兎樫怜央【プロローグ】
兎樫怜央
男/12歳/143㎝/妖精族
元々は穏やかで心優しい性格。その根っこの部分は今でも変わらないが、今は挑発的で人の心を弄ぶのが好き。
昔は男らしい格好をしていたが、女のような顔、声、身長によりいじめの対象に。自分が「そういう趣味の人」に需要があると知ってからはわざと女のような格好をして「遊ぶ」ように。恋愛対象は女性。今の所。思い通りにいかないと「つまらない」と捨て台詞を吐きすぐ臍を曲げる。
願いは【世界中の誰もにありのままの自分を受け入れてもらいたい】
「男の子なんだから格好良い名前をつけてあげたいわね」
そんな両親の元、新しく芽吹いた命は「怜央」と名付けられた。
兎樫怜央は間違いなく男として生まれてきた人間である。だが可愛らしい大きな目、白い柔肌、色素の薄い髪…彼が持ち合わせるそれらの要素は「まるで女の子みたいに可愛い」と周りの大人を愛らしい気持ちで満たしてきた。
性格も大人しく、外で泥まみれになって遊ぶよりは家の中で折り紙を折ったり絵を描いて遊ぶ方が好きな子供であった。小学生に上がっても、男の子と遊ぶより女の子と遊んでいる方が性に合っていて、外で駆け回ることは稀であった。
性差を意識しないうちはそれでいい。どんなに女の子みたいに可愛くても、いつかは声変わりを迎え身長も伸びる。異性を意識し行動を共にするのが恥ずかしくなって、同性とばかり行動する時期が来る。
小学生生活も高学年になると、怜央も例に漏れずそんな時期が訪れた。だが、その訪れは歪なものであった。身長は相変わらず小さいまま、気がつけばクラスで一番小さくなっていた。声変わりも来ない。…これは小学生のうちははっきりと変化した子の方が少なかったが、元々女の子の声にしか聞こえない怜央にとっては大問題であった。性差への意識は芽生えているのに、何もかもが「女の子より可愛い」ままである。
いつしかそんな怜央を意識する男子や妬む女子が現れ始めていた。
そして時は流れ、怜央は中学に上がり別の小学校の生徒と合同で学校生活を送ることになった。環境がガラリと変わってしまった春。精神の不安定さに揺らぐ少年少女は安寧を求め、一部が抱いていた怜央への悪感情に身を委ねる事でそれを手に入れようとしてしまうようになっていった。
「なあ、怜央」
或る日の放課後、ニヤニヤと笑みを浮かべた数人の生徒が怜央を取り囲んだ。怜央も最近自分へと向けられる悪意には気がついていたので、悪い予感と恐怖に身体の芯が冷たくなる感覚を覚えながらも、何も知らないふりをしてニコニコと笑みを浮かべながら「何?」と返した。
「お前って男に見えないよな」
「そんなこと無いと思うよ」
「思うってなんだよ。男ならさ、アレ。アレついてるだろ?」
怜央の顔からサッと血の気が引く。逃げたいけど逃げられない。男子数人が怜央の両腕を掴むと、廊下を無理矢理引きずり始めた。
「やだ!痛い、止めてよ!」
傍観している女子がクスクスと笑いながら「かわいそーじゃん、やめなよー」と此方を見ている。台詞とは裏腹に、彼女達に彼等の行為を止めようという気は毛ほども無い。
怜央は押し込められるように男子トイレに連れ込まれると、再度囲まれてしまった。
「や、やだ!帰して!」
「ちょっと確認するだけだろ?男同士なのにうるさいなぁ」
「君、修学旅行の時同じクラスだったよね!?一緒にお風呂入ったよね!?」
「…そーだっけか?」
何を言っても通じない。当たり前だ、彼等は本当に確認がしたいわけではなくただ単に怜央を辱めたいだけなのだ。
認めたく無い。必死の抵抗も虚しくパンツごとズボンを下ろされて嘲笑されたことなど認めたく無い。
「ついてるぜ、信じられねー」
分かっているくせに、分かっていたくせに白々しい言葉を吐いて去って行く彼等の背中を泣きながら見つめることしかできなかった。
僕は男なのに。望んでこんな見た目をしているわけではないのに。男らしくなりたいのに。でも、でもこれが僕なのに!この姿が兎樫怜央なのに!!
激しい怒りと絶望に心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、真っ直ぐ帰る気にもなれず空の色が濃くなっても、家からも学校からも近くはない公園の隅で膝を抱えていた。そんな怜央を最初に見つけた人が、彼の運命を変えてしまうことになろうとは。
怜央は渇望していた。彼が彼として認められることを。愛されることを。
「今日はこの前貰った服を着て来てみたの。似合ってるでしょ?」
それがどんなに無様でも、否定されるだけの自分には耐えられそうになかったから。
「髪伸びたでしょ。こういう方が好きなんだよね」
心の病みを埋める為には、埋めているように見せかけるにはこれしか方法が無かったのだ。
「可愛い女の子よりも可愛い男の子の方が好きだなんて…おじさん達って、ほんっと気持ち悪っ」
堕落していく。アンモラルで飾られた玉座で奴隷達を足蹴にしながら。その実は、ミニチュアの玩具であることを知りながら。
ふらふらと遊び歩くようになった怜央が路地裏に辿り着いたのは、救われる為か、はたまた玩具扱いの延長なのか。