣れたものだ。あっという間に自分のペースに乗せてしまった。この勢いを職場でも発揮してくれれば、いくぶんか出世するだろうに。


「それにしても、よくあんな可愛い方を見つけましたね。」


続いてやってきたのはロサさんだ。ワインを片手に、こちらにやってきた。


「彼女、偶然にも借金取りに連れていかれそうなところに遭遇して、こういうことになったんですよ。マデリーンさんがすごく気に入っちゃって……」

「ふうん、ダニエルさんはどうなんですか?彼女のこと。」

「私?いや、いい娘だなあって思ってはいるよ。でも、全然関わりがないし、正直、実感がないというか…」

「わりと童顔ですよね、彼女。」

「そう?うーん、そう言われてみれば、そうかもしれないけど……」

「私と比べて、どうなんですか?」

「えっ!?ロサさんと比べる?」

「そうですよ。私だって、まんざらじゃないでしょ?」


あれ?なんだかちょっと様子が変だぞ。なんだか胸元を開き気味で迫ってくる。ロサさんって、こんなにイケイケだったか?


そういえば、酔ったロサさんに会うのは初めてだ。酔っ払うとロサさん、こんなに積極的になるのか。夫婦揃って、酒癖が悪いな。


「こらあ、ロサ!何うちの旦那に迫っているのよ!?第3夫人にでもなるつもり!?」

「へえ、いいわね、第3夫人。狙っちゃおうかな。」


いやいやダメでしょう!あなたにはアルベルトって言う夫がいるんだから、単なる不倫になってしまう。


マデリーンさんにつまみ出されてしまったロサさん。今度はクレアさんに迫っていた。


「ん~んまいでふ~!」

「へえ、私とどっちが美味しいかしら!?」

「ふえ?」


……ダメだ…おいアルベルト、彼女を早く止めてやってくれ。


ところがそのアルベルト大尉は、ビール片手にこっちにやってきた。


「艦長殿~!艦長の道徳心は一体どうなってるんですか!我々の常識では、2人目の奥さんなんてイケナイことですよぉ?!わかってるんですか~!?」


ええーっ、今ごろ抗議するか?こいつ本当に酒を飲まないとしゃべらないやつだな。こいつもどうにかして欲しい。


そこにリサちゃんがやってきた。


「パパ!」

「何?リサ。」

「酔っ払っておじさんいぢめちゃダメでしょ!」

「いや、いじめているわけじゃ…」

「おじさん、困ってるよ!こっち来なさい!」

「そんなことより、ママを止めた方がいいんじゃないの?」

「いいのよ、ママは。あれでケーサンしながらやってるから、大丈夫だって!」


なんとリサちゃん、この歳であのだらしない親を引っ張っていってしまう。我が娘アイリーンと半年違いとは思えないほど、しっかりしているな。だが、母親はほっといていいのか、本当に?


そのアイリーンは、ダリアンナちゃんとしゃべっている。


「ねえ、なんであんたのパパは、ソクシツっていう人を迎えたの?」

「ママがね、男の子をもう1人作らせるためだって、言ってた。」

「どうやって作るの?」

「ベットの上で、イチャイチャするんだって。」


どこで覚えてきた、そんなこと。油断ならないな、最近の幼稚園児は。


どうにも私の緊張感が緩まないこのお祝い会。この会場にいる全員が、私のことを責めているような気がする。


何よりも、私自身がフレアさんと全く話していない。代わる代わる他の人は話しかけているようだが、私は近づくことすらできないでいる。


いや、正直言うと、私が近寄り難いだけだ。やはりどうしても後ろめたい。せめてマデリーンさんとフレアさんだけならいいのだが、こんなに余計な人達が集まっていると、その後ろめたさが邪魔をして、フレアさんのところに行くのをためらわせてしまう。


こうして、パーティーは滞りなく終わる。私は結局、フレアさんと一言も話すことはなかった。


大量に食器を台所に運び込むクレアさん。3台の調理ロボットがフル稼働して、膨大な食器を食洗機に突っ込んでいく。それを受け取った食洗機は、勢いよく洗い始める。


そんな光景を見ている場合ではないのだが、他に見るべきところがない。なんとなく、私は目のやり場に困っている。


「さあて、じゃあフレア、一緒にお風呂入ろう。」

「えっ!?マデリーンさんが一緒に入るの?」

「なに、あんたも入りたいの!?」

「いや、遠慮しときます。」

「今晩一緒に寝る相手よ。遠慮してどうするのよ。まあいいわ。カロン!」

「は、はい!」

「あんたが代わりに来なさい!」

「ええっ!?私が一緒に入るんですか?」

「何言ってんのよ。いつも一緒に入ってるじゃない。」

「そうですが…」

「せっかく3人入れる広さのお風呂があるのに、使わなきゃもったいないでしょう。さ、行きましょう!」


フレアさんとカロンさんは、マデリーンさんに風呂場に連れていかれた。で、しばらくすると、3人で和気あいあいな雰囲気で上がってきた。盛り上がってるな、うちの女子達は。


私は、サリエルとアイリーンと一緒にお風呂に入る。風呂場で無邪気に遊ぶサリエル。湯気で曇った鏡に指で落書きをするアイリーン。その2人を眺めながら思う。私は、これからこの子達の異母兄弟を作ることになっている。


母親違いの弟ができたら、この子達は仲良くできるだろうか?将来、仲違いしないだろうか?まだ影も形もない子供と、目の前にいる子供らとの組み合わせを心配するのも変だが、こうしてせっかく平穏な兄弟に、何か余計なものを付け足してしまう気がしてならない。


だが、それ以前に大きな壁が立ちはだかる。私の「道徳観」が作り出す壁だ。


その壁は、ついに私の目の前にやってきた。


屋敷の3階の奥の部屋。そこがフレアさんの部屋だ。その部屋に今、私とフレアさんが入った。


「じゃあね、ごゆっくり励んでちょうだいね~!」


マデリーンさんは私とフレアさんを部屋に入れて、扉を閉めた。


部屋は真っ暗、わずかに窓から月明かりが入り、部屋の中が見える。


その暗い部屋の中で、私はマデリーンさん以外の女性と2人きりになってしまった。


妻であるマデリーンさんは了承済みな関係ではあるが、私の中にある道徳観念というやつが、最後のあがきを見せている。


地球(アース)401の道徳観 対、地球(アース)760貴族の御家存亡の常識。この両者が、ついに最終決戦の時を迎える。


フレアさんが、私の前に立つ。彼女こそが、私に向けられた最後の壁だ。ここを落とせば、私は真にこの星の王国貴族になれるのだ。しかし一方で、地球(アース)401の道徳観を捨て去ることになる。


そんなことばかり考えていると、フレアさんが声をかけてくる。


「旦那様?どうされましたか?」

「あ、いや、ちょっと緊張してて…」

「大丈夫ですか?ベッドでお休みになった方がよろしいですよ。」


いや、ベッドでお休みになった方が、私はむしろ大丈夫ではない。


それにしてもこのベッド、ちょっと大きすぎやしないか?私とマデリーンさんが寝ているダブルベッドよりも一回り大きい。これはどう見ても、3人サイズだ。まさかと思うがマデリーンさんも、ここに参入するつもりではあるまいか?


その大きなベッドに横に並んで入る私とフレアさん。ベッドの上で、フレアさんをじっと見る。


「ご存知の通り、私は地球(アース)401出身の者です。その星では、妻を2人以上迎えるということがいけないこととされてるんですよ。だから、私はこうして緊張してしまうんですよ。」

「そうなんですか。ところで旦那様、地球(アース)401という星は、どういうところなのですか?」

「えっ?ああ、そうだな、なんていうかな、王都の宇宙港のそばにある高いビル、あれがたくさん建つ街がそこにはあるんだ。」

「ビルがたくさんあるんですか?そこは王都よりも大きい街なのです?」

「人の数なら、王都どころか帝都よりも多いよ。この王都くらいの場所に、帝都を超える1千万人が暮らすんだ。」

「すごいですね!行ってみたいです!」

「でもあと10年もすれば、この王都も、地球(アース)401と似たような光景になるだろうと思うよ。ここも今、急速に人が集まっている。いずれ高いビルに、この屋敷も囲まれてしまうだろうな。」

「そんな早く、ビルというものは建つのですか?」

「昔は高い建物を建てるのは大変だったらしいけど、今は重力子エンジンで浮かせながら、一気に建てられるからね。その気になれば、あっという間だよ。」

「へえ、では私も、私の子供も、いずれビルに囲まれて暮らすのですね。」


急にフレアさんから「私の子供」と言われて、我にかえった。


「ねえ、旦那様。」

「は、はい!」

「こちらの方々、皆さんとてもお優しいですね。」

「そう?別にあれが普通だと思うけど。」

「私のいたところでは、皆あれほど他人に優しくはありませんでした。隙あらば、自分のものにしようって、そういう雰囲気の中で、私は育ってきたんです。」

「はあ、そうなんだ。大変だったんだね、あの街は。」

「あの街では皆、余裕がないですからね。でもこの家は違います。皆さん、本当にお優しい。でもそれは旦那様のような方が当主だからこそ、優しい方ばかりが集まってきたんだと思うんです。」

「は?そうなのかな、私は何もしていないけど……」

「私は、旦那様から一番優しさを感じますよ。だからこそ、このような皆が優しい家族ができたんだと思いますよ。」

「はあ、そりゃどうも……」

「でも、私だけはまだ、ここの家族に成り切れておりません。私自身は何もできず、周りの方々にまだ甘えっぱなしです。」


そういうとフレアさん、私のパジャマのボタンを外し始めた。そして、自分の服も脱ぎ始める。


「だから、私もここできちんと自分の役目を果たし、早くここの家族になりたいと思っております。だから旦那様、私がここの家族の一員になるため、そして新たな家族を作るために、どうか私のお相手してはいただけませんか?」


フレアさんのこの一言が、私を阻んだ最後の壁をあっけなく打ち崩してしまった。


そしてその晩、とうとう私はマデリーンさん以外の女性と、交わってしまったのだ。

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