第1話 un
目覚め
あの子とキスをしそして抱擁しあって互いの愛を確かめる。
僕達は心地いい時の中でまどろんでいた。
あの子は髪をかき上げてこう言った。
「いつまで夢を見ているの?」
目を覚ますとそこにクラスメートの憂華がいた。
どうやら夢を見ていたようだ……。
僕はあたふたした。何て夢を……。
少し亜麻色の肩まで伸ばした髪、色白で滑らかな肌。
制服のスカートの裾から覗く白い太腿が眩しい。優美でほっそりとしたウェストライン。
「……ごめん……ちょっと寝不足で……」
僕はしどろもどろに言う。
「……そう……。何かニヤニヤしてたから。何の夢を見てたの?」
君の夢だよ……。ブラウス越しに見えるほんのりとした膨らみ。触れたい……。
などと妄想している僕を憂華はジト目で見ている。
◇ ◇ ◇
「あなたって何を考えてるのかいまいちはっきりしない」
憂華はそう呟いた。
……そうかもしれない。でも君の可憐さは僕の心を惑わせる。
僕の名前は黒澤智樹、彼女の名前は早乙女憂華。
2人とも神奈川県にあるとある県立高校の3年生だ。
憂華とは中学生の時初めて出会った。
憂華は父親の仕事の都合で一家で長野県の中学校から転校して来た。
その時僕は彼女の可憐さや美しさに一目惚れのようなものをしてしまった。
その後僕は勇気を出して彼女に話しかけ何とか友達になった。
憂華は基本的に明るい少女だった。でもたまにどこか寂しそうな表情をする時があった。
そして高校は彼女が進学する高校を受験した。結構偏差値の高い高校だったが勉強をして何とか合格した。
そして2年生、3年生と僕と憂華は偶然にも同じクラスになった。
僕は彼女に恋をしていたがずっと告白できず友達のままだった。
憂華が僕のことをどう思ってるのかは未だによくわからないが……。
でも最近はお互いに気軽に話すようになっていた。
そして彼女の明るさや聡明さにますます好きになっていった。
◇ ◇ ◇
授業も終わり、放課後。
クラスメートは部活に、帰宅にとそれぞれ散っていく。
気になっている憂華はというと、クラスメートと何やら話してる。
それが一息ついたみたいでクラスメートは帰って行った。
憂華は鞄をごそごそと探ってる。
「憂華」
僕は声をかけてみた。
「一緒に帰らない?」
彼女はちょっと考えたような素振りをしてそして微笑みながら言った。
「わかったわ」
僕と憂華はてくてくと通学路を歩いてく。
今は6月。夕焼けの陽射しの中を少し涼しいそよ風が吹いている。
「智樹、もうすぐ期末テストだけどちゃんと勉強してる?」
彼女は問う。
「あ、ああ……ぼちぼちと」
「ふーん……」
彼女はちょっと訝しげな目で僕を見る。
「私もそろそろ勉強しないとなぁ……」
「憂華なら大丈夫さ。要領がいいし」
「またまた~」
彼女は成績も要領もよくそして生徒会にも入っていてクラス委員もしている。
その才能を僕にもそれを分けてほしいぐらいだ……。
そして彼女はかわいい。どこか触れたら崩れてしまいそうな儚さはあるが。
ふと、彼女は呟いた。
「このままずっと学生生活を送れたらなぁ……。」
「でも来年は大学に進学するんだろ?」
「うん……でも高校生活って今しかないから。今の毎日を大切にしたいの」
季節は移り変わり人はそれぞれの道を目指して歩いていく。
でも、この時、この瞬間だけはかけがえのないものだ。
「そうだな」
僕も同意して頷いた。
「じゃあ、また明日、智樹」
憂華はにっこりと微笑み手を振った。
「うん。また明日」
こんな幸せな日々がずっと続けば……。
いずれ憂華に……。
この時の僕はそんなことを思っていた。