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宇宙艦隊所属パイロットの奥様は魔女  作者: ディープタイピング
第13章 第二子誕生と魔女変革編
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#99 恋愛の達人対魔女ハンター

そういえば、ワーナー中尉とモイラ中尉が、このほど正式にこの星の住人となった。


移住宣言を出してから随分と時間が経つが、地球(アース)401でのワーナー中尉の担当の引き継ぎや移住手続きに時間がかかったためで、ようやくこちらに居を構えることとなった。


ワーナー中尉の配属先は、私のチーム艦隊の一隻である地球(アース)760防衛艦隊、駆逐艦0977号艦の砲撃長。なお、地球(アース)760艦隊への転籍と砲撃長就任に伴い、彼は大尉に昇進した。


一方のモイラ中尉だが、こちらは地球(アース)760防衛艦隊の「予備役」となった。早い話が、軍隊を辞めたのである。なんでも、これからは主婦業と恋愛業に専念するそうだ。それはともかく、彼女のことはなんと呼ぶべきだろうか。モイラ元中尉?いや違うな、モイラさん?なんか変だ、やはり「モイラ殿」あたりが妥当か。


さて、その2人は先日、王都の郊外にある住宅街の家を買ったそうだ。引っ越しが終わって、我が家に挨拶にやってきた。


「いやあ、さすがは男爵様。ただでこんなお屋敷が手に入ったなんて、うらやましいですねぇ。うちはしばらくローン地獄ですよぉ~」


開口一発、皮肉たらたらのモイラ中尉……じゃない、モイラ殿。カロンさんが入れた帝都紅茶を飲みながら、我が家をじろじろと見ている。


「これまでだって何度か来ているだろう。いまさら見たって、何も変わっていないよ。」

「まあ、そうですけど、さっきから何かちょっと違和感を感じるんですよ。何ででしょうか?男爵様、最近この家で何か変化はありませんか?」

「別に、あるわけないだろう。強いて言うなら、セシリアさんとベシィさんが、我が家に暮らすようになったことくらいかな。」

「セシリアさんとベシィさん?またまた女性が増えましたね、このお屋敷。男爵様、まさか王国貴族の身分を悪用して、変なことしてるんじゃないでしょうね。」


人聞きの悪いことを言うな。私は妻のマデリーンさん以外には手を出していない。


「まあまあ、モイラの気のせいでしょう。最近寒くなってきたし、そのせいじゃないかな。」


ワーナー大尉がフォローする。


「うーん、寒さとは違うのよね~。なんていうかこう、ぞわぞわとした感覚を、さっきから私の背中のあたりに感じるのよ。」


何だそりゃ?その感覚、やっぱり寒さのせいじゃないのか?


「…で、モイラ殿とワーナー大尉は、これからどうするの?」

「私は地球(アース)760防衛艦隊の砲撃長ですからね。ただひたすらこの星のため、力を尽くすのみです。」

「もちろん、私も存分に働いてごらんにいれますよ。この人生で何組のカップルを作ることができるか、この未開拓な王都こそ、私の才能をいかんなく発揮するのに最適な場所ですからね。まあ、見てて下さい。」


モイラのやつめ、王都を「未開拓」呼ばわりするとはいい度胸だ。恋愛に関して、この王国は他の国、ほかの星と比べて決して見劣りするものはない。


そんな会話をしていると、マデリーンさんが現れる。


「とうとうモイラも王都の住人になっちゃったわね。あーあ、せっかく静かで平和だった王都が、騒がしくなるわ。」

「あらあらマデリーンさん。それじゃ私が騒乱の火種をもたらす小悪魔みたいじゃありませんか?」

「あらあら、モイラ。小悪魔なんて可愛らしいものだったら、まだよかったんだけどね。」


モイラ殿とマデリーンさん、仲がいいのか悪いのか。まあ、小悪魔という表現はあながち間違いではない。


モイラ殿とマデリーンさんがにこやかに火花を散らしていると、玄関のドアの音がした。セシリアさんと、ベシィさんが帰宅した。


「ただいまー!セシリアとベシィ、だだいま帰りましたよー!」


この疲労感を漂わせつつも充実した雰囲気のセシリアさんの声は、今日もたくさんの魔女をハントできたことを物語る。


部屋に入ってきたセシリアさん。モイラ殿とワーナー大尉を見て言った。


「あら、こちらは誰ですか?」


セシリアさんがモイラ殿の方を見て言う。そういえば、セシリアさんはこの2人とは初対面だ。マデリーンさんが応える。


「ああ、ワーナーとモイラといってね、地球(アース)401から来た夫婦よ。昔からの付き合いがあるけど、ようやく地球(アース)401から760の住人になったので、挨拶に来たのよ。」

「あら、地球(アース)401の人でしたか。私、マデリーンの異母妹で、セシリアといいます。以後、お見知りおきを。」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。って、マデリーンさんの妹さんですか!?マデリーンさん、妹がいたんですか!?」

「そうよ。言ってなかったっけ?少し前に、うちに押し掛けてきちゃったのよ。いずれこの王都で、豪華な暮らしをするんですって。」

「そうなんですか。そういえば、どことなくマデリーンさんに似てますね。セシリアさんも魔女さんなんですか?」

「いえいえ、私は魔女ではありませんよ。でも、魔女のにおいを嗅ぎつけるのが得意なので、王都周辺にいる魔女を片っ端から捕まえて、役場に送り込んでるんですよ。」

「うげ…、それって魔女狩りじゃないですか…」

「こら、セシリア!人聞きの悪いこと言わない!あんたはただ単に魔女登録を勧めているだけの下っ端役人じゃないのよ!」

「あらあら、お姉様。そうかっかなさらずに。」


カロンさんが持ってきた帝国紅茶を手に取って、涼しい顔をして飲み始めるセシリアさん。マデリーンさんの叱責を軽く受け流すとは、さすがは妹だ。


そんなセシリアさんを、モイラ殿はじっと見る。あまりにじっと見つめるモイラ殿に、セシリアさんはたまらず口を開く。


「あの…モイラさん、でしたっけ?私の顔に、何かついてますか?」


モイラ殿は、セシリアさんに向かって唐突にこう言う。


「あの、セシリアさん。あなた今、恋してますね。」


この一言で、せっかくの帝国紅茶を盛大にこぼすセシリアさん。顔を真っ赤にして、モイラ殿の方をにらみつけて言う。


「ななななんてこと言うんですか!せっかくの紅茶がこぼれてしまいましたわよ!」

「うーん、この動揺ぶり、頬の色、声の質、恋をする乙女で間違いないですね。で、お相手はどこのどなたなんですか?」

「い、いるわけないでしょう!私、部屋に戻ります!」


すっかりお怒りのセシリアさん。そのまま部屋に行ってしまった。その一部始終を見て、カロンさんが心配そうに話す。


「ああ、セシリア様、上に行っちゃいましたね……服に紅茶がついたままですが、染みが残らなきゃいいですが。」


いや、服より本人の心配をしてあげましょうよ、カロンさん。それにしてもモイラ殿、急になんてこと言い出すんだ?


「あの、モイラ殿。なんの根拠もなくセシリアさんにあんなこと言ったら、怒るのは当たり前だろう。」

「あら、男爵様。私は恋愛の達人ですよ?その私の判断が間違っているとお思いですか?」

「いや、それ以前に正しいという根拠がないだろう。何だって急にセシリアさんが恋をしているなんて言えるんだ?」

「そうですねぇ……強いて言うなら、女の勘です。」

「……それだけ?」

「はい。あの頬の色といい、表情といい、間違いなく誰かに恋をしていますね。しかも、その相手にまだ告白できていない。そういう顔ですよ、あれは。」


セシリアさんは、魔女の気配を感じ取り、隠れ魔女を探しだす「魔女ハンター」だ。


だが、似たような能力がこのモイラ殿にも備わっている。ただし対象は魔女ではなく、恋する女性だが。


特殊なセンシング能力を持つという点では共通のこの2人が、いきなりこういう形でぶつかり合うとは思わなかった。いきなり我が家にやってきて、恰好の獲物を見つけたモイラ殿。こうして彼女の「恋愛ハンター」としての能力が炸裂する。


とはいえ、セシリアさんに好きな人がいるとは聞いたこともないし、感じたこともない。本当にそんな相手、いるのか?今回ばかりは疑わしい。


で、その相手だが、そこはさすが恋愛ハンター、モイラ殿。翌日には、もう相手を特定してきた。


その相手とは、ランバート男爵。この屋敷から少し離れた場所に住む王国貴族だ。


ランバート男爵には、社交界で何度か見かけたことがある。が、正直言って、少し頼りない感じの人だ。穏やかな人とも言えるが、大丈夫かと思うほどの頼りなさを感じる貴族だ。


私は直接関わりがあるわけではないが、他の男爵の話によれば、頼りないと感じさせるエピソードが多い。例えば社交界の時、馬車から降りた際に一匹の蝶が飛んできたことがあったらしいが、その蝶を見て大慌てで逃げ出したそうだ。その逃げる様がまるでその蝶と戯れながら走っているように見えたため、ランバート男爵は陰で「蝶々男爵」と言われている。


他にも、とある店で列に並んでいたランバート男爵は、なぜか後からやってくる人に次々と自分に前に譲るものだから、いつまでたっても前に進めないということもあったらしい。貴族が平民に列の順を譲るなど、この王都では普通ありえない。とにかく、ランバート男爵といえば頼りなくて貴族らしくないというイメージで語られることが多い。


そういうわけで、とてもモテ要素があるとは言えないランバート男爵だが、セシリアさんが想いを寄せているのはこのランバート男爵だと言うのだ。


「間違いないの?そのランバート男爵って人に。」

「間違いないですよぉ。だって今朝、ランバート男爵のお屋敷の中をじーっと覗いていたんですよ、セシリアさん。あれじゃランバート男爵が目当てだって、素人でも分かりますよ。」


へえ、セシリアさんがあの頼りないランバート男爵のこと、そんなに気にしているんだ。でも一体どうして?


ランバート男爵はあのとおりの人だから、まだ夫人はいない。メイドはいるが、もうかなりの歳の人らしい。社交界も1人で来ているし、この先も誰かと一緒に来る気配がまるで感じられない。そんな雰囲気の男爵の、どこに惹かれたのだろうか?


いや、それ以前に一体どこで出会ったのだろう?なんの接点もなく相手を想うことなどありえない。一目惚れという可能性もあるが、ランバート男爵が一目惚れするほどの容姿をしているとは言いがたい。なにかきっかけがあったはずだ。


さらにモイラ殿の調査は続いた。その結果、一つの接点が出てきた。


ある魔女さんの証言である。その魔女さんは王都に来たばかりで、ちょうどランバート男爵の屋敷の前あたりを歩いていたときのことだ。


「ちょっとあなた、見かけない顔ね。何してるの?」


そこでセシリアさんに急に呼び止められたらしい。


「あなた、魔女でしょう?魔女登録は済ませてるの?」

「魔女登録?何ですか、それ?」

「なんだ、やはり『野良魔女』だったのね。いいわ、ちょっとこっちに来なさい!」


この日はどうやらベシィさんとペアではなかったようで、セシリアさんはまさに「魔女狩り」モードに入っていたらしい。それで怖くなったその魔女さんは、一刻も早く逃げ出そうと抵抗したらしい。


ベシィさんのいないセシリアさんは、暴走状態だ。その魔女さんは恐怖のあまり叫ぶ。


「あのー、ちょっといいですか?」


その騒ぎを聞きつけて現れたのが、あのランバート男爵だったそうだ。


「だれよ、あんたは!?」

「私、ランバートって言う、ここの屋敷のものです。あまりに表が騒がしいのでつい出てきたんですが、一体ここで何してるんですか?」

「そうですか。王国貴族様ですか。私は、野良魔女に魔女登録を進めているセシリアって言います。たった今、この野良魔女を見つけたので、役場にしょっ引こうかとしていたところです。」

「はあ、そうですか。でも、力づくはいけませんよ。もっとこう、穏便にできないものですかねぇ。」

「何を言ってるんですか!魔女の権利を守るために私はやってるんですよ!あなたも王国貴族ならば、もっとこうビシッと……」


セシリアさんがランバート男爵に説教を始めたので、その隙にこの魔女さんは逃げ出したらしい。このため、そのやり取りがその後どうなったのかは分からない。


が、接点と言える情報はこれだけだという。とてもランバート男爵のことを想いこがれるきっかけになったとは思えない話だ。


「本当にセシリアさん、あのランバート男爵に恋心を抱いてるんですかね?今の話を聴くと、単に魔女を逃したこと恨みに思って、屋敷の前で張っているだけにしか思えないんだけど。」

「いやあ、そんなことはないですよ。私の研ぎ澄まされた恋愛センサーに狂いはありません。あれは絶対、恋をする女の目です。」

「でもさ、どう考えても性格が正反対だし、あのセシリアさんが惹かれる要素が全く見当たらないけど。」

「正反対だからこそ惹かれあうんじゃないですか!砲撃長とエドナさんだって、正反対カップルですよ?それがあれだけうまくいってるんです!ちょうど磁石のS極とN極のようなもので、逆の性格同士の方が、かえって惹かれあうものなんですよ!」


磁石を根拠に語られても、いまいち説得力がない。今回、モイラ殿の感性はあてになるのだろうか?だが、この意見にマデリーンさんが同調する。


「そうよね、セシリアの性格なら、ああいうのはほっとけないかもね。」

「ええっ!?マデリーンさんもそう思うの?でもまた、なんで?」

「そうね、強いて言うなら魔女の勘よ。」


身内でさえそう思うんだ。しかも、今のところ百発百中の「魔女の勘」を根拠に出してきた。これは本当にセシリアさん、ランバート男爵に惹かれてるのか?


とはいえ、ランバート男爵はほとんど外に出てこない人だ。おかげで、その後のセシリアさんはなかなか接触できないらしい。それでも出勤前に屋敷の前で張り込んで、なんとか機会を伺っている。セシリアさん、案外健気な人だ。


そういうわけでランバート男爵とセシリアさんを引き合わせたいのだが、私自身ランバート男爵との接点はない。いくら王国貴族同士と言えども、何の用事もなくお屋敷に立ち寄るなど、ちょっと非常識すぎる。第一、セシリアさん自身が我々にランバート男爵に惹かれているという事実を認めてはいない。いきなり連れて行ったところで、抵抗するだけだろう。


どうにかして接点を作れないものか?そう考えていると、モイラ殿から提案があった。


「モイラ元中尉、意見具申!」

「軍人じゃないんだから、普通に意見すればいいよ。で、なに、意見って。」

「男爵様、ランバート男爵って当然、社交界にはくるんですよね?」

「王国貴族なら、ほとんど強制参加だからね。もちろんランバート男爵も毎回来るよ。」

「では、セシリアさんをその社交界に連れて行けばいいのではありませんか?」

「うーん、そう簡単には行かないだろう。あれは陛下から招待状を頂いて参加できるものだから、我々が参加させたいからと言って連れて行けるものじゃないんだよ。」

「へえ、そういうものなんですか。では、他の方法を考えてみるしかないですねぇ。」


モイラ殿がそういうと、マデリーンさんもこの話題に首を突っ込んできた。


「いや、なんとかなるかもよ。」

「なんとかって、どうやるの?」

「コンラッド伯爵様に頼むのよ。」


マデリーンさんの提案は、とても単純だ。王国ナンバー2のコンラッド伯爵様に取り入って、セシリアさんの社交界への招待状を手に入れようというのだ。


コンラッド伯爵様ほどになると、社交界に誰かを招待できる枠を持っているという。セシリアさんの1人や2人、どうにかなるというのだ。だが、動機が動機だけに、伯爵様が納得していただけるかなぁ…しかしマデリーンさん、早速私も連れてコンラッド伯爵様のもとに向かう。


意外なことに、コンラッド伯爵様はあっさりと承諾して下さった。その理由は、ランバート男爵にある。


「いやあ、あの男爵の夫人候補が見つかったとなれば、協力しないわけにはいかない。わし自身、ランバート男爵のことは心配していたからな。こうなったらぜひ、その2人を婚姻までこぎつけて頂きたいものだ。」

「はあ……、あ、いや、分かりました。何とか努力してみます。」

「ところでそのモイラという者、恋愛の達人とか言っていたが、その者の招待状も必要ではないか?」

「は?あの、モイラ殿も連れてきていいのですか?」

地球(アース)401の元軍属なら、資格としては十分だ。大尉の夫とともに招待することにすれば、特に問題はないだろう。それに今回の件はそのモイラという者の力があった方が良さそうだ。その3人分の招待状、わしがなんとかしよう。」


あの、恋愛の達人まで連れてきちゃっていいんですか?その方が心強いのは確かだが、社交界の威厳が……


ともかく、こうしてセシリアさんを社交界にデビューさせることができた。だが、問題はセシリアさんが社交界に出てくれるかどうかだ。変に勘繰られずに、どうやって彼女を社交界に連れて行くか?


「えっ!?社交界に行けるんですか!?行きます!行かせてください!」


セシリアさんに社交界の話をしたら、これがあっさりと参加を希望してきた。考えてみれば、彼女は王都のセレブな生活に憧れて王都に来たようなもの。その王都でもっとも華やかな場である社交界に出られると聞いて、断るはずもなかった。


セシリアさんはヴェスミア王国の伯爵嬢なので、こういう場に相応しいドレスをすでに持っている。すでに準備は万端だ。


で、もう1人、いやもう一組の招待者にも声をかける。


「ええっ!?私の分の招待状までもらってきちゃったんですか!?」

「あ、いや、伯爵様がモイラ殿も招待した方が、うまく行くんじゃないかと……だめかい?」

「いいえ、行きますよ!社交界!こうなったらどうにかして上手くいかせてみせますよ!当たり前じゃないですか!それにしても、まさか私が社交界にデビューできるなんて……じゃあ私、今からドレス作ってきますね。ほら、ワーナー、行くわよ。」


モイラ殿もすっかり乗り気だ。どうやらひそかに社交界にあこがれていたらしい。すぐにワーナー大尉を連れて、ショッピングモールにある仕立て屋に行ってしまった。


で、迎えた社交界当日。私とマデリーンさん、それにセシリアさんが、レンタル馬車で王宮前に向かう。


そういえば、この王宮でもそろそろ車の乗り入れを認めようかという動きがあるらしい。というのは、帝都の社交界ではすでに車での出迎えがOKになっているらしく、いつまでも古臭い馬車に頼るのはどうかと言われているようなのだ。失礼ながら、私もそう思う。


さて会場に着くと、すでにワーナー夫妻がいた。まさかドレス姿のモイラ殿を見ることになるとは思わなかったが、ここで一つ面白い事実が判明した。


モイラ殿は丸顔で、ややぽっちゃりな体型。カルラ中尉ほどではないが、王国貴族的基準では「美人」のようだ。おかげで、他の貴族から言い寄られている。


「おや、見かけぬご婦人だ。どうです?私とこの後、ご一緒いたしませぬか?」

「い、いえ、私は夫がいますので……」


この調子で、数人の男爵から声をかけられていたモイラ殿。そのおかげで、ワーナー大尉は落ち着かない様子だ。


一方、会場に着いたセシリアさん。思わず職業病が出る。


「むむ、魔女反応あり!2時の方向、距離10メートル。これは…怪力系二等魔女!?」


などと言って早速「魔女ハンター」に目覚めたところを、マデリーンさんに後頭部を殴られていた。


なお、そこにいたのはアンリエットさん。彼女はすでに魔女登録済みだ。残念ながら、魔女ハンターもここでは不発だった。


「あら、ダニエル男爵にマデリーンさん。お久しぶりです。」

「なんだ、艦長殿か。」


明るいアンリエットさんに、不遜な態度のフレッド。そうだ、フレッドのやつも参加しているんだった。この2人はアンリエットさんの父上であるコルネリオ男爵のおかげで、男爵待遇で社交界に参加している。しかしフレッドなんぞを参加させるとは、この社交界の品位は、本当に大丈夫なのだろうか?


「さて、ダニエル男爵様。始めますか。」

「ああ、始めるか。」

「そうね、じゃあモイラ、お願いね。」


モイラ殿と私、それにマデリーンさんが急に意味深なことを言ったものだから、セシリアさんは不審に思って聞いてきた。


「ねえ、何が始まるんです?」

「そうね、あんたが主役だってことは言っておくわ。」

「えっ!?私が主役!?何のことですか?」


さて、もう1人の主役がまだ見つからない。陰が薄いから、見つけるのが大変だ。私とモイラ殿は男爵エリアを見回す。


探すこと数分。いた、ランバート男爵の姿が見えた。


「モイラ殿、ランバート男爵を発見。4時方向、距離18メートル、男爵エリアの端の方のテーブルのそばだ。」

「了解、こちらも目視で確認。では艦長殿、これより『ランバート』作戦を開始します。」

「了解した、健闘を祈る。」


この時点で、作戦名「ランバート」は開始された。


「さて、セシリアさん。私と一緒に参りましょうか。」

「はあ?どこに行くのよ。」

「決まってるじゃないですか。ランバート男爵のところですよ。」


ここでセシリアさんは、なぜ自分が社交界に連れてこられたかを悟ったようだ。


「ちょっ…なんで私がそのランバートとかいう人のところに行かなきゃいけないのよ!?」

「そりゃあ、あなたが一番ご存知のはずですよ。」

「し、知らないわよ!第一、私があの貴族と関わりがあるわけないじゃない。」

「そうですか?では、ランバート男爵を目の前にして、このままお帰りになります?」

「ううっ…それは……」

「ここはご自分の心に、素直になって下さい。我々はあなたを応援するためにここにいるのです。」

「素直に、って言ったって、私はどうすりゃいいのよ…」

「あなた、ランバート男爵のことを好きなんでしょう?」

「いや、好きとかそういうんじゃなくて、あの人本当に不器用だから、単にほっとけないというか、そう感じているだけで…」

「そういう恋愛スタイルもあるんですよ。何も頼り甲斐がある男ばかりが、いい男とは限りませんよ。」


さすがは恋愛の達人だ。言葉巧みに、セシリアさんの本心を引き出していく。


「千載一遇のチャンスですよ。ここで別れてしまえばそれっきり。でも、一度顔を合わせておけば、次につなげられますよ。」

「いや、でも私、そういうの苦手だから…」

「何言ってるんです。だから、私がここにいるんじゃないですか。これまで100組以上の恋心を支えてきた恋愛の達人として、全力でサポートして差し上げますよ。さ、参りましょうか。」


と言ってセシリアさんの手を引き、ランバート男爵のところに向かっていった。


まず、モイラ殿がランバート男爵に声をかける。話しかけられることのほとんどない男爵が、急に王国貴族的に美人なモイラ殿に話しかけられたので、驚いた様子だった。


が、そこでセシリアさんと引き合わされて、さらに驚くランバート男爵。モイラ殿は上手く2人をつなげている。私とマデリーンさんも、2人の近くに寄ってみる。


「あなたは確か、私の屋敷の前で…」

「はい、あの時は失礼しました。私もついカッとなってたもので。」

「いやいや、よろしいですよ。ところで、あなたは王都で魔女を探し出すのが仕事なのですか?」

「はい、魔女登録を勧める者です。この星の魔女を保護するために、日夜魔女のために走り回っております。」


魔女のためと言うわりには、やや暴言が多い気がするのだが。


「そうですか。この王国どころか、この星のために貢献しておられるのですね。」

「はい、そうです!頑張ってます!」

「それに引き換え、私はただ王国の権威にぶら下がって生きるだけのしがない男爵。なんの役にも立っておりません。」

「いや、そんなことはないです!男爵は立派な方ですよ。男爵だし、大きなお屋敷に住んでるし、それに…ええと…」

「はっはっは、そういえば今日のワインは帝国南部のオルロ―産の、5年ものの逸品だそうですよ。ご一緒にいかがですか?」


いい感じになってきた。ここまでくれば、もう大丈夫だろう。私とマデリーンさん、モイラ殿はその場を離れる。


「あれ?モイラじゃないの。なんでこんなところにいるの?」

「あ、カルラじゃないの。久しぶり~、元気してた?」


アルヴィン男爵と共に現れたカルラ中尉。ここでは男爵夫人だ。そういえば、彼女はモイラ殿と知り合いだった。


「へえ、それでここにきているんだ。で、上手くいったの?」

「私がいて上手く行かないわけがないじゃない。」


こんな会話をする2人。だがこの2人。この王国貴族の基準では、なぜかモテる。その2人が並んで話し込んでいる。おかげで、どちらも既婚者だというのに言い寄る貴族があとをたたない。


「お嬢様、私と一緒にワインなどいかがか?」

「いやいやお嬢さん、私と一緒に……」

「カルラ殿とそのもうひと方の美人殿、私と庭を巡りませぬか?」


多数の男爵達に、2人はぐるりと囲まれる。おかげでアルヴィン男爵もワーナー大尉も落ち着かない。


「ちょ、ちょっと、なんで私がこんなにモテるのよ!?どうなってるのよ、王国貴族は!?」


旺盛な王国貴族達を前に、さすがの恋愛の達人もタジタジだった。いやあ、これはこれで面白い。面白いから、次回の社交界でも招待してもらおうかな。


こうして終わった今回の社交界。帰りの馬車の中で、セシリアさんがぼそっとつぶやくように話す。


「…私、明日、ランバート男爵様のお屋敷に伺うことになったの…」

「へえ、よかったじゃない。」

「本当?本当に良かったのかしら?だって私、田舎王国の出身だよ?王国貴族のお屋敷なんて、行っちゃってもいいのかな。」

「何言ってんの、あんた今、その王国貴族の家に住んでるじゃない。」

「いや、そうだけど、こんながさつな女が男爵の相手だなんて、いいのかなあって思うの。」

「あんた、小国とはいえ、ヴェスミア王国の伯爵の娘よ。もっと自分に自信持ちなさい。」


いつになくしおらしいセシリアさん。これは「パイロット」の勘だが、この2人はおそらく上手くいく。私自身もそう感じた、社交界での出来事であった。

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