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第24話 「理想郷を創るんだ!!」

「さて、狩り(・・)を始めようか」


 世界最高峰となった名も無き山。

 至高の“王”さえも見下ろすこの不遜な山。

 そこに巣食う不届き者を捕える為、ティタンの兵士たちが足を踏み入れた。

 しかし、山の中腹に差し掛かると、彼らは戸惑い始めていた。


「おい、ここって不毛の土地だったよなぁ?」

「いつの間にこんなにも木々が……?」


 そう。少し前のこの山は枯れ木ばかりの禿山だった。

 あるものといえば、まばらに茂みが点々とするのみだった筈である。

 ところが彼らの目の前には、広大な森林が青々と芽吹いている。


「構うな! 如何に様相が変わろうと!

 我らの目的は何ら変わらん!

 さあ! 皆の者! 狩りと参ろうぞ!!」


 隊長らしき男の一声で兵団は静まると、ゆっくりと森の中に入ってゆく。

 そこで彼らが見たものとは――――。


「いらっしゃ~い。

 ようこそ、お兄さん方~」

「女神!?」


 「おおおおっ!!!」と兵隊諸君は揃えて声を上げる。

 森の中には、女神と見紛う二人の美女がお出迎えをしてくれたのである。

 体のラインを際立たせる白く透けた衣装に身を包んだ、神々しくも艶めかしい若い娘に、兵士たちは魅了されていた。


「アタシもいるよ!」

「わ! ちっさ!!」


 ぴよ~んと、手の平に収まる程の娘が隊長の頭の上に跳んで来た。

 二人の美女と似たような衣装を着ている。


「う、美しいが、何処かオバはんくさい感じが……」

「あん? 何か言ったかい?」

「い! 何も言っとらん!!」


 笑顔の圧力を感じた隊長は、声を張り上げ誤魔化した。


「さ! 立ち話も何さね!

 お兄さんたち! こっちさ!!」


 言うと小さな女と二人の美女は森の奥へと逃げていった。


「ま! 待て!!

 者共! 続け! 続けー!!」


 美女たちを追って行くと、開けた場所に出た。

 すると、兵士たちは見たことも無い光景に目を奪われた。


「な、何だ!? ここは!!」


 どこまでも広がる美しい花園に、たわわに実った果実の園。

 透き通った川のせせらぎから、不可思議に飛び交う水の上演。

 その何れもが、黄金郷にも引けを取らない見事なものだった。


「これは……! いったい……!」

「これはこれはクレイオス卿ではありませんか?」

「やや!? お主は! プロメテウス!!」


 驚く兵団の前に現れたのは、プロメテウスだった。

 彼は初めから隠れて様子を窺っていたのである。


(派遣されたのはクレイオスか。

 ……勝ったな!)

「如何です? 中々の光景でしょう?」

「うう、うむ! いや! それより!!」

「まあまあ、そう焦らずに。

 他にも色々とご覧に入れましょう」

「おい! こら! 待たんか!!」


 クレイオスを無視して先を進むプロメテウス。

 「どうしました?」と挑発するように笑いかける。


「ぐぬぬ! おのれ! 待てと言うのに!!」

「ご覧下さい卿。

 これは噴水と言って、水を噴射して見る者を楽しませる装置にございます」

「ほぉ~キレーだの~!

 ではなく!!」

「おや? お腹が空かれましたか?

 おーい! デメテル!!」

「はぁい~!」

「おお! 女神!!」


 呼ばれて小走りしてきたデメテルが差し出したのは、黄金に輝く林檎だった。


「おおっ!!? これは!!?」

「美しいでしょう?

 ここの農園で採れた金色の林檎にございます」

「すばらしい……!!

 しかし、これ程の物、どこで手に入れた!?」

「これは品種改良という新技術によって作りました」

「ひん……しゅかい……りょう?」

「つまり、ここでしか手に入らないということです」

「な! なんとぉー!!」


 クレイオスは黄金の林檎に見惚れていた。

 何度も何度もクルクルとガン見し、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。

 それを勝ち誇った様に見下していたプロメテウスは、最後の仕上げと言わんばかりに手を叩いた。


「さあ、長旅でお疲れでしょう?

 お食事の用意も整っておりますが?」

「うむ! よきに計らえ!! ワッハッハ!!」

(……ちょろい! わかってたが、チョロ過ぎる!)


 クレイオスの一団は、手厚い持て成しを受けてすっかり上機嫌だった。


「いやあ最高だわい!!

 美味い馳走に珍しい宝の品々!

 おまけに美しい女神たちに酌までされたときた!

 いやあ! 愉快愉快~!」

「お気に召されました様で」

「うむ! 気に入った!!

 何度でも通いたいものよ! ワッハッハッ!!」

「おお、これはこれは。

 その事で、クレイオス様にご相談がございまして」

「うむうむ! 申し―――いや、待て」

(お?)


 上機嫌だったクレイオスの顔が険しくなった。

 静かに杯を置き、不審そうにプロメテウスを睨みつける。


「そうやって先日もお主の口車に乗って大目玉を食らったわ。

 このクレイオスを侮るなよ? 小僧」

(おお、少しは学習したと見える)

「儂がこの地に参ったは、不遜にも陛下の御髪(みぐし)を覗き見る不逞の輩を成敗する為である。

 確かにこれ程の宝と美味を手放すのは口惜しいが、これもティタンの為!

 仕方あるまい――!」


 クレイオスは大仰な手振りで自分に酔っていた。


(言う割には林檎を手放さんときた。

 まだ交渉の余地はあるな)

「おお! 流石はクレイオス様!!

 そのご慧眼! 御見それいたしました!!」


 プロメテウスは大げさに平服すると、目でヘラとデメテルに「お前らも頭を下げろ」と訴えた。


「ハハークレイオスサマー」

「さま~!」

「ぬわっはっはっはっはっ!!!」

(……ヘラの棒ゼリフに焦ったが、このオッサンには十分だったようだ)

「冥土の土産にお教えくださいませ。

 此度の遠征ご采配はクレイオス様で?」

「いや! 兄コイオスのご下知である!!」

(またあいつか……。

 どうやら悪代官っぷりも復活したらしい)

「クロノス様はご存知で?」

「我らの独断である!」

「……そうですか。

 それならば……いや……ダメか……」

「ん? 何だ?」

「いえ……我らは最早…………」

「だから何だ!? ハッキリ申せ!」

(かかった!)

「いえ……クロノス様のご下知でなければ、我らはここを去らぬでも良いかと思いまして……」

「む!? それはどういうことか?」

「クロノス様のご下知であらせられるなら、是非も無いこと。

 我らは大人しく従う他はありません。

 しかし、ふと閃いたのです。

 もしこの地で暮らす事を許されるなら、我らはその恩に報い、この黄金の林檎を献上しようかと」

「な、んだと……!?」

「ただ、黄金の林檎はここでしか採れません。

 陛下にお見せしたかったのですが、やむを得ません!

 我ら一同! 首を括り――――」

「わかった! 許す!! お主らを見逃してやる!!」

「ま、真にございますか!?」

「ま、まあ、兄上も以前より丸くなっておるし……。

 何より、それ程の至宝、陛下にお見せできぬのは心苦しい!

 ……しかし、儂にも立場というものが、あるのだが……?」

「無論、大恩あるクレイオス様にもご用意致します!」

「おお! これはしたり!

 別に催促した訳ではなかったのだが!

 お主らの好意を無碍にするのも悪いからなぁ~!

 いやあ~! 今日はめでたい!! 実にめでたい!!」


 かくしてプロメテウスの計略によって集落の危機は去った。

 クレイオスの兵団が去った後、プロメテウス達はゼウスの家に集合した。


「皆おつかれ様!

 よく頑張ってくれたね! ありがとう!!

 特にプロメテウスにはまた助けられたよ~!」

「なぁに。

 俺よりも、麗しの女神さま方に感謝を」

「そうよ~!

 先生が言うから着たけど、結構ピチピチで恥ずかしかったんだからね~!」


 いつもの「め!」のポーズでむくれるデメテルに、「もうお嫁にいけません……」と嘆くヘラを「もう嫁だよね? 僕の」と宥めるゼウス。

 言われてみれば、確かに際どい衣装である。


「……俺が無理矢理着せた風に言うなよ。

 提案したのはポセイドンだぞ?」

「おう! すっげーエロかったぜ!! ニッシッシ!!」

「「さいてー!!」」


 ガハガハ笑うポセイドンをポカポカ叩いて上下する胸を、プロメテウスはしっかり眺めていた。


(グッジョブ! ダチ公!)

「さて、これで当面ティタンについては心配は要らんだろう」

「え? もう大丈夫じゃないの?」

「フ、あまいなハデス。

 お前にはわからんかも知れんが、人間の欲望ってのは厄介でな。

 どんなに財を手に入れても、満足するという事は無い。

 だから、あのオッサンを利用するのにも限界がある」

「そういうものか」

「そういうもんだ。

 クレイオスは餌だ。

 その餌に釣られて色んな奴らがこの地にやって来るだろう」

「え? それってマズイんじゃないかな?」

「いいや。

 俺たちは何らやましい事はしちゃいない。

 ここに来たいと言うのなら、どんどん来ればいい。

 そして、ここを訪れた奴らがここに住みたいと思う様になればもっといい!」


 プロメテウスの言葉に首を傾げる一同。

 そもそもが人目を避けてきた彼らの方針とは正反対の考えだったからだ。


「クロノスはあくまで王としてティタンを守るだけだ。

 俺たちに害が無いとわかれば、排除しようとは思わん筈だ。

 なら俺たちは、それを知らしめなけりゃあならん。

 まずは噂だ。

 黄金の林檎で噂を広め、ここの価値を知らしめるんだ。

 そうすれば、俺たちはいつまでもここで暮らせる!」


 グッと拳を握りしめるプロメテウスに、一同は目を潤ませていた。


「……本当に? 私達はもう、逃げずに済むのですね?」

「勿論だヘラ! これで逃げる度に家を建て直さんで済むぞ!」

「おっほー! すげーじゃねーの!!

 何言ってんのかイミフーだったがよー!

 つまりサイコーっつうことだろぉ!?」

「そうだ! ポセイドン!!

 小難しい事なんざ抜きにして喜べコノヤロー!!」


 ガシガシ! と今回はプロメテウスがポセイドンの背を叩いた。

 いつもと逆である。


「……プロメテウス!」

「ゼウス?」


 ゼウスは感動に震え、プロメテウスに手を差し出した。


「ありがとう……! ありがとう……!」

「なんだ? 家族なんだろ? 俺たち」

「……うん! うん……!」


 泣き出すゼウスの手を握り、プロメテウスは照れくさそうにしていた。


「それにな、泣くにはまだ早すぎるぜ? 兄弟!」


 「え?」と戸惑うゼウスと肩を取り合い、プロメテウスは息を大きく吸った。


「こっからだ!

 俺たちは楽園を追われた!

 ならば! 自分たちで第二の故郷をつくればいい!!

 俺たちの手で! 理想郷を創るんだ!!」


 「おおおおおお!!!」と歓声と拍手が沸き起こる中、小さなコックがほっぺを膨らませてやって来た。


「メシダヨー!」

「「「「「「ハーイ!」」」」」」


 その息はピッタリだった。




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