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その世界が終わる時



英雄譚。



という物語がある。

作詞家が作った歌でもなく。

作家が書いた妄想でもなく。

それは、確かにあった1人の人生を綴ったもの。



そこに登場する彼らは、持って生まれた才能と、多くの仲間と、恵まれた運命と、一握りの奇跡を持って、その人生を歩む。



そして物語の最後には決まって、魔王や化け物といった悪を討ち倒すのだ。



勇者達が絶対悪を倒したおかげで、世界は平和になりました。




ーめでたしめでたしー








では、その後は?

魔王を倒した後に残る人類の脅威とは?


そう、世界の誰も敵わない魔王を倒したー


勇者。


そう、救われたはずの人類はいつか裏切るかも知れないと。

救ってくれたはずの勇者を裏切った。





「何故だ!俺はお前達を救ったのに、お前達の為に命を捨てたのに!何故そのお前達が、俺を救ってはくれないのか!」



黒地に紫の刺繍をあしらった外套を纏い、刃こぼれした騎士剣を振るい、多くの傷や返り血で汚れた鎧を着込む男が叫ぶ。



自らの国の騎士団を率いて魔王と戦い、数え切れない犠牲を出しながらついに打倒した勇者。

彼は今、凱旋すべき国の民達によって、取り囲まれていた。



国を飛び出し魔王の国まで遠征していた彼ら。

多くの国の協力を得て、魔王の国にある城を取り囲んでいたはずの味方は

今その純然たる戦力をただ1人に向けている。



魔王を打倒せしめた勇者が城の外に出てみれば、そこには自分に切っ先を向ける人間達。

その目には感謝も祝福も労いも喜びも無く。

ただ恐怖を持って、1人の勇者を見つめている。



そして今、彼と剣を交えているのは他国の強者だ。

彼がいなければ、きっと勇者はこの者だったと言われるほどの強者。



もちろん、激戦を終えてきた勇者にそれと戦う力は、無い。



「我らを救いたもうた勇者よ、世界を救いたもうた英雄よ。我らは、恐ろしい。あなたが新たな魔王になるのではと。その力が、次は我らに振るわれるのではと。恐ろしく思う。」



「なにを言う!この身もこの力も、持てる全てを世界に尽くしたというのに!俺が世界を脅かすことなど、ありはしないというのに!」



傷だらけの騎士とは反対に、鏡の様に磨かれた白い鎧の騎士は言う。



「確かに。あなたはその力を持て余すことは無いかも知れない。今までそれは人の為に振るわれた。あるいは国の為に。あるいは世界の為に。」



悠々と歩みを進める騎士は、その手の剣を高く掲げ

いまや死に体の勇者へと向けて、告げる。



「では、これからは?」



嗤う騎士の口元は、悪意はかくありきと示すように歪んでいた。



「これから先の未来。明日か、一月後か、あるいは来年か。世界最悪の王をも滅ぼすその力を、これから先我らに振るわれることは無いと何故言える?」



騎士の後ろに並び立ち、勇者との戦闘を見物していた者達が、怒号と共に騒ぎ立つ。



「そんな...馬鹿な。そんな馬鹿なことを本当に考えているのか?」



「もちろんだ、勇者よ。我らはあなたの持てる全てが、恐ろしい。それは、これから先の平和に世界には不要なモノだ。」



ついには膝を折ってしまった勇者は、自らの血に汚れた地面にその行き場の無い怒りを打ち付ける。



「俺は一体...なんの為に戦ったというのか...お前達の願いに応えたというのに!」



「我らの世界を救ってくれてありがとう、勇者よ。しかし、この世界は、我らはあなたという特異点を認めない。魔王と共に果てるがいい」



騎士は振り上げたその剣を、迷いなく振り下ろす。

その汚れ無き刃は、死線を越えた勇者の身体を容易く切り裂いた。



「これ...が、答えか。これが!俺達が全霊を賭して救った世界の答えか!」



元より死に体であったその身体から、止めどなく血が流れ出す。

それはやがて勇者の足元に血だまりを作り、その命を終わらせようとしていた。



「ああ、ああそうだとも!これが、世界の!我らの答えだ!我らを脅かす魔王はもういない!その次に力を持つ勇者も今死んだ!もはやこの世界に、貴様ら絶対者は必要ない!」



天を仰いで嗤い立てる声が響く。

しかし、命が消えつつある勇者には音すら聞こえず、やがて光さえも失われていった。



「さらば勇者よ!お前の偉業は語り継がれるであろう!永遠に!この世界の英雄としてな!」


「しかし、お前という存在は必要無いのだよ。故に、死ぬが良い。」



ーあぁこれが世界か。こんな世界の為に、俺は命を賭けたのか



ー済まない、我が騎士達よ。お前達の命が無駄になってしまった。



ー俺が賭した人生は、俺が賭した世界は、こんなにも汚れきっていたのか


ーあぁ、こんな世界




ぶっ壊してやりたい






薄れる意識の中、存在が消える刹那。

世界の為に人の為に己の全てを賭けた勇者は、その人生を深く後悔した。



ーこれが、英雄となったただ1人の王の物語ー


















ー世界に裏切られた人の子よ。その願い、この身がしかと聞き届けたー

これからぼちぼち更新したいと思っております。

文章の矛盾など無いよう気をつけますが、もしあったらごめんなさいです

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