第2話 deux
僕は夜の街をかけていた。
あの晩、夕食を食べていると母から憂華の母から電話があったと告げられた。
憂華から彼女の母にこういう電話があったそうだ。
「助けて……助けて……早く…………」
そして電話は何者かの手により強引に切られた。
憂華の母親は警察に連絡したのだが、彼女の行方について何らつかめていない。
携帯は壊されたらしくGPS機能での彼女の居場所の特定はできなくなっていた。
僕はどうしていいのかわからなかった。でも、何かをしなくてはいけないと思った。
憂華の身に危険が迫ってる!!
僕は母に言った。
「母さん、憂華の家に行ってくる」
「智樹……今は家にいた方が……」
「大丈夫、すぐ帰るから」
と言うや否や僕は家を飛び出し憂華の家へと走った。
◇ ◇ ◇
…………………………………………。
僕は茫然自失として暗くなった空を見上げた。
ショックのあまり声も出なかった。
見えない力に押さえつけられたかのように体が震えてくる………………。
数時間前
僕は憂華の家に着き、彼女の母親から出来事のあらましを聞いた。
彼女は僕と別れてからまだ家には帰ってきていない。
警察関係者らしき人物も数名いた。
憂華の母親は青ざめた顔で俯いていた。
「お願いします……あの子を助けてください…………」
刑事らしき人物は何とか彼女を安心させようとした。
「安心してください、奥さん。娘さんは全力で一刻も早く助けだします」
周囲は警官やパトカーが集まりガヤガヤとしていた。
僕は不安だった。こうしている内にも憂華が…………。
僕はいても立ってもいられなく、彼女を探しに夜の街へと駆け出した。
◇ ◇ ◇
紅い…………………………。
辺り一面鮮血で染まっていた。
薄暗い路地にそれはあった。
それ?
それは僕の学校の女子の制服を着てるように見えた。
しかし、それは引き裂かれそして元は真っ白だったものが真っ赤に染まっていた。
血の匂いがあたりに立ち込めていた。
僕の足は震えだし、警察に飛び込もうかと思った。
だが僕はそれに近づいて行った。
長い髪……。どうやら女性のようだ。それはうつ伏せに倒れている。
右腕が……切断されている…………。
僕はある考えを必死に跳ね除けようとしていた。
恐る恐るそれの顔を覗き込んだ・・・。
………………………………………………。
いくばくかの時間が経ったのだろう。それは永遠のようにも思われた。
…………憂…………華………………。
彼女の顔は相当殴られたらしく青く、そして赤く腫れ上がっていた。
そして…………目には涙を浮かべていた。
嘘だろ…………。
信じられなかった。信じたくなかった。
落ち着け…………落ち着け………………。
僕は携帯を取り出し救急車を呼んだ。
◇ ◇ ◇
僕は気が狂いそうになっていた。
薄暗い夜の病院の廊下……。
彼女は……憂華は……。
死んだ…………………………。
病院に搬送された時は既に息をしていなかった。
現実? 夢……。
しかし胸の苦しみがこれは現実だということを知らしめる。
倒れていた彼女が流していた涙…………。
僕は抜け殻のようになっていた。
◇ ◇ ◇
僕は……ただただ震えていた。
憂華……何でだよ……誰が…………。
病室からは彼女の母親が泣き叫ぶ声が聞こえる。
復讐…………その二文字が僕の心に浮かびやがてそれは執念へと変わっていった。
紅い…………その二文字。
警察は犯人に対して何の手がかりもつかめていない。
憂華の右腕は切り落とされていた。
なぜ……何のために…………。
それはまだ見つかっていない。
彼女は犯人に暴行を受けたあとに殺害されたらしい。
許せない…………握りしめた手がわなわなと震えてくる。
涙がほおを伝ってくる。
そして血液が逆流してくるような感覚……底知れぬ怒りの感情が心の深いところから湧き上がってくる。
◇ ◇ ◇
結局、犯人の行方は全くつかめないまま数日が過ぎた。
警察はあらゆる手を尽くして捜査したのだが、何の手がかりも得られていなかった。
そして憂華の葬儀が執り行われた。
僕は虚ろな目でその葬儀に参加した。
いまだに信じられなかった。
あんなに元気に笑っていた憂華が…………今はもういない。
彼女の母親は(父親は憂華が幼いころ病気で亡くなった)散々泣きはらしたであろう目で、参列者に応対していた。
外ではしとしとと雨が降っていた。しとしとと・・・。
その晩も次の晩も僕はほとんど寝つけなかった。
学校の授業も上の空だった。
僕は放課後あてどなく街を彷徨っていた。
彼女を殺した犯人は…………許せない、絶対に…………。
しかしまったく手がかりのない状態。
憂華が行きそうな場所に行き、彼女が殺害された日彼女を見かけなかったかと訪ねまわった。
毎日、放課後何時間も足が棒になるまで手当り次第に当たってみた。
だが、誰も彼女を見てないと言う。
僕は途方に暮れた。
ここ数週間食事もろくに喉を通らなかった。
そして憂華が亡くなってから3週間目の夜、僕はある夢を見た。