我が愛しの羊駱駝
初めまして、にゃあと申します。今は無き「すぴばる」で何編か投稿しておりました。
今回は、『マゾヒスト』と『アルパカ』が出てくる大正っぽいお話を書きます。
にゃあは、基本的に長いものが書けない字書きですが、。こちらでも、似たような傾向の作品(自作)があると、群体のごとくシリーズ化したりします。
さて、今回は、アルパカちゃんシリーズ第1作です。
「まったく、こんな日向の泥水をありがたがるだなんて、君たち西洋かぶれは外国人に苦痛を強いられて喜んでいる被虐嗜好者だと言われても仕方があるまい」
と、Aは、苦々しげに口にした珈琲のカップを下に下ろした。
Aは、古くからの僕の友人だが、どうも偏屈なところがあって困る。
「被虐嗜好者だって? ああ、マゾヒストか。いくら外国が嫌いだからと言って、何でもかんでも、漢字に置き換えればいいってモンじゃないと思うがな」
「はっ」
僕が反論すると、Aはわざとらしく笑い声を立てた。
「だいたい、そんな妙なものは我が日本には、元々なかったのだから、多少、妙な言葉になってもしようがないのだ」
「いや、そんなこともないと思うが・・・・」
僕はもぞもぞと言いながら、珈琲を口に含む。日本橋の店ほどではないが、そこそこの味わいだと思うがなあ。
「で、何なのだ。急に僕をこんなところに呼び出したのは」
「ああ、すっかりわすれていたよ。まあ、之を見てくれたまえ」
僕は、Aに一葉の写真を見せた。
「おやおや」
と、Aは言った。
「これはまた、どこのカフェの女給さんだい?」
「女給だって?」
僕はあわてて、写真を見直す。女給? いや、それ以前にこれは・・・・
「この写真の被写体は、今はやりの女どもの特徴をよく表している」
Aはにやにや笑いをしながら、僕から写真を取り上げる。
「はやりの? ああ、モダンガールのことか?」
Aは、我が意を得たりとばかりに、写真にいちいち指を差す。
「ほら、ごらんよ。断髪って言うんだろう? この短い髪の毛。パーマネントだかなんだか知らないが、わざわざくせをつけてるじゃないか」
うむ、確かに、それの毛は少しくせっ毛である。
「白い顔に大きな口。アア、目は、可愛いな。ほら、あそこのあの女給の姉さんじゃないのかイ?」
「ひどいことを言う奴だ」
僕は少し腹を立てて、Aから写真を取り上げた。
「これはな、南米大陸に住むアルパカという家畜だ」
「アルパカ?」
「そうだなあ。漢字で書くのなら、羊駱駝でいいだろう」
「羊駱駝?」
Aは、僕の手から再び写真を奪い取ると、しみじみと見入った。
「羊駱駝か・・・・。なるほど、言い得て妙とはこのことだ」
と、Aは笑った。
「で、これは、なにかおもしろいことができるのかい?」
「怒ると、つばを吐きかけてくる」
「ははは」
と、さらにAは楽しそうに笑った。
「で、之がどうしたと言うんだ?」
「この家畜の毛で織った織物を輸入して、一山当てようと思う。君も出資してくれないか?」
「なるほど」
と、Aは言った。
「そいつは、おもしろそうだ」
「そうだろう?」
「この※モガに、興味がでてきた」※モダンガールの略
「モガじゃない。之は家畜だ」
「いやはや、とても、そうとは思えんが」
Aは、指を鳴らして、女給さんを呼び寄せた。
「きみきみ、これ、どう思う」
怪訝な顔の女給さん。
「之は、アルパカという外国の家畜なんだが、結構可愛いだろう?」
「はあ」
「女給駱駝と呼ぼうと思うんだが、どうだろう」
「女給駱駝?」
「だって、ほら、君にそっくりだろう」
ばしっ、女給さんの平手がAの頬に飛んだ。
「いててててて」
と、Aは、頬を押さえた。
「いつから、日本の女は男を殴るようになったんだ?」
と、恨めしげなA。
「はははは」
と、僕は笑った。
「今のは、どう見ても君が悪い」
「しかしまあ、日本の女でよかったよ」
と、Aは珈琲をすすると、真顔で言った。
「外国産は、つばを吐きかけてくるらしいからな」
さて、始まりは、大正時代。この後、時代は移り変わります。果たして、アルパカちゃんの運命は、いかに?てな、ところでしょうか。
うまい具合に、お題がいただければ、不定期に続きます。では。では。