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第26話 「おんなじだろうがっ!!?」

(何だ!? この地獄絵図は……!?)


 驚愕のあまり、声も出ないプロメテウス。

 それもその筈。

 彼の記憶を見ている私にも、状況が判別できないでいる。

 だってモザイクなんだもん!!

 ヘカテさん! ヘカテさーん!

 どゆことですか!? これ!!


『仕様です』


 仕様て……。


『どうも何も。

 この子にとって、目を背けたい現実なのでしょう』


 いや、それはそうかもしれませんが……。


『察しておあげなさい。

 あなたとて、無修正でご覧になりたくは無いでしょう?』


 ええっと……。


『見たいのですか?』


 ち、違いますぅー!!


『では彼の思考に尋ねなさいな』


 ……まあ、大体察しは付くのだが。


(アフロディテの紹介でキュプロス島を訪れた俺たちだが、

 まさかイキナリ乱交現場を目撃するとは思わなかった……)


 はい、下ネタでした!

 まったくもう!


『まあまあ、そう心を乱さずに』


 そりゃあ、ヘカテさんは変態淑女だから気にならないのかもしれませんが……。

 まさか、これも男女の秘め事とか抜かすんじゃないですよね?


『抜かしません!

 まったく! わたくしを何だと思っているのですか!

 前にも言ったでしょう? 子供には興味無いと!』


 ……変態淑女は否定しないんだ、素敵!


『では、わたくしの器の大きさを堪能した所で、彼の記憶に戻りますよ?』


 こんな感じで私とヘカテは結構打ち解けていたりする。

 さて、予言者プロメテウスの記憶に集中しよう。

 記憶によると、アフロディテの知り合いたちを仲間にする前に実際に会う事になったのである。

 ケイロンが反対せずとも渋い顔をしていた為だ。

 話し合いの末、プロメテウスとケイロン、ゼウス親子の五人でやって来た。


「見ちゃいけません!」


 ヘラが息子ヘパイストスを目隠ししていた。

 裸の男女たちが無防備に絡み合っているからだ。


(ヘパももう十二歳だったか?

 まだ、早いな……)

「おい! アーティ!!

 この島の風紀はどうなっているんだ!?」

「えー? なにオコ?」

「いや、怒ってはいない。

 この状況に驚いてるだけだ。

 ……てか恥じらえよ! お前ら!!」


 プロメテウスの叫びが虚しく響く。

 ここの住民たちは、ひたすらに開放的であるらしい。


「ちゃばけ、四股とか余裕っしょ?」

「…………。

 まぁ、何だ。

 風土や文化は土地それぞれだ。

 頭ごなしに否定するつもりは無い。

 ……無いが。

 ケイロン何やってんだ!? テメエ!!」


 ケイロンはお楽しみ中のカップルとよろしくやっていた。


「私もここの風俗に興味があったものでね。

 どうだね? 君も」

(……こいつ、上級者だったのか)

「え! ん! りょ! し! と! く!」


 プロメテウスは頭を抱え、お楽しみ時間が過ぎるのをゼウス親子と離れた場所で待った。

 地元民はともかく場所的には最高のロケーションなので、しばしの海水浴と相成った。


「ビックリしたねぇ~」

「ヘパの教育に良くありません!」

「でもあのケイロンが本物の獣みたいになるなんてね……」

「ケダモノです! あれは!!」


 砂遊びに興ずる息子を眺めてご立腹のヘラをゼウスが「まあまあ」と宥める。

 ちなみにその息子は恐ろしくクオリティの高い砂の城を製作中である。


「オトリュス城か?

 一度行っただけでここまで再現できるのか。

 ……流石だな!」

「あ、おじさん」

(……こいつからは色々な呼び名で呼ばれたが、最終的にはおじさんか。

 最初に戻ったな。

 それにしても、年月が経つのは早い。

 今回の旅、まさかヘパが同行を願い出るとはな。

 大きくなったもんだ)


 城の砂に水路を加える姿を眺めながら、しみじみと年を取った事を感じ入っていた。


(……クリュは無事出産できたのだろうか?

 子供はいつ生まれたのだろう?

 元気に育っているだろうか?

 俺を恨んでいるだろう……。

 それならいい。

 恨んでくれるなら、いくらでも恨んで欲しい……。

 それが俺にできる、せめてもの……償いだ……)

「ふう、待たせたね」

(人が浸ってる時に、こいつは……!)

「……遅い!」


 お楽しみ会が終わり、ケイロンとアフロディテが戻って来た。

 どうやら彼らに話を付けてくれたらしい。

 その夜、彼らの祭り……はあの二人だけ参加する事になり、プロメテウスは祭りに参加しない者たちとの対話に臨んだ。


(ここの連中は言葉と貞操観念はともかく、悪いやつらではなさそうだ。

 意外にもあのケイロンが気に入ってる様だしな。

 ただ、心配なのはティタンのお歴々がここを訪れたら粛清されそうで怖い点か。

 奴ら、潔癖症だからな。

 ……それも材料に引き入れるか?)


 プロメテウスがあれこれ知恵を絞るまでも無く、「べ?」「べ!」の一言返事で仲間に引き入れる事に成功した。


(簡単過ぎだろ……)

「何はともあれ、順調だ。

 な? ケイロン」

「……確かに」

「何かご不満か? お前のお墨付きだろ」

「彼らに不満などない。

 ただ、次が今回みたく上首尾にいくとは限らない」

「……そりゃそうだ。

 今後も慎重に事を運ぶとしようじゃないか」

「ああ……」


 キュプロス島の出身者たちは意外にも働き者ばかりだった。

 彼らはとてもよく働き、よく食べ、よく眠り、よく遊び、よく……楽しむ。

 若干お楽しみの割合が大き過ぎるが……。

 ともかく、当初の心配を他所に町に溶け込んでいった。


「きゃわたん!」

(……マジでか!?)


 ある日常、プロメテウスは結構ビックリした。

 ヘパイストスが素顔を晒してアフロディテたちと遊んでいたのである。

 驚いた彼はアフロディテを夕食に誘った。


「ゴチでーす!」

「ああ、遠慮なく食ってくれ」

(……こうして見ると結構綺麗な顔立ちだな。

 ちょっとガキ過ぎて俺の趣味じゃないが……イカンイカン!)

「ヘパイストスとはよく遊ぶのか?」

「割となー」

「そうか。

 …………つかぬ事を聞くが、気にならないか?」

「あ?」

「その……あいつの顔……」

「あーね。別に?」

「そうか……」

「つーかー、エグくね?」

「格好いい?」

「ゲログロでピュアとかマジエグいっしょ?」

(あの顔で天真爛漫に振舞う姿に惹かれたのか……)

「フ! 何だチクショウ!

 イイ女じゃねぇか!!」

「アハハ!

 ……プゥーサン、なにげにキュンしそー」

「おい待てこら! 俺は既婚者だ!」


 その直後突然やってきたデメテルとヘスティアの活躍によって、アフロディテは強制送還されたそうな。


(……この前は酷い目にあった。

 ともかく、アフロディテたちがああも異形の人々(あいつら)とナチュラルに接していたとは予想外だ。

 ゼウスなんて泣いて喜んでいたしな。

 開放的な風土がそうさせるのか?

 まぁ、何にしてもいい事だ。

 彼らが加わった事で、ここでの暮らしぶりもかなり豊かになった。

 ……変な店も出来始めたが。

 ここは一つ、俺も大らかな心を持とうじゃないか!)


 男共のハートを掴み、町は加速度的に発展していった。

 町中に街灯が設置され、夜でも活動できる様になった。

 またそれだけに留まらず、夜特有の商いも始まった。

 そうなると宿泊施設が建てられ、より人々の市民権を得る結果となっていった。

 そんな中、ひとりの女がやって来た。

 彼女の名はテミス。

 ティタン族のやんごとない生まれだったが、自分の容姿に自信が持てず処分(・・)されそうになった一人だという。


「わたしと同じ境遇のティタン族が大勢います!

 どうか受け入れて貰えないでしょうか!?」

「いいですとも!

 僕たちはあなた方を歓迎しますよ!!」

「ありがとう……! ございます……!」


 テミスは泣いて喜び、ゼウスはその手を優しく握った。

 だが、プロメテウスとケイロンはもっと慎重になった方がいいとゼウスに箴言した。


「ちょっと返事が早過ぎたんじゃないのか?」

「困っている人を受け入れないなんて考えられないよ」

「それはそうだが、彼らは元は都にいた人間だ。

 その……キュプロスのヤツらと同じと考えん方がいい」

「同感だ。

 都で暮らしていた者たちは“ティタン”の常識に囚われている。

 ここは段階的に―――」

「それは差別とは言わないのかな?」

「「―――――ッ!?」」


 二人の賢人は顔を見合わせた。


(……確かにその通りだ。

 俺は、ティタン族が俺たちを蔑視してると決めつけ、差別していた……)

「すまん……。

 お前の言う通りだ、ゼウス」

「ううん。

 ごめんね、わかった様な事を言って。

 でも、まずは僕の方から信じてあげたいんだ!」

「……ゼウス!」

(お前は本当に良いヤツだ……!

 そんなお前だから、俺は付いて行きたいと思ったんだ!)

「おい、何か言う事はないのかよ? ケイロン先生」

「……どうやら私が浅はかだったようだ。

 ここはゼウスの優しさに準じよう」

「嬉しいよ!

 二人にそういって貰えると心強い!」


 そうして彼らはテミスたちを受け入れる事となった。

 かなりの大所帯だった為、講堂で挨拶が執り行われる事となった。

 双方の代表としてゼウスとテミスが向かい合った。


「都から逃げ延び、途方に暮れていた我々を受け入れて下さり、感謝の言葉もありません!

 我らは今後、このご恩を忘れません!」


 テミスたちは揃ってゼウスの前に跪いた。


「よして下さい!

 僕らは当たり前の事をしただけです!

 どうか頭を上げて下さい!

 ここには上下関係はないのですから!」


 テミスたちはどよめいた。

 それもその筈、彼らは仮にもティタン族である。

 出奔する以前は当然ティタンの教育を受けている。

 “王”に従い、年長者を敬えと。


「そうでしたか……。

 では、我らは誰に従えばよろしいのでしょうか?」

「えっと……」


 ゼウスがプロメテウスに目で助けを求めてきた。

 「やれやれ」と壇上に向かう彼を、小さな影が追い越した。


「ボクが教えたげる!」


 「ヘパ!」とプロメテウスらが声を上げた。


(嫌な予感しかしない……!)


 ヘラとプロメテウスが心配するが、ゼウスが「大丈夫だよ」と手で制した。


「ゼウス殿、その子供は何処のお子か?」


 ティタン族の一人が言った。


「息子のヘパイストスです。

 ヘパ、皆さんにご挨拶」

「ヘパイストスです!」


 ヘパイストスは元気よく挨拶した。


「……失礼だが、ゼウス殿。

 あなたは子供を挨拶させる時に帽子を取るよう躾をせなんだか?」

(マズイマズイマズイ!)

「これには事情が――!」


 慌ててプロメテウスが止めに入るも、またもゼウスは彼を宥めた。


「失礼しました。

 確かに仰る通りですね。

 ヘパ、帽子を取るよ?」

「う、うん……」

「待て! ゼウス!!」

「いいんだ、プロメテウス。

 彼らも僕らと同じ痛みを知る人たちだ。

 なら隠す事は何もないよ――」


 そしてヘパイストスの素顔が露となった。


「化物!!?」


 一瞬で凍り付いた。

 言われたヘパイストスはおろか、そう言ったティタン族も、その場に居合わせた全員が。

 こうなるであろう事を予想していたプロメテウスでさえも、頭が真っ白になった。


「クソ!」


 慌ててプロメテウスが壇上に駆け上がり、ヘパイストスに帽子を被せた。

 そして恐る恐るゼウスの顔を見た。

 するとゼウスは「大丈夫」とほほ笑んできた。


(ゼウス……)

「皆さん落ち着いて下さい!

 確かに僕の息子は普通に見えないかも知れませんが、それは顔だけです!

 それが証拠にこの子は僕よりとても賢く、何でもできます!

 この講堂だって彼が設計したんですよ?

 どうです!? スゴイでしょう!?

 この子は僕の自慢の息子なんです!!」


 ゼウスは誇らしげに堂々と宣言した。

 皆の前で、自慢の息子を褒めてあげたかったようだ。


「本当か?

 本当にそんな顔の、しかも子供が?」

「それにしてもあの顔は……ねぇ?」


 ティタン族は口々にヘパイストスを罵り始めた。

 ゼウスは信じられないモノを見るような顔で震えている。

 あまりの惨劇に、プロメテウスの怒りは頂点に達した。


「うるせえぞ!! クズ野郎共っ!!

 テメエ等も醜いと言われて追われたんじゃねえのか!?

 おんなじだろうがっ!!?」

「なっ!? あんなの(・・・・)と一緒にするな!!」

「言いやがったな!? その面覚えたぞ!!」


 あまりの怒りにプロメテウスは激高し、罵詈雑言の騒ぎとなった。

 他にもブチ切れたポセイドンが暴れ出し、ティタン族も追い打ちをかける。

 そんな中、ダンッ! と何人もの足踏みが鳴った。


「あのぉー!? いいっすか!?」


 アフロディテと彼女のツレたちだった。

 彼女たちはツカツカとティタン族に詰め寄り、キッと睨みつけた。


「な、何だね!? 君たち!?」

「関係無い奴らは引っ込んでおれ!!」

「はぁっ!? かんけーし!!

 身内がバカにされてぇー!

 マジガンおこなんですけどぉー!?」

「はあ!? 何を言っているのかわからんぞ!」

「何か言いたければちゃんと言葉を覚えてから来い馬鹿め!」

「あーしらぁー! バカだけどぉー!

 アンタらみてぇーにぃー!

 ダセエことしねぇーんで!

 そこんトコ! ヨッ! ロッ! シッ! クッ!」


 彼女の凄まじい眼力に怯み、静まるティタン族たち。


「も! 申し訳ありません……!!」


 ようやくテミスが謝り、他の者もゼウスに頭を下げだした。

 呆気に取られていたプロメテウスは、ゼウスの様子を見た。



(――――――――――――ッ!!?)


 ゼウスの顔は、今まで見たことも無い形相だった。


「ゼウス!!」

「ああ………うん、だいじょうぶ……」

「おい……!!」


 ゼウスは独り、会場を後にした。

 

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