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ハデス ~最後のティタノマキア~  作者: 底なしコップ
最終部 神々の黄昏
59/64

第57話 「雷霆ゼウス」

「十二神……!」


 何故このタイミングでオリンポスの最高幹部たちがやってきたのか。


「あ! ヘルメスがいない!!

 ヘカテさん!?」

『彼ならとっくに消えていましたよ?

 おそらく、オリンポスにティタンと我々の動向を伝えに行ったのでしょう』

「そ、そんな!

 気付いていたのなら何で!?」

『その方が都合がいいからです。

 オリンポスもまた、“ハデス”によって裁かれるべきなのです。

 その為に、わたくしは協力関係にある――』


 何か打算があるとは思っていたが、それがヘカテの狙いだったのか……。

 今回の件、脱獄したティタンも悪いが、そもそもがオリンポスの非道な仕打ちが発端でもある。

 ヘカテはその件についての裁定を、冥府に委ねたという事か。


「裁判長!!」

「ヘカテーさんの思惑に関係無く、俺は仕事するだけだよ。

 後はオリンポスがどう出るか次第だね」


 ハデスは淡々と述べた。

 彼にとってこれはあくまで仕事。

 脱獄犯を捕え、冥府に送還するだけ。

 オリンポスが黙っていればであるが。


「―クロノス及びその場にいる全ティタンに告ぐ!―

 ―罪人の身でありながら無断でオリンポスの領地を侵犯した罪!―

 ―許し難し!!―

 ―ただちに全員の身柄を拘束する!!―」


 十二神第四位、女王ヘラが“威光”を以って宣告してきた。

 すかさず、ハデスが反論する。


「既に彼らは冥府の管理下にある。

 後は冥府に任せて頂く!」

「―その冥府が信用できぬのだ!―

 ―ティタンをみすみす取り逃がしたは冥府の不手際であろう!―」

「失態は認めよう。

 だが、既に刑は執行された。

 後は彼らを冥府に収容するだけだ。

 オリンポスの出番は無い」

「―そうはいかぬ!―

 ―とにかく!―

 ―首魁と思しきクロノスの身柄はオリンポスが預かる事とする!―」

「何故、クロノスに拘る?」

「―それは……全ての元凶だからだ!―

 ―クロノスがいる限り!―

 ―ティタンは未来永劫!―

 ―オリンポスに帰順する事はなかろう!―」


 ヘラの一方的な言い分に、ティタン族がざわつき始めた。

 ただ、クロノスが老化した影響か、皆覇気は失せていたが。


「……オリンポスがそれを言っちゃダメだろう?」


 ハデスが頭を抑えた。

 関係無いが、その仕草には見覚えがあった。

 プロメテウスがよくこんな風に溜息をついていた。

 もしかして、今のハデスはプロメテウスを真似ているのか?


『そうでは無いでしょう』

「わ! 何気に心を読まんで下さいよ!」

『確かに、プロメテウスの影響を受けて身に着いた癖なのかもしれません。

 ですが、子供が大人を真似、いずれは自分の人格形成をする事と何ら変わりません。

 彼は猿真似といいましたが、あれは紛れも無く今のハデスの個性なのでしょう』


 成る程。

 ということは、結構プロメテウスの影響を受けているな。

 過去のハデスは善良な頃のゼウスに近い物腰だったが、今は言葉の端々に辛辣さや皮肉さが見受けられる。

 案外プロメテウスにガキ呼ばわりされたのを引きずっているのかもしれない。


「―クロノスをこちらに!―」

「断る!」

「―……ならば奪うまで!―

 ―皆の者!―

 ―クロノスを強奪せよ!!―」


 ヘラの命により十二神は一斉に飛び掛かって来た。


「やれやれ……」


 ハデスは黒き王に変ずる事もなく、頭を掻くのみだった。

 遠くから光の矢が飛来する。

 放ったのはケイロン。

 続いて巨大な鎧の塊がハデスを襲う。

 おそらくヘパイストスだろう。

 しかし――。


「危ないよ?」


 ハデスはヘパイストスの先端の金具を掴むと彼を盾にして光の矢を跳ね返した。


「皆に流れ矢が当たったらどうする?

 やるなら俺だけを狙ってもらえるかな?」

「―そうはいかぬ!―

 ―こうでもせねば!―

 ―貴様に勝てぬのでな!!―」


 ヘラが凄まじい速度でハデスに席巻し、真上から強大な光線を浴びせた。


「――ハアアアアアアアアアアア!!!!――」


 その強大な熱線は大地を溶かし、地形すらも変形させた。


「ハァ……! ハァ……!」


 渾身の一撃だったのか、ヘラから“威光”が消えていた。

 力を使い果たしたのだろう。


「服が燃えちゃった。

 ヘカテ―さん、よろしく!」


 全裸になったハデスだが、ヘカテが一瞬で新しい服に着替えさせた。


「ホント便利だよね~。

 ヘカテ―さんって」


 ハデスに褒められヘカテは「うふふ」と笑った。

 苦笑いだったが。


「……おのれぇ!!」


 そんな超余裕なやり取りに、ヘラは怒りの声を上げた。


「十二神というから全員かと思いきや、たった三人じゃない?

 自分で言うのもなんだけど、俺と戦うにはちょっと準備不足だったんじゃないかな」

「――その言葉、そのまま返す――」

「おおお! おおおお!!」


 ヘラが焦がれる様に天を仰ぐ。

 遥か上空より、光り輝く十三の天使。

 それらを率いる叡智(アテナ)

 そしてその最奥には――。


「―ゼウス―」


 恐怖が周囲に伝播してゆく。

 ヒトの根源的恐怖を刺激する存在(もの)

 “ハデス”は、黒き王として身構えた。


「―我を相手にたったひとつ(・・・・・・)で足りるのか?―

 ――兄者!?――」


 ゼウスが手を掲げた。

 そこから膨大な魔力が展開される。


「――受けよ!!――」


 ゼウスが創造した神槍を投げつけた。

 大地を一撃で分断する神器。

 避ければ、ここにいる全員の命は無い。


「―――ッう!――」


 “ハデス”は神槍を受け切った。

 しかし、その両手からは血が滲み出た。


「―――ハッ!!――」


 何とか槍を止め、ゼウスに投げ返した。

 ゼウスは槍を返されると、何の躊躇も無く無に帰した。


「―ふむ―

 ―やはりこの程度では堪えぬか―

 ―ならば――」


 ゼウスから電撃が迸り、その肉体をみるみる大きくさせ、巨大な闘神の姿に変えた。


「――来い!――」


 ゼウスの念力で“ハデス”が引き寄せられた。


「―空中戦は初めてか?―」

「―ああ、俺は飛べないからね―」

「―ならば! 存分に味わうが良い!!――」

「―うっ!? ギ……!!――」


 “ハデス”は闘神ゼウスの巨大な手に掴まれ、そのまま雷撃を流された。


「―ほう?―

 ―どうやら最強の肉体でも感電はするようだ―

 ―おっと―」


 “ハデス”はゼウスの小指を蹴り上げ、緩んだ隙に逃れた。


「―いかんいかん―

 ―つい油断してしまった―

 ―では、これならどうだ?―」

「―ぐっ!?――」


 今度は直接電撃の檻に閉じ込め、感電させた。


「―逃げられまい?―」

「―逃げる必要はない!――」


 “ハデス”は檻に閉じ込められたまま、強引にゼウスに突進した。

 しかし、ゼウスは当然の様に檻を消し、ハデスを叩き落した。


「――グハッ!!――」

「裁判長!!」


 ハデスは地面に叩きつけられ、膝を付いていた。

 その身体は無数の傷をつけ、かなり消耗していた。

 折角ヘカテが新調した服もボロボロである。


「―つまらぬ!―

 ―兄者よ!―

 ―何故本気を出さぬ!?―」

「―……本気なんだが?―」

「―この期に及んで戯けた事を―

 ―冥府にある太陽を全てその身に還せ!―

 ―さすれば我と互角に渡り合う事もできよう―」


 確かにゼウスの言う通りだ。

 ゼウスの力は圧倒的だ。

 これが、雷霆ゼウス。

 こんなにも一方的にやられる“ハデス”は見たことが無い。

 だが、十全な状態で戦えば、まだ勝機があるかもしれない。


「―いや、それは出来ない―」

「―は!―

 ―冥府の誓いか?―

 ―下らぬ!―

 ―未だ冥府に残る愚民共がいくら消えようが知れたこと!―

 ―それでお前が消えては元も子もあるまい?―」


 ゼウスは“ハデス”を挑発していた。

 だが、“ハデス”に応じる気はなかった。


「―全ての命は平等だ―

 ―なら俺は、最期まで、法に殉じよう――」

「―……ならば、死ぬが良い!――」


 ゼウスは巨大な神刀ケラノウスを創り、握りしめた。


「ちょ! 待てよ!」


 空から巨大なオッサンが降って来た。

 三又の矛に無骨な王冠。

 そして、シリアスな空気をぶち壊す軽いノリ。


「―ポセイドン!?―」

「よー! 兄弟!!

 ケンカならトコトンやろうぜ!?」

「―……兄者(ポセイドン)も参加すると?―」

「ちげーよ!

 オレ様がオメーらに勝てる訳ねーじゃねーか!!」


 「ガーハッハッハッ!!」とポセイドンは何故かとても楽しそうに笑っていた。

 ……何故そこで笑う!?


「にーちゃんよ!

 冥府の連中は全員!

 オレ様の船で避難させたぜぇ!!

 そんなら! 全力出せるだろォ!!?」

「――……まあ、冥王星に誰も残っていないなら、誓いには反さない―」

「へへ!

 見せてくれよ!!

 にーちゃんのマジな本気ってやつをさあ!!!」


 ポセイドンは目を輝かせて言った。

 それは子供が玩具を欲しがる様な目だった。


「―しかし……―」


 だが、“ハデス”は躊躇っている様だった。


『“ハデス”!!

 もう貴方を縛るものはありません!!

 その真の“力”を存分に(ふる)いなさい!!!』

「へ! ヘカテさん!?

 アンタまで何言ってんですか!?」

『はぁ……! はぁ……!

 ああ……!

 今こそ見られる……!

 ヒトの道理を超えた“究極の力”……!

 ほら……!!

 あなたも説得なさい!!』

「ちょ! 何言っちゃってんですか!?

 さてはアンタ! それが真の目的だな!?

 この真正のド変態が!!!」


 私がヘカテをなじっている間に、ペルセポネが“ハデス”にすり寄っていた。


「ハデス……」

「―ペルセポネ―」

「本当のあなたは見せて?

 わたし(・・・)なら大丈夫だから……!」

「―……わかった―――」


 “ハデス”の肉体が更なる進化を遂げてゆく。

 白かった歯も、眼球も、その全てが黒一色に染まってゆく。


「――おお! おおおおおおお!!――」


 ゼウスは歓喜の叫びを上げると同時に、何かを私たちに放ってきた。


「――我が加護だ!!――

 ――世紀の瞬間をその目に焼き付けよ!!――」


 どうやらバリアを張ってくれたようだ。


「ヘカテさん? これは……?」

『“ハデス”の真の姿を前に、常人の身では発狂してしまう事でしょう』

「そ、そんなに凄いんですか? ウチの上司は……」

『さあ! 間もなくですよ!!

 冥王“ハデス”の! 真の“力”を――!!』


 ……ちびった。

 だが、恥ずかしくない。

 ここにいる全員が私と同じ状態だからだ。

 そして、羞恥などどうでもよくなっていたからだ。


「おおおおおお……!」


 殺して欲しい……。

 そう、思った……。

 あれ程の存在に命を食われるならと焦がれた……。


『しっかりなさい!!』

「……あ?」

『下着は取り替えておきました。

 間違っても、ヒトとしての尊厳を手放してはなりません!』

「……は、はい!」

『……これが、本来の“彼”。

 過去を通して、我々が見てきた“ハデス”の“力”は、その一部に過ぎなかった。

 “ハデス”の“畏れ”は、その一端が漏れ出たもの。

 その本来の性質は“王”の“威光”と同質にして上位互換。

 生命を完結させる究極のオーラ』

「……生命の完結?」

『……即ち、死です――』


 ―――――死。


『いかなる理由であれ、“真のハデス(あれ)”に命を差し出す事が、

 至高の人生であると、ヒトは本能的に想起するのです。

 さも、原初より運命(さだめ)られた(ことわり)の様に――』


 ―――――死……。


「――……叡智(アテナ)によれば、世界に終焉を齎す存在(もの)――

 ――黒キ王――――」

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