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ハデス ~最後のティタノマキア~  作者: 底なしコップ
第四部 ティタノマキア
34/64

第34話 「真の人」

 オリンポス設立の後、プロメテウスは一人ゼウスに呼び出されていた。

 今後の事について、相談があるとの事だった。

 ドアを守護する様に立つアテナに、プロメテウスは息を呑む。


「ゼウスに呼び出されて来たんだが……」

「…………」


 アテナは無言のまま扉を開き、部屋の奥へと案内した。

 寝室の手前まで来ると、「ここで止まれ」と言うかの様に立ちはだかった。


「いいんだ、アテナ。

 彼はわかっている(・・・・・・)


 (とばり)に覆われた寝台から、ゼウスの声が聞こえる。

 しかしその声は、まるで病人の様に苦しそうだった。


「いや、ここでいい」


 そう言ってプロメテウスは、その場に留まった。

 それは友への気遣いだった。

 そんな彼の配慮に気付いてか、それともゼウスが指示したのか。

 アテナは立ちっぱなしの彼の為に椅子を運んで来てくれた。


「すまんな」

「…………」


 アテナはやはり無言だったが、僅かに微笑んだ様な気がした。


「君に来てもらったのは他でもない。

 僕の今後についてだ」

「……ああ」


 プロメテウスは、心配そうに返事をした。

 これから、ゼウスが何を言うのかを予測しながら。


「もう気付いているかも知れないけど、僕は今動けない……。

 少し、力を使い過ぎたみたいだ……」


 「やはり」とプロメテウスは押し黙る。

 予想通りの言葉に、胸を痛めた。


「でも、心配しないで欲しい。

 生まれ変わった彼らが、僕を助けてくれる」

「あの天使たちの事か?」

「そう。

 彼らを転生させたのは僕の我が侭でもあるけれど、それだけじゃない。

 彼らは“力”の増幅装置。

 僕の力を常時蓄積して、“力”を何倍にも増幅させる役割を担ってくれている」

「それであれ程の“力”を行使できた訳か……」

「……うん。

 僕自身の“力”だけじゃ、あんな事はできない……」


 今の説明で、プロメテウスはゼウスの“力”の全容をほぼ理解できた。


「あの時、俺の解釈を聞いていたお前は、“神の知恵”から“雷霆(らいてい)”の最も効率的な運用法を知り得た。

 そしてまずは、身体への負荷を軽減させる為、“叡智(アテナ)”を創った。

 次に、力の行使の為に十三の天使を生み出す為、異形の人々(かれら)を依り代とした。

 と、大体はこんな所か?」

「完璧だよ。

 流石はプロメテウスだ」

「だが、まだ疑問が残る。

 天使たちが増幅器としての役割を担っているとして、その“力”の出どころはどうなっている?

 いくらお前から“力”を供給されてるとはいえ、あんな短時間にあれ程のエネルギーを蓄えるのは不可能だろ?」

「本当に鋭いね……。

 僕の見込んだ通りだよ。

 確かに、彼らに送っているのは僕の“力”だけじゃない。

 実は僕が授かった大魔術“雷霆(らいてい)”は、発動したら最後、一生解除できない」

「一生……だと!?

 じゃあお前……!!」

「……覚悟の上だったんだよ。

 人類の自由を勝ち取る為の最初の犠牲は、僕自身であるべきだ……!」

(……そこまでの覚悟を――!)


 プロメテウスは身をかがめた。

 友の覚悟と苦悩を知って。


「……話を戻そう。

 “雷霆(らいてい)”により常時受信される“神の知恵”を受け皿たる“叡智アテナ”に送り込み、必要な情報だけを僕が受け取る。

 これにより、僕への負担は大幅に軽減される。

 そして、ここからが疑問への答えだが、そもそも“神の知恵”そのものが莫大なエネルギーなんだ。

 だから僕は、彼女(アテナ)と同時に十三もの天使(かれら)を創造した。

 天使(かれら)軽減装置(セーフティ)であり、迂回路バイパスであり、増幅器(ブースター)なんだよ。

 “雷霆(らいてい)”の特性で僕自身の“力”に変換はされているけど、僕単独の力ではない。

 元々あった僕の力なんて、“雷霆(らいてい)”発動の為のトリガーにしかならなかったよ」

「じゃあ、あの時お前が行使した“力”は――」

「全てその根本は、“雷霆(らいてい)”によるものだよ」

(聞けば聞くほど、途方も無い次元の話だ……)

「……それが、お前の授かったものか」


 人の領分を超えた魔術に、プロメテウスは混乱したが、理屈自体は理解できていた。

 そして、その問題点についても。


「……つまり、お前は自由に“力”を使える訳じゃないんだな?」

「……ああ。今はまだ(・・)ね。

 だからこそ、君を呼んだ。

 ティタンに対抗するには、君の知恵が必要だ……!

 それに、何度も言うが、これは(ヒト)が、(ひと)として確立する為の戦いだ!

 だから本来、こんな“力”は使うべきじゃない……!」

「ああ、そうだよな。

 けどな、ゼウス。

 お前の方針については俺も共感するが、こういう話こそ、兄弟にするべきじゃないのか?」

「……そうかもしれない。

 でも、僕がこんな事を話すのは、君が凄い人だからだよ」

「……俺が? すごい?」

「君は僕たちの中で、実は一番凄い!

 悔しいけど、僕も兄さん達も、“御子”だからこそ、“王”の支配を受けないだけだ!

 それはある意味、ティタン族と何ら変わらない……!

 生まれたままの獣でしかない……!

 でも君は、ティタンであるにも拘わらず、自らの意志で“王”を否定した!

 君だけだよ! そんな事ができたのは!

 君こそが! 僕らの目指すべき真の人だ――!!」

(……真の人――)

「……ちょっとばかし大袈裟なんじゃないのか?」


 そんな風にプロメテウスは茶化した。

 ゼウスが「そんなことはない」と言う前に先回りする。


「だってそうだろ?

 お前は全ての人々がそうなれると信じるからこそ、戦うんじゃねえのかよ?」


 プロメテウスは、照れくさそう言った。

 ゼウスは感極まった様に嗚咽した。


「ありがとう……!

 君に話して、良かった……!」


 その声は、彼の良く知るゼウスのものの気がした。

 泣き虫だが、誰よりも優しかったゼウス。

 その声に、プロメテウスはつい魔が差した。


「だが、ゼウス。

 秘密を打ち明けたいなら、俺よりもハデスの方が頼れるぞ?」


 そう言うと、(とばり)の中から手がのびて、プロメテウスの袖をつまんだ。


「……兄さんには……言わないで……!」


 ゼウスは少し拗ねた様に言った。


「……あいよ!」


 プロメテウスは、少しおかしそうに返事した。

 アテナに見送られ、ゼウス邸を後にするプロメテウス。


(なんとなくだが、アテナの俺に対する態度が軟化した様な気がする。

 もしかしたら、ゼウスの心情が影響してるのかも知れんな)


 プロメテウスは、天使たちを見た。

 ゼウスによると、今の姿こそが彼ら本来の姿らしい。


(まったくゼウスのヤツ。

 全部テメエでしょい込みやがって……!

 まあ、そんな中で俺に相談するとは、中々わかってるじゃねえか!

 任せとけ! ダチ公!

 お前に出番が回らん様に、俺が何とかしてやるぜ!!)


 ゼウスに信頼されたのが余程嬉しかったのか、彼は久方ぶりにやる気を出した。

 そしてゼウスに付いた選択は正しかったのだと、改めて確信していた。


「もうムリ~!」

「頑張れ! デメテル!!

 お前なら出来る!!」

「先生のオニィー!!」


 独立宣言から数日。

 プロメテウスは来るべき戦いに備えていた。

 現在デメテルの力で、山の麓より更に先の平地に密林地帯を造っていた。

 その規模たるや、地図を描き直すレベルである。


「こんな事して何になるのよ~!!」

「散々説明したろ!?

 敵が攻めてき――」

「あーもう! 聞きたくなーい!!

 陽動とか伏兵とか訳わかんなーい!!」

「……ほう? わかってるじゃないか。いい子だ……!」


 むくれるデメテルに、プロメテウスは露骨に顔を近づけてきた。

 悔しくて涙ぐむが、顔を真っ赤にするデメテル。


「もう! 先生のあほー!!」

「いいぞ! その調子! その調子!」


 デメテルは物凄い勢いで平地をジャングルに変えていった。


「おおー! なんじゃーこりゃー!?」


 別の日。

 ヘパイストスの工房で、ポセイドンが金槌を叩く音より大きな声で驚いていた。


「大砲だ! これで魔法無しでも軍隊に大打撃を与えられる!」

「しゅっげええええ!!!」


 例によってプロメテウスが思いつき、ヘパイストスが設計し建造した。


「なー! 打っていい!? 打っていい!?」

「そうだな……。

 実験も兼ねて訓練といくか!」


 ニヤリ、とプロメテウスはほくそ笑んだ。


「なんでだよぉおおお!!?」

「そら! 次いくぞ!!」


 大砲が飛び交う山中。

 絶叫しながらポセイドンは頂上を目指した。


「オレ様なら一人で軍隊と戦ってやらァ!!

 そう言ったのはお前だろ?

 この程度切り抜けられん様じゃ話にならん!」

「ちょ! おまっ! あり得ねえっ!!」

「まだ喋る余裕があるようだ。

 皆! マキでヨロ!!」

「「「「「おけ!」」」」」


 アフロディテのツレたちを巧みに扱うプロメテウス。

 若い彼らの装填率は予想以上に速かったという。


「ぎゃあああああああああ!!!」

「あ、当たった。

 まあ、大丈夫だろ? ポセイドンだし!」

「あはは……」


 唯一の良心、ヘパイストスだけが心配して助けに行ったが、やはりポセイドンはピンピンしていた。

 プロメテウスは様々な物を発明していった。

 山を要塞に造り変え、堅固で幾つもの仕掛けを施した城壁。

 何年もの籠城を可能とする為のライフラインの見直しから、恒久的な自給自足の為の新技術。

 特に武器の発展は目覚ましいものがあった。

 鉄砲や大砲など、弓矢に代わる強力な飛び道具は勿論。

 それを応用し、大砲を搭載した戦車や、偵察用に飛行機まで造られた。


「とにかく俺たちは圧倒的に数が足りない!

 人類のほぼ全てを相手取るには、ひとりひとりに圧倒的技量が求められる事になる!

 だが! 安心しろ!!

 人類の殆どが敵だとしても、一度に相手をする事はまず無い!

 最初はせいぜい百から二百!

 徐々に敵は数を投入してくるだろうが、その頃には俺たちもより多くの味方が増えている寸法だ!

 その第一歩として、まずは技術提供だ!

 都を離れた各地の領主たちに! 俺たちの技術を以って同盟を結ぶ!

 俺たちの発明が欲しけりゃ味方になれってな!」


 壇上で声高に演説するプロメテウスに歓声が上がる。

 その数、僅か五十人程度。

 しかし皆、彼の言葉に意気揚々と高揚していた。

 ここでプロメテウスはゼウスに代わった。

 仕上げはお前の仕事だと。

 ゼウスは完全武装したいで立ちで、堂々と宣言した。


「まずは海の一族(ポントス)に渡りをつける!

 我が“力”で発見した、“王”を知らぬ一族だ!

 彼らの協力が得られたなら、我らの夢は大きく前進するだろう!

 さあ! オリンポスの市民たちよ!!

 人類の自由を! その手に掴むのだ!!」


 大歓声と共に、ゼウスは天空へと飛び立った。

 叡智(アテナ)天使(ちから)、そして仲間(とも)たちを引き連れて――。

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