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勇者学科ジュノー先生のモンスターのやっつけ方

 ------la。


 常に耳に入る音の羅列。それが足元に、左右に、地中深くからも聞こえる事で、彼は、年を追うごとに自然と、その正体が身近にある植物からだと理解できた。耳に入る音と似た音を発生できるようになれば、まるで相互を理解するように草木が伸び、揺れ、花が咲く。

 恐らく人はそれを見て、彼が植物と意思疎通が出来ると考えるだろうが、これまで誰かに指摘された事はなかった。大人になって、その現象を利用して自身の特殊魔法と組み合わせた結果、植物を扱う魔法だと思われている節があったのだ。改めて誰かに打ち明ける話しでもなし、ずっと秘めていたわけだが、そこで彼の脳裏に、筋骨隆々の、ある初老の男の姿が浮かび、苦笑が漏れた。


 彼の名はジュノー。色素の薄い髪の頭に目立つ黄色の翼を一つ持つ、とても特徴ある姿をしている青年だ。年の頃は30前半のまだ年若い部類の人間ながら、身には軽鎧を纏う一介の冒険者……否、今は転職して教師だ。これまで中堅の冒険者としてそこそこの能力があるとは自負しているも、それが教師になるのかと、不思議な縁だと、もう一度彼は苦笑した。彼が所在を置いているのは、対魔王政策として国が造った巨大な勇者育成機関、英雄学園である。名誉な事にそこの勇者学科に所属する事になったが、これからやっていけるのかどうかはまだわからないなと、彼は上空を気にしながら考えた。何しろ、人は簡単に死ぬ。思いもかけず。


「ぷぇー…」


 間の抜けた声がして、ふっと足元に影が映った。見上げれば、やはり、モンスターの姿がある。殺気が感じられないし、恐らくこちらには気付いていないだろう。これらの撃退には英雄学園の勇者学科と戦術学科の生徒が繰り出されているのだが、少し数を減らしておこうかとジュノーは左手に生成魔法を使い、毒を生み出していた。

 思ってからの行動は、慣れもあって早い。長く一人旅をしていた折には、こうして野鳥を狩って食料にしていたものである。左手に生み出された毒は、指で触れるとゼリー質だ。それをぷつりと削ぐように落とすと、足元で小さく歌っていた蔓の芽にポタリと落ちた。


 ------la、lala、la…


 途端、蔓の歌う歌の調子が早くなる。強制的に成長を促す毒だ。多少苦しいのだろう。それが彼らの身に馴染むまではほんの数秒。その時間を無駄にせず、ジュノーは立ち位置を変えるように、早足で三、四歩足を進めた。毒の効果で植物が急成長するタイミングを合わせて、足元から拳大の石を拾い上げる。


 -------La!!


 一際大きな音。刹那、爆発的に伸びた蔓の本能か、他の植物を捕捉するよう動いた。目標である空の魔物もだが、もちろんジュノー自身にも蔓は向かってくる。それを彼は分かっていた。だから慌てず小さく口を開く。


 「―――a」


 伸びる蔓と同じ音を。


 瞬間、襲いかかる蔓はぴたりとジュノーを避けた。ちらりと上空を確認すれば、蔓の攻撃では捉えきれなかったか、逃れたモンスターの姿がある。だが、その位置はジュノーが誘導した位置だ。目に入れるか入れないかのタイミングで、ジュノーは右手を振っていた。鋭く投げられた石は、正確にモンスターを打つ。


「ぷきゅっ…!」


 これまた可愛らしい声を出して、空のモンスターは落下した。どさりと確かに質量を感じさせる音の後、さらさらと、まるで何もなかったかのように消える。これは、魔王が生み出した魔物の特徴だろうか。野生のモンスターにない特徴にジュノーはモンスターが消えた場所をまじまじと眺めた。こんなモンスターばかりが蔓延れば、普通の冒険者など食いぶちが稼げず、お手上げになる事請け合いだ。


「せめて、討伐の証拠になるようなものがあれば良いんだがな」


 さて、勇者学科の生徒たちの様子はどうだろうか。そろそろフレア先生が飽きて逃亡を図っていないか、などなど心配事が浮かび、ジュノーは校舎の方角を振り返った。

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