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第25話 「面白ければ人は動く!」

 プロメテウスの知略によってティタンとの交渉に成功したゼウスファミリー。

 逃げる必要が無くなった彼らは、ここを安住の地と定め、自分たちの理想郷を築くことにした。

 目覚めた力によって、不毛だった大地を緑溢れる大自然を再生したり。

 新たな発明や技術を生み出し、今までに無かった建造物や施設を造っていった。


「どうだ? ケイロン。

 これが獣には真似できない、人間様の知恵ってやつだ」

「ふむ。

 君がアイディアを発案し、ゼウスらの能力やヘパイストスの技術で具体化する。

 それも、短期間でここまで構想を実現させてしまうとはな。

 確かに見事という他は無い」


 見渡せば、そこは以前とは全く異なる風景が広がっていた。

 美しい花園や農園が広がり、好奇心をくすぐる建造物が立ち並ぶ。

 更に、水車風車など自然エネルギーを利用する革新的な発明の数々。

 そして今尚更なる発展を遂げている最中である。


「フ。お前だって頑張ってくれてるじゃないか。

 俺の構想をかみ砕き、ポセイドンにも解るように説明できるときた。

 流石は俺に説教垂れるだけあって、人に教えるのが上手い」

「まずは実際に実践する事が肝心だ。

 理屈などは、出来る様になってから覚えればいい。

 なまじ君は、やるまでも無く理解できてしまうから、出来ない者の苦労を知らないのだよ。

 例え知識としてわかってはいてもね」

(まるで俺が努力してないといった言い種だな……)

「……ご高説どうも」


 プロメテウスが拗ねてそっぽを向くが、ケイロンは見逃してはくれなかった。


「ではついでにもう一つ、苦言を呈しておこうか」

「……なんだよ?」

「この地を発展させ人を呼び込み、ティタンにある種の自治権を認めさせるという君の考えは理解できる。

 ティタンに認知された上で我々が平和的にここで暮らすには、最も論理的な選択肢と言えるだろう。

 だが、ヒトは理屈だけでは動かない。

 時にはその理屈や理論に抗いたくなるのが、ヒトという生き物だ」

「それは身を以って痛感させられたばかりだ。

 理屈に沿うべきというのなら、俺はティタンを捨てるべきじゃなかったんだからな。

 だが、そんな事はお前に言われるまでもない。

 その為の仕掛けも、ちゃんと用意してるさ」


 プロメテウスが指差す方向には、この地を一目見ようとやって来た人々がいた。

 今日はゼウスとヘラが、夫婦揃って訪れた客人たちを持て成している。

 どうやら特産品を観光客自ら作っている様だ。

 初めて触れる不思議に、皆夢中になっていた。


「面白ければ人は動く!

 新たな発見や期待、そこに自分が加われるとなれば、夢を見ずにはいられない!

 誰もが自分を試したくなる筈だ!」


 「違うか?」と、プロメテウスは得意げに腕を組む。

 しかし、ケイロンはまだ何か言いたかった様である。


「それは、才ある者の考え方だ。

 世の中には、日々を生きるだけで精一杯なか弱き者たちもいる。

 君はもう少し、そういった者たちの“弱さ”に目を向けるべきだ」


 そう言うとケイロンはある一角に視線を送った。

 異形の人々が暮らす区画である。


「……俺が異形の人々(あいつら)の事を考えて無いっていうのか?

 あいつらは体が不自由なだけで決して弱くなんかない。

 むしろ生活向上のアイディアはあいつらが――」

「彼らもそうだが、君はゼウス達の事を信頼し過ぎている」

「……聞き捨てならんな。

 あいつらが俺を裏切るとでも言うのか?」


 ケイロンの言葉に剣呑な態度を隠さないプロメテウス。

 しかし、ケイロンは首を振った。


「そうではない。

 私にとっても、彼らは信頼すべき友人たちだ。

 だが、人は弱い。

 例え他意は無くとも、時にはその信頼に応えられない事もあるのだ。

 君が、愛する妻を手放さざるを得なかったようにね」

「…………ちっ!」

「忘れないで欲しい。

 我らヒトは、脆く、儚い」


 ケイロンは、獣の様に去って行った。

 その姿を見送りながら、彼はまた思考に耽る。


(……確かにヤツの言う通りかも知れん。

 俺がどう思おうが、人それぞれ心の在りかは違う。

 それに、ここに人が集まれば必ず問題は起こっていくだろう。

 だが、だとしてもだ。

 俺たちなら、どんな苦難でも乗り越えられると信じたいじゃないか。

 また、そうでなけりゃあならん。

 そして乗り越えた先に、俺たちの夢が、理想が待っている筈だ。

 そう信じる事が、その為に考える事が、

 知恵持つ人間の在るべき姿だと、俺は信じている)


 プロメテウスの期待通り、集落は町と見紛う程に発展していった。

 観光客は引っ切り無しに訪れ、特産品などの名物も飛ぶように売れた。

 人が集まり物が売れれば町は更に発展していく。

 そんな彼らに、更なる転機が訪れていた。


「仲間が増える!」


 食事の席で、ゼウスが嬉しそうにそう言った。


「以前からここへの移住者を募っていたよね。

 ついに今回! 記念すべき一人目が来ることになりました!」


 「おおおおお!!」と全員が拍手した。


「どんなヤツゥ!? どんなヤツゥ!?

 女!? 女!? 女!?」

「よくわかったねぇ! 女の人だよ~!」

「おんなああああああああああ!!!」


 ポセイドンの大歓声に一同全員耳を塞いだ。

 「やれやれ」とすかしたプロメテウスが仕切り直す。


「で、新しいお仲間の名前は?」

「アフロディテ」


 翌日、一同は新たに加わる仲間、アフロディテを歓迎した。

 宴は、黄金の林檎園が見渡せるテラスで執り行われた。


「チーッス! アフロディテでぇーす!

 長いんでー、アーティでヨロ」


 彼女の独特の言葉使いに「?」を浮かべる一同。

 だがひとり、「そんなの関係ねー!」という男が一人。


「うっひょおおおおおお!!

 イーじゃねーか! イーじゃねーか!!」

 オリァーポセイドンってんでヨロ!

 アーティチャンネー!!」

「ヨロヨロ!」


 初対面で意気投合するポセイドンとアフロディテ。

 どうやらこの二人だけ、互いに意思疎通ができるらしい。


「まあ、ポーも時々何言っているか意味不明だしねぇ」

「……言ってやんなよ。お兄ちゃんよぉ……」

「ま、まぁ! 楽しそうな人じゃん!

 ほら! 乾杯! 乾杯!」


 ゼウスが気を利かせて音頭を取る。

 乾杯の合図と同時に光のショーで盛り立てる。


「すごっ! マジやばくね!?

 チョーパネーってゆーかー」

「あははは。

 どうやら喜んでくれてるみたいだねぇ~」


 「言ってる事はよくわからないけど……」と小声で言うゼウスにアフロディテは飛びついてきた。


「ゼースさん、ちょースゲーってゆーか!

 マジパネー! みたいな?」

「ちょっ!? ちょっとあなた!!」


 彼女の奔放な言動と行動に耐えかねたのか、ついにヘラがブチ切れた。


「私の主人に何引っ付いてるのですか!?

 離れなさい!!」

「えーゼースさん、ケツコンしてんのー?」

「けつこん? えっ?」

「ヨメちょーヤバイしー」

「なっ!? 私の何がやばいんですかっ!!?」

(……やばいな!)


 怒り心頭のヘラを見かねてプロメテウスが参戦した。


「ヘラ、落ち着けって!」

「だってこの方がっ!」

「ポセイドン! こっち来い!!」

「お?」


 呼ばれて酔っぱらったポセイドンがピョンピョン飛び跳ねながらやって来た。


「うへへ?」

(……選択を誤ったか? 俺)

「おい、姉ちゃん。

 さっき言ってた事、もういっぺん頼む」

「だーかーらー。

 ゼースさんがケツコンしててぇー、ちょービックリしたってゆーか。

 ヨメもちょーヤバイしぃー」

(……ダメだ、全くわからん)

「ポセイドン、通訳頼む」

「ほへ?

 ゼウスが結婚してて超ビックリしたとさ。

 あと奥さんもすげーキレイだってよ」

「「「な、ん、だと……!?」」」


 ポセイドンの極めて的確な通訳に一同は唖然とした。


「おひひ! もういっか?」

「ああ、ご苦労、助かった」

「うひょひょひょひょ~」


 役目は終わったと、次なる肴を求めてポセイドンは千鳥足で旅立った。


「……ゼウス。

 お前の二番目の兄貴は天才だよ」

「あははは……はぁ……」


 宴は終始、ドンチャン騒ぎで幕を閉じた。

 後日、改めてアフロディテに住民としてのルールを教える事になった。


「さて、アーティ。

 もう君は僕たちの家族だ。

 家族になったからにはルールを守ってもらう。

 いいね?」

「チーッス!」


 イラッとヘラが眉を吊り上げる。

 これは後で一言注意すべきかと、プロメテウスは額を押さえた。


「ルールは一つだ。

 ここで、楽しく暮らす事!

 どんなやり方でもいい!

 君のやりたい事! 好きな事!

 それをいっぱい叶えて欲しい!」

「…………」


 ゼウスの言葉に口を閉ざすアフロディテ。

 賑やかしの彼女らしからぬ態度に「滑っちゃったかな?」と狼狽えるゼウス。

 「ええっと……」と声をかけようとし――。


「……エグい!」

「え……ぐい?」

「マジエグい! つーかマジエグ!?」

「……不味ぃ……エッグ?」

(ああ……そろそろゼウスを助けてやらにゃ、ヘラも限界か)

「お前の事が格好いいとよ。

 そこの姉ちゃん」

「え? プーちゃん解るの?」

「昨日何度も聞いたからな。

 あのポセイドンがわかるんだ。

 パターンだよ、パターン」


 「俺に代われ」とゼウスからアフロディテを引き離す。

 それを見ていてヘラはホッとしたが、代わりばんこにデメテルがムスッとした。


「どうだ?

 ここのルールは守れそうか?」

「かしこ!」

(了解っと)

「そうか、それは良かった。

 ところで俺からも一つ聞きたいがいいか?」

「おけ」

「お前の出身を教えてくれるか?」

「アーシ?」

「そう、お前の、だ」

「キュプロスしまてきなー?」

「なに? キュプロス島か……。

 ありがとう」

「おっさん」

「ギャーハハハ!! おっさん言われてやんのー!!」

「あれはお疲れ様って意味だ。

 お前、酔ってないとアーティの通訳出来ないみたいだな」

「おへ? つーやく?」

「さて、バカはほっといて、だ」


 プロメテウスの言葉に一同集まる。

 彼がこう言った時は聞くべきだと、そろそろわかってきたらしい。


「さて、お察しの通り朗報だ。

 彼女はキュプロス島の出身だそうだが、これで得心がいった。

 そもそも俺たち以外の人間は、都からここに移住する事自体が難しい。

 何故なら“王”から離れるという発想は無いからだ。

 だが、ここに新たな可能性が生まれた。

 アーティ。

 お前はクロノスを見たことがあるか?」

「しらねー」

「聞いたか? 知らないそうだ」

「けどプーちゃん?

 それの何が新しい発見なんだい?」

「まあ、お前ら“御子”にはわかりずらいだろうが、

 “クロノス”を見たことが無いってのはちょっとしたアドバンテージなのさ。

 何せ“王の威光”を享けていない。

 つまり、何の抵抗も無くここに住めるという訳だ」


 「おおおおお!」と一同いつもの様に聞き入った。

 ただ、ケイロンだけが不安げにしていたが。


「アーティ。

 お前の地元には他にも人間はいるのか?」

「いぇあ」

「いるそうだ。

 そいつらがここに移住してくれるなら、俺たちも嬉しいのだが?」

「マジで!? オネシャス!!」

「どうやらアーティのお仲間もここに移住したい様だ。

 因みに何人ぐらいいるんだ?」

「とりま30?」

「三十人程か……。

 どう思う? ゼウス」

「僕は大歓迎だよ!」

「オレも! オレも!」


 その他も全員異論はないらしい。

 異論は無さそうだが、やはりケイロンだけは表情が険しかった。


(まあ、あいつも反対なら何か言うだろう)

「じゃあ、決まりだな!

 これでまた一歩前進だ!

 よろしく頼むぜ? アーティ!」

「かしこまりー!」


 アフロディテはビシッと敬礼した。


(見た目よりもちゃんとしたヤツみたいだな。

 あの独特の口調も単なる方言だろう。

 まぁ、このままだと不便だから言葉は覚え直してもらおう。

 頼むぜ? ケイロン先生)

「ん? なんだね?」

「いや? 別に」


 ひと段落着いたところで、いつもの様に小さなコックが料理を運んできた。


「飯だよー!!」

「「「「「「「あーざす!!」」」」」」」


 みんな仲良くうつっていたという。

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