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ハデス ~最後のティタノマキア~  作者: 底なしコップ
第一部 新たなるティタノマキア
2/64

第2話 「嫌われてるのでヨロシク!」

 私はなんて幸運なのだろう。

 尊敬する冥王ハデスに誘われ、夢にまで見た黄金都市に足を踏み入れる。

 子供の頃からの夢だった、裁判官として。


「あ! ハデス!!」

「なにぃ!? ハデスだとぉ!?」

「ハデス! ハデス!」


 流石は冥府最高位の王。

 街に入ったと同時に歓迎されるとは。

 見る間見る間に人だかり。

 高貴そうな兵隊達までやってきた。

 おそらくガードマン的な人達だろう。

 やはり冥府のトップともなれば、破格の待遇は当然ということか。


「ゴキン!!」

「なっ………!?」


 いきなりガードマン的な人が巨大なハンマーでハデスをぶん殴った。

 まるで打たれた杭の様に地面にめり込んだハデス。

 ……なぜわざわざ自分で効果音を口で言ったんだ?

 いや、問題はそこじゃない。

 カードマンが全くガードマンしていない事だ。


「これはこれは偉大なる冥王ハデス様じゃあございませんかー!」

「これはこれはコイオス将軍閣下。

 素敵なハンマーをお持ちで」

「優雅に戦鎚と言ってはもらえんかね?

 これだからオリンポス族は品性に欠けて困る」

「あはははは……サーセン」


 コイオス将軍。

 ティタン族の重鎮で大戦時には軍を率いていたという猛将。

 身の丈6メートルと他のティタン族よりも頭一つ大きく、金ピカの甲冑も手伝ってかなり目立つ。

 いかにもザ・貴族といった物腰の御仁だ。


「ところで多忙な筈の冥王様が、なにゆえ囚人街に?」

「ちょいと新人に職場案内を……」

「ほぉう。それは丁度いい。

 実はこれから我らが女王の舞踏会がありましてなぁ。

 是非とも参加されるがよろしかろう!」

「げ! いえいえ!

 結構――でぇええええす!!」


 ハデスは天高く打ち上げられた。

 整理しよう。

 ハデスは地面に埋まったまま、コイオスのハンマーにより「でぇええええす!」の時にショットされたのだ。

 ゴルフボールのように。



「ナイショット!」

「裁判長ぉおおおおおお!!」

「さて、我々も行くとしようか。

 冥王陛下のお連れだ。丁重にお連れしろ」

「はっ!」

「は、はあ……」


 コイオスに連れられて来たのは象牙で造られたコロッセオの特等席。

 そこには鎖でがんじがらめに拘束されたハデスが椅子にくくりつけられていた。


「あのぉ……」

「シ! 静粛に! 間もなく始まる!」


 全く状況がわからぬまま、質問すらも許されない。

 いよいよもって、きな臭くなってきた。

 頼りの上司は私以上に大ピンチだ。

 なんとかハデスを助けて逃げる方法はないものだろうか……。


「みんな~! 来てくれてありがとう~!」

「「「「「「「「「「レアちゃ~ん!!」」」」」」」」」」

「ファ!?」

「な! 何事!?」

「楽しんでいってね~!」

「「「「「「「「「「フォオオオオ!!」」」」」」」」」」


 何が起こってるんだ?

 いきなりライブが始まったぞ? アイドルの。

 もしかして、舞踏会ってこれのことか?


「ちょ! これは!? 裁判長!?」

「あー! あー! 聞こえないー!

 なんにも聞こえないー!」


 なぜか頑なに目を閉じ、聞く耳持たんときた。

 なにやってんの? この王さま。


「オラオラ! ハデス様よぉ!

 テメエの母君だろおがよぉ! 応援しねえのかよ!」


 コイオスがガンガンとハデスの椅子を蹴りながら煽った。

 さっきまでの貴族然とした雰囲気はどこいった?

 品性の欠片もないじゃないか。

 酒でも飲んだのか?


「ヤだって言ってるでしょ!?

 オフクロだよ!?

 オ! フ! ク! ロ!

 君だって自分ん家のカーチャンがアイドルやってたらイヤっしょ!?」

「んだと!?

 我らがクイーン! レアタンの歌が聴けねぇってのか!?」

「ヤメテー! タン言うのヤメテー!!」

「いいから親孝行してこい!!」

「NOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

「裁判長ぉおおおおお!!」

「ナイスコントロール!」


 ハデスはまたしても椅子ごとショットされてしまった。

 そしてちょうど舞台のど真ん中に着地した。

 しかも見事に転がらず。

 それにしても、さっきからご機嫌取りしてる取り巻きさん達、大変だなぁ。

 まだ「いやーさすが!」とか言いながら拍手してる……。

 ウチの上司はどうだろう?

 面倒くさく無ければいいが。


「みんな~! 今日はスペシャルゲストが来てるの~!」

「「「「「「「「「「フォオオオオ!!」」」」」」」」」」

「なんと私の息子! ハデスちゃんで~す!」

「「「「「「「「「「ブウウウウウ!!」」」」」」」」」」

「やめちくりぃいいいいいいい!!」


 うっわぁ、晒し者。

 あのアイドル。一応ティタンの女王レアなんだよなぁ?

 しかもハデスの母親。

 それにしても事前に打ち合わせでもしてたかの様な応用力。

 おそらく何百年もライブしてるんだろう。

 てか、子持ちアイドルとか、ファン的にはOKなのか?


「さあ! ハデちゃんも一緒に~!」

「アッ――――!!」


 その後2時間以上にも渡り、上司が無理やり母親にオタ芸を強要される様を眺めさせられた。

 ……何の罰ゲームだよ。

 マザコンコールが飛び交う中、私たちは逃げるように電車へと駆け込んだ。


「ヒドイ目にあった……」

「……お、お疲れ様です」

「あの、言い忘れてたんだけど」

「なんです?」

「俺、嫌われてるのでヨロシク!」

「冥王なのに?」

「冥王だからだよ」


 よくよく考えてみればわかることだ。

 ティタン族にとって、ハデスは侵略者であり処刑人である。

 この世で最も忌むべき対象なのかも知れない。


「まあ、しょーがないんだけどねぇ」

「やはり裁判長がオリンポス族だからでしょうか?」

「いや、俺が全ティタン族の個人情報把握してるからじゃないかな?」

「そっちですか!

 てか凄いですね!

 全ての囚人を覚えてるのですか!?」

「まぁ、役職上」


 やっぱ何気に凄いな、この人。

 最初はイメージとのギャップが酷くて若干幻滅したけど、やはり只者ではなかった。

 フォローしておこう。


「必要な事かと」

「けど、自分たちより遥か年下の若造に管理されるなんて屈辱なんだろうねぇ」

「若造って、裁判長。おいくつです?」

「えっと、今年で30かなぁ」

「思ったよりお若いですね!

 もっと、ずっと年上かと思ってましたよ」

「ね? 千年を生きる彼らからすれば、赤子に等しいんだよ」

「しかし、いくらなんでも裁判長。

 一方的にやられすぎじゃないですか?

 一応、立場はこちらが優位な訳ですし」

「いやいや、これで飯食ってますから。

 お客様ですよ? 彼らは」


 その発想は無かった。

 ティタン族は通常の囚人というよりは敗国の民。

 彼らに下された罰は母なる地球(ガイア)からの追放。

 それ以外に罰則は無く、かなり好き勝手を許されている。

 そして私たちは、そのティタン族を管理して給料貰ってる。

 そう思えば、確かに彼らはお客様だ。

 いささか低姿勢過ぎるとも思うが。

 ウチの上司は。


「さてと、次行こうか! 次ぃ!」

「さ! 裁判長!

 矢! 刺さってますよ!? 頭!!」

「や? 痛てぇえええええ!!?

 ナニコレ!?」


 急に痛がりだした!?

 気付かなかったのか!?


「大丈夫ですか!?」

「イタタ! へ、ヘーキだよ……」

「顔色悪いですよ!?」

「ああ、これデフォだから」

「あ、そうだった」

「そりゃあ、ここまで嫌われてるのかと思うとウツだけどさぁ……」


 精神的に落ち込んでただけか!?

 ……怪我の方を心配したのだが。

 何というか、頑丈だなぁ。この人。

 あれ? 矢尻に血が付いてない?


「危ない!」

「えっ!?」


 ハデスが私を押し倒した瞬間、激しい爆発音が聞こえた。

 気付けばドアが破壊され、隣の車両が見える。


「かくご!」


 そこには小さな影があった。

 子供の声?

 同時に複数の矢が私を襲う!

 が、その全てをハデスが右腕で庇ってくれた。


「裁判長!!」

「痛い痛い!

 まったく! 今日は厄日かなぁ?

 オフクロの件といい、子供に殺されかけたり……。

 身も心も痛いよぅ!」


 泣き出しそうな口調とは裏腹に、ハデスはゆっくりとした挙動で子供へと歩み寄る。


「危ないから取り敢えず、その武器を置こうね~」

「うっさい! メガネ! おまえなんてやっつけてやる!」

「ガーン! 知らない子にまで嫌われた!」

「おいおい、知らねぇは無えだろう?」


 子供の背後。

 もうもうと上がる煙の中から男の声がした。

 それは豪快ながらもどこか気品のある、印象深い声だった。


「この娘はオレ等の姪っ子だぜ? 兄貴――!」

「……何の冗談だい? ポー!」


 ハデスがポーと呼んだその男。

 端正な顔に無骨な王冠を頂き、鍛え抜かれた肩には三叉の矛が担がれていた。

 ……間違いない。

 彼こそはオリンポス十二神にして、大海を統べる海王ポセイドン。

 ハデスの、弟だ。

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