第7話 sept
気がつくと、僕の目の前に1人の少女がいた。彼女は僕の顔を覗き込んでいた。
彼女は黒の半袖のワンピースを着ていた。そして黒い流れるような髪。長さは肩ほど。そして青みがかった瞳。
僕はあたりを見回した。
ここはどこだろう?薄暗い寂れた部屋。
「気がついたか……智樹」
彼女は低いトーンで言った。
「私じゃ、ソナじゃ。そなたを転移させここまで運んできた」
「ソナ……?」
「そうじゃ。だが今はその名で呼ばないでくれ」
「が……学校で…………」
「智樹……落ち着いて聞くがよい……。そなたと今日の朝から行動を共にしておったのはソナの姿をした者、闇の魔女、ウラノスじゃ。そしてそれと共に現れた黒い影は彼女の執事レクター」
ソナは一息ついで語った。
「妾はおぬしと出会った時の後、おぬしの前に現界しようとしたが、ウラノス達に捕らえられ、やつの住処に幽閉されてしまった。そしてウラノスは魔術を使い私の姿に扮しおぬしに近づいた。そしておぬしと学校に登校した」
まったく気がつかなかった……。自分は彼女をソナとばかり……。
「すまぬ……妾が想定してたより早くウラノスは動いたようじゃ」
「学校の皆は……」
「…………全員ウラノスらに殺された」
ソナは告げた。
「おぬしの学校の生徒、教師全員が殺された。そして今それで世間が騒いでおる……」
え…………確かそれだと2000人くらいか…………。
僕の顔から血の気が引いた。心臓が止まりそうになった。
「…………ウラノスは殺害した者らの生き血、精気を得て更に力を増し、再びいずこかへと消えた」
埃っぽい薄暗い部屋の中で彼女はやや生気を失った表情で言った。
「智樹……立てるか?」
ソナは言った。
「あ……ああ……」
「妾のことは……そうだな……ウラノスに気づかれるとまずいので……リアと呼んでくれ。」
「わかった。リアか」
僕は言った。どういう意図でその名前を選んだのかはわからないが。
「智樹、外に出てみよう……。その前にこれを身につけてほしい。ウラノスらに感づかれるとまずいのでな」
リアはそう言うと黒い帽子とサングラス、そしてシャツとズボンを僕に手渡した。
……あまりいい趣味だとは言えないが……。僕は汚れてしまった学生服を脱ぎそれに着替えた。
その間リアは向こうを見ていたが恥ずかしいのだろうか。いや……今はそれどころではない……。
◇ ◇ ◇
「ところでソナ……いや、リアは見た目が前と変わってるけど……」
「えーと、それはじゃな……ウラノス達に感ずかれたらまずいじゃろ……」
リアはどことなく照れくさそうにもぞもぞと言った。黒いショートカットがゆらゆらと揺れる。
前のソナとは髪型とか少し変わってるけどかわいい……。
いや、いや、いや……! 僕は憂華……そして皆を救わなければ……。しかし自分には何の力も……。
僕とリアは薄暗い階段を降り建物の外に出た。どうやら今いた場所は今は使われていない廃ビルのようだ。
僕とリアは並んで夕暮れの街を歩いた。どことなく街が騒ついている感じがする。
「リア……ここはどこ?」
僕は尋ねた。
「ここは大阪という都市じゃ。元いた横浜から転移して来た」
へぇ……随分遠くに……。
僕たちは商店街から少し横道に入った所にある喫茶店に入った。店は落ち着いた洋風な感じだった。
◇ ◇ ◇
僕とリアは隅にある座席に腰掛けた。店内の雰囲気はヨーロッパ調のアンティークでシックな感じ。
ウェイトレスが注文に来た。白のブラウスに紺のスカートを履いている。歳は17、8歳くらいだろうか。
髪の毛は少しブラウンぽく染めている。その髪が夕陽に照らされて黄金のように見える。
僕はちらと彼女の方を見た。なかなかの美人だと思った。
「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」
彼女は言った。
「そうね……カフェオレを頂こうかしら……ホットで」
リアは言った。
「じゃあ、僕もそれで」
ウェイトレスがカフェオレをテーブルに置いて去った後、僕は話を切り出した。
「学校で大変なことが起こったけど……」
「そうね…私が捕らえられてしまったばかりに……」
リアは努めて冷静に言おうとしてるように見えたがカップを持つ手は震えていた。
「あなたの学校の生徒や先生はおそらくウラノス達に皆殺しにされ生気を吸われたと思う……。今日本中でこの事件について大々的に報道してる。おそらく世界中に。ほら、あそこに警察官がたくさんいるでしょう」
リアは窓の外を指差した。確かにたくさんの警官や機動隊らしき人達が外を歩いていた。
「あなたの学校、そして今日本中……いや世界中があの事件の後厳戒態勢を取ってるわ……。軍隊の出動要請もかかっているみたい……」
そうか……あんなことがあったものな……。
「横浜の街や僕の家族は大丈夫なの……?」
僕はおそるおそる尋ねてみた。
「大丈夫じゃ。今街は何ともない。おぬしの家族は今妾の配下が保護しておる。ただ警察や世間が大層騒いでおるが」
僕はほっとした。
「確かリアは2週間以内なら憂華を復活させることができると言ったよね……。それなら学校の皆も……」
「確かに言った。後2週間以内にウラノスを倒せば。そして彼女の心臓を取り出しフランスにある妾の教会の祭壇にそれを捧げればウラノス達に奪われた生命、肉体を復活させることができる」
リアは一息ついた。
「おそらく警察や機動隊、そして自衛隊でもウラノスを倒すことは困難……不可能に近いだろう……。彼女は邪神といえども神だから……。」
僕はじっと聴いていた。
「妾の力はこちらの世界ではほぼ失われてしまう。転移の力くらいは使えるが精々1日に1回くらいだ。こちらの世界で力を得ているウラノスには太刀打ちできないであろう……。ウラノスを倒すには聖剣ル・クレナティウムがいる。しかし今はそれがどこにあるのかは分からない」
リアはカフェオレを一口飲んだ。
「智樹……。妾はおぬしに賭けている。おぬしと出会った時にそう思った。おぬしなら聖剣を見つけ出しウラノスを倒せるかもしれないと」
僕にそんなことが……。そんなとんでもない相手を倒すなんて。格闘技はしたことがないし喧嘩も全然強くない。
「どこにその聖剣があるのか分からない……。そして僕にその邪神を倒せと……」
無茶な要求だ……と僕は少し思った。若干膝が震えている。
「時間は今日を入れて13日しかない。憂華達を復活させるのには」
リアは僕に言った。