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我が愛しの羊駱駝  作者: にゃあ
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我が愛しのアルパカちゃん

 今回は、『記憶喪失の男』と『アルパカ』が出てくる切ないお話を書きます。

 アルパカちゃんシリーズ第2作です。

 再び、当時のフォロワーさんちの、アルパカちゃんに捧げます。

「だいじょうぶです。きっと、すぐに、全部思い出しますよ」

と、記憶喪失の男に向かって、若い看護婦が、笑いかけている。

 僕は、男のカルテに、何事かを書き込む振りをしながら、彼の様子をうかがっている。

 住所不明。氏名不明、年齢20代くらい。中肉中背。まあ、イケメンと言えなくもない。看護婦が、ちやほやするわけだ。

 今朝方、秋葉原のお稲荷さんの前で倒れていたところを救急搬送されてきたわけだが、目が覚めてすぐに記憶を失っていることが判明した。後頭部に頭出腫(医学用語でたんこぶ)があるが、CTスキャンでは特に脳に異常は認められない。受傷時の前後の記憶がないというのは、よくあるが、自分の名前すら思い出せないなんて言うのは、私にとっては初めてのケースである。

 おっつけ、警察がくるであろうから、それまでのつなぎのつもりで、半分興味本位で経過観察を続けている。

「ほら、これ」

 男の所持品の中から、彼女は一葉の写真を取り上げて男に渡す。メイド姿の女の子が写っているセピア色の写真。

「アキバのメイド喫茶で撮ったのよね。この子、もしかして、恋人さん?」

 そんなもの、サービスで撮らせるだろうとか思ったが、彼があまりにも真剣に見入っているので、突っ込むのはやめておく。それにしても、最近のデジカメには、古い写真っぽく撮る機能があるのは知っていたが、まさか、印画紙まで古ぼけた雰囲気にできるとは思わなかった。

「とっても、懐かしい感じがします」

と、男は言った。

「きっと、僕の大切な人に違いありません」

 男は、写真を抱きしめて、ハラハラと涙を流している。

「そうでしょう。そうでしょう。彼女の為にも、早く記憶を取り戻してね。もう少しよ」

 看護婦がドヤ顔で、私を見る。私が、記憶喪失は、時間が薬だと言ったのを根に持っているのであろう。

「どれ、見せていただけますか」

 僕は、男から写真を受け取る。目が大きくて、ほんわかとしたかわいらしい女の子が写っている。最近、人気が出ているある動物を思い出させる。そう、アルパカにそっくりだ。よく見ると、下の方に書き込みがある。

 なに、なに? 女給羊? 大正・・・・

 そのとき、ばーんと大きな音がして、和服を着た上品そうなおばあさんが入ってきた。

 おばあさんは、呆気にとられている私達を無視して、男に近づくと、大きな声を出した。

「たけし。わかるかい? おばあちゃんだよ!」


 おばあさんの登場をきっかけに、男は、あっけなく記憶を取り戻した。

 男は、大正から昭和に掛けて、貿易で財を成した家のお坊ちゃんだった。昨夜から帰ってこない彼を心配したおばあさんが、警察に駆け込んだところ、ちょうど、ここへ出向く途中の警官に出くわしたらしい。

 男が記憶を取り戻したことで、特に事件性もないことが判明し、その場はお開きになった。

 彼の災難は、バナナの皮で滑って転ぶという、持っていた写真同様に、実に古典的なものであった。(彼が転んだ場所にある防犯カメラの映像がそれを証明した。)

 さて、例の写真であるが、恋人は恋人でも、彼のひいひいじいさんの恋人(=奥さん)であった。大正時代に当時の喫茶店、いわゆるカフェで女給をしていた時の写真らしい。

 遺伝子的にメイドに引かれる家系なのだろうか。彼は、その写真をお守り代わりに、メイド喫茶で恋人を捜していたのだという。

「なんか、切ないですね」

 祖母に肩を抱かれつつ、立ち去る男たちを見送りながら、看護婦が言った。

 僕は、さっきのドヤ顔に突っ込みを入れてやろうと思ったが、男の背中が、やけに寂しそうに見えたのでやめておいた。


 時代は移り、平成となりました。って、もう令和ですね。

 さて、次回は、さらに時代が進む予定です。では。では。

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