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第4話 quatre

Destruction


その部屋の中は血の瘴気に満ちていた。

薄暗い闇の中に艶めかしい白い肌が浮かび上がっている。

鮮血のような色をした紅い服。上下が一体化され体にぴったりとしたスーツ。

胸元は大きく開いており、豊満なバストが半ば露わになっている。


灼熱の燃えるような真紅の瞳と黒いストレートの腰のあたりまで届いている長い髪。

そして彼女・・のその髪からは二本の歪曲された角がスラリと伸びている。

彼女の顔はこの世界のものとは思えないくらいの美しさをしていた。


彼女は黒いソファにゆったりと腰かけながら、右手でドス黒い色をした赤い液体の入ったワイングラスを揺らしていた。

そして、その彼女の腕の部分だけ彼女のは肌の他の部分とは少し違い、白くはあったが微かに肌色を帯びていた。


「レクター……こちらの世界にやつが現界したようね……」

彼女は美しくも赤い唇を開き、呟いた。


「ウラノス様……そのようで御座いますな……」

部屋の隅の闇の中から男の声がした。


そしてウラノスと呼ばれたその女はこう言った。


「一刻も早くやつを探しだし始末しなさい。跡形も残らず、徹底的に残虐な方法で地獄へ送り届けてやって頂戴」


「畏まりました。既に部下の者を捜索に向かわせております」

レクターと呼ばれた男は答えた。


それを聞くと女は口元に妖艶な笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇


ペシ! ペシ! ペシ!


痛っ! 誰だよ……。


再び。

ペシ! ペシ! ペシーッ!


いてっ! イテッ! イテッ!! まだ眠いんだよ!

そしてサッと眩しい明かりが差しこんできたような感覚。


「智樹ぃぃぃー! 起きろっ!!」

僕はヒッと半ば情けない声を上げてベッドから跳ね起きた。


目を開くと僕の上に制服を着た少女が跨っていた。

目を凝らしてみると僕の学校の制服のようだ……。


「ソナ……?」


目の前の美しい黒髪をした少女は口を開いてこう言った。

「やっと起きたか。まったく……妾の手を煩わせおって……」


これは現実? 僕はちょっと混乱していた。

「えっと…………」

「ぐずぐずしておるではないっ!」

「は……はい……」

あの……あなたの太ももとお尻が僕のあそこを……。

このままでいたい……。


ハッ! 何考えてんだ俺は……。

僕は何故か欲情していた。男ってやつはこれだから……。


「フッ……さてはお主……妾に……」

彼女はそう言って髪を手でかきあげる。口元には微かに悪戯っぽさをたたえた笑みを浮かべている。

「妾もこの世界の男と……」


おい! 展開早すぎだろ! でも……。


そう考えてる内に彼女の鉄拳が僕の頬に飛んできた。


うぐぁーー!


「はぁ……お主はほんと小さくてしょうもない男だな……お前の目的を忘れたのか?」

ソナは微妙な表情を浮かべてこう言った。


そうだ! 僕は憂華を、憂華を、憂華を!

助けなくてはいけないんだ。

愛する、愛する、あの子を!


…………さて、目の前に突然夢の中の少女が現れたわけだが家族にどう説明すればいいんだろう……。


◇ ◇ ◇


「とりあえずここから出ないで……ソナ……さん」

僕はちょっとしどろもどろになりながら彼女に言った。

「そなた妾に命令するのか?」

ソナは笑みを浮かべながら言う。

「妾は神に近い存在なのだぞ。分かっておるのか?」


……何といえばいいのか……で……電波か……。

などいう気持ちは置いといて。

「ソナさん、あなたは僕の夢の中に出てきたソナさんですよね?」

「その通りじゃ」

我ながら普通じゃないこの事態を僕はまだ完全に受け入れられないでいた。

「ちょっと待っててください。顔を洗ってきます」

そして僕は顔を洗いながらどうしようか、どうなるのか、と考えていた。


僕が自室に戻っていくと彼女は机の前にある椅子に腰かけて教科書を見ていた。

「ふむ……。これがお主が勉強しておることか。まぁ妾にとっては児戯に等しいがな。それからこの部屋は雑然としておるのお」

彼女は僕の部屋を見渡しこう言った。確かに僕の部屋は本や漫画やなどでごちゃごちゃしている。


「その制服はどうしたのですか?」

「妾もそなたの学校に着いていこうと思っておるのでな……。いつ何時やつが現れるか分からぬのでな。やつが現れると壮絶な惨劇が起こることは間違いない……」

ソナは神妙な表情でそう言った。

「分かりましたが……入学手続きとか大丈夫なのでしょうか?」

「フッ……抜かりはないわ。もう既に済ましておる……そなたの双子の兄妹としてな」

「ふ……双子?」

「そう、それが一番簡単じゃ。妾はイギリス帰りの帰国子女という設定になっておる」

……僕は何だか頭が痛くなってきた。どこかで読んだようなラノベの筋書きのようなこの事態に。

僕の頭がおかしくなったのか? いやいや……。

そして彼女は机の上にあるメモ帳を手に取りペンで何かを書き、そしてそれを僕に見せた。

それには美しい文字でこう書いてあった。

「河合楚名」

「これが妾の名の日本名じゃ。今考えたのだがな」

……う~ん……少し地味なような……まぁいいか。


そして僕たちは1階に下りた。キッチンの前のテーブルには両親と僕の妹が座り食事をしていた。

「おはよう。智樹、楚名。早く食事をしなさい」

母さんは自然にそう言った。

……なるほどもうソナいや楚名、はこの家の一員になってるんだな。どうやったのか分からないが。

父さんは新聞を広げそれをじっと読んでいる。まぁ普段からそんなに口数の多い父ではないが。


「お兄なにぼーっとしてるの?」

朝食を食べていた妹、玲奈はこう言った。

玲奈は僕より二つ年下の中学2年生。髪はセミロング。少しだけ茶色に染めている。

まぁ外見はそれなりに可愛く、クラスでは男子の人気がありそうなタイプではあるが……ただ性格が。


「玲奈、おはよう」

楚名は流麗な発音でそう言って優雅に椅子に腰を下した。

先程までとは別人みたいなのだが……。


◇ ◇ ◇


「楚名お姉ちゃんおっはよーー」

玲奈はそう言うと楚名の方を向いてニカッと微笑んだ。

「あなたも朝から元気ね」

楚名はごく普通に言葉を返す。かなり自然な感じだ。

もうずっと前からこの家に住んでいたように。

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