表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハデス ~最後のティタノマキア~  作者: 底なしコップ
第四部 ティタノマキア
31/64

第31話 「三種の神器」

 ゼウス達が消えた後、取り残されたプロメテウス達は一度町に戻った。

 現状何が起きているのか判然としなかったが、考えをまとめなければならなかった。

 ひとまず、いつ三人が戻ってきてもいいように、ゼウスの家で待機する事となった。


「……どこから整理すればいい?」

「色々と考えるべき事はあるが、まずは今後の事についてだろう……」


 ケイロンは気が重そうに答えた。

 何事にも動じない彼としては、非常に珍しい態度だった。


「今後……考えたくも無いが、想像に難くない。

 “ハデス”がどの時点で異形の人々(あいつら)を取り戻したにせよ。

 ティタンの連中にとって、この上無い恐怖の対象になっただろう。

 となれば、クロノスが黙っちゃいない。

 近い内に、彼は“王”として立ち上がるだろう。

 “ティタン”を守る為に」

「そうなれば、戦は避けられないか……」

「だが今、ここに来て俺たちは一つの疑問に行き会った」

「“原初の巨人”、か」

「何故、今になってそんな大それた存在が、俺たちの前に現れた?

 “ティタン”と敵対するな、とでも忠告する為か?」

「それは考えにくいな。

 仮にそうであるなら、わざわざ“御子”だけを招きはしないだろう」

「だな。

 まあ、それは追々わかるだろうよ。

 ……あいつらが戻ってきたらな」

「帰って来たよ!!」


 小さなヘスティアの大声で、プロメテウス達は外に飛び出た。

 そこには、何かを背負うハデスと、変な棒を持ったポセイドンがやってきた。


「ゼウス!? どうした!?」


 ハデスが背負っていたのはゼウスだった。

 全身が光に包まれ、苦しそうである。


「大丈夫……じゃあないかな。

 とにかく安静にできる所に」

「わかった!」


 一同はゼウスをベッドに運んだ。

 すぐにデメテルの治癒能力を試したが、効果は殆ど見られなかった。

 僅かに体力が回復する程度である。

 時折「うっ!」と痙攣を起こしている様だった。

 ヘラが絶えず、汗を拭きとっている。


「……何があった?

 なるべく詳しく頼む」


 プロメテウスの問いに、ハデスは神妙な面持ちで語りだした。


「“原初の巨人”に会ってきた。

 彼らは本物だったよ」


 一同はどよめいたが、固唾を飲んで聞きに徹した。


「彼らは俺たち三人に、贈り物を提示してきた。

 三種の神器。

 これで願いを叶えよ、とね。

 まあ、俺は断ったけど」

「……何の為に?」


 堪らずプロメテウスが質問した。

 ハデスは少し考えて答えた。


「神器の力で、より良い世界を築けと言っていたよ。

 その真意までは教えてくれなかったけどね」

「……そうか。

 …………。

 ちなみに、どんな贈り物だったんだ?」

「これよ!!」


 待ってましたと言わんばかりに、ポセイドンは棒を突き付けてきた。

 見たことも無い金属でできており、先端が三又にわかれている。


「無敵の矛だとよ!!

 どーでェー!? カッチョイイだろォー!?」

「さて、バカはいいとして――」

「いや、今回ばかりは無視しない方がいいだろう」


 いつもの様にスル―するプロメテウスを、ケイロンが諫めた。


「……すまん、教えてくれ」

「ヘッヘッヘッ!

 ようやくオレ様のターンがキタぜぃ!!

 ちょっと表出な!」


 ポセイドンに促されて、一同は家の外に出た。


「っしゃ! いくぜよ!!」


 するとポセイドンは見る見る内に巨大化した。


「……で? それから?」

「こんで終わり!!」


 ズコーと、全員コケはしなかったが、拍子抜けした。

 ただ、プロメテウスだけが神妙な面持ちで顎に手を添えていた。


「ポセイドン。

 お前、巨大化する時服とかはどうしてる?」

「おっほー! さっすがタイショー!

 そこに気付くたァー、てーしたもんよ!

 実はオレ、今全裸なんだ!」


 「ヴェ!!?」と女性陣はドン引きした。


「成る程。

 お前、幻覚魔法が使えるのか?」

「スゲーな! そのとーり!!

 巨大化すんときゃあ、はなっから服脱いでんだわ!

 勿体ねーからな!」

「……驚いた」

「確かに! ポーが魔法使いだっただなんて!」

「違う、デメテル。

 こいつが魔法使いなのはわかってたんだ。

 巨大化できる時点でな」

「はうぅ……」


 ……これについては無視できない!

 ヘカテさーん!!


『何を今更。

 彼は、極めて優れた魔術師です』


 マジで!? あの風体で!?

 おバカなのに!?


『おバカですが』


 ポセイドンは何かが色々と間違ってると思う……。

 ……記憶に戻ろう。

 プロメテウスの説明である。


「俺が驚いたのは、その矛の方だ。

 ポセイドン。

 それ(・・)は幻覚じゃないんだよな?」

「おうよ! オレ様の意志で自由自在!

 デカさを変えられるぜェー!!」

「それは凄い。

 どういう原理かは知らんが、

 物理法則を無視して大きさを変えられるという事か。

 これは確かに、神々からの贈り物のようだ」


 ポセイドンは得意げに神器を振り回し、皆から「ヤメロ!」と怒られ小さくなった。


「さて、続きは家の中で聞こうか。

 ポセイドン、服着とけよ?」

「おー!」

「ちょっとポー! こっち来ないでよ!!」

「わーひーっでー!」


 ポセイドンが服を着てくると、話が再開された。


「で? ハデス。

 お前は何をつっぱねたんだ?」

「隠れ兜。

 姿を消せるんだって」

「それだけ?」

「うん、それだけ」

「なっ!? なっ!? ショボイだろー!?

 ギャーッハッハッハッハッ!!!」

「ポー笑い過ぎ!!」

「いや、俺は正直ゾッとしたぞ?」

「へ?」


 固まるポセイドンに、プロメテウスは真面目な顔を向けた。


「ポセイドン。

 お前、兄貴と戦って勝てるか?」

「ハ!? そりゃー当然!!」

「勝てるのか?」

「勝てるわきゃねーだろォー!!」


 「フンだ!」とポセイドンはそっぽ向いた。


「ハデスは強い。

 おそらく世界一強い。

 それは“王”が、そうあるべきと願った事が起因しているらしいがな。

 その世界一強い奴が更に見えなくなったなら、最早手の施しようが無い。

 誰も敵わんだろうさ」


 「あのクロノスさえもな」と、プロメテウスはハデスを見た。


(だから断ったのか?

 これ以上、恐怖の対象にならない様に?)

「それにハデスの場合、姿が見えない事で得られるメリットは他にもある。

 見えないのなら、周囲に“畏れ”の影響を与えないで済む。

 隠れ兜そのものが無いから検証は出来んが、腐っても神器だ。

 多分、“御子”としての圧力や言霊さえも打ち消す力を秘めていたかも知れん」

「ふうん。

 成る程ねぇ~」


 プロメテウスの話を、ハデスは何の気無しに聞いていた。


「参考までに聞きたいんだが、何故断ったんだ?」

「何かズルしてるみたいじゃん?

 ただでさえ、生まれた時から反則みたいな俺が、

 これ以上反則技を持つべきじゃないと思ったんだよ」

(……そういう自覚はあるんだな)

「成る程な。

 じゃあ――――」


 プロメテウスはゼウスを見た。

 未だ苦しそうに唸っている。

 回復の兆しは見えない。


「ゼウスは、何を貰ったんだ?」

「“雷霆(らいてい)”、あるいは“神の知恵”とも言っていたね」

「……らいてい?」

「ゼウスは“原初の巨人”に訴えていたよ。

 皆を守れる力が欲しいと。

 そして“巨人”たちは彼に与えた。

 どんなモノも生み出せる創造の力。

 “神の知恵”と自らを繋げる究極の魔術」


 「とかなんとか」と、ハデスは何でもない事の様に話した。


「……“神の知恵”?

 創造の力……。

 ……突飛過ぎてよくわからんが。

 ともかくゼウスが授かったのは物ではなく魔術なんだな?」

「ぽいね」

(……ハデスの記憶能力は折り紙付きだ。

 おそらく“原初の巨人”とやらの言葉を一言一句漏らさず覚えている筈だ。

 ならばハデスの説明を疑うという選択肢は無い。

 だとするなら、その“神の知恵”とやらは一体どんな代物だ?

 “神”の“知恵”。

 そもそも“神”って何だ?

 俺たちティタン族に伝わる伝承。

 天地を創造したと云われる“原初の巨人”。

 おそらくこの場合の“神”とは“原初の巨人”を指しているのだろう)

「ハデス。

 “原初の巨人”ってのは、どんな奴だった?」

「ええっとねぇ……」

「デカかった!!」


 ポセイドンが答えた。


「まあ、巨人と言うぐらいだしな。

 具体的にはどのくらいだった?」

「だいたい30メートルぐらい。

 座っていたし、多少の個体差はあると思うけど」

(……デカイな。

 クロノスが8メートルぐらいだから、三倍以上か……。

 流石は神と呼ばれるだけはある。桁違いだ)

「個体差……複数いるのか?」

「全部で六体。

 それぞれ見たことも無い武具を身に着けていたよ」

「……そうか。

 性別はどうだ?」

「う~ん、それはよく判らなかったなぁ」

(ハデスがわからない、だと?)

「そーそ!

 男なのか女なのかよくわかんねー声だったよなー!」

(男か女かわからない?)

「……ひょっとしたら性別は無いのかも知れんな。

 そいつらが、本当に世界を創った神様というのなら、わからん話でもない。

 まあ、その辺はそこまで掘り下げんでもいいだろう。

 俺が知りたいのは、“神の知恵”についてだ。

 ハデス。

 連中はそれについて、何か言ってなかったか?」

「う~ん特には。

 ただ、ヒトの身には限界があるとか」

「……そうか!

 “神”とは上位の存在……!

 その“知恵”とやらも、俺たち人間にとってはあまりあるモノなんだ!

 解ってきたぞ!

 つまりゼウスは今、その“雷霆”とかいう魔術を発動している最中で、

 その負荷によって苦しんでいるんだ!

 その“神の知恵”とやらの情報量があまりにも膨大過ぎて、

 人間の脳みそには収まりきらんとみた!」


 プロメテウスは自らを仮説を述べ、ハデスとケイロンに同意を求めた。


「成る程ね」

「私も、その理屈は正しいと思う」

「つまり、術の発動を止めるか制御ができれば、ゼウスの症状は改善できる筈なんだが……」


 プロメテウスはハデスを見た。

 「お前ならできそうだか?」と。


「俺の場合は自分自身の力だからね。

 ゼウスの様に、外からの力をコントロールするとなると、かなり難しいと思うよ?」

「難しい? 魔術的な意味でか?」

「半分正解。

 魔術にも通ずる事だけど、

 要は頭の中で力をどうやって制御するか。

 それを処理できるかどうかなんだよ」

「頭の中で処理?」

「例えるなら計算だね」

「……上位存在の情報を計算処理ぃ?

 ダメだ!! 攻略法が思いつかん!!」


 プロメテウスが頭を抱えた。

 一番のブレーンがお手上げでは、皆成す術も無かった。

 だがひとりだけ、そうではなかった。


「……そ……うか……!

 そう……いう……事……だったの……か……!」


 「ゼウス!?」と一同は駆け寄った。


「意識が戻ったんだな!?」


 駆け寄るプロメテウスに、ゼウスは息も絶え絶えに言った。


「……僕を……メティスの……所へ……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ