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第43話 「迷子かよ!」

「最近どうよ?」

「どうもしないさ」


 オリンポスの世になって数年後。

 世界を取り仕切る最高機関“十二神”の一員たるハデスとプロメテウスは、真昼間から行きつけの店でサボタージュしていた。


「俺が何をやらかした所で世の中は粛々と動いてゆく。

 なら、こうしてのんべんだらりとしてりゃあいいのさ」


 プロメテウスは、手をヒラヒラさせてワインを嗜んでいた。


「なんだか君、つまらなそうだったからさ」

「そりゃあいい!

 つまらんという事は平和だという証拠だからな。

 いいか? ハデス。

 俺たちが働くって時はヤバイ時だ。

 つまり、仕事が無いってのは最高だって話だ!」

「……まあ、そうなんだろうけどね」


 プロメテウスは溜息混じりにグラスを転がした。


「あの時。

 イアペトスがクロノスを庇った時点で全てが詰んでいたんだ……。

 俺たちは戦争に勝利はしたが、その実クロノスを介して支配権を得ただけだった……。

 今にして思えば、一番厄介だったのは親父なのかも知れん……」

「全て偶然だったかもしれないけどね」

「……今となっては確かめる術も無い。

 まあ、親父が本当にただの天然だった可能性もあるが……」

「あ、いらっしゃい!」


 店主の声に招かれたのは野性的なイケメンだった。


「よう! またサボりか!?

 オレ様も混ぜろ!!」

「あ、ポー」

「ポセイドンか」


 ちょっと待て!!

 ヘカテさん!! この人誰!?


『だから、ポセイドンとあの二人が言っているではありませんか』


 だから顔が全然違うじゃないですか!

 何でこんな毎度毎度!


『わたくしに言われても困りますわ』


 そ、そうかも知れませんが……。

 どういう事だ?

 現在のポセイドンが筋骨隆々の渋いナイスミドル系。

 プロメテウスと出会った時が線の細い美少年。

 そしてこの頃の彼はサーフィンの似合う色黒の不良青年……。

 それぞれ、顔もタイプも全然ちがう……。

 もっとこの謎を究明すべきだと私は声を大にして言いたい……!


『まあまあ、心配せずともあなたの希望は叶うと思いましてよ?』


 ……はあ。

 まあいい。

 この人がそう言うのであれば信じよう。

 私は結構、この魔女を信頼する様になったのだ。

 さて、彼の記憶に戻ろう。

 二人の間に無理矢理椅子を突っ込んで、ドカッと座るポセイドン。

 彼は何がそんなに嬉しいのか、ニヤニヤしていた。


「どうした?

 何かいい事でもあったのか?」

「おう! 結婚したんだ! オレ!!」

「「はいィイ!!?」」

「アンピトリテっつーんだわ!!」


 ポセイドンが写真を出してきた。

 写っている女性はおそらく花嫁であろう。


「お、奥さん?」

「カーイーだろおおお!!?」

「お前……挙式は?」

「もうやった!!」

「「呼べよ!!!」」

「えー? だってメンドかったんだもんよ~!

 最近ゼウス、ノリわりぃし~!」

(確かに、呼んで来ないとへこむよなぁ……。

 なまじ来たとしても、大袈裟になる事請け合いか……)

「「まあ、いいか。ポセイドンだし」」


 二人はツッコミ所が満載過ぎて諦めてしまった。


「お! それよか働けよ! オメーら!」

「「お前にだけは言われたくない!」」

「だから仕事を持って来たぜい!

 ゼウス直々の依頼でぃ!!」

「「それ、お前が頼まれたんだろ!?」」

「デメテルを探せ!!」

「「な!? なにぃいいい!!?」」


 ポセイドンの使命とは彼らと同じ十二神の一員、デメテルの捜索依頼だった。


「詳しく聞こう」

「十日ぐれー前だ。

 デメねーちゃんが会議に来ねえんで、家に行ったが誰もいねえ。

 オメーらはサボってたから知らねーだろーがな!」

(……こいつ、意外と真面目に会議に出席してたのか)

「知り合いにも聞いたが、みんな知らねーつーんだ」

「ゼウスは?

 人探しなら“神の知恵”で一発だろ?」

「それがゼウスのヤロー。

 そんな事で我が“叡智”は使えぬとか言いやがってよー!

 ケチくせーったらねえぜ!!」

(……何も言わないが、死の恐怖がまだ癒えないのか?)

「ま、まあ、言った所で始まらん。

 俺たちも暇してた所だし、そういう事なら付き合おう。

 な? ハデス」

「うん。そうだね」

「っしゃあ! はりきって行くぜよ!!」


 三人は空を駆けた。

 ゼウスから与えられた十二神の力である。


「しっかし便利だよな~コレ!

 空飛べるし! 年取らねーし!」

「そうだな。

 そういえば俺たちがいくつの時からだったか?」

「確か俺が三十手前の時からだったかな」


 ちょと待て!

 この前ハデスに年聞いた時、今年で三十になるとか言ってたけど……。


『肉体年齢の事でしょうね』


 じゃあやっぱロリコンだったんじゃねえか!


『何を今更。

 あれから一体何十年経ったと思ってるんですか?』


 ……そうなんですが……。

 すみません、脱線しました。

 記憶に戻りましょう。

 プロメテウスたちは地上を観察しながらデメテルの近況について情報交換をしていた。


「デメテルといえば、急に妊娠して驚いたよ」

「その事だがな。

 何で俺だけ知らされなかったんだ?」


 プロメテウスの質問に、ポセイドンはにニヤついた。


「そりゃオメー!

 愛しの王子様に腹の出たトコなんざ見せたくねーからだよ!!

 憎いねー! このっ! このっ!」

「いや、まあ、その……」

「でも、まさかゼウスの“力”の影響で子供を産むとは思わなかったよねぇ。

 デメテルの“豊穣の力”が関係してるんだろうけど」

「それな!

 やってもねーのに産みの痛さを味わうたぁー。

 ねーちゃんかわいそ~」

「「コラ! 下ネタ!!」」

「へっへっへっへ!」

「で、確か娘だったよな?

 今年で幾つだったか?」

「十六歳だよ。

 俺たちも立派なおじさんだねぇ~」

「おう!

 アレスもそんくらいだしな!

 オレ様もいっぱいガキ作るぜ~!」

「「ほどほどにな!」」


 こんな感じで、三人は駄弁りながら世界を飛び回っていた。

 そして、ある異変に気付いた。


「なんか寒くね?」

「……確かに」

「そう? よくわからないけど?」


 ハデスの言葉に二人は目を丸くした。


「マジかよ!?」

「そうか!

 ハデスにとって、この程度の寒さは適温の範疇って事か!」

「あーなる!」


 プロメテウスの推測に手をポンと置いて納得するハデス。

 本当に規格外の身体である。


「自分の事だろ?

 ……まあいい。

 考えるべきは、この現象だ。

 有史以来、人のいる地域でこれ程の寒さは観測された事は無い。

 もしかしたら、デメテルの失踪と何か関係あるかもしれん」


 プロメテウスは寒い地域を目指した。

 途中、食事の為に小さな村に立ち寄る事となった。


「にくぅー! オヤジ!!

 肉食わせろ!!」

「そ、それが……その……」


 ポセイドンの注文に、店主は困った様子だった。


「なんでぇ? 肉ねえのかい?」

「え、ええ……。

 実は村の家畜が根こそぎ盗まれちまって……」

「はあ!? どういうこったい!?」


 店主の話では、近くの山に巨大な大男が隠れ住んでいるとの噂だった。


「つまり、そのバカでかいおっさんが盗んだと?」

「は、はい。

 おっかないんで、誰も手が出せなくて……」

「へ! そーいう事ならオレ様に任しとけ!

 かるーく捻ってやっからよー!!」


 一行は、その大男を探す事にした。


「あ、いた!」

「うげ! なんだテメエら!?」


 見上げる程の大男。

 軽く10メートルは超えるその体躯には、見覚えがあった。


「あ! オメー!!

 あの時オレとやり合ったヤローじゃねーか!」

「あ! テメエかよ! ポセイドン!!」

「確か、カロンとか言ったか?」


 プロメテウスの問いかけに、大男は気に食わなさそうに頷いた。


「成る程な、食料がいる訳だ。

 その図体だ。

 さぞかし立派な胃袋をお持ちの事だろう」

「し、仕方ねえだろ!?

 腹が減ってだなぁ……」

「ならいい方法がある。

 クロノスに頼めば元の大きさに進化し直してくれるだろうよ」

「やなこった!!

 御大将から頂いたこの巨体!!

 今更お返しするなんざ罰が当たらあ!!

 この身体はオレの誇りなんだぞ!!」

「……どうしたもんかね」


 呆れ顔のプロメテウスに、ぶっ飛ばす気満々のポセイドン。

 それを見かねたのか、ハデスがカロンに向き直った。


「ねえ、君」

「な、なんだよ?」

「よかったら働いてみない?

 俺が斡旋するよ?」

「あ? 働くだア!?

 冗談じゃねえ!!

 誰がゼウスの犬なんかに!!」

「じゃあ君、このまま一生盗人として生きていく気?

 それだと皆困ると思うんだけど」

「…………」


 カロンは渋い顔をして黙りこくった。

 その顔には若干の恐怖の色があった。

 かつて、大戦時に“ハデス”の恐れ受けた事を思い出しているのかも知れない。


「ち! 給金はいいんだろうな!?

 この身体だ! 並みじゃ困るぜ!?」

「善処するよ」


 こうしてカロンから家畜の群れ半分を取り戻した一行は、村に戻った。


「え? 後の半分は?」

「こいつが食っちまった様だな」

「えへへ!」

「ば! バッキャロー!!!」


 こうしてカロンは弁償分を村でタダ働きする事になった。


「さて、そろそろ調査に戻るか!」

「あれ? ポーは?」

「まさか……」


 二人は辺りを見渡し、声を揃えて息を整えた。


「「また迷子かよ!!!」」

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