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#1 王国最速の魔女マデリーン

「高度1000!速力100!王都宇宙港まで、あと3分!進路クリアー、ヨーソロー!」


 現在、私の乗る駐留艦隊所属の駆逐艦6707号艦は、順調にこの星の王都宇宙港に向かっている。


 予定より1日遅れての帰還である。2週間も宇宙に出ていたので、我が家が恋しい。


 私の名はダニエル。この地球(アース)760の駐留艦隊 駆逐艦6707号艦所属の哨戒機パイロットをしている。歳は27歳。


 私は今、この駆逐艦の艦橋にいる。パイロットの私は、いつもなら艦橋には立たないのだが、今はこの星の訓練生を教える教官という立場ゆえに、特別に艦橋に立たせてもらっている。


 久しぶりの地上である。表向きは冷静な顔をしているけれど、内心は落ち着かない。なにせ愛する妻の待つこの星、早く帰って妻に会いたい。さっさと着陸してくれないものか……


 と、そういうときに限って、何かが起こる。


「レーダーに感!2時方向より、小型の飛行物体!距離1200!速力70!当艦に接近中!」


 レーダー担当が叫んだ。


「なんだ!?鳥か!?」

「いえ、鳥にしては大きいです!しかも、この艦に向かってまっすぐ向かっています!」

「反政府のテロリストによる攻撃かもしれん。総員、警戒態勢!!」


 こんな時に異常事態とは運が悪い……いや待てよ、速力70!?


「その飛行物体、モニターに映せないか?」


 私はそばにいるオペレータに頼んでみた。


「了解しました!第2モニターに拡大投影します!」


 艦橋の左側にあるちょっと大きめのモニターに、その飛行物体を映してもらった。


 画像を見て確信する。やっぱりだ、やっぱりそうだ。


「あれ!?もしかして、ダニエル中尉の奥さんじゃないですか?」


 それを見たレーダー担当が叫ぶ。


 ホウキにまたがり、まっすぐこの駆逐艦に向かって飛んでくる魔女。


 そう、あれはまさしく、私の妻マデリーンだ。


 私の妻は魔女だ。この星では「一等魔女」と呼ばれる存在。ホウキに乗って、わざわざお迎えにやってきた。高度2000メートル、速力70キロで飛べる魔女。それが私の妻の力だ。


 モニターで見る限りでは、マデリーンさん、ちょっと機嫌が悪そうだ。多分、私が予定より一日遅く帰ってきたので、文句を言いに来たのだろう。その表情からはそう読み取れた。


 さて、マデリーンさんはそのまま我が艦の真上に来た。全長300メートル、先端部の幅は30メートル、艦橋のある後部はもう少し広くて70メートル。そんな大きな宇宙駆逐艦にひるむことなく、彼女は飛んでくる。そして、ちょうどこの艦橋の窓の前あたりに彼女は降り立つ。


「艦長、ちょっと私、行ってきます。」

「わかったが、まだ寄港前だ。振り落とされないよう留意せよ。」

「了解しました!ではダニエル中尉、甲板に向かいます!」


 私は艦橋を出て通路を通り、細い通路を通って艦の上面に出られるハッチにたどり着く。


 ハッチを開けて、外に出る。もう高度は1000メートルを切っているはずだが、風が強い。


 ハッチのすぐそばに、マデリーンさんはいた。ホウキを立て、私の方をにらみつけるように立っている。


「遅い!!」


 開口一発、怒鳴りつけてくる魔女。


「しょうがないよ、ちょっとトラブルがあって、修理のため一時戦艦に寄港していたんだ。」

「だったら、連絡くらいよこしてもいいでしょう!?私てっきり昨日のうちに帰ってくるものだと思って、あんたの好きなデミグラハンバーグ作って待ってたのよ!おかげで、昨日の夕飯は私一人で2人分も食べる羽目になったのよ!!」


 いや、ハンバーグ好きなのはマデリーンさんでしょう。


「私だって、この2週間寂しいのを我慢してきたのよ!何よ!!一言謝ったっていいじゃないの!」

「分かった分かった!ごめんよ、もちろん私だって、マデリーンさんがそばにいなくて寂しかったんだよ!」


 私はマデリーンさんをぎゅっと抱きしめる。不機嫌に騒いでいた彼女の身体は、途端に静かになる。2週間ぶりに、私はマデリーンさんのぬくもりを感じていた。


 だが、私は一つ、大事なことを忘れていた。


 ここはちょうど艦橋の真ん前だ。つまり、艦橋にいる20人の乗員からは、喧嘩から仲直りまでのこの一部始終が、すべて丸見えだった。


 みんなこちらをじーっと見つめている。艦長の顔は、かなり不機嫌なようだ。その他の乗員はにやにやしながら見ている。さすがのマデリーンさんもこの視線には耐えられないようだ。真っ赤な顔で私の陰に隠れてしまった。


 その直後に、ガシャンという音と衝撃が伝わってきた。私はその衝撃でふらつき、すぐ横の配管に寄っかかる。どうやら宇宙港に到着し、艦が宇宙港の繋留ドックに接続したようだ。


 ここは王都宇宙港。この地球(アース)760という星は1年ほど前に連合側に発見され、今では連合側の一員として宇宙港を構えるまでになった。すでに交易も始まっているため、ここは軍船のみならず、大量の物資を乗せた民間船も出入りしている。


 ところで、私はこの星の出身ではない。ここから200光年離れた地球(アース)401の出身で、遠征艦隊の一員として1年ほど前にこの星に来て、そこで今の私の妻、マデリーンさんと出会った。


 それからいろいろあって私と彼女は結婚することになり、この宇宙港のそばに併設された街の一軒家に2人で一緒に住んでいる。


 港についてしまったので、一旦駆逐艦に入って降りることにした。マデリーンさんはそのままホウキで飛んでいくと言い張っていたが、ここは宇宙港だ。今も隣に大型の商船が着陸しようとしている。魔女とはいえ、あまり飛行物体が好き勝手にうろうろしていい場所ではない。ということで、私と一緒に降りることになった。


「相変わらず、仲がいいですねぇ。中尉殿。」


 そう話しかけてきたのはモイラ少尉だ。この艦で勤務するレーダー担当の技術武官であり、艦内の恋愛関係の一切の情報を把握する、自称「恋愛の達人」な女性少尉である。


「久しぶりね、モイラ!」

「マデリーンさんも、相変わらずお元気そうですね。」

「何言ってんのよ!元気じゃなきゃ、空なんて飛んでられないわよ!そういうモイラは最近どうなのよ!?」

「どうって?なんのことです?」

「自称『恋愛の達人』が、いつまで独り身だって言ってんのよ!わかんないの!?」


 和やかでとげとげしい女子の会話がはじまった。そういえばこの2人が顔を合わせるのは4か月ぶりくらいだろうか?


「あの~、お二人とも。積もる話はあるでしょうが、まずは艦を降りませんか。」

「そうですね、じゃあ私も手続きがあるので、今度ゆっくり、宇宙港の入り口にあるカフェ、ショッピングモールのフードコートで会いましょう!」

「分かったわ!またメール送るわよ!」


 ……それならば、メールで済ませればいいんじゃないのか?などと思ってはいけない。彼女らは「会って話す」ことに意義があるようだ。


 あ、そうだ、メールといえば、頼まれごとがあったことを思い出したことがあった。


「マデリーンさん、そういえば『王室付きの一等魔女』としてお仕事をひとつ、頼まれてたんです。」

「ええ?なんですって!?王国、いや帝国をも含むこの地上で、最速といわれるこの『雷光の魔女』に依頼とは、一体どういう御用件かしら?」


 いちいちのぼせ上がるな、この魔女は。


「艦隊司令部から国王陛下への書状を受け取ってきたんだ。これを陛下に届けてほしいってさ。」

「はい!(うけたまわ)り!でも、それならあんたが哨戒機でひょいっと飛んで持っていけばいいんじゃないの?」

「王族・貴族はさ、伝統的な手段にこだわっているようだから、魔女でないとだめなんだって。」

「そうなの?しょうがないわねぇ。じゃあ私、ひとっ飛びして届けてくるわ。」

「ああ!ちょっと待った!!ここはたくさんの商船や軍艦が飛び交ってるから、一旦宇宙港の敷地外に出てからじゃないと危ないって!」

「そうなの?しょうがないわね、全く……」

「じゃあ、外まで一緒に行こうか。」


 この可愛くてめんどくさい魔女は、今でも王族向けの郵便屋として時々働いている。


 1年前まで、この星では戦さには剣と弓矢と盾が使われ、国王や貴族が多くの民衆を統治するという封建的な世界であり、我々でいうところの「中世」風の星だった。まだ銃や蒸気機関すら発明されておらず、もちろん宇宙などというものがどうなっているかを知るはずもない、そんな文化レベルの星だった。


 だが、この星ではどういうわけか「魔女」がいる。100人に一人くらいの割合で「魔女」が生まれる。


 大抵の魔女は「二等魔女」と呼ばれる、自分よりも軽いものしか浮かせられない魔女。だが、魔女5人に1人の割合で、ホウキや杖などにまたがることで自分自身を空中に持ち上げることができる魔女がいる。ここではそういう魔女のことを「一等魔女」と呼び、その一等魔女の中で最速を誇るのが、私の妻であるマデリーンさんだ。


 歳は21歳になったばかり、最大速度70キロ、到達高度は2000メートル超。我々がこの惑星に現れるまでは、おそらくこの星で最速の飛行物体だった。


 つい1年前までは、その飛行能力を活かして彼女は王国の王族・貴族の書簡などを届ける仕事をやっていた。戦さの時などは、数千もの兵の上を飛び越えて、敵地の陣中にいる将軍に書簡を届けたことがあると言っていた。


 だが、そこに我々が現れた。


 私の操る哨戒機と呼ばれる航空機も、垂直離着陸が可能で、速力は時速1000キロ。到達高度4万メートル、最大2トンの重さの物まで運べるとあって、魔女の出番はなくなるかと思われた。


 が、王族や貴族という人種は、いきなり伝統や生活様式が変わるのを嫌うらしい。今でも彼らの間では、公式行事での移動は相変わらず馬車で行い、公式の書簡も人手で届けなければならない。


 このため、依然としてマデリーンさんのもとに依頼が来る。以前よりはぐっと減ったものの、まだまだ需要はあるようだ。


 私が知っている一等魔女さんは、マデリーンさんを含めて4人いる。そのうち郵便屋をしているのはマデリーンさんだけで、あとは皆それぞれの生活をしている。


 ……と噂をすれば、その一人が現れた。


 駆逐艦を降りて通関を抜け、宇宙港のロビーを歩いていると、向こう側にどこかで見たことのある人物が立っている。


「あら、マデリーンにダニエルさん。こんにちは。」

「あれ、アリアンナさんじゃないですか。お久しぶりです。」

「こんなところで、なに2人で歩いてるんですか?」

「いや、たった今私は宇宙から戻ったところなんですよ。ところで、アリアンナさんはおひとりです?」

「いいえ、私の愛すべき豚野郎もいますよ。今ちょっと、搭乗手続きのため外してるだけなんです。」


 かつてマデリーンさんと一緒に郵便屋をしていたアリアンナさん。マデリーンさんと同い歳で、同じく一等魔女だ。ただし、それほど早くは飛べないらしい。


 それにしてもこの人、顔に似合わず毒舌なところがある。御主人のことを「豚野郎」などと平気で呼び捨てる。


 そのアリアンナさんのご主人である、交渉官のシェリフさんが現れた。ちょっと小太りの、まさに豚……いや、ふっくらとした方だ。それにしても、ちょっと見ないうちにさらに太ったように見える。


「いやあごめんごめん、待たせちゃったね、アリアンナ。」

「遅いですよ~、いつまで待たせるんですか、こののろまな豚野郎が!」


 夫婦の危機にしか見えないこの会話、実はこの夫婦にとってはごく普通の会話だ。


「やだなぁ、アリアンナは。そんなこと言うと、またお仕置きプレイをしちゃうぞ?」

「ええ~っ!やだなぁ。でも今夜は船の中ですし、燃えちゃうわねぇ!」


 ……駄目だこの2人、とんでもなくダメな会話をしている。私は頭が痛くなってきた。


 ちなみにこの2人、外ではドMな旦那にドSな奥さんだが、交渉官殿の話によれば夜の寝床ではこの性格が逆転するらしい。つまりこの奥さんがドM……いや、どうなってるんだろうか?この夫婦は。


「交渉官殿。お久しぶりです。」

「おお、ダニエル中尉。それにマデリーンさんも。久しぶりだね、元気にしてた?」

「元気ですよ。ところで、これから宇宙に行かれるんですか?」

「ええ、そうなんだよ。地球(アース)401政府に呼び出しを受けてね。3週間ほど母星に戻ることになったんだ。」

「そうですか、気を付けていってくださいね。」

「じゃあ、マデリーンもお元気で。カトンボみたいにぶんぶん飛んで、どこかに激突するんじゃないわよ!」

「分かってるわよ!気を付けてね、アリアンナ!」


 思えばこのアリアンナさん、私が初めて会ったときはマデリーンさんと一緒に郵便屋をしていたんだが、その時この交渉官殿と出会い、意気投合してそのまま結婚。それ以来、アリアンナさんはすっかり交渉官殿の専業主婦をしている。


 彼女は時々、ちょっと離れたショッピングモールに野菜を買いに行く時などに飛ぶくらいで、もうそれほど飛ぶことはないようだ。どうやら飛ぶのが苦手というか、恥ずかしいらしい。


 ホウキを持って歩くのが恥ずかしいとかで、最近は日傘を使って飛んでいるアリアンナさん。これなら普通の主婦と変わらないし、目立たなくていいという。そういうものか?


 さて、私とマデリーンさんは宇宙港内のシャトルバスに乗り、宇宙港の敷地外まで移動する。マデリーンさんはホウキを立てて乗っているが、このバスの中でホウキは目立つ。考えてみれば、そんなものをもって宇宙港から出てくる人などいない。周りの人は何事かと、このホウキを見ている。


 バスに揺られること約3分ほど。ようやく宇宙港の敷地を出た。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね。」


 手を振って、マデリーンさんはホウキにまたがり空に上がる。


 国王陛下の書状だから、王宮に届けるのだろう。ということは、この宇宙港からさほど遠くはない。30分ほどで自宅に戻ってくるだろうか。


 バスやタクシーで帰ってもよかったが、なんとなくそこから歩いて自宅に戻り始める。


 しばらく歩くと、地上4階建ての大きなショッピングモールの建物のそばまでやってきた。そこで今度は、私の知る3人目の一等魔女に出会う。


 ロサさんだ。それに、彼女の旦那であるアルベルト少尉も一緒だ。


 ロサさんは一等魔女。つまり、ホウキに乗り、空を跳べる魔女。ところで、この夫婦は2人そろってアニメオタクだ。


 おかげでその魔女さんは週に1、2回、とあるアニメの有名キャラクターである魔法少女を演じている。ややこしいから、もう一度言う。「魔法少女」を演じる「魔女」だ。


 なにせ本物の魔女が演じる魔法少女。これがすごい人気らしくて、週ごとに観客が増えているらしい。しかもロサさんはやや童顔で可愛らしい顔をしているため、これで人気が出ないわけがない。


「アルベルト少尉にロサさん、こんにちは。」

「あ……こんにちは、ダニエルさん。」

「どうも、中尉殿。こんなところで何してるんです?」


 ロサさんは基本的に人見知りだ。もう顔なじみのはずの私にさえ、ちょっとびびりながら話す。一方のアルベルト少尉は、やや無口でぶっきらぼうだ。


 ところで、今日のロサさんの格好はとんがり帽子に黒いマント。またアニメの魔法少女のコスプレショーとやらをやってたのか?と思いきや、明日からのショーのための打ち合わせをしてきただけのようだ。そういえば、今日は金曜日。ショーは土日の休日に行われる。


 それにしてもロサさん、人見知りな性格なのに、アニメのコスプレ衣装を着てショーがはじまると人が変わったように積極的になるから驚きだ。そんなロサさんの性格と才能を発掘し、アニメオタクの道に誘い込んだこのアルベルト少尉も、たいしたものだと思う。


「つい先ほどこの星に帰還したところだ。今ちょうど、家に向かって歩いてるんだ。」

「そうだったんですか、で、奥様は?」

「今ちょうど王宮に書簡を届けているところだよ。」

「ええっ?マデリーンってまだ、郵便屋をやってるんですか?」

「そうですよ、王族と貴族にはまだ引き合いが多くて、やめられないようなんです。」

「すごいなぁ……やっぱり『雷光の魔女』なんですよね、マデリーン。私なんて、貴族の前に出ただけで倒れてしまいそう。」


 いや、ショッピングモールのホールに集まる数百人の群衆の前で、アニメの魔法少女キャラを演じる方が、よっぽどか緊張して倒れそうだと思うのだが。


 そんなロサさん達とも別れ、私は家路に向かう。


 すでに私の知る一等魔女4人の内、3人に出会った。こうなると4人目と出会うのも、避けられない気がしてくる。


 予感は的中、自宅近くでその4人目と遭遇した。


「なんだ!?ダニエルじゃないの。ここ最近見かけないから、てっきりマデリーンの元から逃げ出したのかと思ってたわよ!」


 これが私の知る4人目の一等魔女。サリアンナさんだ。ロレンツ少尉という、私の先輩と一緒に歩いている。


 このサリアンナさん、先ほどのアリアンナさんのお姉さんで、姉妹そろって一等魔女という非常に珍しい姉妹だ。そして、姉妹そろって口が悪い。


 アリアンナさんはところどころ毒が入る程度だが、こっちはほぼセリフの全てが毒だらけと言ったところか。さすがお姉さん。


「この2週間、訓練のため宇宙に行ってたんですよ。今日戻ってきたところでして……」

「なんだ、まだあんなカトンボみたいにぶんぶん飛ぶのが好きなマデリーンに惚れてんのかい?あんな女のどこがいいのかねぇ……」


 どうもマデリーンさんの話になると、毒の入り具合が激しくなる。


「なによ!私のことを妬んでいる魔女は!?」


 ちょうどそこにマデリーンさんが帰ってきた。ホウキに乗って、ふわっと舞い降りる。


「なんだ、マデリーンまで現れやがった。どこ行ってたんだい!」

「仕事よ仕事。王国最速の魔女の私には、あんたみたいに草ばっかり食ってる暇はないのよ。」


 それにしても、はたから見ると一触即発な会話のようだが、これがいつもの二人のやりとりだ。


「ふんっ!相変わらず生意気だねぇ。おいロレンツ!!いつまでだらだら歩いてるんだ!さっさと帰るよ!!」


 後ろから、大量の荷物を抱えたロレンツ少尉が現れた。両手にレジ袋を5つも抱えて歩いている。


「ちょ…ちょっと、サリアンナさん?ゆっくり歩こうって言ってたじゃないですか?」

「状況が変わったんだよ!さっさと行くよ!!」


 そういえば先日、ロレンツ少尉とサリアンナさんはようやく入籍したそうだ。新婚さんのはずだが、これはまるで夫婦の危機のように見えてしまう。


 でも、これはこれでうまくいっているのだから不思議だ。ロレンツ先輩によると、外ではこんな態度のサリアンナさんも、家の中ではまるで人が変わったように、ものすごく甘えてくるらしい。姉妹そろって、家の内と外では異なる顔を見せるようだ。


 ところで、甘えんぼなのはうちのマデリーンさんも一緒だ。家に帰るなり、


「あんた~食事にする!?お風呂にする!?それとも、あ・た・し!?」


 私のいない間に、またどこぞのB級ドラマでも見ていたようだ。こういうめんどくさいところもまた、マデリーンさんの魅力だ。


「まずは食事かなぁ。『マデリーン』の方は、夜の楽しみに取っておくよ。」

「いやあねぇ、ダニエル!さ、今日はあんたの好きなハンバーグよ!じゃんじゃん食べてね!」


 これが、さっきまで駆逐艦の真上で痴話喧嘩をしていた夫婦の姿である。2週間ぶりの自宅での夫婦の会話、マデリーンさんは嬉しそうだ。


 それにしても、久しぶりのゆったりした自宅での食事だ。何よりもマデリーンさんがいる。やっぱり、地上はいい。


 明日からは、訓練明けにもらえる5日間の特別休暇だ。どこに出かけようか?この後のベッドの中で、マデリーンさんと一緒に考えてみるか。そんなことを考えながら、私は夕飯を食べていた。

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