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ハデス ~最後のティタノマキア~  作者: 底なしコップ
第一部 新たなるティタノマキア
3/64

第3話 「メガネ攻撃は反則でしょ?」

「冗談? いやいや、マジなんだって!」

「あーハイハイ。

 こないだは息子を拾ったんだっけ? クジラの」

「聞けって!」


 海王ポセイドン。

 無敵の王ゼウスの兄にして、最強の王ハデスの弟である最高の王。

 何が最高かというと、三人の中で一番人気があるらしい。

 人気の秘密は色々あるが、とにかく器のデカさとノリの良さに定評がある。

 有名なエピソードが、世界一凶悪な犯罪者とマブダチになったり、最も醜い化物をペットとして可愛がっている事だ。

 彼はどんな人物であろうとも差別せず、家族の様に接するのだそうだ。


「ゼウスの娘アルテミス!

 正真正銘! オレたちの姪だ!」

「マジで?」

「マジで!」


 アルテミス? 聞いたことないな。

 オリンポス最高位の王ゼウスに子が生まれたとなれば、即座に知れ渡るだろうに。

 ……ワケありかな?


「で、何で俺は、その姪っ子ちゃんに殺されなきゃならないの?

 てか! ドア爆破した意味は!?

 弁償してよ! マジで!!」

「あ? だってこのドア押しても開かねぇんだもんよ」

「引き戸なんだよ!

 押してダメなら引いてみろ!」

「あん?

 よくわからねぇが、細けーこたぁいいじゃねーか!

 ガーハハハハハハ!!」

「……もうイヤだこの弟!

 いっつもそうやって誤魔化す!

 バカなフリしてるの、わかってるんだからな!」

「まぁ、バカ話はこのくらいにして本題に入ろうぜ?

 事情は――話せるな?」

「うん」

「急に真顔になるな!

 そして子供を使うなんて卑怯だぞ!

 ちゃんと後で請求するからな! 修理代!」


 ハデスが喚くのをガン無視して、少女アルテミスは語りだした。


「わたしはアルテミス。

 ゼウスとレトのむすめ。

 じつは――」

「あー言わなくていいよー!

 もう大体わかった」

「でも!」

「不肖の愚弟ゼウスが妾と子供つくって正妻ヘラさんはカンカン。

 しかもレトはティタン族で、あのコイオス将軍の娘。

 大方居場所が無くなってウチに来たってことでしょ?

 違う? いった!!」


 あ、また頭に矢が刺さった。

 アルテミスは目に涙を溜めて第二撃に備えてる。

 伯父さん、大人げないなぁ。

 一の情報で十を把握する察しの良さは裁判官としては満点だけど。


「……イタタタ!

 ゴメンゴメン。

 おいちゃんが悪かったよ。

 でも何でおいちゃんを殺そうとするの?」

「さいきょうのハデスをたおせば、みんなみとめてくれる!」

「なーるほど、流石はゼウスの娘」

「あたしとたたかえ! めいおうハデス!」

「うん、いいよ」

「ちょ! 裁判長!?」


 何を考えてるんだ!? この人は!

 最強の王がなに子供のたわ言真に受けてんだ!?

 ……いや、真に受けてるのは私か?

 確認しよう。


「冗談ですよね? 裁判長」

「本気だよ?

 子供だからって手を抜いたとあっちゃあ冥王失格ですよ。

 ポー、立ち会いヨロ」

「おう!」


 この人は!

 せっかく小声で言ったのに!


「日取りと決闘場所はどうする?」

「いますぐ! ここで!」

「うん、わかった。

 話が早くていいや」


 いいのかよ!?

 ……車内が壊れるんじゃないか?


「オリンポスおうゼウスがむすめ!

 アルテミス!」

「そして!

 そのおとうと! アポロン!」

「ちょっと待ってー!

 弟!? どっから湧いて出たの!?」


 ハデスがそうツッコむのも当然だ。

 私もそう思った。

 アルテミスの後ろから不意に美少年が現れた。


「はうぅ……!」


 アポロンを名乗る少年は、ハデスのツッコミに涙目になった。

 凛々しい姉とは違い、気弱そうな弟だ。


「きさま! よくもおとーとをなかせたな!」

「ゆるさない!」

「だからちょっと待っ痛ぇえええええ!!!」


 ハデスは盛大に爆死した。

 いや、死んではいないのだが。

 アルテミスの矢の乱れ打ちを喰らい、矢が触れた瞬間爆発したのだ。

 どうなってんだ?


「みたか! あたしたち、ふたごのちからを!」

「ぼくはさわったものをバクダンにかえることができるんだ!」

「アポロンがヤをバクダンにして!」

「アルテミスがそれをはなつ!」

「「どんなやつでもドッカーンだ!!」」


 実に息のあったコンビネーションと解説だ。

 きっと何度も練習して覚えたんだろう。

 成る程、ドアを爆破したのはアポロンの能力だったのか。

 え? ハデスはどうなったかって?

 多分、問題無いだろう。

 頑丈だし。


「参りました~!」

「「やったー!!」」


 最強の冥王に双子が勝った。

 ……良かった。

 どうやら最初から本気で戦うつもりは無かった様だ。


「君たち強いねぇ~!

 流石はゼウスの子供だよ~!」

「「えっへん!」」

「これで安心して、地球(ガイア)に帰れるねぇ~」

「「…………」」


 ご満悦だった双子の表情が険しくなった。

 その理由は察しがつくが。


「……あたしたちは、おまえにかった!」

「うん。そうだね。

 君たちは勝者だ」

「だから……ここにすまわせろ!」


 答えたのはアルテミスだった。

 確かに、いくらハデスに勝ったとはいえ所詮は茶番。

 それで地球(ガイア)に帰ったとしても、彼らを取り巻く状況が打破されるとは思えない。

 だから双子は選んだのだ。

 冥府を安住の地に。


「悪いけど、ムリだねぇ」

「「な!」」

「なんでかって?

 取り敢えず理由は二つある。

 まず第一に、ここは罪人の流刑地だからね。

 何の罪も犯していない者を移住させる事はできない」

「「ちょ――!」」

「――第二に。

 問題は君達の血統にある。

 君らはゼウスの子であると同時に、レトの子でもある。

 レトはティタン族の権力者、コイオスの娘。

 つまり、オリンポス王の子であり、ティタン軍将のお孫さんだ」

「「そ!」」

「そして、ティタンとオリンポスは、すごーく仲が悪い。

 ちょっとでも何かあれば、ケンカしちゃう程にね」

「「…………でも!」」

「だから、君たちを歓迎するのは無理なんだよ。

 ゴメンねぇ」

「「…………」」


 それは正論による、有無も言わさぬ拒絶だった。

 確かにハデスが言った事は正しい。

 ……正しいが。


「……でも!

 なら、あたしたちはどうすればいい!?

 どこにいけばゆるされる!?」

「…………」


 ハデスは答えない。

 彼らの求める答えを持ち合わせていないのだろう。


「あたしたちはおまえにかった!

 だから! いうことをきけ!!

 あたしたちに!

 いばしょをくれぇええ!!」


 涙ながらに訴えるアルテミスと、涙を堪えるアポロン。

 私はこの二人が不憫でならなくなった。

 こんな年端もいかぬ子供が、なぜ不条理に泣かなければならない?


「……裁判長!

 私からもお願いします!

 どうか、この子たちを引き取ってあげて下さい!」

「だから、無理なんだよ」

「そりゃあ無いぜ! 兄貴!!」


 ポセイドンも加勢してくれた。

 なんだかんだ言って、ハデスは話せばわかりそうな上司だ。

 今まで見てきた限りでは、何とか押し切れるはずだ。


「すみません。

 お引き取り下さい――」

「「「「…………!」」」」


 敬語で押し切られた。

 これまでの砕けた感じとは一変、畏まった所作でハデスは続けた。


「私にあなた方を救う事はできません。

 明日には出立の準備を致しますのでお引き取り下さい」


 そう言って、ハデスは双子の前にひざまずいた。


「せめて、あなた方が私を打ち負かした証明書をお渡ししましょう」


 ……なんて人だ。

 そんなもの、何の気休めにもならない。

 むしろ、それを見る度に、この子らは苦い今を思い出す。


「これで、どうか――」


 パチン。

 アルテミスがハデスの頬を叩いた。

 いい気味だと思った。

 子供を、正論で突き放した伯父の報いとしては生ぬるいが。


「「ひゃ……!」」


 なんだ?

 二人が怯えた様な声を上げている。

 床に眼鏡が落ちている?

 ハデスの瓶底眼鏡だ。

 アルテミスが叩いた時に、外れたのだろう。

 私はふとハデスの顔を見た。

 ……見てしまった。


「…………ッ!!?」


 全身が凍りついた。

 その眼を見た瞬間、心臓が止まったかと思った。

 あまりにも鋭く冷たい瞳。

 怖くてたまらず、逃げ出したいのに、その視線から目を逸らせられない。

 いっそ我が身を差し出し、支配されたい。

 そんな願望が頭をよぎった。

 たった今、この男に対し失望したはずなのに。


「ヒドイなぁ――」

「……は!」


 いったい何がどうなっていたんだ?

 気づけばハデスは眼鏡を拾い上げ、かけ直していた。


「メガネ攻撃は反則でしょ?」


 そう言ってハデスは去っていった。

 呆然とする中、ただひとり平然としていたポセイドンが口を開く。


「仕方ねえ!

 お前らウチに来い!」

「「でも……めいわく……」」

「関係無え!

 お前ら今日からウチの子だ!!」


 ポセイドン最高!

 ゴチャゴチャ理屈で否定するハデスとは大違いの気持ちよさだ!

 こっちが上司だったら良かったのに。

 ……就職先、間違えたかなぁ?

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